私は生徒会の秘書をしています、喜緑です。
最近は特に騒がしい事もなく、のんびりと未来人・朝比奈みくるお茶を飲んだりしています。
同じ高3なので廊下ですれ違ったりしているうちに、まぁ、お茶友達になったんです。
あまり人間の味覚というのは分かりませんが、確かに一般的なお茶よりも何というか・・・。
そうですねぇ・・・。言語化するのは難しいですが、心が落ち着きますね。
あ、普段の私は案外普通なんですよ?
最近は会長の為にワカメ料理を練習しています。情報操作で美味しくなんてしませんよ。
何事も実力です。私のエラーを込めて作ります。・・・エラーの言語化が難しいですよね。
いつの間にかにエラーが発生して、それが段々と大きくなっていくんです。主に会長と居る時なんですけど。
不思議な事に、これが悪い気はしないんです。むしろ何だか心地が良いエラーなんです。
さて、そんなある日なのですが、生徒会室に大きな荷物が届きました。
この物語は何であろう北高の生徒会室に大きな荷物が届いたことから始まります――。
 
 
The Legend of Wakame ~わかめのたたかい~
 
 
―――カパッ。
「おでんですね」
「おでんだな」
一緒に荷物の中を覗き込んで私と会長は意見を同じく、それに対する感想を言いました。
そう。何であろう、それはおでんでした。・・・こんな大きな荷物にこんな大きなおでん・・・。
一体、誰の仕業でしょうか?
なんだか、”拝啓、生徒会長様と秘書様へ”という時点でいろいろ怪しい気がします。
えぇ、これのどこか怪しくないでしょうか。怪しいを超越して恐怖ですね。
私は生徒会長の秘書として、これを駆除します。安全を守るのが私の仕事です。
「さて、食べるか」
「そうでs・・・って駄目ですよ! 何がどうなってるのかも解らないおでんですよ? 安全面に欠けます」
私はそう言うと少し不機嫌そうに眼鏡越しに私をじろりと睨んできました。
睨みたいのはこっちですよ。何でそう躊躇いもせずに手を付けようとしますか、貴方は。
・・・何ですか、その顔は・・・。まるで子供のようじゃありませんか。
「馬鹿者。このおでんが危険かどうかは俺が判断する。お前のような婦女子に何かあったら世間に顔を見せれないだろ」
あぁ、もう。機関は何で外部協力者をここに置いたのですか。
機関内部関係者なら私はインターフェースだという事も解るでしょう。
ですが、外部協力者となるとそれも知る事ができず、何も知らないままのお手伝いです。
そのせいで幾多の危険が迫ってくるかも解らないのに・・・。機関というのは自分さえ無事ならそれで良いのでしょうか。
私にはそれが不満です。会長の身に何かあったら私は不安で不安でなりません。
あ・・・またエラーですね。最近よく起きるのですが・・・なんでしょうか。
解りませんけど、長門さんにも似たようなエラーが確認されていますがきちんと任務はこなしてますし、問題はないでしょう。
・・・多分。
言い切れないのが私にとっても歯痒いところですね。未来を知る事が出来るのは未来人だけですから。
ふと見ると会長はおでんセットを取り出して早速おでんを作っていました。
何という手際の良さ・・・。もしかしたらおでん屋の息子か何かでしょうか。
・・・それは無いですよね。だって見た目に不似合いですし。もうそうだったら・・・ふふっ。面白いかもしれません。
「・・・ん。これは旨いな。喜緑も食べたらどうだ?」
ふと会長がそう言いながら牛すじを私に差し出してきました。
「いえ、私は遠慮します」
私は不似合いな程、おでんをテンポ良く頬張る会長を見て少し微笑ましくて、それを拒否しました。
今思えば、これが駄目だったんですね。どうして止めなかったのでしょうか。
・・・ただ一つ、私が食べなかったのはせめてもの救いでしょうか。
 
その日から、会長は可笑しくなりました。
なんと朝、昼、晩ですよ? なんとおでんしか食べなくなり、なんとおでん以外を拒否するようになったのです。なんとなんとです。
 
やがてあれだけ愛してやまなかったてりやきマックバーガーすらも食べなくなり、完全におでん一色に染まっていました。
これは何かある。流石に気付きましたが、あまりに遅すぎたのです。
 
そして、事件は起こりました。
 
「古泉さん、どういう事ですか!?」
「お、落ち着いて下さい、ワk、じゃなくて喜緑さん・・・」
それを聞いた時、私は思わず叫んでしまっていました。
会長が、あの会長が、キョンさんを殺害しようとした。そんな事聞かされて冷静で居られるでしょうか。
有り得ないです。そこに利益なんてあるわけがないのに。
それ相応の支払い無しには動かない男ですよ。そんな事をする訳が無いです。
「すいません、取り乱してしまいまして。・・・説明をお願いします」
「そう言われてもその場に居合わせておらず、解らないのです。ただ、彼は会長が会長じゃないみたいだと言っていまして・・・」
「え?」
「なんか・・・『おでん』がどうのこうのと・・・」
それを聞いた途端に、推測が出来ました。そして、それは刹那のうちに確信に変わりました。
あのおでん。あれに何かがあったに違いない、と。
私は食べなくて良かったと思いましたが、同時に咎めなかった自分を思いっきり責めました。
「我々機関は、この事件は彼の独断ではなく何者かの陰謀が絡んでいると考えています」
古泉さんは笑顔を作ることなく、真顔でそう言ってきました。
言いたい事は解ります。私もそれを望まずには居られないのですから。
「だから、調査に協力しろと言うのでしょう? もちろんです」
「すいません、助かります」
その時、目の前の青年はほっとしたように初めて笑顔を浮かべました。
「では、何か解ればこちらの連絡先までお願いします」
・・・Yahoo!メール・・・。機関って案外簡単なメールを使っているのですね・・・。
よりによって無料メールアドレスとは・・・。
「あぁ、それは今回の為に作ったアドレスです。会社の方は機関が押さえていますし情報の漏洩はしないようになっています」
それにしても少し雑では無いでしょうか。この人たちは会長を何だと思っているのでしょうか。怒鳴ってやりましょうか。
「解りました」
しかし怒るわけにはいけません。だって私が怒鳴って、それが何になるのでしょうか。
「では僕はこれで失礼します」
古泉さんは丁寧にお辞儀をして生徒会室を出て行きました。
「あのおでん・・・あれさえ手に入ればどうにかなるのですが・・・」
確かあれは会長がご自宅に持って帰った筈ですが、恐らく機関の方々がもう既に中に居るでしょうし・・・。
んー・・・手伝うとは言いましたがなるべくなら機関の協力は無しに捜査をしたいですね・・・。
彼らは信用出来ません。会長を見つけて何をするか解ったものじゃないですから。
もうエラーだろうが何だろうが関係ないです。会長を守るのは私です。
会長は今の私にとって全て。そう、無くすわけにはいかない存在なんです。
だって私は、会長をエラーしてますますから・・・永遠に。
誰かと居たら携帯落とした後に頭から落っこちて地面激突直前に目を合わせちゃうんですから。
・・・本当にこのエラーの言語化はどうしたら・・・。まぁ、良いです。
「よし、頑張りましょう」
生徒会室に僅かでも痕跡が残っていれば・・・そこから解る事があれば・・・・・。
とりあえずキョロキョロと見てましょう。きょろきょろ、と・・・。
「・・・あ」
会長が使っていたコップ・・・。確かおでんのだし汁の飲んでましたっけ。
これから何か解るでしょうか。でも、調べる為にはこれを口に付ける必要が・・・。
エラーが・・・何でしょう、このエラー・・・何か、駄目な事のような、でもしたくなるような・・・躊躇ってしまうこのエラーは・・・・・。
「躊躇う必要はないです、私・・・これも、会長の為です・・・」
私はそっと会長の使っていたコップの飲み口を口に添えた。
その瞬間頬の温度が上がったのを感知した。でもそんなの関係ねぇーです。
情報プロテクト作動。詮索モード起動。
詮索・・・開始!
DNA―――異常なし。薬品―――異常なし。その他情報―――異常あり。
解析モードに入ります。・・・・・・・・・・・・・。解析完了。念の為にワクチンを生成します・・・完了。
「・・・不思議な情報ですね・・・」
しかしこれで正体がはっきりしました。あのおでんの正体が。
「おでん中毒にさせる情報、ですか・・・」
しかしそこまでしか解らない。
誰が、何の為に。そこまで調べないとどうしようもないですよね・・・。犯人捕まえれないですし。
この微量の唾液からはこれぐらいしか解りませんか・・・。せめて誰が構成した情報か解るぐらいあれば良いのですが・・・。
しかし、ワクチンは生成出来ました。これを会長に注入さえ出来れば良い。
・・・しかし、この情報を作れるのは現代人には無理ですし、未来人にも無理でしょうし・・・。
人間には絶対無理でしょうね・・・。と、なると同類ですか。しかし、一体誰が・・・。長門さんな訳が無いですし・・・。
ふとそんな風に物思いに老けていると誰かが生徒会室のドアを開けました。
「・・・・・っ!」
「・・・・・・・・・」
思わず息を呑んだ私を見つめるその姿は、
「・・・会長」
間違いなく会長でした。いつも通りの、見た目は何らおかしくない。
ですが―――逆にそれがおかしい会長が。
その手には銃。・・・ただの銃じゃないですね。あれは、情報の塊ですね・・・。
「喜緑くん・・・大変勝手だが、これに撃たれてくれ。そうじゃないとおでんが食べれないんだ」
そう言う瞳には生気を感じられない。これは大変ですね。
「目を覚まして下さい会長!」
シリアスな場面ですが、会長のおでんが食べれない宣言のせいで台無しです。ですが笑えません。
私は会長の許へ行こうと思いましたが、引き金を引かれてしまった為近寄れません。
あれを避けながら近寄るにはそれなりのスピードが必要になりますが、下手すれば生徒会室を壊しかねませんからね。
もちろん、会長も。会長を壊すのだけは、やめておきたいですからね・・・。それに、
「ふふっ、無駄よ。喜緑さん」
そんな声が会長の後ろから聞こえましたし。
「・・・貴女は・・・」
「久しぶりね」
「朝倉、涼子・・・・・」
長門さんによって情報連結を解除された筈なのに・・・どうしてここに。
疑問が頭を支配しようとしますが、混乱しては会長の持っている”アレ”に撃たれた際に回避行動が取れなくなります。
今は、何も考えず目の前の事態のみを見なくてはいけませんね。
「どう? 私の手作りおでんに発狂してる会長さんは?」
「貴女が黒幕ですか・・・悪趣味ですね、朝倉さん」
「それは良い褒め言葉ね」
「こんな戯言を酌み交わしてる場合じゃないですね・・・会長を元に戻して貰いますよ」
「お断りよ。この人、結構使えるのよ。彼を殺し損ねはしたけどね。作戦に使うにはもってこいだったわ」
「おでん中毒にして、おでん無しでは生きられない状況にして会長を操る・・・何故におでんかは解りませんが、良い作戦ですね」
「でしょう?」
私は自身の能力の操作を朝倉さんにばれないようにそっと行った。そして、
「言っておきますが、褒め言葉ではないですよ?」
朝倉涼子に向かって攻撃用の情報因子を高速で投げ飛ばした。しかし、さっとそれを避けられる。
流石に簡単には当たってはくれませんか。ですが、今ので会長を別空間に隔離する時間が出来ました。
もともとそれが狙いでしたし、0,1秒でもあれば、それぐらいは出来ますからね。
「早い仕事ね。そして、情報制御空間に作り変えられない入念なプロテクト。流石だわ」
「穏健派を苦手と思っている急進派がいつ来ても良いようにと。これぐらいは当然です」
もちろん、いつでも生徒会室を学校から切り離して別空間に飛ばすようにも出来てます。
だからこそ今私はこうして朝倉さんと対峙していられるのですから。
もう既に切り離してます。この部屋から出れば私の作ったリラックマだらけの空間です。
「苦手? 冗談。私たちは苦手というよりも大嫌いと思ってるわよ?」
「そうですか。それは残念ですね」
会長が居ない今、恐れる物は無いですね。
「朝倉涼子を敵を認識します。情報連結解除を申請します」
「喜緑江美里を任務阻害する因子と認識。情報連結解除申請するわ」
どっちが先に承認されるか、ですね・・・勝負は。
「負けないですよ」
「こちらこそ」
あとは、それまで肉弾戦です。武器の構成開始。完了。
構成したそれを右手で持って一気に間合いを詰めて振り下ろす。
「あら、格好良い槍ね」
それを受け止めて朝倉さんが感想を漏らす。
「グングニルというらしいですよ。何でも神話の世界の武器をモデルに作成しました」
「貴女が打撃なら私は魔法かしら」
ぼう、と浮かぶ光。それは円の中に幾何学的な模様を構成している。
危険。私はすぐ様その場から離れました。それとほぼ同時にその場を強烈な爆発が発生しました。
若干、情報空間に皹が入りましたか。すぐ修復するので大丈夫ですが、恐ろしい威力ですね・・・。
「今のはフレアという魔法らしいわよ。攻撃情報を練り上げて使用するまでに手間が掛かるけど、当たれば木っ端微塵よ」
「恐ろしい威力ですね」
「でしょう?」
朝倉さんが笑んで言う。そして言うや否やさらに笑みを深める。
「さて、私の勝ちよ」
「はっ・・・!」
私は自分の情報が分割されていくのを感じた。足元から消えていく私。
「情報連結解除は私の方が早かったわね」
「そうでもないですよ。情報連結、解除」
 
―――さらさら・・・。
 
朝倉さんが足元から光の粒になっていく。
「あら? 引き分けかしら」
「・・・言ったでしょう? 『そうでもないですよ』、って。あれ、『私の勝ちよ』っていう言葉に対しての言葉です」
私は手に持った槍を思いっきり投げました。それを見てターゲットはただ微笑みを浮かべる。
「無駄なの」
朝倉さんはそう言ってそれを避けました。
 
ブシュッ・・・ベチャッ。
 
しかし、それは深々と貫通した。朝倉さんの体に穴を開けて。
「あ・・・れ? 避けられない・・・」
「グングニルというのは投げたら必ず当たる槍です。貴女の魔法以上に情報を編んで作り上げていくのは手間が掛かりますよ」
私は朝倉涼子を見ながら戻ってきた槍をキャッチしました。
「この槍の情報はずっと前から構成していました。神話どおりになるように。そしてずっと前には完成していました」
「つまり、私の突拍子のない攻撃情報構成なんかよりずっと形がなってるってことね」
「そうですね。前もって完成させておけば情報を構成するのは簡単ですから」
「あはは・・・長門さんにも負けて、貴女にも・・・駄目ね」
「よくやりましたよ。情報連結の解除は貴女の方が若干早かったですしね。ですが、ここは私の情報空間です」
「ふふっ・・・情報連結を止めるキャンセラー、か。全然良いところ無しであっという間に負けちゃったわね」
消えた足元が構成されていく私を見て朝倉さんは本当に悔しそうに苦笑を浮かべました。
「私は貴女に同情しますよ」
「同情、ね・・・ありがたく戴くわ。ところで・・・これ、何で出来た槍?」
「わかめで作りました」
「わかめで・・・? なるほど、だからこんなにヌルヌルしてるのね」
「会長へいつかワカメ料理を作ろうと思いまして、ワカメが大量に余ってたものですから、適当に料理してみました」
ヌルヌルの成分はかの有名なフコイダンなんで体には良いと思います。
「怖い料理ね。ふふっ・・・じゃあね」
「えぇ、さようなら」
そして、朝倉涼子は再び消えた。相も変わらずよく笑う人でしたね。
「・・・あとは会長ですか・・・」
会長に情報因子を口径投与させなきゃいけないんですけど・・・。
おでんしか口に入れたくないという状態でどうやってやりましょうか。
無理矢理? ・・・それはあくまでも最終手段としたいですね・・・。
「・・・・・料理はエラー。エラーさえあればエラーイズオーケーです」
私は決めた。
得意なワカメ料理に情報因子を混ぜて救助することに。
・・・あれ? だけどワカメ料理ってなんでしょうか。んー・・・言いだしっぺがこれでは・・・・・。
プルルルル・・・ガチャッ
「あ、もしもし、九曜さん? 貴女、昆布料理得意でしたよね。あの、何か良いワカメ料理ってありませんか?」
九曜さん。私の強敵と書いて友と読むお方です。
今でも忘れません。ワカメカンフーと昆布カンフーを死闘を。
『―――ワカメ料理・・・・・―――ワカメ料理は・・・・・解らない・・・・ただ―――そんな時こそgoogle先生・・・・・』
「あぁ、成るほど。ありがとうございました」
『いえいえ―――また困った事あったら・・・・電話・・・・良いからね――――えみりん』
「九曜さんもね。じゃあ、また」
ガチャッ。
「しかし・・・パソコンが無いですね」
あぁ、何て事だ江美里よ。こんなところで死ぬとは情けない・・・じゃなくて、まだ死んでません!
しかしどうしたら・・・あぁ、解りません。どうしたら良いのでしょうか・・・・・。
構成の申請しますかね。ただ私の親って何かしら和風に拘るんですよね・・・。
パソコンという外国で作られたカタカナ語の製品なんて構成せんから!とか言われそうですね・・・。
むぅ・・・。・・・・・・・・・。・・・あ、そうだ。長門さんの部屋にならあるかも。
 
コンコン
 
「・・・喜緑江美里・・・。何の用?」
「パソコン貸して下さい、早急に!」
「・・・良いけど、ちょっと待ってて」
「え?」
「今、DVDを見ていた。とにかく待ってて」
長門さんはそう無表情に言います。いえ、訴えていますね。そうだと思って欲しいと。
長門さんはトトト、と部屋の中へと小走りで入っていきました。
何でしょうか。この寒気は。長門さんというよりも部屋の奥から感じるオーラ。
それを証明せんと言わんばかりに、
 
『大胆無敵♪ 萌えロボブラボー♪ エプロン取っちゃいけませ―――』
 
変な音楽が聞こえてきたと思ったら止まった。なんだったんですか、今の。
そんな私の心なんて無関係と言わんばかりにトトト、と長門さんが玄関へ少し小走りでやってきました。
「さぁ、入って」
部屋に入った私は何もないように見える部屋にゾクッとした。
何ですか、この異様な程の謎の残留思念。あぁ、幻が見えそうです。
江原さんなら喜んでこの部屋に残っているものの解説するのではないでしょうか。
・・・いえ、あの方もきっとここには来たがらないでしょう。仕事とは言え、絶対寄りたくないと言うでしょう。
早く用件を済ませてここから脱出しなくてはなりませんね。頭がおかしくなる、もとい狂う前に。
「google検索・・・ワカメ料理と・・・・・」
煮物・・・酢の物・・・味噌汁・・・サバ・・・ワカメプレイ・・・スープ・・・サラダ・・・。
一瞬何か変な物が出ましたが気にしないでおきましょう。
お、ワカメカレーなんてあるんですか。しかもあの中村屋が出してるときたらこれはいけるのではないでしょうか。
それになんだか面白そうですし、会長を実験台にしましょう。そうしましょう。
ここまで心配させたんですから罰があって当然です。これぐらいで済ませてあげるのですから軽い方ですよね。
とりあえず会長へ作る料理はワカメカレーに決定しましょう。
長門さんがワカメプレイハァハァと言ってますが無視しましょう。いえ、無視させてください。
「じゃあ、ありがとうございました、長門さん」
「困ったらいつでも来て。ワカメ持って・・・ワカメ・・・ハァハァ」
決めました。絶対来ないです。
後々に解った事ですが、携帯からでもgoogleは使えるんですね。
 
「さて・・・ワカメカレーですか・・・・・」
 
あの後、カレーのスパイスと食材を近くのイトーヨーカドーで買っておきました。
もちろん長門さんみたいに固形ルーなんて使いませんよ? 一から作らなければエラーが篭りませんから。
彼女もカレー狂いを自負するなら手作りで作らなきゃ駄目ですよね。私はカレー狂ではないですけど。
そうです。エラーいっぱい込めて作らなければ意味が無いのです。
あぁ、エラーの言語化をするには丁度いい言葉は無いでしょうか。
『愛のエプロン このあとすぐ』
ふとテレビにそのテロップが出たのが見えた。すると心の中にあった何かがすっと氷解しました。
「え・・・?」
それに私は戸惑いました。どうして? 考えていると、私は”愛”という字に反応してるのだと気付いた。
あぁ・・・そうですか。なるほど。
そう考えれば納得できます。私も人間に近づけたんですね。
このエラーはきっと”愛”。私にも感情があったのは嬉しいです・・・。
はっ! っていう事は長門さんのエラーは・・・あぁ、マズいですねぇ。
どうしましょうか。主流派さんに密告しましょうか。・・・いえ、やめておきましょう。
人の恋路は邪魔したらいけないって少女漫画で誰かが言ってましたから。
「愛をいっぱい、いっぱい込めて作りますよ、会長」
私はとりあえずワカメカレー第一号の製作に取り組む事にした。
鍋はもちろん圧力鍋。
具は普通サイズではぐつぐつ煮込んでいる間に小さくなってしまうので大きめに切っておきます。
ジャガイモは切ったら水につけてあく抜きをしなければカレーが不味くなります。更に酸化防止にもなります。
肉は最高級の松坂牛を使用します。情報操作で安く仕入れたので家計には響きません。私の特権です。
そして炒めるのですが、ちゃんと順番があります。
タマネギ⇒人参⇒肉⇒ジャガイモにするとジャガイモが荷崩れするリスクが減ります。
炒めすぎると柔らかくなりますからね。これが料理の面白い話ですよね。
そしたらこれらの具を一回お湯で煮込みます。乾燥ワカメをここで投下。蓋? もちろんしますよ。
圧力鍋にすると早く煮込めてかつ、具が柔らかいんです。圧力鍋の力は凄まじいですよ。
そういえば私も一回インターフェース同士でふざけてでっかい圧力鍋に放り込んで煮込んだ事がありましたが・・・。
・・・いえ、もう言いです。忘れましょう。あれは思い出したらいけない事件簿なんです。
「さてと・・・」
時間が経過したら蓋を開けてそこにスパイスとか入れていきます。面倒くさい場合は固形ルーですね。
隠し味にはホールドトマト、牛乳、細かく切った餅、ココアもしくはコーヒーの粉。
ホールドトマトの甘み、牛乳が産むまろやかさ、餅とココアorコーヒーはコクを引き出します。
もちろん味見をしながら調整しましょう。
「・・・・・・・」
味見。うん、味見は大切ですよ? ですが・・・これは何でしょうか。
ワカメが・・・物凄く強いですね。数十種類のカレーのスパイスに完全勝利ですね。
何というか。取り返しの付かない料理を作ってしまった気がします。
味の調整というか、風味をどうにか出来ない物でしょうか。
ん~・・・情報操作じゃ愛が半減してしまいそうですし・・・生姜入れてみましょうか。
・・・・・・・・・あ! これは。
「駄目ですね」
何かやっても何かやってもワカメが倒せないですよ。
これを考慮して乾燥にしてもワカメがお湯に溶け込んでいく。
他にも色々試してみましたけど、ワカメ相手じゃ意味が無いですね。
だから次は絶対おいしくするために私は電話をかけましょう。
あぁ、ワカメがエアーマンみたいに見えてきました。
『―――もしもし』
「あ、九曜さん? 昆布料理でカレー作ったことあります?」
『―――ある・・・・・・・・五島軒という―――店・・・昆布カレー・・・・・作っていたから―――』
「えっと、風味を消す方法って何かあります? ワカメカレーに応用したいんですけど」
『それは―――』
その後、九曜さんがその詳細を説明して下さいまして、私はその通りにしました。
あら、びっくり。本当に風味が消えました。これは良いですね。
「いつかお礼に彼女が大好きな昆布を送りましょう」
私は早速それに情報ワクチンを入れて別空間にいる会長をここへと自分の部屋へと転送しました。
「会長」
「喜緑くん・・・おでんを・・・おでんをくらしゃい・・・・・!!」
会長はまるで地を這う羽をもがれた蝶のようにヘナヘナと歩み寄ってきました。
なんかしばらく見ない間に痩せましたね。
「良いでしょう。ですが、条件があります。このカレーを残さず食べて下さい」
「らめぇぇぇええ! おでんがぁぁあ、おでんが食べたいのぉぉおおおぉおお!!」
う~ん・・・困りました。正直、こう言えば食べると思っていたのですが・・・。
これでは無理矢理押し込むのも難しそうです・・・。
仕方ないですね。
「会長、失礼します」
私は自分の頬が温かくなるのを感じながら、カレーを口に頬張りました。
そしてそのまま会長の唇に自分の唇を重ね、
「んんんんんん!!」
苦しむ会長の口の中へと口移しをして無理矢理飲み込ませました。
「あぁああぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁ!! あ・・・?」
しばらくずっと叫んでいた会長でしたがふと我に帰ったようにその叫び声を止めました。
「・・・俺は、何をしていた?」
「・・・良かった、会長・・・元に戻ったんですね」
「喜緑くん? ここはどこなんだ?」
「ここは、私の部屋ですよ。会長は私のカレーを食べていたんです」
会長はその説明に納得出来ないという顔をしていましたが、
「そうか・・・このカレーだよな?」
「はい」
会長は一口パクッとカレーを食べると、
「・・・美味いな」
と一言声を漏らしました。
「ありがとうございます」
自然と私は頬を緩ませていました。だって嬉しいですからね。
 
あれから機関に事件の解決を知らせて、何事もないように日常が戻りました。
私がした一連の事件に関しての報告を聞いて議論の末に処分無しが決定したそうです。
「喜緑くん、これ印刷してくれ」
「はい」
私と会長はおでん騒動のせいで数日溜まっていた生徒会の職務に追われてます。
なんで俺は数日間も仕事を放っておいたんだ?とは会長の言葉です。
一日中放課後になれば生徒会室でひたすら仕事をこなす以外やれる事が無いというくらいに忙しい連日。
「あ、そうだ・・・喜緑くん」
「はい」
私を呼ぶ会長の声。それに応答していつも通り笑顔と共に振り返ります。
会長は何やら気難しそうな顔を浮かべていました。どこか恥ずかしそうな、不似合いな表情。
何事かと身構えていると、
「どういう経緯でカレーを食べるようになったかは未だに思い出せないのだが・・・また作ってくれないか? 実に気に入ったのだ」
と、恥ずかしそうに言いました。その言葉に私はしばらくきょとんとし、すぐにその意味を理解して嬉しくなりました。
「ふふっ・・・良いですよ」
貴方の為ならいくらでも作ります。
エラーしているもとい、愛している会長の為なら。
 
 
 
―――あ、口移しの事は秘密ですよ?
 
 
Fin,

 


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