*バッドエンド注意
ありえぬ終焉 Ver.2の喜緑さん視点になります。
 
 
ありえぬ終焉 Ver.2──喜緑江美里編
 
 
 生徒会室では、会長が一人残って仕事をしていました。
 
 私は、お茶をいれて、机の上に差し出します。
「どうぞ」
「すまんな、喜緑君」
 会長は、湯のみを手に取り、口をつけます。
 
 私はその様子をただじっと見つめていました。
 
 私の視線に気づいた会長が、顔をあげました。
「ん、なんだね?」
「会長。私にとって、あなたとともにあった日々は、大変有意義なものでした」
「いきなり何をいいだすのかね? 過去を振り返るにはまだ早い。生徒会の任期はまだ残ってる」
「いいえ、あなたの任期はもう終わりです」
「それはどうい……うっ……」
 会長の目がうつろになっていきます。
 お茶に仕組んだ毒が効いてきたようです。私が特別に構成した最も苦しまずに死ねる毒が。
 
 会長の意識がまだあるうちに、彼の頬を両手で包み、そして口付けを……。
 唇が離れたときには、彼の心臓は停止していました。
 
 
 私は、指揮下のインターフェースに報告を求めました。
 思考リンクを通じて報告が集まります。
 谷口、コンピ研部長……今現在北高に存在する「機関」関係者14名の殺害はすべて完了。
 
 
 私は、指揮下のインターフェースに後始末の情報操作を指示しながら、ただじっと会長の死体を見ていました。
 目から液体が零れ落ちてきました。
 私にはそんな機能はないはずなのに……。
 
 どれぐらいの時間、私は泣いていたのか。
 私はそれを確認しようとは思いませんでした。
 会長の死体に手をかざし、情報連結を解除します。消えゆく彼の情報構成を私の記憶領域に刻み付けるように……。
 
 私は、手で涙を拭き取り、いつもの表情に無理やり戻しました。
 情報統合思念体の最も忠実な娘──それが、喜緑江美里の存在理由であるから。
 
 ────パーソナルネーム喜緑江美里より、情報統合思念体へ。北高における所定任務を完了。これより「機関」本部におけるパーソナルネーム長門有希担当任務の事後処理にあたります。空間転移の許可を申請します。
 ────報告受領。申請を許可。
 
 
 
 空間転移を完了した私の目に映ったのは、長門さんの姿が消えていく光景でした。
 それが彼女の選択。
 
 私は消えない。
 会長のことを誰も覚えていないなんて、そんなのは嫌だから。
 
「随分と派手にやってくれましたね。後始末をする私の身にもなってもらいたいものですが」
 瓦礫の山の上で、彼──キョンと通称されてる個体──が振り向きます。
「何しに来たんですか?」
「後始末です。人間たちの記憶から、この事件に関連する事項を消去します。この建物も復元しなければなりませんし」
 私はあくまでもいつもの表情と口調で。
「俺の記憶もですか?」
「もちろんです。長門さんのことも、古泉一樹、朝比奈みくるのことも、『機関』や情報統合思念体のことも、あなたと涼宮ハルヒの記憶から消去させていただきます」
「いやだ!」
 彼が私に殴りかかろうとしてきましたが、防御フィールドで防ぎます。
「長門さんの遺言なんです。あなたと涼宮ハルヒの記憶改竄には完璧を期すようにと。私も友人の遺言を無碍にするほど冷たくはないつもりですから」
 この任務にかかる前に告げられた長門さんの願い。それだけは、なんとしてもかなえてあげなくては……。
「いやだ!」
 彼は防御フィールドを何度も叩き続けました。そんなことをしても無駄なのに。
「問答無用です。情報操作を開始します」
 
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 ────パーソナルネーム喜緑江美里より、情報統合思念体へ。観測結果を報告します。観測対象の記憶改竄は完全なものと認められます。以上。
 
 
 文芸部室の彼と涼宮ハルヒの様子を確認したあと、私は情報統合思念体にそう報告しました。
 長門さんの願いはかなったと見てよいでしょう。
 
 生徒会室に戻ります。
 生徒会長──あえてそう呼ばせていただきますが──が仕事をしています。
「あとは、私がやっておきます」
「そうかい。すまないね」
 生徒会長は、そういうとさっさと帰っていきました。
 あの「会長」に比べれば、凡庸な男です。あえてそういう人間をすえたわけですけれども。
 
 一人になったと思ったら、にぎやかな来客がやってきました。
「やあやあ、えみりん。ハルにゃんたちの方は順調かな?」
 鶴屋さんです。
 一応「機関」関係者であった彼女が抹殺の対象とならなかった理由は私には分かりません。
 あの鶴屋家は「機関」や未来人とも対等にわたりあってましたから、情報統合思念体との間にも何か裏取引があったのかもしれません。
「あの様子なら心配はないでしょう」
「そいつは結構だねっ。あたしも一筆寄稿した甲斐があるってもんさっ。んじゃ、次回もよろしくっ」
 彼女は、そういうとさっそうと去っていきました。
 涼宮ハルヒよりも彼女の方を観測する方が有意義なのではないかと、最近はよく思ったりもします。
 それはともかく、涼宮ハルヒの退屈を解消するための次のイベントを考えておかなくてはなりませんね。
 生徒会書記としての私の任期も残り少ないですし、いっそのこと、鶴屋家に委託する方がいいのかもしれません。「次回もよろしく」というぐらいですから、鶴屋さんも拒否したりはしないでしょう。
 
 生徒会の仕事を情報操作で片付けると、私は窓辺の椅子に座り、本を読み始めました。
 ジャンルは恋愛小説。「あの日」以来、読む本はそればかりです。
 そして、思い浮かべることは、「会長」とともにあった日々のこと……。
 
 私は泣かない、絶対に。
 私には、そんな機能はないはずなのだから……。
 
終わり

 


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