「あれは突然のことだったのさ……」
 朝比奈さんが鶴屋さんの隣に腰掛けるのを見た俺は、適当な場所に座る。
「違和感を覚え始めたのは昼休みくらいからだったんだっ。どうも頭らへんがもぞもぞするっていうか。今までに味わったことない感覚が襲ってきてね。あまりに気になったからさ、鏡を見に行ったんさ。」
 俺は聞き耳を立てる。やはり鶴屋さんの声には芯が通っていない。
「でもね、その時は何の変化も無かったのさ。気のせいってことにしてずっと帰りのホームルームまでそうしていたんだけど、やっぱり気になって。掃除当番だったんだけど、掃除が終わってからまた鏡を見てみたら……こういうことになってんさ。」
 ……なるほど。全く原因が解からん。
「円形脱毛症とか……病気なんですかねぇ? キョンくん。」
 できれば俺に問わないでいただけると助かるんですが、ここはそうも言ってられない。何といっても朝比奈さんの大親友、鶴屋さんの一大事だ。
「ストレスが溜まっていたんですか?」
「いいや、そんなことは無いと思うけど。いつも通りにしてたよ。」
「うーむ……」
 とりあえず顎に手を当てて考えてみる。こりゃきっと何かが絡んでるな。宇宙的、未来的、超能力者的な何かの力が関わっていると見て間違いなさそうだ。
「俺なんかが力になれるかどうか解かりませんが、色々と調べてきますよ。」
「頼むよ、キョンくん。前髪が戻って来るとかそういうのは望んでないんさ……ただ、原因が知りたくてね。」
 できる限りを尽くします。必ず。
 
 その後俺は朝比奈さんと共に文芸部室へ帰還した。
「おや、あなたがたのペアとは珍しいですね。」
「悪いか?」
「いいえ、まったく。」
 戻って来た部室にニヤケ面の顔はあったが、ハルヒの顔は無かった。
「ハルヒはまだなのか? てっきりもう来てると思っていたんだが。」
「どうやらそのようです。」
「まあいい。むしろ好都合だ。ちょっと話があるんだが、いいか?」
 俺はパイプ椅子に腰掛ける。
「なんでしょう?」
「鶴屋さんの前髪についてなんだが……」
 
 ――ぽとん。
 
 唐突に古泉の後方から、物が床に落下したような音が俺の耳に届き、古泉と俺が音のした方向へ首を動かす。
「……あ……」
 信じられない光景が広がっていた。見ると、長門が手をすべらせて本を落としているようだった。
「…………」
 長門は無言でそれを取り直し、また読書に戻る。数秒の沈黙のあと、古泉が口を開いた。
「……それで、話とは?」
「あ、ああ、実はだな――」
 
 
「――ってことなんだ。何か知ってるか?」
「前髪が無くなるなんて……まず普通ではありえませんね。」
「だろ? また誰かの仕業なのか?」
「僕にはまだ解かりかねますよ。」
 やはり解からないか……。
「そういえばハルヒのやつ、本当に遅いな。どっかで道草食ってんのか?」
 
 ――ぽとん。
 
 まただ。二度も説明する必要はないだろう。
「どうしたんだ長門? 今日のお前、おかしいぞ?」
「……ごめんなさい。」
 謝られると何か自分が悪いことをしたような衝動に駆られちまう。
「いや別に、何も謝らなくても……」
「ごめんなさい……わたしは……」
 俺はすぐに気付いた。長門がおかしい。
「ど、どうしたんだよ、長門。」
「……その前髪の件は、わたしがやったこと……」
「な、なんだって!?」
「………………。」
 そのまま長門は黙り込んでしまった。しかし、ここぞとばかりに古泉が近寄る。
「教えてくれませんか? 詳しい事情を。」
「……わかった。」
 そう言うと長門は、きちんと背筋を真っ直ぐに伸ばし、いつもの淡々とした声で語り始めた。
 
 
 第二章に続く
 
 


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