クリスマス、大晦日、正月と一大イベントが連続で続き、全人類がド派手に新年を迎え入れてから早2日が経った今日は1月3日。
 俺の脳と体はまだ全然正月気分でこたつの中でぬくぬくしながら余った餅を喰っていたいということを訴えているが、新年早々例の如く、もはや必然と化しているだろう涼宮ハルヒからの悪魔のコールを俺の携帯がキャッチしちまった。
 おいコラ携帯、そんなものは掴まずにただスルーしていればいいんだ。いつからお前は野球の外野手を目指すようになったんだ? いや、内野手でのファインプレーを狙おうとでもしているのか。
 ……なんて冗談――正確に言うと俺の現実逃避――はさておき、俺の右手が「嫌だ嫌だ」とボタンを押すのを拒んでいるのを自制し、やはり嫌々電話に出てみる。
『あけおめことよろっ!』
「…………。」
『何? あんた団長様に新年のご挨拶もないわけ?』
「……明けましておめ」
『で、今日電話したのは他でもないわ。今日の午後1時に文芸部室集合ね。学校の鍵はもう盗み取ってあるから。』
 ……まったく、こいつには言い返す言葉もないね。とか言いながら俺は言い返すが。
「何の為に集まるんだよ。大事な用でなければ俺は――」
『――遅れたら罰金だからねっ! おーばぁ♪』
 
 プツッ。ツー……ツー……
 
 俺、キレてもいいかな? いくら正月が過ぎた直前で俺の心中が穏やかであるにしても、俺の怒りの許容範囲メーターにも限度があるぞ。
 既に俺の怒りゲージは120%を越えていると思うんだが、激怒出来ないのもなんでだろうね。やはり正月呆けしているのか、怒りを通り越して呆れが生じているかのどちらかだな。恐らく後者だろう。
 そんなモノローグを繰り返しながら、俺は集合時間までのやるせない時間を過ごしていた――
 
 
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「……いやあ、今回はこれくらいでいいかな。」
「何をおっしゃるのです? 語り手役はあなたと決まっているでしょう?」
「そう。語り役を放棄することは許されない。」 
「いやさ、この後の展開を語るには俺には色々と不便な点があるんだよ。」
「どんなところでしょうか。」
「古泉、お前今日が誕生日の人知ってるか?」
「ええと……誰でしたっけ。」
「コンピ研部員Cだぜ? 俺との接点がなさすぎて描写に困ってるんだよ。」
「それならわたしに提案がある。」
「なんだ?」
「わたしが語り役を担当する。どうにかしてみせる。」
「そりゃ助かるが……できるのか? 長門。」
「まかせて。」
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 午後0時50分58秒。集合時間前にいつもの5人が文芸部室に集まった。
 午後0時51分05秒。涼宮ハルヒが「じゃあみんな、今日はよく集まってくれたわ!」と言う。
 午後0時51分10秒。”彼”が「まったくだ。」と言う。
 午後0時51分じゅう――
 
 
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「――おーい待て待て。これじゃあ細かすぎていつまで経っても終わらんぞ。」
「それなら僕が」
「いやいい。長門、もっと簡潔でいいぞ。……あ、いきなり『午後3時40分。おわり』とかいうボケは無しな。」
「了解。……あ」
「どうした?」
「コンピ研部員Cが登場するまで、あなたが語り手役をした方が読者は読みやすいと情報統合思念体は判断した。」
「そ、そうか。それもそうだな、じゃあそれまで俺がやろう。」
「まかせた。」
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 俺はまだ学校閉鎖期間である我が学び舎への進入に首尾よく成功し、まるで盗難犯罪に手を染めたかのような心持ちで忍び足、5分をかけて文芸部室に辿り着いた。
「おっそーい!!」
 こ、こら、あんまり大声を出すなよ。
「何ビクビクしてんの? 別に教員なんて居ないわよ。閉鎖期間だもん。」
 ならその期間に集まる俺らはさぞかし非常識なんだろうな。解かってはいたけどさ。
「あんたね、常識なんて捨てちゃいなさい。あたしが求めてるのは斬新さなの! そんなセオリーだらけの人生なんて面白くないわよ。」
「お前は常軌を逸しすぎなんだよ。」
「まあまあお二人とも、そこらへんで抑えておいて。まだ今日集まった理由を知らされてないんですから。まずはそれからにしましょう。」
 年数が変わってもこの悔しいほどに爽やかなハンサムスマイルは変わっておらず、その顔に負けず劣らずのカジュアルな私服が余計この男の優男さを際立てていた。……神のステータス配分はどこまでも不器用だな。
「それもそうね。じゃあみんな、よく集まってくれたわ!」
「まったくだ。」
「で、今日集まってもらった理由ってのは……っじゃじゃーん!!」
 ハルヒはいつかに聞いた幼稚な掛け声を発し、腕を振り上げたと思うとピンと張って高らかに何かを空中に翳した。
「これなあんだっ!」
 見たところ半透明のタッパーに何やら黒いものが入っているようだ。
 ハルヒがずっとこのポーズを保っていることを気にしたのか、古泉が
「……黒豆か何かですか?」
 と、仕方なく回答してみせた。
「ぶぶーっ! 惜しいけど違うわ。色は合ってるけどね! 他には?」
 なんだ、まだこんなしょーもないクイズを続けるつもりかよ。たとえ正解したとして賞品でもあるのか。
「…………」
「ええと、うぅん。黒……しょうゆ? やや、ソースかも。うんと……カラス?」
 長門と朝比奈さんの回答を待っても正当な答えには辿り付かないことだろうと思い、俺も少し考えてみることにした。なんかさっきからほのかに甘い香りがするんだよな。黒くて甘いったら……
「時間切れ~っ! 何、こんな簡単な問題も解からないの? 正解はこれ!」
 俺の視力がまだ正常であるなら、ハルヒがタッパーの蓋を開けた中にはやたらと量の多いおしるこが入っていた。
「これ自作だからね! ほら、せっかくあたしがコートの中で冷えないように持ってきたんだから、早く食べて食べてっ! まだあったかい内にねっ!」
「ハルヒ、今日の用ってのはこのおしるこ食事会だけなのか?」
「そうだけど、何か文句あるの?」
 大有りだ。お雑煮ならまだしもおしるこなら昨日一昨日と散々喰ってきた。……という俺の思考は言葉となって発されず、それは古泉からの嫌な視線を感じたからであった。まるで俺の頭の中を見透かしているかのような目で見るのはやめろ。
 器と箸を取り出したハルヒは、おしるこを机に置いておたまで配り始めた。
「はい、みくるちゃん。これが有希ので、これが古泉くん。」
「わぁ、ありがとうございます。」
「ありがとう。」
「まだ熱々ですね。いただきます。」
「さーて食べましょー。」
「おい待て。」
 俺は即座にハルヒの腕を掴む。
「ひゃっ……」
「他の3人にはおしるこをよそって、俺にはよそわないとはどういうこった?」
 ……ってあれ? おいハルヒ、なんでそんなに顔が真っ赤なんだ?
「じ、自分で取りなさい!」
 ただ腕を掴んだだけじゃねえか。いつからそんなウブになったんだよ。
「うるさい! 別に赤くなんかなってないわよっ!」
 しかしハルヒ、まるで茹でダコのようだぞ……って、朝比奈さんに古泉、なんだそのニヤニヤ顔は。
「わ、解かったわ、よそってあげるわよ。……ほら、これで文句ないでしょ!」
 器に盛られたおしるこが他3人の量より3割ほど多かったのは、恐らく俺の気のせいであろう。
 
 
 おしるこがたくさん入っていたタッパーの中身も甘ったるい香りが残されるだけとなって、俺らSOS団メンバーは少しの雑談を交わして解散となった。
 俺は家のこたつが恋しくなり、おしるこに満ちた胃袋を引きずって寒い家までの道のりを走り始めた――
 
 
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「さあ、終わったぜ。」
「ここからはわたしの出番。」
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「ちょ、ちょっとちょっと、長門さん!」
「……?」
 他の4人がそそくさと帰っていく中で、わたしは聞こえ慣れした声に呼び止められた。
「そっちが終わるのを待っていたんだよ! さあ、中へ入ってくれ!」
 わたしはコンピ研部長に言われるまま、コンピ研部室へと赴く。
「……どうしたの?」
「いや実はね、今日はなんと! 我が研究部部員Cの名を持つ彼の! 誕生日なんだよ!」
「え、えへへ……どうも……」
「……そう。」
 部員Cの彼は手を後頭部にまわし、なんだか照れているようで頬を朱色に染めている。正直、別にどうだっていい。
「ん? 何か言ったかい、長門さん。」
「別に。」
 
「くく、今日は僕がケーキを用意したんだ!」
「さすが部長!」
「太っ腹~」
「すごいぞ部長!」
「よっ、悪代官!」
「はっはっは、悪代官はよしてくれー。」
「…………」
「ほうら、部員Cの大好きなショートケーキさ~!」
「おおっ、でかいですね部長!」
「とっても甘そうだ!」
「部長、僕ショートケーキ食べれませんー!」
「我慢するんだ部員B!」
「そうだぞ、好き嫌いはいけないなー!」
「…………」
「はい、6等分だよ! うわっちゃー、8等分にしてしまったよ。」
「ははは、バカだな部長!」
「しっかりしてくださいよ部長!」
「お茶目なんだから、部長は!」
「どうするんですかそれー!」
「…………」
「とりあえず6つ配るよー!」
「ありがとうございます、部長!」
「感謝感激です、部長!」
「いただきます、部長!」
「まるで雪のようなケーキですね、部長!」
「はっはっは、ほうらこれは長門さんの分だ!」
「…………帰りたい…………」
 
 
彼の名は『部員C』 end
 
 
 
……これは、フルヤミツアキさんの誕生日に掲載させていただいたSSです。
他の誕生日作品はこちらでどうぞ。
 
 

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最終更新:2008年01月02日 23:59