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 古泉の暴走騒動の一件が終わり、ようやくまた平穏な日々が始まろうとしていた。
 思い返してみれば色々酷いことがあったな。古泉が暴走したり、古泉が暴走したり、古泉が暴走したり……今思い起こすだけでも寒気がしてきやがった。
 だがもう心配することはない。またしばらくは朝比奈さんの甘露茶をすすりながら、古泉との遊戯を愉しみながら、長門の読書姿を視界の端に捉えておきながら、そしてハルヒの笑顔を見ていながら……俺にとって最高に楽しい日々が送れる。
 そう、俺は部室の椅子に座りながら、悠長にそんなことを考えていたのである。今から過去に遡ってこの時の俺をぶん殴って目を覚まさせてやりたいね。そして忠告しておきたい。
 『まだドでかい事件が後に控えてるから今から心して待っとけ』ってね。
 
 
 ――涼宮ハルヒの情報連結解除――
 
 
 ◆◆◆◆◆
 
 ”それ”は、いきなりやってきた。少しは前触れってもんを用意してくれたら助かったんだが、そんな要望誰に言えばいいのかと俺は脳内で答えの見つからない旅に出て、すぐやめた。
 総計数百回は捻っているであろう文芸部室の扉のドアノブを俺は握りしめ、呼吸よりも自然な動きでノックをし、返答をないことを確認してから扉を開けた。
 部室の一角に縄張りを張り、今日も読書に耽っている長門の姿を確認できた。なんだか意味もなく安堵する。
「よう」
 長門はこちらを向いて瞬きをひとつ。それをし終えたと思うとまた視線を膝元へ落とす。
 なんだ、瞬きが挨拶のつもりか? もう少し愛嬌のある挨拶が見たいものだな。
 俺が長門に挨拶の仕方を伝授してやろうかと無駄に迷っていると、扉が音をたてて勢いよく開いた。
「た、たた大変ですぅ!」
 即座に振り向いて俺は驚いた。朝比奈さんの細い腕でこんなにも強く扉を開け放すことができたのかと。
「鶴屋さんが……鶴屋さんがぁっ……!」
「鶴屋さんが、どうかしたんですか!?」
 尋常なまでの焦り方に俺まで焦る。
「え、ええと、とりあえず来てくだしゃあいっ!」
 朝比奈さんはそう言うと三年校舎の方へ駆けた。反射的に俺は揺れる栗色の髪と小柄な身体の持ち主を追う。
 
 
「キョ、キョキョンくん、こっちです!」
 息が荒い朝比奈さんの入っていった先は、彼女のクラスの教室だ。
 ほぼ無人の放課後の三年生教室に入ると、中に居たのは――俺をカウントしないで――二人だけだった。
 一人はここから文芸部室までの距離を全力疾走で往復したことが一目で解かるような呼吸のしかたをしている朝比奈さんと、どうも様子がおかしい鶴屋さんだ。
「……どうかしましたか?」
 異様な光景だ。この方は本当に鶴屋さんであるか疑ってしまうほど、今の鶴屋さんは元気がない。いつもの覇気がない。
「キョンくん、気づかないんですか?」
 鶴屋さんが俯いていた顔をあげる。その瞬間に、俺はまた違和感を覚えた。……やはりいつもの彼女じゃない。
「……ええと……」
 俺がいつもの彼女との相違点を探している間に、鶴屋さんは閉じていた口をやっと開いた。
「見てよ……この前髪をさっ……」
「前髪が……ないでしょう?」
 二人からの助言で俺は気付く。そうだ、前髪がない。って、いつもそうじゃないか――と一瞬自分でツッコミを入れたが、そうじゃない。いつもより前髪がないのだ。
 まるでそこら一帯の髪をカミソリでざっと取ってしまったかのように、彼女の前髪は”いつもより少ない”のだ。解かっていただけただろうか?
「どうしたんです? それ……」
 恐る恐る訊いてみる。こんなに落ち込むのも無理はないだろう。女子高生の前髪がなくなるなんて、ショックを受けて当然と言える。
 鶴屋さんは息をすうっと整えてから、語り始めた。
「あれは突然のことだったのさ……」
 
 
 第一章に続く
 
 

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