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「先に行ってるわ!」
放課後になるなり、そう言ってハルヒは楽しげな表情でさっそうと教室を飛び出した。
何かあったのか?
ハルヒの表情の天気は朝のイライラとは打って変わって晴れていた。どうやら顔にかかっていた雷曇は偏西風によって吹き飛ばされたようだ。
その偏西風は恐らく休み時間にしていたメールだろう。何をしていたかは知らないが。

こりゃ何かあるかもな。
そう嫌な予感がしつつ、おれも部室に向かった。

さーて、今日は何をしでかすやら。
部室のドアの前で覚悟を決め、ドアノブを回した。
おっと、ノックするのを忘れ…て…。
目の前の光景におれは言葉を失った。いや、元々喋っていないのだからこの表現には語弊があるかもしれないがそんなのはどうでもいい。
とにかくおれは現実を信じられなかった。
何故なら部室でハルヒと古泉が抱き合っていたからだ。

おれが来た事に気付いたらしく、ハルヒは古泉からすぐに離れた。
「キョ、キョン…ノックぐらいしなさいよね」
その通りだ、が…。
「あー悪かったよ。お前らがそういう関係だとは知らなくてな。そういう事ならおれは邪魔だな。じゃあ帰らせてもらおう」
「ちょっとキョン!」
ハルヒが何か言ってるが無視だ無視。もう知らん。

階段を降りていると朝比奈さんと出くわした。鞄を持ってまさに帰ろうとしているおれを見て不思議そうな顔をしているので、数分前の出来事をありのまま説明した。
すると朝比奈さんは嬉しそうに、
「良かったじゃないですかぁ。お祝いを言ってきますね」
と言って部室まで走っていった。
だがおれは何故だか素直に喜べなかった。

だいたい古泉の何がいいんだ?あんなヤツのどこが?そりゃ美形だしスタイルいいし金持ちっぽいが…男の価値はそんなもんじゃないだろ。おれの方がよっぽど…。
そこまで考えた時、自分がいつになく苛立っているのに気付いた。
いつもならこんな事は考えない。自分の方が誰かより優れていて相手が劣っているなんて高校に入ってからは一度も考えたことがなかった。
頭に血が昇ってるな、こりゃ。

とりあえず校内の自販機のコーヒーを飲んで落ち着くことにした。初めて古泉から機関の事を聞かされた場所だ。
喉を流れるコーヒーの冷たさと苦さが頭を冴えさせてくれる。
さて、おれは一体どうしてあんな事を考えちまったんだろうね。
「まだ解りませんか?」
突然、横から聞き慣れた声が聞こえてギョッとした。
古泉、お前何時からそこにいた?
いや、それよりもお前に人の心が読める能力があるとは初耳だな。

「あいにく僕はそのような能力を持ち合わせてはいません。それと僕はあなたを追ってきたんですよ」
古泉のにこやかスマイルを見てると何だかムカついてきやがった。くそ、今までこんなことはなかったんだが。
「それよりなぜあなたがそうまで頭に来ているのか本当に解りませんか?」
わからん。
そう即答してやると古泉の表情が少し暗くなった。
「呆れて言葉も出ませんね」
じゃあお前が今発してるのは何だ。雑音だとでも言うのか?
まあ実際のところ、今のおれには雑音にしか聞こえんがな。
「あなたも鈍い方ですね。涼宮さんの性格を考えてみて下さい。今まで涼宮さんが…」
そこまで聞いてある考えが頭をよぎり、おれは最後まで聞かずに走り出した。

そうだ。なんでハルヒと古泉が抱き合ってた事に違和感を感じなかったんだ?ハルヒが男あさりはしないって言ってたのは知ってたはずだろ。
なのにハルヒがあんな事をしたのは何故だ?それも打ち合わせでもしたかのようにおれが部室に入った時に。

決まってる。ハルヒがおれを好きだからだ。
おれに見せつけて焚き付けるつもりだったんだ。
口調からして古泉はグルだったんだろう。
こんな回りくどいことなんかしなくても直接言ってくれればいいのに、ハルヒのヤツ何考えてんだか。

しかしおれもバカだな…。ハルヒが古泉とあんな事をしてるとこを見て沸き上がってくるこの感情が嫉妬以外の何だってんだ。
あの閉鎖空間でキスまでしといて、こんな事をしなけりゃハルヒが好きだって気付けなかったとは…情けないとしか言いようがないな。

走りながら脳も働かせていたせいか、部室が見えてきた時になって息が切れてきた。肺が酸欠で痛んでくる。もうちょっとで着くから我慢してくれ。

「ハルヒ!」
部室に着くなりおれはドアを思い切り開けた。SOS団の中でこんな事をするのはハルヒぐらいだからか、当の常習犯は驚きの表情でおれを見ている。
「な、何よ。古泉君の事?」
おれはその質問には答えずハルヒに向かって一直線に進んで行った。
おれはハルヒの前まで行って立ち止まり、ハルヒの目を見つめた。
どうやら古泉の言っていた事は本当のようだ。ハルヒの目には罪悪感が感じられる。
「何か言いたいことあるんだったらさっさと言いなさいよ」
おれは何も言わずにハルヒを抱きしめた。

「な…」
「おれが悪かった、すまんハルヒ。お前の気持ちに気付かないばっかりに心配させちまったみたいだな」
ハルヒが抵抗せず黙って聞いている事でおれの推測が確信に変わり、そのまま話を続けた。
「だけど安心しろ、これからはもう大丈夫だ。ずっと一緒にいるから」
「バカ。ここまでしといてそうじゃなかったら罰金じゃ済まさないわよ。あたしだってもう離さないんだから」
そう言っておれと同じようにハルヒも腕を回してきた。

「ごめん、こんな遠回しの方法になっちゃって。だけどキョンの本当の気持ちが知りたくて…告白するだけじゃ駄目かなって思ったの。だから古泉君に相談したらこういうのが一番分かりやすいからって」
そうか…古泉の入れ知恵だったのか。
「そんな事しなくてもストレートに聞けばいいじゃないか。ハルヒらしくもないな」
「だって…こんな気持ち初めてだからどうしたらいいかわかんなかったんだもん」
なるほどな。今まで告白されるだけの経験しかなかったハルヒはまさか自分が告白する側になるとは思ってなかったんだろう。
人を好きになるって事を初めて知ったんだから当然かも…な。
「わかったよ。だけど今度は直接頼むぜ」
「わかってるわよ」
ハルヒが腕に力をこめた。きっと誓いのボディランゲージなんだろう。
それに答えるようにおれもハルヒを優しく抱擁した。

あの時あえて好きだとは言わなかったのは、そうしなくても気持ちは伝わったと思ったからだ。

いやすまん、実は…少し恥ずかしかったんだ。

 

-Fin-

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