朝比奈さんがいなくなった────、
これが、この後俺がとんでもなく苦労する事件の幕開けだったとは知る由もなかった。
 
 
    新・孤島症候群─前編─
 
 
 その後、皆の所についた俺たちは誰も朝比奈さんを呼び出したりしてないことを知ると、
妹を鶴屋さんに預け、手分けして探すことになった。
 一階は多丸兄弟とハルヒ、二階は森さんと新川さんと長門、三階が俺と古泉で探すことになった。
 
 長門に聞くのが一番手っ取り早いがその前に聞いておかなければならない相手がちょうど目の前にいる。
「古泉、ひょっとしてこれはお前の仲間たちが仕組んだサプライズなのか?
消えてしまった朝比奈さんを探すかくれんぼ的な何かなら最初にそういってくれ、
決して怒ってるわけじゃない、それならまだ楽しむべき余地があるってだけだ。
こんな不安な気分はとても心臓に悪いからな」
 俺はいつもの笑みを消失したハンサム野郎に問いただした。
 こいつがすでにまじめな顔になっている時点で心臓に悪いのだが、それでも問い詰めたい心境だった。
「残念ながら僕も先ほど新川さんと森さんに問い合わせましたがそんな予定はないそうです」
「それは演技じゃないだろうな」
「それはないと思います、もしサプライズを仕掛けるとしても、
こんな初日の夜からはしないはずですからね、
新川さんも森さんも予定外なことだと言ってましたし」
 階段を上りながら古泉はいう、いつもの冗談であって欲しかったがどうやら本当のようだ。
 
 三階を探索しつつ俺と古泉は片っ端から扉を開ける、どの部屋も鍵はかかっていなかった。
もちろん、中に誰もいない。
「こうなると彼女は時間移動したと考えた方が良いですね、
そうだとすると涼宮さんにどう説明すればいいのか考えないといけないんですが……」
 俺も最初にそう思ったが、朝比奈さんが前触れもなくいきなり時間移動するなんて思えなかったからな、
あの時、朝比奈さんは『また後でね』って言ったんだ、いくらなんでもお別れのセリフじゃない。
 あと、ハルヒにホントのことを言うわけにはいかないからな、
お前たちが仕組んだサプライズだと思わせた方がいい気もする。
 しかし、真相がわからんうちは、うかつな行動は出来ないな。
「そうですね……」
 と、言った後古泉は思慮深く伏せた目をゆっくりと開き、
「実を言うとひょっとしたらあなたなら真相を知ってるんじゃないかと僕は思ってたんですが、
その様子じゃ本当に前触れもなく彼女は消えてしまったんですね」
 どうやら古泉は俺と朝比奈さんでまたもや時間移動をして、
なにやら未来からの指令でお使いもどきをしているんじゃないかと勘ぐっていたようだ。
 そうだったら良かったんだがな。
 俺はこんなところを真面目に探しても朝比奈さんを見つけることは出来ないと判断し、
二階に向かうことにした。
 もう一人の方のSOS団メンバーにも相談しなきゃならん。
「とりあえず長門に相談してくる」
 
 二階に行くと、鶴屋さんと妹に会った。妹はすでに限界らしく、
今日のところは鶴屋さんの部屋に泊まることにしてもらったようだ。
 鶴屋さんと一緒なら安心です。
「すいません、鶴屋さん、お願いします」
「妹ちゃんはまかしときなっ、そのかわりキョンくんっ、
みくるを見つけてきたら超特急であたしのところに連れて来るんだよっ、
みんなを心配させたことを、あたしがメって叱ってあげっからさっ!」
「解りました、必ず見つけて連れてきます」
 鶴屋さんの口調はいつもの感じだったが、やはり心配しているのだろう、
いつもの覇気は感じられなかった。
「あ、そうだ鶴屋さん、長門がどこにいるかわかりますか? たしかこの階にいるはずですが、
長門にもちょっと聞いておかなきゃならない事がありまして……」
 大体の事情を知っている鶴屋さんだからこそ言えるセリフである。
「長門ちゃん? そういやさっき自分の部屋に入っていったような……、あれ?
みくるの部屋だったか? ま、どっちか知んないけど部屋に入ってったと思うよ」
 
 鶴屋さんを見送ったあと、俺はまず隣の朝比奈さんの部屋に向かった。
 ノックをすると、「どうぞ」っと新川さんのしぶい声が聞こえた。
 中に入ると森さんと新川さんがいて、長門はいなかった、森さんはクローゼットの中を調べていて、
新川さんは窓の外を注意深く見ていた。
「何かわかりましたか?」とりあえず聞いてみた。
 予想通り、なんの痕跡も見当たらなかったそうだ、しかし、二人とも調べ方に無駄がないというか、
手馴れた感じが見受けられるんだが、この人たちは本当に何者なんだろうか。
 
 次に俺は長門の部屋に向かう。
 いきなり開けるのも何だと思い、とりあえずノックをしようと手をあげた時、ドアが開いた。
 当然ドアを開けたのは宇宙人製有機アンドロイド、SOS団の影の最高実力者だ。
「長門……、いたか、さっそくで悪いがこの状況どうなっている? 朝比奈さんはどこにいったんだ?」
 長門はゆっくりとした動きで背中を向け、
「……入って」
 と言って部屋の中に歩き出した。
 さすが長門、何か解ったんだろうか、と期待して俺も後に続いて部屋に入った。
 
 しかし、期待した答えは聞けなかった。
「朝比奈みくるは現在時空間に存在していない、異時間同位体の存在も確認されていない」
 いつもの抑揚のない声で話す長門。て、ことは朝比奈さんは時間移動をしたってことなのか。
「彼女の持つ能力を考慮するならそう考えるのが妥当、その可能性も高い、
しかし、他の可能性も危惧できない」
 他の可能性?
 長門は少しためらうように俺の顔を見て、
「朝比奈みくるが存在するはずの未来がなくなった可能性」
 どういうことだ、それは? なんとなくしか解らんが、未来がなくなる?
「朝比奈みくるがいない別の未来に、または、
未来には存在しているがこの時間に時間移動をしてくることがない未来に分岐したのかもしれない」
 ちょ、ちょっと待ってくれ、妹をトイレに行かせて歯を磨かせる間に、
そんなごっそり未来が変わっちまうような選択肢なんて無かったはずだぞ。
 まさか妹をトイレに行かせたり歯を磨かせるのが朝比奈さんの未来をなくしたってんじゃないだろう?
それともそんな些細なことで変わっちまうものなのか、未来は。
 じゃ、何か? 俺のとった行動で朝比奈さんを消しちまったのか。
「まだそうと決まったわけではない、そんな程度では未来に向かう流れを変えることは不可能、
──落ち着いて」
 
 少々頭に血がのぼっていた様だ、長門の最後のセリフ『落ち着いて』を、
音量をあげてゆっくりと言ってくれたおかげで俺はどうにか落ち着いた、サンキュー長門。
「それじゃ俺たちはこれからどう行動すればいい? あと、この件なんて説明すればいい?
朝比奈さんの正体は言えないからな、ハルヒには」
 原因は解らないままだが、それよりこれからどうするかってのが今考えるべき優先事項だ、
そのために長門のところに来たってことを今更ながら思い出した。
「わたしは観測するのみ、ただ、わたしと言う個体は、このような変化を望んでいない。
むしろ現状回復を望んでいる、……未来との同期機能を禁止したため、
どの行動がわたしの望む未来につながるのか知るすべはない。
……だが、わたしは鍵であるあなたの行動に従うのが良いと判断する」
 まっすぐ俺の方を見ていた長門は、そう言うと部屋のベッドの上に座り込んだ。
 おいおい、質問を質問で返すなよ、なんだ? 結局は俺次第ってことなのか。
「……そう」
 うーん、断言しやがったぞ、まったくなんだか知らんが肝心な選択はいつも俺のような気がする。
ただの一般人に押し付けないほうがいいと思うんだがな。
「それじゃあ……と」
 少し考察したが、やっぱり俺には安易な考えしか浮かばなかったのだ。
「ハルヒには朝比奈さんが消えたのは古泉たちの仕組んだサプライズってことにする、
それでいいか、長門。ハルヒがそう信じればそれが現実になるかもしれないからな、
まあ、これは古泉理論だが」
 長門は「わかった」っと言って頷いた。最小限の動きで。
 
 そうと決まればさっそく古泉にも報告しなきゃならん、
あいつならどんな状況でもうまく説明してくれそうだしな、ハルヒへの説明役はまかせたぞ。
 そう思い、長門の部屋から出て古泉を探しにいく。
 さて、あいつはまだ三階かな。
「ちょっとキョン! あんた古泉くんと三階を捜索してたんじゃなかったの?」
 げ、ハルヒ。不意に声をかけられてギクリとする、おどかすなよ。
「それになんで有希の部屋から出てくんのよ! みくるちゃんがいなくなると言う非常事態なのに、
女の子の部屋を物色するようなマネしてるなんて非常識よ!
こんなアホが団員にいるなんて団長として恥ずかしくて涙が出てくるわ!
いえ、あたしの涙はそんな安っぽくないわよ、ダイヤよりも価値があるんだからね!」
 涙を比喩するなら真珠じゃないのか。などと思ったが口には出さない。
「そんな大罪を犯したあんたは罰として雨の中、別荘の外の探索でもしてもうらおうかしら」
 ハルヒはズカズカと俺の前まで進み、目にもとまらぬ動きで俺の胸ぐらを掴み、締め上げた。こ、殺される。
「ま、まて、誤解だって……、話を聞けよ、……ちょっと長門と相談してただけだ」
 
 とにかく俺は事後報告としての三階の探索結果と、長門に相談しに来た理由をハルヒに説明する。
「だから、古泉と長門に訊いたらこれは去年と同じようなサプライズパーティーかもしれないってことなんだ、
古泉も今回は騙される側にいるから詳しいことは知らされてないらしいんだ、
そこで俺は長門にも訊いてみただけなんだよ」
 いくら説明してもハルヒは疑いの眼差しで俺を睨んだままだ、
くそ、俺じゃハルヒを納得させることは出来ないみたいだ、やはりこの役は古泉が適任だ。
だから早く助けに来い。そして口裏を合わせてくれ、おまえならできる。
 て言うか長門、お前なら部屋の中にいても俺のこの状況を知ることが出来るんじゃないのか、
出てきて助け舟を渡してくれよ。
 俺の祈りが通じたかどうか知らないが、程なく古泉が来てうまくハルヒをなだめてくれた。
 
 ハルヒは、そうなの? と一言いって納得する、くそ、古泉の説明なら簡単に聞きやがって。
「何いってるの、あんたと違って古泉くんは副団長なのよ、信頼できる実績があるに決まってるじゃない、
ただの雑用係のあんたとは出来が違うのよ」
 だそうだ、よかったな、古泉。お前らの崇める女神様から信頼されてるぞ。
 しかし、さすがと言うべきか、よくボロが出ずに説明できるな。りっぱな詐欺師になれるぞ。
て、ずっと猫をかぶってるお前はすでに詐欺師みたいなもんだがな。
 
「て、ことは消えたみくるちゃんを探すのが今回の目的なのよね、ふむ。なるほどね」
 なにがなるほどか知らんがハルヒの興味が別の方に向いたのは幸いだ、今のうちに、
「古泉、早く新川さんと森さんたちにこの経緯を話しておいた方がいいんじゃないのか」
 俺はハルヒに聞こえないように小声で耳打ちした。
「実を言うと、ここに来たのは先ほど長門さんから連絡があったからでして、
あなたとの相談結果は既に森さん達に連絡しておきました、安心してください」
 なんだ、うまく口裏をあわせてくれたんだと感心していたがここに来る前に知っていたのか、
とはいえ、もうちょっとでこの雨の中外に放り出されるところだったからな、
助かったぜ、と言いたいが俺にウインクするな気色悪い。だから感謝の辞は長門に送ることにする。
 
 しかし、結果的には助かったが長門も遠回りな助け舟を出したもんだ、
それともハルヒに説明するのは古泉が適任だとでも判断したんだろうか、たぶんそうかもしれないな。
 長門がでっち上げの説明を長々とハルヒにするようなことはしないだろうからな、
そういうのはここにいるニヤケ野郎の分野だ、ん、そういえばコイツの表情、
デフォルトの激安スマイルに戻ってやがるぞ。
「今回の出来事はサプライズパーティの一種ということにするのでしょう?
だったら涼宮さんをその気にさせた方がいいのではないでしょうか、それに、僕は演技が得意ですからね」
 どちらかといえば詐欺師にちかいんだが。
 
「なにこそこそ話してるのよあんた達、なんか気づいたことでもあるの? 
だったらちゃんとあたしに報告しなさい」
 いつのまにやらハルヒが両手を腰にあて、仁王立ちでこちらを見ていた。
とは言え、不機嫌でも怒っているわけでもないようだ、それはハルヒの目の輝きをみれば一目瞭然だ。
「なんでもねえよ」
 と、俺は軽くごまかし、
「で、ハルヒ、これからどうするんだ、もう一回別荘の中見て回るのか?」
「うーんそうねぇ……、さっきとは違う視点で探索した方が良さそうね、
隠し通路や隠し部屋とかがあるかもしれないしね」
 
 そう言われればここは古泉のいう機関が用意した場所だ、そんなもんがあってもなんら不思議じゃないな、
地下に秘密基地のようなものがあり、
そこで指揮官やら支部長などが古泉たちエスパー戦隊に命令を下している、なんてな。
 なぜか指揮官は森さんで参謀が新川さんというキャスティングとなっており、
露出多めの衣装をまとった森さんの指令に、イエス・マム! などといって出撃する古泉──。
 われながらアホな想像をしてしまったようだ、俺の顔をみた古泉はなにやら怪訝な表情をした。
「残念ですが隠し通路や隠し部屋なんてものまでは用意してないですよ」
 古泉は聞いてもいないのに返事をしてきた。
 
「そうなると、まずみくるちゃんの部屋をちゃんと調べたほうがいいわね、
隠し通路や階段があって別の部屋に繋がってるかもしれないわ、キョン、一緒に来なさい」
「おい、ちょっとまて、なんで俺だけなんだ……」
 古泉は? と言いかけた時、
「いいから、さっさと来なさい! あ、古泉くんは情報収集を頼んだわよ」
 と言って俺の腕を掴んで無理やり引っ張っていく、その姿が滑稽にみえるのか
古泉がいつも以上にニヤついて俺に手を振って見送っていやがる、くそ、厄介ごとを押し付けられた気分だ。
 
 再び朝比奈さんの部屋に来た、先ほどとは違い、森さんと新川さんの姿はなかった、
今頃、機関のメンバーで今後の傾向と対策を練っているのかもしれない。
 ハルヒは、部屋に入って扉を閉めるなり、
「今回も古泉くんは事情を知っていて私たちを欺いてるかもしれないわ」
 いたずら好きな猫のような表情でハルヒは俺につぶやいた。俺は違うと思うがな。
「実際はどっちでもいいのよ、ただそう考えて行動した方がより面白いじゃない、
折角いい舞台用意されてるんだし」
 そうかい、好きにしろ。俺はこのまま朝比奈さんが消えちまった事実をなんとかしてもらいたいだけだ。
「で、この部屋を調べるのか」
 さっき新川さんと森さんが調べてなにもなかったんだから俺たちが調べても、
もう何も発見することはないはずだ、俺としては無駄な労働は極力したくないんだが。
「その前に……」
 ハルヒが威圧的な声をだし、俺を見据えた。
「キョン、有希とはどういうやり取りでなんて言っていたの? 詳しく教えなさい」
 
 なんだか知らないが、いきなり始まった尋問に俺は動揺する、いかん落ち着け、
また変な誤解をされちまうぞ。
 とりあえず真実は話せないから古泉が言っていたことを反芻するような感じで言葉を紡ぐ。
 それを聞いてハルヒは、あごに手を当て、思考をめぐらすように壁か空間かをにらみ、
「ひょっとしたら有希もグルかもしれないわね」
 おいおい、いくらなんでもそれはないだろう。
「もちろん、有希があたしたちを騙すなんて思わないわ、きっと、この事件の真相に気づいたのよ、
それであえて古泉くんの話に乗って、自分は傍観者になってるんだわ」
 お前は違う意味で感が鋭いな、確かに長門は傍観者で、観察するのが使命だといってるしな。
「それもそう考えた方が面白いからか? 
だからと言って長門と古泉を仲間はずれにするのはちょっとどうかと思うぞ、俺は。
それに、それは全部お前の勝手な推理であって事実じゃないだろ」
 
「わかってるわよそんなこと、こう考えた方が面白いって話よ、
あたしが仲間はずれになんかする訳ないじゃない、でも……」
 勢い良くしゃべってたと思ったら急に失速した、でも、なんだ?
「ううん……なんでもない」
 ハルヒは何やら言いよどんだが、すぐさま勢いを取り戻し、俺のほうに一歩踏み出して、
「これからみんなあたしの部屋にいったん集合しましょ、収集した情報の整理をしなきゃね、
あと、解ってると思うけど有希と古泉くんにはさっきのことは内緒にしときなさいよ」
 別にお前の推理をあいつらに言うつもりはないが、なぜ敢えて口止めをする。
「決まってるじゃない、あの二人は真相を知っていてこの推理ゲームをより面白くする偽の情報を持ってくる可能性があるからよ」
 お前がこの事件を完全に推理ゲームだと思い込んでくれさえすればいいさ、
そのためなら俺は少々お前の理不尽な命令だって聞いてやるよ。と、まあ結果はいつもと変わらん気もするが、
今回は心構えがぜんぜん違う、この事件を朝比奈さんを見つけ出すというハッピーエンドにさえなればいいんだ。
「それにもし、このことを有希と古泉くんに話して、『ばれちゃいましたか、実はこの事件の真相は~なんですよ』なんて、
ばらされたら興ざめするわ、そのあと仕掛け人側にまわってあんたと鶴屋さんをだますことになって……それはそれで面白そうだけど」
 どっちなんだよ。
「やっぱそれはだめよ、あんたのもどかしい推理なんてみてたらあたしきっとイライラしてすぐばらしちゃうわ」
 ハルヒは腕を組んで考え込んだかと思うと、頭を振って考えを否定した。あーもうお前の好きにしろよ。
「取りあえずこのあとお前の部屋に集合なんだな、でも寝ちまった俺の妹と付き添ってる鶴屋さんはどうすんだ?」
「そうね、一応鶴屋さんにはあたしが声をかけておくわ、キョンは有希と古泉くんを呼んできてちょうだい」
 
 さて、こうなったら俺は成り行きに身を任せるしかない、あれこれ考えるのは一旦終了だ。
 俺は長門と古泉を呼びにいくために部屋から出る。出る直前、部屋の時計が目に入った、
もうすぐ午後十一時になろうとしている。
 朝比奈さんがいなくなったのが九時半ごろだったからそろそろ一時間半ほどたっているな、
俺としてはもっと時間が経過してる気分だったんだがな、きっと俺の中の朝比奈さん分が不足しているからに違いない、
はやく補給しないと欠乏症になって思考能力や気力が低下しちまうぞ。
 廊下を進み、長門の部屋の前にきたが、俺一人で行くとまたどっかの誰かが勘違いするかもしれん。
と、いうわけでまずは古泉を見つけるとすっか。
 
 古泉はすぐに見つかった、一階で新川さんや森さん、多丸さん達と何やら相談していたようだ。
 とはいえ、あからさまに相談しているわけじゃなく、それぞれ別の部屋で自分の役割をこなしながらだ、
この辺、俺はさすがだな、と感心する。
 俺は古泉に、今のところハルヒに対しては順調に進んでいることを伝えた。
「で、そっちはどうだ? その様子だとあんまり状況は変化していなさそうだが」
 古泉はいつもの営業スマイルを50%OFFにして、
「そうですね、我々としましては今まで事前準備か事後処理の方を主に活動してきましたからね、
ですから我々の出番は事件が解決してからですね、つじつま合わせの解説役なら得意分野なので任せてください。
そしてあなたにはうまく涼宮さんを誘導してもらえればよろしいかと」
 そううまくいけばいいんだがな、あいつは手綱も騎手もお構いなしに、
空を自由に飛ぶペガサスのフリをしたじゃじゃ馬だからな。
 そういやそのじゃじゃ馬が呼んでるんだった。あんまり遅いとまた罰金なんて言われかねん。
「とりあえずハルヒの部屋に集合だそうだ、あと、途中で長門も連れていくぞ」
 ではまた後ほど、っと言って新川さんや森さん、多丸さんたちに一礼した古泉と俺はその場を後にした。
 
 二階に上がった俺たちは、まず長門の部屋に向かう。
 さっきはノックする直前で扉が開いたのだが、今回は普通にノックすることができた。
「長門、いるか? ハルヒの部屋に集合だそうだ、この事件に関してみんなの意見を聞くらしい」
 返事がないのはいつものことで、長門は無言で扉を開けてくると思っていた。しかし、
しばらく待っても何のアクションも起きなかった。
「長門? ……いないのか?」
 もう一度ノックしたあと、俺はゆっくりと扉を開けた、鍵はかかっていない。
 予想通り、中は無人だった。この情景は朝比奈さんがいなくなった時を思い出させ、一抹の不安を俺の心に落とす。
 だが、長門のことだ、呼ばれてることを察知してすでにハルヒの部屋に行ったんだろう、と俺は思い直し、
「なんだ、先に行っちまったのか、無駄足だったな」
 古泉は複雑な顔をして肩をすくめていて、俺はいつものようにハルヒに、遅い! などと言われそうだなと思い、
足早にハルヒの部屋に向かった。
 
 この時にはまだ、俺は気付いていなかったのだ。すでに長門も行方不明になっていたことを。
 そのことを知ったのはハルヒの部屋に行った後のことだった。
 
 
    挿絵
    つづく


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