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「きょ、キョンくん!」
「何だ、妹よ。やけに緊張しているようだが」
始まりは俺が高校生に上がって二年目のある日。
あの妹も今じゃ小学六年生だとよ。それにしてはまだ見た目も言動も子供っぽいが。
変わらないのは良いのか悪いのか、と考えていたのだが、まさか、
「わたしね、キョンくんのこと、一人の男の子として愛してる!」
等と言われるとは思わなかった。いや、普通は言われないだろう。
だってそうだろう?
相手は実の妹なんだぞ。夢でも見てるのか? しかも小学六年生だ。
夢だとしたらフロイト先生も大笑いだ。夢占いなんかした暁には俺は気違い判定だ。
しかしこれは現実で確かに目の前に真面目に存在する。だから困っているといえば、まぁ、そうだ。
「妹よ、落ち着け。13歳未満の奴との行為は同意の上でも強姦罪だ」
ちょっと待て俺。あくまで好きと言われただけでそれ以上に関してはノータッチのはずだ。
落ち着け。KooLになるんだ、俺! 先走るな、純情ボーイ!
「なら13歳になったらわたしを貰ってくれる?」
やっぱり駄目か。まぁ、確かにそうなるわな。すげぇ目がキラキラしてらぁ…。
考え方の甘さは認める。頷くのは小学生までか。…いや、小学生にすらダメだったわけだが。
なら、切り札だ。
「それ以前に兄妹だ、俺たちは」
やっぱりこれが一番言い聞かせるに最適な言葉はあるまい。
小学生にだって解ってるだろ。兄と妹との恋愛沙汰は禁忌だってことぐらいは。
「…キョンくんはわたしが嫌いなの?」
そう来たか! くそ、言葉を返し難い…。と、とりあえず誤魔化そう。
兄妹としては好きだが女性として見るとなると、年下過ぎるし何より妹だ。
「まず何があったか説明しろ。興味を持つ年頃とは言え兄に対して―――」
「何も無いよ。本当にキョンくんが好き。それだけだよ」
改めて妹はそう言った。
きっとした顔。ただ真っ直ぐに見つめる目。…こんな真面目な顔の妹を初めて見たよ、お兄ちゃんは。
しかし驚きだ。まさかこんな告白を妹から受ける日が来ようとはな。
だが待てよ?
もしかしてハルヒの陰謀なんじゃないだろうか? つまりドッキリ。
有り得る。あいつのような非常識我が儘暴走馬鹿女ならこういう笑えない話もやりかねない。
まぁ、確立は高い。が、もしも…もしもだがこれが本当のそれだったらどうする?
その場合に俺はなんて答えれば良い? どうやって応えれば良い? 引き返せないぞ。
聞けない。間違ってでも聞けない。そんな事は。
「ん…キョンくんはやっぱりハルにゃんが好きなの?」
「絶対にない。絶対に有り得ない。有ってたまるか」
これに関しては即刻否定。うん、と頷いて妹を退かせる手段もあっただろう。
だがあんな奴と付き合うなら死ぬ方がまだマシだな。あぁ、嘘でも嫌だ。
俺はあくまでも朝比奈さんのように愛嬌のある人が好きなんだ。
「じゃあ、どうして駄目なの?」
今なら恋というものの恐怖が俺にも解る。
確かに恋愛は精神病だ。そうに違いない。佐々木もそう言うだろうよ。
その病気に俺の大切な家族が掛かっているのだ。治療せねば。妹を説得せねば。
「あのな。俺達は―――」
「兄妹、だから? ただそれだけ? ねぇ…」
「そうだ。兄妹だから俺たちは…」
 
「…ふざけないでッ!」
 
叫び声が響いて、すぐ横を何かが通った。そして、ガシャンッ、と後ろから音がした。
妹が投げた何かが後ろにある何かを壊したのだろう。
「っ!」
ただの叫びなのに凄まじい重みが掛かった。何でこんなに威圧感を感じるんだ?
目の前に居る妹が妹じゃないみたいに見える。まるで別人だ。
お前は俺の妹だろ? 間違いない。俺の知ってる妹に違いない。
でも、それなら、なんでそんな形相が出来るんだよ…!!
「兄妹同士の恋愛ってそんなにダメ? だったら何でキョンくんはわたしのお兄ちゃんなの!?」
「………………」
妹は涙と共に激昂した。
その勢いと、頭の混乱と、心の動揺に黙り込む他に術が無くて何も言えなかった。
そして、何も出来なかった。それが何よりも駄目だったんだ。
いつもにこにこしている妹が、これほどにまで叫ぶなんて…。
ケンカもそりゃしてきたがこんなに怖いと思うのは初めてだ。そもそも恐ろしいと思うことすらないのに。
妹が俺の部屋の引き出しを漁る。思えばそこで止めれば良かったんだ。
「兄妹なんてただ血が似たようなだけなのに…。こんな血…要らない!!」
一瞬だけ反応が遅れてしまった事を、俺は数秒後に悔やむ。
きらりと光る何か。それを振り上げて、振り下ろして…。
「やめっ―――!!」
慌てて動いた俺の顔に
 
―――ぴちゃ、
 
遅れた事によって、水の湿った音とともにそれが付着した。
一瞬の静寂。それは一秒未満にも、一時間以上にも感じられた。
 
「あ゛ぁぁあぁぁぁあぁああぁぁぁぁああぁ――――――――!!」
 
妹の絶叫が耳が痛くなるくらい響いた。
自ら突き立てたハサミを引き抜き、また突き刺し、引き抜く。左腕から血を撒きながら。
ご近所さんには何事かと思われているだろうな。
しかし説明なんか出来たものじゃない。出来るわけがない。
せめて兄弟喧嘩で泣いているだけだと思って欲しい。
…もしかしたらさっきの会話が聞こえてたりする? それはないよな…な?
あぁもう、そんな事はどうでも良い!! 我ながら何を間抜けなことを考えているんだ!!
「もうやめろ! ハサミを離せ…ッ!!」
くっ、なんでこんなに力が強いんだ。興奮したら脳内物質で火事場の馬鹿力が出ると言うが、あれか。
って、そんな事のんきに考えてる場合じゃないだろ!!
「こんな血なんか…こんな血なんかァァァァアアアッッ!!」
あぁ、解った。今更って気はするし、今考えることではないが。
これは間違いなくドッキリではない。あぁ、そうだろうよ。
今更な気はするが呆然とした意識ではそれしか解らない。
だいたいそれ以上何を解れ、と? 唐突な展開続きでは頭も追いつかないのに。
それよりも今俺がしなければならないのは目の前の惨状を落ち着かせる事だった。

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