二月十四日、バレンタインデー。
自分は絶対もらえないと思いつつ、心のどこかで淡い期待を持ってしまうこの日。
去年の掘り出しイベントのような重労働は今年はやらないらしく、代わりに何故か団活は中止となり、
俺はハルヒ・朝比奈さん・長門それぞれから違う方法でチョコを渡された。いずれも手作りだ。

今は自分の部屋でそれらを感動の涙を目に浮かべながら賞味しているところだ。

その時―――

―――♪―――♪♪
携帯の着信音が鳴った。電話か?

着信表示を見ると「涼宮ハルヒ」からだった。
期待に違わず、寧ろそれを見事に上回るチョコの味に対する賞賛の言葉を考えながら通話ボタンを押し、
「もしもし。ハルヒか?チョコありがとな、最高に美味かった」
当然返ってくるであろう大音量のハルヒボイスに備え携帯を少し耳から話すと、

「……そう」

…返ってきたのは確かにハルヒの声ではあった。
しかし、その返事は明らかに常のハルヒからは考えられないほど静かで簡素なものだった。

それは二月、世間がバレンタインの熱気から、再び何事もない日常へと空気を取り戻しつつある頃。
それは二月、SOS団がバレンタインの熱気から、再び不思議だらけの非日常へと空気を入れ換えつつある頃。


…事件(?)は起きた。

◇◇◇◇◇

昨日のチョコのおかげで久々に十分な糖分補給ができたからか、俺は普段より1,2倍速い足取りで坂を上っていた。
…いや、足取りが速いのはチョコのせいじゃない。本当は一刻も早く確かめたいだけなのだ。


―――昨夜、ハルヒから電話を受けた俺は唖然とした。


「おい、ハルヒ!どうした、どこか具合でも悪いのか!?」
「…至って健康」
いや、健康かどうかはともかく、万年暴走機関車のお前がそんな風に話してたら俺じゃなくても不安になる。
とにかく、こいつから電話ということは俺に何か用があるのだろう。
「そ、そうか。とにかく俺に何か用でもあったか?」
「…チョコの感想を聞きたかっただけ。だから用はもう済んだ」
それだけかよ。
「…それだけ…また明日」

…通話終了。
一体どうしたんだあいつ。
なんというかまるで、"あいつ"のようだな…。
そう思った瞬間、俺は閃いた。また俺の知らないところで不思議事件が起きているのか?
すぐさま俺はアドレス帳から古泉の電話番号を呼び出し、携帯から電話をかけた。

「はい、もしもし。古泉です」
1コールで出やがった。
俺は単刀直入に聞く。
「古泉、最近またおかしなこととかあったか?」
「いえ、最近は特に事件は起こってませんよ。
それどころか涼宮さんの精神状態も安定していますし、ここしばらく閉鎖空間も発生していません」
そうなのか…ならこれは俺の杞憂だったのか?
「しかし、そのようなことを聞くということは、何か問題でも?」
「いや、いいんだ。大したことじゃない」
「そうですか。ですが、何か困ったことがあればいつでも言ってくださいね。常識レベルのことならなんでも解決できます」
なんだか町の便利屋みたいだな。機関は何でも屋でも営んでいるのか?
「そういうわけではありませんが、機関にはありとあらゆる道のプロフェッショナルが集まっています。
貴方や涼宮さんがお困りであればタクシー、執事・メイド、シークレットサービスなどはもちろん、
トイレが詰まったとき、パソコンの設定方法がわからないとき、夕食の出前を取りたいときなど、どんなものでも用意します。
もちろん朝比奈さんや長門さんにも特別サービスです」
…やはり機関は侮れない。というか、機関は他にやることはないのか?


―――結局、古泉の情報からそれらしい事件の話はなかった。


やはり俺の考え過ぎか。
きっとハルヒも燃料切れなんだ、なんたって年中無休で奇想天外なことを考えているやつだし。
と、頭ではそう思いつつ、やはり何か嫌な予感を覚え朝はいつもより少し早めに登校した。

まぁ学校でハルヒに直接聞けばいいさ。

「お?あれは…」
坂を上る途中、前方に見慣れた後ろ姿が見えた。
美しい栗色の髪、小柄でありながら神々しい不可視のオーラを周囲に放つそのお方は紛れもなく、
「朝比奈さーん!」
朝からこのお方に会えるとは、それだけで早く家を出た価値があるってもんだ!
俺は軽く呼びかけながら朝比奈さんのもとまで小走りで近づいた。

俺は朝比奈さんの横に立ち、挨拶をした。
「おはようございます、朝比奈さん。朝から会うなんて奇遇ですね」
「……おはようございます」
…ん?朝比奈さんの様子に俺は違和感を感じた。
朝比奈さんは普段から物腰が穏やかではあるが、こんな感じだったか?

俺は天使の如く甘く耳をくすぐるような明るい声を期待してたんだが、
これは、なんというか、無機質なしゃべり方…そう、"あいつ"のような…。
「…あ、朝比奈さん調子でも悪いんですか?」
「……いえ」
たしかに見た目は何も変わりない。いつも通り美しい。
ただ、いつもより笑顔が薄い感じがするのは俺の気のせいか?
「そ、そうですか?なんかいつもより元気がないようですが…」
「……別に」
いやいや、明らかにおかしいですよ。しかし、本人が否定していることだし、本当に大丈夫なのかもしれんな。
「はぁ…。ならいいんですが…」

「……」
「……」

…あれ?なんだこれは?場が持たん。
とりあえず世間話でも。

「今日もいい天気ですね」
「……そうですね」
「あ、昨日はチョコどうもありがとうございました。すごく美味かったです」
「……良かった」
「まぁ、朝比奈さんの作る物ならどんなものでも美味しいでしょうけど」
「……ありがとう」

もっとまともな会話をしろ?うん、それ無理☆

だって返事がどれも原稿用紙一行も埋まらないようなものばかりだもの。

 

…やはり、これは何かがおかしいと思わざるを得ない。

ハルヒだけじゃなく朝比奈さんまでこのテンションだ。絶対に何かおかしい。

だが、本当に何かおかしな事件が起きているなら、誰かが事実を知っているはずだ。それは誰だ?

古泉には聞いた、朝比奈さんはこの状態、ハルヒは論外だ。なら残るは…

 

「朝比奈さん、すみません。俺今日学校で日直なんで先に行きますね」

「……そう」

そういうと俺は朝比奈さんを残し学校へと急いだ。

朝比奈さんに嘘をつくのは俺のちっぽけな心が痛むが、今は急を要することだ。

"あいつ"ならなにか知っているだろう、そしてこの時間ならきっと部室で分厚い本でも読んでいるはずだ。

 

長門、まさかお前……

 

 

学校へ着くと俺は部室へと急いだ。朝のホームルームまではまだ時間がある。

そして、部室前につくと俺はいつもの習慣でドアをノックした。

「…どうぞ」

長門の声だ、というかこいつは一体何時から学校にいるんだ?

部室に入ると案の定長門が分厚い本を読んでいた。六法全書?長門よ、お前は弁護士にでもなるつもりか?

「よう、今日も早いな。ていうかお前なんで法律書なんか読んでるんだ?」

「…先日喜緑江美里に部屋で一緒にテレビを見ようと誘われ、そのとき見たものにこの本が出てきた」

長門は本から少し顔を上げて答えた。

インターフェースもテレビは見るのか。それにしてもいったい、なんの番組だ?

「法律は不完全。それは人間自身が不完全だから。しかし、法律はその人間が何千年かけて積み上げてきた知恵」

それ、なんてデスノーt…

「…非常に興味深い」

 

閑話休題。本題に入らねば。

「なぁ、長門。なんだか昨夜からハルヒや朝比奈さんの様子がおかしいんだが、何か知らないか?」

「それは私が昨日午後22時24分頃、彼女らの感情表現能力に関する構成情報を部分的に書き換えたから」

「そうか、やっぱりトンデモ事件が起こってたんだな……ってお前今なんて?」

「つまり、私が世界を改変した」

なるほどね、こりゃわかりやすい。

 

「って、おい!!マジかよ!?」

「マジ」

いや簡単に肯定されても困る。

「一体なんの為に…」

「昨日、二月十四日は世に言うバレンタインデー。この日は女性から男性に親しみの意を込め贈り物をする。したがって、私・涼宮ハルヒ・朝比奈みくるはあなたに贈り物をすることを考えた。しかし今年は昨年と違いその贈与方法を各自で考えることになった。そして、それは実行に移されあなたは三人からチョコレートを受け取った」

「そうだったのか。たしかに受け取ったぞ。あれは美味かった」

「…ありがとう」

って話が脱線してないか?

「で、それとこれと何の関係があるんだよ?」

「…今回涼宮ハルヒはバレンタインを勝負にすることにした。誰があなたに一番心のこもった贈り物をするのかを。そしてあなたは三者三様の方法でチョコレートを渡されたはず」

 

ああ、確かに今年は不思議な渡され方だったな。

ハルヒからは放課後の体育館裏に呼び出されて、頬を赤らめながら

『べ、べつにアンタの為に作ったんじゃないんだからねっ!あ、味とかあんまり期待されても困るから!…でも、頑張ったんだからね…』ってな感じで渡されたし、

朝比奈さんにはその後で屋上に呼び出されこれまた頬を赤らめ+上目遣い+涙目という妙に色っぽい仕草で

『私…キョン君の為に一生懸命作ったんです。美味しくできてるか自信ないけど…良かったらもらってくださいっ!』と、妙に熱意あふれる渡され方だった。

それで、それがどうしたんだ?

「…しかし、私は彼女らのように特別な趣向を凝らさない方法であなたに渡した」

まぁ言われてみれば他の二人に比べればお前の渡し方は普通だったな。

帰ろうとして下駄箱を開けたらそこからお前のチョコが出てきたんだよな。あれには驚いたぜ。

メッセージカードには『贈与、あなただけに』って書いてあるだけだし。まぁ字体ですぐ長門だとわかったが。

 

「しかし、なんで今年はみんなそんな渡し方なんだ?」

「……鈍感」

 

「…私は彼女らと違い、あなたにチョコレートを渡すのに最も効果的で適切な方法が思いつかなかった。それは私には彼女らのような感情表現能力というものが欠如しているため。だから、私は思いついた」

「彼女らを私以下の感情表現力にしてしまおう、と」

…なんて短絡的な理由だ…

 

「えーと、つまり、お前はバレンタイン勝負に負けたと思ったから、あいつらの性格を変えちまったのか?」

「そう。そして今の私は人間の通俗的な言葉で言えば"最高にハイってやつ"」

長門、そのネタは一部にしか通じないぞ。

「元々、最近の彼女らは気に入らなかった。涼宮ハルヒは巷で流行の"ツンデレ"なる属性を身につけ持ち前のバイタリティーでどんどん行動をしかけていく。朝比奈みくるにいたってはあの童顔だけで既に十分なスキルを獲得しているのにそれに加えメイド属性やその他諸々の属性を身につけ挙げ句あのけしからん胸でどんどん攻撃をしかけている、実に腹立たしい」

あの、長門さん?

「だから私は彼女らの感情表現を乏しくしてやった。反省はしていない。これで彼女らの個体威力も半減。ざまを見ろ」

おーい、長門・・・?

「したがって、あなたはこれからの行動を私と共にすべき。ツンデレや巨乳などより私と一緒にいるべき。今の時代はクーデレ」

いかん…長門が壊れている…。

「だいたい、あなたはいつも朝比奈みくるの胸ばかりを見ている。実に情けない。ふしだら。通俗的な言葉で言えば"エロキョン"」

そんなことはない!無実だ!つうかそれのどこが通俗的だ!

「それに涼宮ハルヒに対してあなたは甘すぎる、昨日のチョコより甘い、バレンタインデーに投下された沢山の素晴らしい甘々SSの数々くらい甘い。それに・・・」

 

なおも長門のマシンガントークは続くので俺は大きい声で言った。

「長門!いくらお前が苛ついているからって、ハルヒや朝比奈さんを巻き込むな!早く元の状態に戻してやれ!」

すると長門はいつもより少し熱気が増した瞳で俺の目をまっすぐ見つめて答えた。

「それはできない」

「できない?どうしてだ?」

「私があなたとより親密な関係を築くにはこの状況が最適と判断、よって再改変は行わない」

は?それは一体どういう・・・。

「私と付き合ってほしい」

 

…耳を疑った。付き合うってあの付き合うか?恋人同士になるって意味の?

「そう」

いや、しかし…

「ダメ?」

上目遣い+涙目で聞いてきやがった。

正直、たまりません。

 

「……あなたがイヤならはっきりそう言って欲しい。そうでなければ彼女らはずっとあのまま。私はあなたの口から本心を聞ければ満足。あなたが強く望むのであれば彼女らも元に戻す」

「あなたはだれが好きなの?」

 

 

長門はここしばらくで随分変わった。

 

初めて会ったときは原稿用紙一行の半分も埋まらないような言葉しか話さなかった。

どんな時も感情を表に出さず、いや感情があるのかさえも疑わしかった。

 

そんな長門に徐々に変化を起こさせたのはSOS団の存在だろう。

一年の時の野球大会、終わらない夏休み、何度もループする文化祭前日、冬休みの山荘事件。

思えば長門はすこしずつ感情を表に出すようになっていった。

そして、俺はそんな長門の変化を嬉しく思っている。何故だ?

 

俺にとって長門はなんだ?

同級生?友達?SOS団の仲間?

いや、違う。

今俺は長門の激しく揺れ動く感情を見た。それを見た俺はどんな気持ちを感じた?

 

…俺は今やっと気づいた。俺は…

「長門、好きだ」

いつのまにか俺の腕の中に長門がいた。

 

「…本当に?」

「ああ、今ようやく自分の気持ちに気づいたよ」

「…嘘じゃない?」

「嘘じゃない、指切りでもするか?」

「…する」

 

「「指切りげんまん~嘘ついたら…」」

 

「嘘ついたら、どうする?」

「…情報連結を解除する」

マジか。

「…半分冗談」

半分かよ!

 

 

こうして事件は終着を迎えた。

…ように見えた。

 

「これからよろしくな、長門」

「…大好き」

「じゃ、早速ハルヒ達を元に戻してくれ」

「早速浮気?これだからあなたを愛するのは辛い。あの二人も可哀想。早速あなたの情報連結の解除を申請する」

「ちょ、おまwやめろw誤解だ!

え?まじで解除すんの?ちょっとまって…アッー!」

 

~fin~

 

 

 

 


初投稿です。オチとか下手ですみません・・・

本当はもっと長くなりそうだったんですが、続けられる自信がなくなってしまいました…

自分でも納得のいかない作品なのでどなたかどうぞご指摘ください…(´・ω・`)


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