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1 任命
 
 涼宮ハルヒの葬式はしめやかに行なわれていた。
 天寿をまっとうした彼女であるが、祭壇に飾られている写真は若いころのものだ。
 彼女に「私が死んだら、葬式にはこの写真を使うのよ!」と命じられてしまっては、遺族としてはそうせざるをえなかった。
 その葬式には、長門有希も参列していた。
 涼宮ハルヒの写真を眺めながら、改めて認識する。
 
 自分だけになってしまった、と……。
 
 涼宮ハルヒの夫たる『彼』は1ヶ月前に死亡していたし、古泉一樹は15年前に死んでいる。
 朝比奈みくるは、古泉一樹が死ぬ数年前に、航空機事故で死んだことになっていた。もちろん、それが偽装であることは分かっている。しかし、それ以降、彼女はこの時代には現れなくなっていた。
 SOS団で最後に残ったのは、自分だけ。
 これは、当然予測されていた未来ではある。
 しかし、現実になってしまうと、やはり寂寥感は免れない。
 
 葬式は淡々と進められ、滞りなく終了した。
 
 帰ろうとする長門有希を、呼び止める声があった。
 振り向くと、そこには涼宮ハルヒの息子がいた。
「なに?」
「すみません。母から長門さんにこれを渡すように言い付かっておりまして」
 彼は、何の変哲もない小箱を差し出した。
 彼女は、無言でそれを受け取った。
「まあ、あの母のことですからくだらないものかもしれませんが、大事にしてやってくれませんか」
 彼も中身は確認してないらしい。
「了解した」
 
 彼女は自宅に戻ってから箱を開けた。
 そこには、赤地の腕章と手紙が入っていた。
 手紙を開く。
 
 
有希へ
 有希をSOS団団長代行に任命するわ!
 団員がいる限り、SOS団は永遠に不滅よ!
 この世の不思議を解き明かすまで、活動し続けなさい!
 以上!
 
 
 改めて腕章を見ると、マジックで「団長代行」と大書されていた。
 彼女は、腕章を手にとると自然と微笑を浮かべた。
 
「了解した」
 
 そう、団員がいる限り、SOS団は不滅。
 その絆は永遠に……。
 
 
 
2 継承
 
 それは、朝比奈みくるが上級工作員に昇級してから数日たったある日のことであった。
 彼女は、長門有希に呼び出されて部屋に向かった。
 
「失礼します」
 長門有希はいつもどおり本を読んでいたが、朝比奈みくるの入室を確認すると本を閉じた。
「何か御用でしょうか?」
 朝比奈みくるは、ちょっと緊張気味にそう尋ねた。
 昔から苦手としていた相手の上に、今は組織の最高幹部である。緊張するのも無理はなかった。
「今日は仕事のことではない。プライベートなこと」
「プライベート……ですか?」
 長門有希は、立ち上がると机の引き出しから小箱を取り出した。
 そして、朝比奈みくるに手渡す。
「開けてみて」
 
 朝比奈みくるが小箱を開けるとそこには古い腕章が入っていた。
 古ぼけた文字で「団長代行」と書かれている。
 
「これは……?」
「それは、私が涼宮ハルヒから預かったもの。今まで私がその任を負っていたが、それは涼宮ハルヒの子孫であるあなたの方がふさわしい。だから、あなたに預ける」
「はぁ……団長代行ですか。そのう……具体的には何をすればいいのでしょうか?」
「SOS団の目的は、この世の不思議を解き明かすこと。団員である限り、この任務から逃れることはできない」
 朝比奈みくるは、微笑んだ。
「そうですね。団員である限り、忘れてはいけないことでした」
 
 
 
3 埋蔵
 
 朝比奈みくるは、病床にあった。
 病床にあるとはいっても病気というわけではなく、純粋に老衰だった。まもなく、天寿を迎えようとしている。
 
 長門有希が見舞いに来た。
「長門さんは、歳を召されてもお元気ですね」
「私の場合は、人間に怪しまれないように、外観だけ老化しているにすぎない。身体機能は若いころと同じ」
「それは羨ましいですね。しかし、あなたが見舞いに来たということは、私の寿命もあとわずかですか?」
「そう」
 長門有希はあっさり答えた。
 こんなことで嘘をついても、気休めにもならないから。
「そうですか。なら……」
 朝比奈みくるは、枕元の小箱を手に取った。
「これを、長門さんにお預けします」
 その中身は尋ねるまでもない。あの腕章が入っている箱だ。
「了解した。とはいっても、私がこれを預かる時間は短いものとなるが」
「?」
 朝比奈みくるは首をかしげた。
「あなたが死んだら、私の任務もいったん終結する。私は、有機情報連結を解除され、情報統合思念体に帰還し、永眠モードに入る」
「そうなんですか」
「ただし、涼宮ハルヒの転生体が誕生すれば、再構成されることになるだろう。だから、そのときまで、これは誰にも見つからない場所に埋蔵しておく」
「転生……ですか?」
「そう。涼宮ハルヒが望めば、そのときには『彼』も古泉一樹もあなたも転生するだろう。その可能性は非常に高い。だから、私も再構成してもらう。SOS団の再結成──そのときは必ず来るものと私は確信している」
「そうですか。そのときが、楽しみですね」
 
 
 
4 返還
 
 昼休み。
 
 バン!
 
 文芸部室のドアが乱暴に開かれた。
 そして、開口一番。
「部室貸して!」
 部屋の主は、読んでいる本から目を離さずに即答した。
「どうぞ」
「放課後に団員連れてくるからよろしくね」
「了解した」
 
 ここにこの二人以外の人間が存在したら、このやりとりの不可解さに唖然としたことだろう。
 この二人は初対面も同然にもかかわらず、なぜかツーカーの会話が成立していたのだから。
 
 来たときの勢いそのままに立ち去ろうとした彼女を、部屋の主が呼び止めた。
「待って」
 そして、黙って小箱を手渡した。
「何これ?」
 開けると、そこには赤いボロ布が入っていた。かつては何かが書いてあったのかもしれないが、かすれてしまって読めない。
「あなたに返す」
「?」
「分からなければ、それでもいい。ただ、受け取ってほしい。それが部室を貸与する条件」
「何かよく分からないけど、そういうことなら、もらっとくわ」
 彼女はそういうと今度こそ走り去っていった。
 
 その後ろ姿を眺めながら、
「何から何までよく似ている」
 長門有希は、そうつぶやいた。
 
 涼宮ハルヒの転生体である彼女は、放課後『彼』にそっくりな人物をつれてくるだろう。
 続いて、朝比奈みくるにそっくりな人物を連れてきて。
 そして、最後に、古泉一樹にそっくりな人物を。
 
 SOS団の再結成。
 
 それが現実になろうとしている。
 長門有希は、自然と笑みがこぼれてくるのを押さえ切れなかった。
 
終わり
 

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