【キョンのバレンタイン】



通い慣れた北校への長い坂道が、久々に陰鬱だと感じられる冬の日。


「よっキョン!朝から天気が良くて今日は気持ちが良いな!」


今日は早く帰ってコタツでシャミセンと足をじゃれ合わそうと思いながら登校している俺に、
これから何か良い事ありそうだと言わんばかりの谷口が合流してきた。


「俺な、さっき茶色い猫見たんだ!縁起が良いだろ!今回の俺は少し違うぜ!」


毎日同じ場所で惰眠を貪っている只の野良猫を見て、谷口が縁起が良いと言っているのには訳がある。
そして、俺が今日は早く帰りたい理由もそれと同等だ。



言わずもがな、つまり本日はバレンタインデーなのである。



「…良いかどうかは知らんが、体育も無いのに体操着袋をぶら下げてどうする」


「愚問だなキョン!去年までの俺の分のチョコが、今年一気に流れ込んでくるからだ!」


谷口は今までチョコを貰った事が無さそうだな。
なにを根拠に自信を持ってそう言い切っているのか分からんが、
谷口、お前のそのダムには水漏れだのといった決壊の予兆が皆無だぞ。


「正直な話…水漏れ程度でも良いんだ。乾いた俺の心を潤すのにはな。
 それに今年一つでも貰えたら、来年雪崩れ込んでくる可能性があるってもんだ!」


この笑顔のパーセンテージは、真昼から日没にかけての太陽に比例して下降していく事だろう。
まあ谷口、帰ってから体操着袋を覗きこめば、一縷の水が観測出来ると思うぞ。涙だけど。



…かくいう俺も、小学校高学年を境に恵みの雨はぱったりと止んでしまい、同じく渇水状態なのだが。
だから毎年、この日は水不足を補う為にとコタツで蜜柑を堪能する事にしている。


「まぁお前は良いよな。今年は。涼宮から一つ確定してるんだから」


「…んなわけ無いだろ。なんでそうなる」


…この透き通った冬空に驟雨が降る事の方が、よっぽど確率としては高いと思うぞ。


だがしかし、今年は一つだけなら貰えそうな当てがある。
そして、たとえ他にどれだけの数を頂こうとも…その一つの物の価値には決して届き得ないだろう。
俺の自惚れかも知れないが、朝比奈さんなら恵んでくれる確率がグッと高い。


「じゃあ後は教室でな!俺は第一ステージを確認してくる事にするぜ!」


谷口はそう言い残し、北高の昇降口へ嬉嬉として駆けて行った。





「…お前の下駄箱がポストになってるとは思えんがな」


不覚にも俺も少し谷口と同じ様な期待を抱いてしまい、予鈴の後は自分を情けなく思いながらの授業となった。








…そしてそれは、午前中の日課を終えるチャイムが鳴り響き、
各自が妙な緊張感の中での昼食タイムを余儀なくされた時に起こった。




「キョン!…はいこれっ!いつもありがとっ!」


おっと待てよ、…しばらく待ってくれ。色々とおかしい。
ハルヒが俺に可愛らしいリボンの付いたピンク色の四角い箱を差し出しているし、
しかも、素直な子供が母の日にカーネイションを送るような言葉を言い放っている。…なんだ?


まず、目の前に立っているのはハルヒか?
静かにしている所を見ると、端麗な顔立ちをしているな。


…というか、誰が見てもハルヒだ。


じゃあ、そのハルヒが差し出している…
中には手作りチョコが入ってます的な装飾が加えられているこの箱は何だ?

…ああ、わかった。




「………毒…か?」


箱を受け取った俺が内容物に対しての明解な答えを言い放つと、
目前のハルヒは一瞬ハッとした表情を浮かべてふるふると体を小刻みに震わせながら、
目には涙…を…?



「―――――、かえせっ!!」


俺が応じる間もなくバンッと手元から箱をひったくったハルヒは、
顔を伏せるようにして教室のドアへと駆け出し、そのまま外へと飛び出していった。

 


「おいおい、何もこんな日に痴話喧嘩なんてやる必要は無いんじゃねぇか?」
「…でも意外だね。キョンと涼宮さんが喧嘩してる所って、初めて見た気がするよ」


事態が飲み込めず呆然としている俺に、谷口と国木田が順繰りに話しかけてきた。


「…用が無いなら、どっか違う奴の所にさっさと行け」


「おわっ!?…俺に当たるなよっ!」
「実は用があってね。キョンの事、あの元気な先輩が呼んでたよ」


「…ああ、すまない」


鶴屋さんだろうか?俺は国木田から聞いた場所へと向かった。





「ややっ!キョンくんっ!ほいっこれ義理チョコ!あげるにょろっ!」


「…!わざわざ済みません、ありがとう御座います」


「なんのなんのっ!お返しはいらないよっ!」



そんな訳にはいかないな、と俺が思っていた時、


「ところでさっ…ハルにゃんからはもう貰ったかいっ?」


「なにを、ですか?」


「またまたキョンくんっ!義理か本命かってかいっ?にくいねっ!」


「…いえ、まだ何も貰ってはない…ですね」


「…?、はっはあ!もしかしてハルにゃん、照れてるっのかなぁ!?
 まっ頑張って作ってたみたいだから楽しみにしとくにょろ♪」



じゃあ他の人にも配るから、と言って鶴屋さんは元気良く走り去って行った。


「…ハルヒ?」


不意に、俺の胸が縮んでいくかの様に痛み出す。



「…俺、そんなひどい事言ったか?」





とりあえず教室に戻ってハルヒと話してみよう。それからだ。
…と思っていたが、俺が教室に着いてもハルヒの姿は無く、
そして結局ハルヒは授業にも顔を見す事無く放課後を向かえ、
生徒はそれぞれ部活動の時間となった。


さすがに此処には居るだろうと思いながら元・文芸部室の扉を開くと、
そこあったのは、長門と朝比奈さんの姿だけだった。


「あ、キョンくん!…これっ」


もじもじしながら朝比奈さんが俺にくれたのは、
フリルの付いた赤くて小さいハート型の箱だった。


「あのっ手作りにも挑戦してみたんだけど…わたし、不器用だから…」

朝比奈さんからチョコ大爆発の話を聞いて、俺はこのチョコが既製品であるとの説明を受けた。
…いえいえ、既にこのチョコの付加価値はとても値段には換算できませんよ。
朝比奈さんからのチョコってだけで、世界中の男共からニーズがあるんですから。


もし朝比奈さんからチョコを貰えなかったら俺は寝るときに枕に顔を突っ伏していたであろうから、
いま無事にチョコを頂いた事で、俺は多少の安心を感じていた。


横に目をやると、長門も何やらもじもじとしている。

俺と目線がぶつかるとトコトコと近寄ってきて、
フイッと目線を逸らしながら俺に手作りハート型チョコを生身で差し出した。

 






「…………大好き」

 


やれやれ、なんてこったい。…長門は俺に恋心を寄せていたのか。


…なんて事は思わなかったさ。
この間のSOS団の活動中、朝比奈さんが読んでいたティーン誌のバレンタイン特集を
長門も読んでいたのを知っていたからだ。それで俺も気になって読んでみたんだが、
まさしく先程の長門の行動通り、チョコの渡し方なんていうコーナーがあったからな。


「…長門、ああいう本は偏った情報もあるから真に受けちゃいかん。
 それに無表情で作業的にやっちゃあ台無しだ。」


「……うかつ」


「でも、ありがたく頂くよ。すまないな」


「…あなたには感謝している」


あ。あと一つ。チョコの表面にでかでかと
『義理』なんて書かなくても、これが義理チョコだってのは分かるから…


「……てぃへっ♪」


長門はもう雑誌読んじゃいけません。

 


ハルヒはもう来るのかどうか怪しいが、まだ古泉も来ていないので暫く待っていようと
部室の中3人で思い思いに普段通りの活動に入る事にした。

 

 

 













パタン、っと長門のハードカバーの洋書が閉じられる。


「けっきょく涼宮さんも古泉くんも来ませんでしたね…」


「…ええ。ハルヒは学校をフケたみたいなんですけど、
 古泉はどうしたんでしょうね」


「……」




その後俺は一人で部室を後にし、そして下駄箱で二度目の不覚を取っていた時
古泉が走ってこちらにやってきて、俺にはかまわず周囲をキョロキョロし始めた。


「…どうしたんだ?部室にも顔を見せないで」


「いえ、団活に行けなかったのはいつものバイトですよ。
 午後の授業を受けている時に急に連絡が入って、そして今までね」


「…挙動不審なのは何か理由があるのか?」


「…ええ、まあ。
 ですが、もういいみたいです。良かったら一緒に帰りませんか?」



渋々と古泉の提案を快諾して、男二人で歩を並べて帰路に着くこととなった。

 





「…どうでしたか?あなたの成果は」


バレンタインの日に男二人の話の中でこの質問を受ければ、答えは決まってる。


「…3つ。…か」


「ほう、僕も同じ…


「お前のは聞かんでい…って、お前も3つなのか?」


という発言の後で、素で驚いてしまった自分に後悔した。古泉は笑って、


「ええ、朝の下駄箱に一つ、机に一つ、ロッカーに掛かっていた一つ…でね」


「へえ。皆えらく消極的だな。一人くらい直に渡そうとしてきた奴はいなかったのか?」


「それが…放課後に昇降口内で待っているから来てくれというお話があったのですが、
 なにせ、午後の授業からさっきまで閉鎖空間の中でしたから」


「下駄箱でなにやら探していたのはそれか」


「ええ…彼女には、申し訳ない事をしてしまいました」


「…それは俺にも責任があるな」


「…責任、とは?」




俺は、昼休みのハルヒとの出来事を古泉に説明した。


「…なるほど。そうですか…」


うーん、っと古泉はなにやら思案顔を作っている。


「…まあ、あなたなら仕方の無い事でしょうね…ですが、もう少しだけ…
 涼宮さんの気持ちに対して、あなたは敏感になるべきです」


「…確かに俺の言葉に配慮が足りなかったのかも知れないが、
 別に…いつもハルヒと話す時の調子と変わらなかったと思うぞ?」


「だからこそですよ」


と古泉は俺を真剣な眼差しで見つめ、続けて


「涼宮さんはその時、あなたに対して…心を開いていたのです。
 中学の頃から閉ざしていた扉をね。
 なので、剥き出しの心で…あなたの何気ないその発言を受けてしまった。
 涼宮さんが素直になっている時は、あなたも素直になるべきなのです」



その言葉を聞いて、俺の心の中で後悔が渦を撒いてあたりを散らかした。

 


俺は…気付いてやるべきだったんだ。いや、気付かなければならなかった。

ハルヒが柄にも無くそんな事をするのは、きっと相当不安があった事だろう。

俺はそんなハルヒを傷つけちまった。ハルヒは、それを怖がっていたのだろうに。




「…そうだな。俺が悪かった」


「…ふふっ。それを言う相手を、あなたは既に知っている筈です」




ああ、…まさしくその通りだ。



「…そうだな。電話で公園にでも呼び出してみるさ」

 

 




【ハルヒのバレンタイン】


「みっくるー!お迎えにきたっさっ!急ぐにょろっ!」


外はもう薄闇に包まれていて、そして本日のSOS団による活動も終わって束の間、
あたしと着替えるみくるちゃんだけになった部室のドアを、
鶴屋さんが片手を上げてハツラツとした笑顔で押し開いてきた。


「鶴屋さんじゃないっ!これからみくるちゃんと何かすんの?」


「もっちろんっ!ハルにゃんの調子はどうだいっ」


「えっ?なんの?…って有希、帰ったんじゃないの!?」


「あっ有希っ子は通りがかりを捕まえてきたっさっ!
 それよりハルにゃんっ今日この日に乙女がいそしむことなんて
 …決まってるにょろ~?」


「………。」



2月13日。正直、それだけでも分かる。
そして、早すぎるくらい前からコンビニやTVの内容がそれを急かしているものだから、
ここで分からないなんて言えやしない。


「…あたしはパス。小学校までは友達とハシャいでたりもあったけど、
 もう、企業戦略に踊らされるのはごめん被るわ。
 手作りったって、溶かしてまた固めるだけの作業だし。
 みくるちゃんもドジしそうに無い程のつまらない事じゃない」


「おやおやっ!?ハルにゃんはキョンくんと古泉くんにはあげるものと
 てっきり思ってたっさ!」


「!っなんであたしがキョンに…


「それにさっ!去年みくると一緒に作ったときなんかっみくるねぇ、
 チョコボール作るんだって言ってサッカーボールなんか持ってきたのさっ
 さすがにあれには驚いたねぇ~!」


「わわっ鶴屋さんっ!…だって、チョコボールは一般的に食べられているチョコだって
 聞きましたし、チョコを送るイベントだから大きいボールが良いのかなって…


「あとあとっ!チョコ作るのもめがっさ楽しいにょろっ!
 愛情こめこめ貴方にプレゼントってねっ!
 今回もあたしの家で作るしさっ有希っ子も来るみたいだよっ!
 チョコならうちに沢山あまってるからっ!ハルにゃんもおいでっ!」


「ぐっ…ま、まあ…有希もみくるちゃんも行くんなら!…お邪魔しようかな…」


「そうこなくっちゃあ始まらないってもんさっ!
 じゃあっもうそのままうちに来るかいっ?おうちの人に連絡…


「あっ!あたしは一度、家に帰ってから行くわっ!寄り道もあるし…」


「…?、道具も材料もあらかた揃ってるよっ」


「い、いやっ…やっぱ鶴屋さんの家のチョコを頂くのは申し訳ないから、
 それくらいは買って行こうかと思って」


「…りょーかいっ!じゃああたし達は先に作ってるからっ!
 ゆっくり選ぶにょろ~♪」


「…マッハで行くから。」

 



…さて、と。…デパートが閉まる前に家に帰らなきゃ。



キョンには人生そんな甘くないって事を教えてあげようと、
まるで薬としか思えない某99%チョコを買いにデパートに行った。


「…シャレで買うには意外と値段が…99円のチョコで良いかな」


あたしはとりあえずミルク、ビター、ホワイトを網羅して、
あのでっかい鶴屋さんの家へと向かった。

和風な建築様式の外観からは想像出来ないほどのシステムキッチンの中では、
既に鶴屋さんがチョコの成型に取り掛かっていた。

 


「いらっしゃいっ!チョコはそれぞれ自由に作ってるよっ!
 困ったことあったらお互いにサポートしていくっさっ」


「ありがとう。遠慮なくキッチンを借りさせて頂くわ」


うわっ、さすが鶴屋さん。器用にチョコレートを絞ってコロコロした
一口サイズのチョコを作っていってる…。


…あたし、湯煎で溶かすって程度しか知識が無いのよね。
みくるちゃんは何やってるんだろ。



「…みくるちゃん?レンジの前につっ立って、何してるの?」


「あっ、いまチョコを染み込ませてる所なんですっ」


「うん?中のボウルにはチョコしか見えないみたいだけど」


「…実は、わたしもそれで困ってるんです…
 ちゃんと出来ているのか見てても分からなくて、
 とりあえず、しばらくレンジの中に入れて様子をみてるんですけど…」


「…みくるちゃん、一体なに作ってるの?」


「巷で人気の、チョコエッグですっ!」


「…へっ?ま…まさか!そのチョコの中に卵入ってんのっ!?」


「ふふふ♪あたしもそこまでドジじゃありませんよ♪
 卵はちゃんと茹でてありますっ!」


チャント、ユデテアリマス?

 



「ストーーーーップ!」


ピーッ!


「み、みくるちゃん…?チョコエッグってね、そ…そうじゃないの…」


「あっはっはっ!みっみくるぅっ!そ、それじゃチョコ煮タマゴだよっ!
 ふぁっはっははっ!」


「わうっ!?い、いけないんですかぁ!?
 ごめんなさいっ!すぐ取り出しま…


「…!さわっちゃ駄目っ!」


「ふえっ?…

 




(ボンッ!!)
 
 熱ゅっ!うえぇ…そんなぁ…」


「ぷぷっ!さっすがみくる!!!こっ今年も期待を裏切らないっさ!!
 あーっはっはっは!チョコとっゆで卵まみれの人なんてっ初めてみるにょろっ!」


上位機種の雰囲気漂うオーブンレンジがひたすらに甘くなっている姿を見ても、
床に笑い転げる鶴屋さんは流石だなぁと思った。


「みゅう…今年も手作りはあきらめます…」

 



……。

 



「…ふふっ」


なんだ。結構楽しいものじゃない…こんな事も。
今まで…ちょっとだけ、勿体無かったかな。


「…あたしもそろそろ作ろっかな!」


形は何にしよう?ハート…は違うわね。なんか。
いっその事キョンっていう文字に…実にアホらしい。もっと違うじゃない。
まあ、手で丸めてトリュフにでもしようかな。


…有希は黙々と作ってるみたいだけど、どんな…
ハ、ハート!?まさか有希、好きな人が居るっての!?



「……」


「……。」



…前言撤回。やけに分かりやすい義理チョコだった。

 

 




……

 



「…完成っと!」


「おっ!さっすがハルにゃんっ!!めがっさ完璧にょろっ!
 こりゃあキョンくんもまいっちゃう位の仕上がりだねっ!」


「だからなんでキョンが…


「うわぁ♪ホントに美味しそうっ!それに涼宮さんの手作りだって知ったら、
 きっと二人とも喜びますっ♪」


「うげっ!…あ、あたしが作ったって話すの!?」


「…?、なんでですかぁ?」



…だってまだ、どうやって渡すのかもぜんぜん考えてないのに、
先に手作りチョコを持ってるって言われてたら余計渡しにくいじゃない…!


「と、とにかく二人には内緒っ!
 有希も、あたしが作ったことは言わないでねっ!」


「………本命を?」


「―ばっ!?ち…チョコを作った事よっ!
 本命なんて作ってないっ!盛大な義理チョコよっ!」


「…了解。」

 




……



…あ、箱とか買ってくるの忘れてた。



「まっかせておくれよっ!いろいろ揃ってるから好きなの選ぶにょろっ♪」


「…ありがと。鶴屋さん」

 

鶴屋さんの家に揃えられていた多彩な包装紙や可愛い箱、
そして様々な趣向を凝らした装飾品の量がとても多かったから、
それぞれ二人の入れ物を選び終えるのにあたしは1時間くらいかかってしまった。

そして鶴屋さんにお礼の言葉と、皆に別れの言葉を告げてあたしは自分の部屋へと帰った。

 

 



「……ふう。」

 




……



………

 

 

 




……これ、どうやって渡そうかな…。

 

 




【二人のバレンタイン。】

 

 

「んー。」


…結局、一日考えても良さそうな渡し方が思いつかなかった。


「…キョンって、バレンタイン当日でも普段通りなのね。
 あたしも人の事は言えたもんじゃないけど、つくづくこういう事に興味を示さないやつだわ。
 …みくるちゃんには別、か」


あたしは、前の席に座って授業を受けてるキョンの背中を眺めながら…考える。
…こいつ、あたしがチョコを渡したら…どんな顔をするんだろう。


『ほらっ!団長からのお情けよっ!ありがたく受け取りなさいっ!』
『いらん』


とか言いそう…よね。そんなんじゃ、…折角のチョコが勿体ないか。



「…まっ、まあ…普通に渡したら…流石にキョンでも「いらん」は無いでしょ…」



…普通って、お礼言いながら、両手で渡して、え…笑顔で?

 


「…とてもじゃないわね」



あたしは頭を振ってその考えを飛ばそうとした。けど…


「…キョンはどんな反応するんだろ…」



……。



…まあ、嫌な感じは受けない、かな。



「…あらかじめ、台詞を決めておく必要があるわね。」

 



…そして、昼休み。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


「――――っ!」


…なによっ!なんなのよっ!それはっ!


気付いたらあたしはキョンから箱を奪い取って、当てもなく校舎を飛び出していた。

 


自分の家までの帰路を駆けながら辿って、
駅に近づいていくのと共に血が昇って膨張した頭が冷静を取り戻しはじめ、
徐々に疲労と思案があたしの足を鈍らせていった。


「…あたし、なにやってるんだろ」


思えば、なんであそこまで激昂したんだろうか。
あたしは無意識の内にキョンにあんな行動をとってしまったけど、
別にキョンにおかしい所なんて無かったじゃない。
不自然だったのは…あたしよね。


「カバンが……いや、もう帰ろうかな…」




手元のチョコは…自分で台無しにしちゃあ、世話ないわね。

 

 




あたしは部屋に帰って、深く、深く眠ってしまった。

そして翌朝、自分のケータイにキョンからの着信があった事に気付いた。


「なによ?…まぁいっか。
 それより、せめて箱だけでも有効活用しないとバチが当たるわね」



キョンにぶつけてやろうと思って、あたしは手さげ袋に箱を入れて、学校へ向かった。

 


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WAWAWAっと!今日は朝から気分がいいぜ!

って、珍しくこんな早くからキョンと涼宮が席に着いてやがるな。

…なんか話してんのか?

 

 

 

 

「あの…、ごめんな。昨日は」


「…もういいわよ。特に怒ってないし」


「す、すまない…それと…チョコ、なんだが…」


「なによ」


「俺に、…良かったらくれないか?」


「…もうない」


「…本当に済まなかった。残念だ」


「……」

 

 

 





Hi!Hi!Hiる飯っとっ!
キョンは一人で飯食ってんのか?
しょーがない!俺の幸せを分けてやるか!

…およっ?どっかから帰ってきた涼宮がキョンの前に…

 

 



「ちょっとキョン?」


「…なんだ?」


「…あげる。」


「んっ?って、これ…昨日のチョコじゃないか!?」


「…そうね」


「…ハルヒ」


「なによ?」


「…ありがとう」


「…!がっ、ガラに無い事なんて言うんじゃないのっ!」


「…?」


「…あけてみてよ、それ」


「?、ああ。わかっ……ってお前、これ購買部の板チョコじゃないか!?」




「それね…。毒…だから」


「…ああ」


「……」







「…ちゃんと箱までたべてよね」

 


「……」


「……」











『…ふふふっ』

 

 




NANANAなんだお二人さん?
…顔合わせて笑っちゃってよ。
まあいいさ。俺も昨日…鶴屋先輩から1個貰ったんだからなぁ!!

おっ?おっす国木田!お前も昨日は鶴屋先輩から貰った1個で終わりだったか!?
我が同志よっ!

 

「…僕は朝比奈先輩からも1個貰ったよ?谷口には無かったの?」

 









「………ご、ごゆっくりぃ~~~~!!!!!」

 

 

 









『キョン、ハルヒ、そして二人のバレンタイン。』END

 


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