分裂β-4アフター

 喫茶店に残ったのは、藤原を名乗る未来人と佐々木だけとなった。

「僕としては、もう少し穏便な形を望んでいたんだけどね」
「いまさら、まぜっかえすつもりか?」
「そんなつもりはないけど、今日はキョンや涼宮さんとともにダブルデートとしゃれ込みたかったというのも正直な気持ちだよ」
「ほう。この時代では、それをダブルデートというのか。僕の古語の知識は間違っているようだな」
「冗談さ。それはともかくとして、あのとき、僕が涼宮さんに直接連絡をとることを君は阻止したね。なぜなのかな?」
「それはもう話したはずだがな」
「キョンにとってそれは悪い結果にしかならない、だったね。僕にとってはそれだけでその行為を思いとどまるには充分なものだったが、それだけではないのだろう?」
「当然だ。僕にとっても、不都合な結果にしかならないからな。ついでにいえば、あんたにとっても、あの涼宮ハルヒにとっても、あんたのお気に入りの人形や、あっち側の人形どもにとっても悪い結果にしかならない。橘京子や古泉一樹どもにとってどうなのかまでは知らんがな」
「その結果とやらを教えてはもらえないのかい?」
「フン。禁則だ。もはやその結果は生じえないのだから、あんたが気にすることじゃない」
「確かにそうだ。これからの未来にはどのような結末が待っているのか。むしろ、気になるのはそこのところだね」
「禁則だ。あんたに話すわけにはいかない。頭のいいあんたなら理由はいわずとも分かってるだろう」
「予言の自己破壊。君たちがそれに一番気を使っているのは、理解しているよ。要は、僕の結末がどうなるのかは、今後の僕の行動次第ということだね。君にできることは、あいまいな、あるいはさりげない言動で僕を誘導することぐらいだ」
「……」
「前に君が話してくれた時間平面理論によれば、未来人による介入のほとんどは歴史に影響を与えない。歴史を動かすには、現地人──この場合は現『時』人と称した方が適切かもしれないが──を動かす方がはるかに楽に事が進む。
でも、露骨に未来の結末を指し示すことは、予言の自己破壊を招くので、望ましくない。だから、迂遠な方法で誘導するしかないわけだ」
「……」
 藤原の表情が渋面になった。
「だから、君が発する言葉は、嘘であろうと真実であろうと、それに込められている真剣さは本物だ。キョンは、君を毛嫌いするあまり、君の言動を考慮に値しないものと決め付けているようだが、それは間違いだといわざるをえないね」
「……」
 藤原は、完全にしかめっ面になっていた。
「くっくっ」
 佐々木は、笑い出した。
「図星だったかな?」
「……」
 もちろん、藤原が答えられるわけもない。
「それにしても、君を見てると、真面目すぎるがゆえにグレてしまった息子をもった母親のような気持ちになってしまうのは、なぜだろうね?」
 藤原が目を見開く。
「答えてくれなくていい。君にとってそれは最大級の禁則なのだろう」
 佐々木はそういい残すと、藤原に反論の間すら与えず、席を立った。

 藤原は、店を出ていく佐々木の後姿を見ながら、ぽつりとつぶやく。
「さすがは御先祖様だ」

終わり


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