センター前日

 



高校3年になり、SOS団で同じ大学に行こうということになった。しかもかなり有名なところだ。
もちろん一番危ないのは俺で、その俺を合格させる為にハルヒや、
"たまたま"志望大学が同じだった佐々木も俺の勉強を見てくれた。
休みの日は図書館で勉強したりもした。

 

 
ついに明日はセンター試験。
一日目は公民・地歴・国語・外国語・リスニング(英語)の順に行われる。
国語や英語(筆記)なんかは語句や英文法も不安になるが、それよりも配点の高い問題を間違えないか恐くなる。何しろ国語ではたまに10点の問題があるのだ。

 
センター試験の点数が低ければ、大学に出願しても「足きり」されかねない。つまり、不合格が確定してしまうのだ。
ちなみにその某大学は昨年から1つの学科を除いて後期試験が廃止されているから二回目は無い。


「キョン、平均点が5、6割あるセンター試験は簡単だと思われがちだが、
では受験者50万人のうち5教科7科目で総合点が9割を越える人はどれだけいると思う?」
「さあ、全体の5%ぐらいか?」

 

春先に、佐々木が北高にきたときの会話だ。
そこにハルヒが割り込んできた。
「何言ってんのよ!年にもよるけど、今年のなんかは1%にも満たないわよ。もしかすると、0.5%にもいかないかもね。
二年前から問題製作に着手してるって聞くわ。そりゃ良くできた問題になるわよ。
だからキョン、センターの勉強も甘く見ちゃだめよ。」
「で、俺は何割とればいいんだ?」

 

「「8割5分」」
佐々木とハルヒが声を合わせて言った。

「8割5分…か」
会場の下見も終わり、帰宅してからつぶやいた。
間違いない、俺は緊張している。
試験前まで学力は伸びると言われたが、不安や緊張で勉強に手がつかない。恐らく今日が一番緊張するのだろう。
とは言え、同じ受験生なのだから、今日ばかりは"あいつ"に甘えるわけにもいくまい。

 

朝比奈さんの真似ではないが小動物のようにぷるぷると布団の上で一人震えていると、携帯の着信音が鳴った。

 

「もしもし」
「…私」
電話の主は長門だった。

 

「長門か。どうした?」
「…外」
雪でも降ってきたのだろうかと思い窓の外を見てみると、携帯を持った長門がこちらをじっと見ていた。

 

「あなたが緊張しているだろうと思い、来た」
上着を着て外に出ると、長門が理由を説明した。

 

 
長門が俺を気遣って電話をかけてくるというのは、実は初めてではない。だが家の前まで来たのは初めてだ。

「そうか、すまんな。…恥ずかしいことに緊張で腹が一杯になりそうだ」
「……」

 
「なんだかんだ言っても、一年~三年の内容をこの一年で詰め込んだようなもんだしな。模試の判定も良くないしさ。」
「………」

勉強量が足りないのは自分のせいだ。でも、これで結果が悪かったら応援してくれた皆に申し訳がつかないと、考えてしまう、後悔してしまう。
 
うつ向いている俺の視界に、長門の靴が入ってきた。
と、長門が抱きついてきた。

「…私達は、あなたに見返りを求めているわけではない。」
「……」
今度の三点リーダーは俺のものだ。

 
「春にあなたが私達と同じ大学に行くと決めたとき、嬉しいと感じた。
それは私だけでないはず」
「…俺はただ、長門と離れたくなかっただけだ」
「その気持ちだけで、私は十二分に報われている。」
俺の胸に顔を埋めながら、長門は続ける。

 

「確かにあなたはこの一年、ずっと勉強していたわけではない。サボりがちな時期もあった。
そのことを後悔して自分を責めてしまっている。」

 
空いた時間は勉強漬けだったためにストレスが溜り、サボりがちになった時期があった。
そのときも長門は心配して電話をかけてきてくれた。
 
「それでも、この一年の勉強量は決して少ないものではない。
あなたの学力は一年前と比べるまでもないほど飛躍的に向上している。」

 
そこで長門は顔をあげ、誰にでもわかるほど穏やかな表情で、驚いている俺にこう言った。

「だから、自分の力を認めてあげて。
それがあなた自身………私の好きな、あなたなのだから」

 
とどのつまりは、失敗してもそれが自分なのだと肯定的に受け入れろということか。
開き直ることだといえばそれまでかもしれないが、長門の口から聞くと、何か違うような気がする。いや、実際に違うのだろう。

 
「…それと」
「うん?」
「家に籠り続けず、少し外の空気を吸うと気が紛れる」
だからわざわざ来たのか。
 
その後、長門を家に入れて一緒に夕飯を食べた。

 
「わあ!有希ちゃんだー!」
「…お邪魔してます」
「有希ちゃん、そんなにかしこまらなくても、自分の家だと思っていいのよ?
ご飯おかわりする?」

 
母親も妹も長門を気に入っており、俺に向けるより多くの激励を送っていた。


家まで送るか?と聞くと、「風邪…引いちゃうから」と断られた。
長門を見送りに玄関先まで出ると、
「…緊張していたのは私も同じ。ありがとう」
と、俺の頬にキスをしてから長門はテクテクと帰っていった。

 
受験が終わる頃には俺と長門が付き合い始めて一周年の記念日を迎える。
驚くほどの速さで人間らしくなっている長門に何かプレゼントしようと考えながら、俺は眠りについた。

 
 

 


|