素直なキモチ~第3話 パーティ~2


 なにやらハルヒと長門の千切り対決しか描写されてなかったが、ちゃんと料理はしていたのだ。
 見てて思ったのは、俺も朝比奈さんと同じ感想という事。しかも昨日の敵は今日の友、とでも言おうか、ハルヒと長門のコンビプレーが見事だ。
 長門がハルヒの指示通りに食材を次々と用意(切ったり皮を剥いたり掻き混ぜたり)し、それをハルヒが調理していく。長門の的確さ、速さはわかるが、ハルヒの腕も半端じゃねえ。長門に負けず劣らずの手際のよさとスピードで次々と食材が料理に化けていく。それも楽しそうにだ。いつのまにか俺と朝比奈さんは単なる傍観者になって、ただただ二人を見ているだけになっていた。まさしく超人ハルヒだな、こいつは。
 そして当初の予定だった12時にはテーブルに見事な料理が並んでいた。どんな料理かと言うと、まあよくあるオードブルというやつだ。料理に疎い俺にはそれしか言えん。だから後はすきに想像してくれて構わないがこれだけは言える。量がすごい。総勢7人に対し、これはどう見ても10人分以上ある。まあ変態的大食いが二人いるからな。


「みんなー、すぐ終わるから聞いてちょうだい。今日は集まってくれてありがとう。そして部屋を提供してくれた有希、ありがとう。えー、我がSOS団も半年が過ぎました。これまでのみんなへの感謝を込めて作った料理だから、じゃんじゃん食べなさい。それじゃぁ、かんぱ~い!! 」


 かんぱ~~い!!


 そしてみんな各々料理に手を出していった。味のほうだが、マジで美味い! 店開けんぞ。
 ハルヒは鶴屋さんと談笑中。なにやらハルヒが力説したり、大笑いしながら鶴屋さんがハルヒの背中を叩いたりしている。
「のわっはっはっはっ、いやーまったくその通りだよー。さすがはハルにゃん!! 」「でしょでしょ! それでね鶴屋さん・・・」 なーんて声が聞こえる。いったい何を語り合ってるんだか。だがこの二人、団長と名誉顧問なんだよな。このトップ会談が俺達の将来を左右するかもしれん。頼みますよ、鶴屋名誉顧問。
 長門は機械のように複数の料理をテンポ良く摘んでいるが、時々手を止めては視線を左下に向けている。
何かと思えば、そこにはシャミセンがハルヒ特製猫マンマを食べていた。それを見つめる長門の表情が、どことなくやさしく見えるのは錯覚だろうか。いや違う。こいつも最初の頃よりかなり表情を出すようになった。まだ万人にわかるレベルではないがな。そんな長門の視線に気付いたか、シャミセンも口を休めて長門の顔を見て「にゃぁ」と一鳴き。おそるおそるシャミセンの背中を撫でる長門。んー実に微笑ましい。
 朝比奈さんはサラダにかかってるハルヒ印のドレッシングに興味津々のご様子で、ハルヒからレシピを聞き出そうとするのだが、「企業秘密よ」と一蹴される。だが今日の朝比奈さんは一味違う。「そ、そんなこと言わずに教えてくださぁ~い! 」と、某CMのチワワのごときウルウル目つきで食い下がる。どうやらその表情見たさに最初わざと撥ね付けたらしいサディストコック長は、さも満足気にあっさりとレシピを公開。それを真剣にメモる朝比奈さん。ほんとにこの人は健気というかなんというか、命が1ダース程あったら今すぐ抱きしめたい。・・・ハルヒに1ダースも命を取られるのは癪だが。
そのあとの朝比奈さんは妹のお相手。妹がわけわからんボディランゲージであーだこーだ言ってくるのを、朝比奈さんはにこやかに相づちをうっている。こら妹よ、話す時はフォークを置きなさい、口の周りを拭きなさい、あー朝比奈さんすみません、あまり朝比奈さんの手を煩わさせるなよ。ところで妹よ、さっきからパクついてるハンバーグだが、中にピーマンが入ってるの知ってるか? それにしてもこの二人、並んで見るとよく似てるな。
 古泉はいつものスマイルで「このソースは絶品ですね」やら「この肉の火の通り具合は絶妙です」などと賛美しまくっている。その言葉数だけで腹いっぱいになりそうだ。あまりハルヒを調子付かせるなよ。そんなハルヒも古泉に乗せられてか、いちいち説明している。そしてその説明を傍から聞いてて所々メモを取る朝比奈さん。この人はほんとに・・・。
 そんな中、催されたハルヒvs長門の3回戦。勝負は前2回戦で発生した、一人一玉分のキャベツの千切り早食い対決。


「これで雌雄が決するわけだけど、なんか物足りないわね。んー、そうだ! 勝者にはキョンの手料理が食べられるってのはどう? 」


 何でそこに俺が出てくるんだよ! それに俺の手料理ってなんだよ。さっき朝比奈さんが言ってた事を間に受け・・・


「賞品に不足無し。これで決める」


 ・・・あのー、長門さん? いつもの絶対零度な瞳が、手をかざしたくなるくらい燃えて見えるんですが。


「がんばってくださいね、キョンくん」


 応援の相手が違いますよ朝比奈さん、俺は出ませんて。元はと言えばあなたがあんな事を告白するからですよ。
これからはこっそり耳元で囁いてください。
 そんなこんなで、よーいスタート。それにしても一玉分のキャベツの千切りって・・・。
長門は相変わらず淡々とした表情で、ハルヒは真剣な表情なのだがスピードはほぼ互角。にしてもなんか美味そうに食べるなーこいつら。


「有希ちゃんハルにゃんがんばれ~!! 」
「おおーちっこいくせにやるねー長門っち。ハルにゃんも勢いがすんごいにょろよ」
「二人とも、がんばってくださぁ~い!! 」
「いやーお二人共見事な食べっぷりです。これは接戦になりそうですね」


 四者四様に声援を送っている。俺はと言うと、少々呆れつつも自然と笑顔で勝負の行く末を見守っているってとこか。
 そしてついに終了。結果はというと、ほぼ同時に食い終わった。二人の皿からはきれいさっぱりキャベツが消えている。カメラ判定と行きたい所だがもちろんカメラなんて有るわけない。
なら引き分けか? ハルヒも長門もキョトンとして互いを見つめる。俺達も固唾を飲んで見ている。と、その時、長門の右手がハルヒの顔に延び、戻ってきた。そして一言


「・・・キャベツ」


 と言って右手を見せると、千切りの一切れを摘んでいた。どうやらハルヒの口元に付いていたようだ。
 これは勝者は長門に決定だろう。周りからは、おおー、という歓声と拍手が沸き起こった。


「有希ちゃんおめでと~!!」
「いやー長門っち凄かったよー! ハルにゃんもめがっさ惜しかったー、でも大健闘にょろー!! 」
「わたし、感動しちゃいましたぁ~!! 」
「素晴らしい戦いでした。お二人共勝者にしたいくらいです」


 四者四様に二人を称えている。俺はと言うと、少々呆れつつもそれを上回る妙な感動に身を打ちひしがれているってとこか。二人共よくがんばった、と思ったのも束の間、総合的にはハルヒの負けだ。これはやばいんじゃないかと思い古泉を見ると、案の定、笑顔が引きつっている。ま、今回は俺は関係ない。バイトがんばれよ。そうだ、バイト代は長門に出して貰え。


「なに他人事を装ってるんですか。あなたも大いに関係してますよ。忘れたんですか? 勝者に与えられる賞品を」


 だから耳元で囁くな古泉! でもそういえばハルヒが言ってたな。たしか、手料理がどーたらこーたら・・・。
 そんなハルヒはというと、先程からキョトンとしたままだった。たった一切れで負けたんだ、今のこいつの心の中を覗く位なら古泉の着替えを覗いた方が・・・いやこっちも嫌だな。さてどうやってたしなめるか思っていた所、なんとハルヒが微笑みだした。あの俺達を恐怖のどん底に叩き落す笑顔でなく、微笑みだ。


「負けたわ有希。おめでとう」


 ハルヒは長門に握手を求めてきた。俺も含めて周りがシーンとなった。
長門は、差し出された右手をチラッと見て再びハルヒを見つめる。その瞳には疑問符が浮かんでいるようだ。


「有希の勝ちよ」
「違う。前二試合時の個人差により、あなたの方が若干量が多かった。にもかかわらず0.23秒あなたの方が早く食した。あの一切れは無視できるレベル」
「違うわ有希。いくら早くても全部食べなきゃ意味無いの。たとえ一切れでも残した方の負けよ。だから有希の勝ち」
「・・・そう」


 長門はハルヒを真似てゆっくりと右手を差し出そうとする。だがハルヒは完全に差し出される前に強引に長門の右手を握る。どうやら完全に勝敗が確定したようだ。ハルヒも妙な所で律儀と言うか潔いと言うか、とにかくこいつもスッキリした表情だし、これなら問題無かろう。
いつまでも握手をしている二人の周りから、再び歓声と拍手が沸き起こった。鶴屋さんは長門とハルヒの背中を叩きながら


「二人共見事だよー! スポーツマンシップだよー! お姉さん感動だよー!! 」


 と言って二人を抱きしめた。なにもそこまで盛り上げなくても・・・早食いってスポーツだったんですか。


「ううっ・・・これが、す、すぽーつまんしっぷなんですねぇ。とてもとても感動ですぅ~!! 」


 朝比奈さんそこ泣くとこじゃないですよ。たかが早食い対決ですよ。
 かくして涙と感動に包まれたハルヒvs長門3本勝負は、2対1で長門の勝利により幕を閉じた。


「ちょっとキョンっ、なに勝手に幕降ろしてんのよ。まだやる事あるでしょ」
「はあ? 勝負はついただろ」
「だから、表彰式よ。さあキョン、チャッチャッと作っちゃいなさい」
「俺が? 何を作るんだよ」
「あんた忘れたの!? 勝者はあんたの手料理を食べるのよ。だからほら」


 ハルヒは俺の背中を押してキッチンへ押し込めようとしていた。そうだった。だが・・・


「ちょ、ちょっと待てって! 俺はそんなことOKしてないぞ」
「なにをいまさら言ってんの。もう勝負はついちゃったのよ。有希を待たせたらかわいそうでしょ」
「俺は普段ほとんど料理なんかやらないんだよ。だから急に言われても作れるわけないだろ! 」
「じゃあどーすんのよ」
「どーすんのよって、俺の了承を得ずに勝手に決めたおまえが悪いんだろが」
「じゃあなに? あんた作らない気? それじゃあ、あんなにがんばった有希はどーなんのよ! 」


 どーなんのよって、勝手に勝負吹っ掛けておいて、勝手に賞品決めやがったその口が言うか? たかが早食いになに真剣になってんだよ。
 俺はハルヒを睨みつつも、その後ろでこっちを見ている長門の視線とぶつかった。えっ!? ほんとに食いたいのか長門?
 おそらく常人の半分以下の回数しか瞬きしないのではなかろうかというほどに、ジッと俺を見つめる長門。


「はぁ~わかったよ作るよ。ただし、今日は無理だ」
「どうしてよ」
「さっきも言っただろ、俺はほとんど料理なんかやらないって。だから急に言われても作れん。少し時間をくれ」
「んーたしかにさっきの手際を見ると、そうね。あれで作られたんじゃ賞品というより罰ゲームね。いいわ、じゃあ一週間後の日曜日にしましょ。それまでに賞品に見合う料理を作れるようになりなさい。有希、そういう事だから悪いけど一週間待ってちょうだい」


 頷く長門。だがその瞳に落胆の色が含まれているようなのは何だ?
 それより一週間か。まあそれだけあれば、何とか食えるものは作れるようになるだろう。
 てことで、今度こそ本当に幕を降ろした。やれやれだな、まったく。


 その後はまたみんなで料理を摘んだりゲーム等で盛り上がった。そしていつのまにか、女子と男子に別れて固まり始め、女子のほうはまるでエンドレスのように途切れる事も無くしゃべり続けてる。よくまあ話題が尽きないもんだ。それにくらべてこっちは古泉と二人。向こうは見るからに春一色なのに対し、こちらは冬一色だ。


「そのほうが頭が冴えるじゃないですか。僕にとっては好都合です。いろいろとお聞きしたい事がありますので」


 古泉は声を抑えて聞いてきた。お前の都合など知ったことか。それにそんなに抑えなくていいんじゃないか、どうせハルヒの事だろ。向こうの様子だと俺達は忘れられてるぜ。聞いちゃいねーよ。


「それならいいんですけどね。実は今回のパーティなんですが、主旨が今ひとつわかり兼ねるんです。僕達に感謝と言っていましたが、涼宮さんの性格からしてただ感謝という気持ちだけでこのようなパーティを開くとは思えないんです。そこであなたなら何かご存知じゃないかと思いましてね」
「あいつの精神分析はお前の十八番だろ。なぜ俺に聞く? それにそういう話はここではまずいだろ。目の前じゃないか」
「たしかに少々危険です。ですがパーティの途中でこの場を離れるのは、主催者の御機嫌を損ねかねません。その方がもっと危機的な状況に陥るでしょう。そこで長門さんに協力してもらう事にしました。こちらの事情でどうしても今日中に確認しなきゃならないもので。それに彼女も聞きたがってますのでね」
「まったく、勝手な事情だな。それより長門も関連していることなのか? 」
「そうです。ですから長門さんに、僕達の会話が涼宮さん達に聞こえない様ちょっと細工を施してもらいました。そのかわり長門さんは、自由に僕達の会話を聞けるという条件付きですけどね」


 いったい何を話す気なんだ? しかも長門も絡んでるとなると、ちょっとやそっとな事ではなさそうだな。長門を見ると、食後の惰眠を貪っているシャミセンを膝に乗せながら読書中だったが、俺の視線に気付きこちらへコクッと頷く。盗聴するのはかまわんが、心まで読むなよ。そして古泉は深刻って程でもない位の真面目な表情で、


「実は今も継続中なんですが、涼宮さんの心情がトレース出来ないのです。何かこう、プロテクトが掛かってるような感じで、まったく読めないのです。まあ、今日の様子を見てる限り悪い方向ではなさそうという事はわかりますが」
「はぁ? 何だそれ? いつからなんだ? 」
「先日からです。もっと正確に言いますと、先日の午前0時からになります」


 先日・・・か。


「長門は何か言ってきてないのか? 」
「実は長門さんのほうでも、昨日は涼宮さんの行動を把握出来なかったというんです。この際ですからぶっちゃけましょう。我々が涼宮さんの監視を始めた3年前から毎年、昨日という日は監視が出来ないんです。在宅中かどうかすらもわからない、いわゆる『行方不明』状態になるんです。『機関』の力を以ってしてもです。そして二、三日経つと正常に戻ります」
「家にいるかいないかなんて、あいつの家を見張ってればわかるだろ」
「そうです。我々もそれを実行しようとしました。ですが、そうしようとすると必ず何らかの障害が発生するんです。例えば、監視員に緊急事態が起きてどうしても持ち場を離れなければならなくなったり、その交代要員が途中事故に遭ったり、あ、もちろん無傷ですが。他にも車やら機材が故障する等々、とにかくあらゆる手段を講じてもすべて阻止されてしまうんです。そして我々と同じ様な状況が、長門さんのほうでも起きているんです」


 機関はおろか、長門の力ですら出来ないだと? その妨害をハルヒがやっていたというのか。
 まあ、あいつの心情を察すれば、それも致しかたないだろうな。


「その間、閉鎖空間はどうなんだ? 」
「今までは発生しませんでした」
「と言うと? 」
「昨日は発生したんです。規模はそれ程でもなかったんですが、ただ、神人の行動が奇妙でしてね」
「奇妙とは? 」
「破壊行動を一切せず、ずっと座り込んだまま俯いてました。・・・ああ、思い出しました。その時だけトレース出来たんです。昨日のは、悲しい、切ない、そんな感じでした。破壊行動をしないので我々もどう対処していいかわからず様子を見ていたんですが、結局何も行動せずに消滅していきました」
「・・・・・・」
「これらを鑑みて、昨日という日が涼宮さんにとって特別な日だという事は我々にも解りますが、その理由が不明なんです」


 俺は昨日の事を考えていた。あれは完全にハルヒのプライベートな部分だ。それもあいつにとっては人に話したくないくらい特別大切な事だ。それをなぜ俺に話してくれたのかはわからんが、だからといってこれ以上話していいものではないだろう。 だがこれはハルヒの力に大いに関係する事だ。なら古泉には話してもいいんじゃないか?
 ん? というよりこいつは、いや『機関』はハルヒの事をいろいろ調べてるんだろ? なら昨日がどういう日かなんて知ってるはずじゃないのか? なのに古泉の話しっぷりだとまるで知らないようだ。


「古泉、一つ聞きたいがお前たちはハルヒの事どこまで知ってるんだ? 」
「家族構成、生年月日、出身地、学歴は基本ですからもちろん把握してます。ですがあまりにプライベートな部分は調査してません。われわれはあくまで涼宮さんの ”力” を重要視してますので、力に関連するものはすべて調べています。それ以外は、必要なら調べられる程度です」
「そういう情報はどうやって調べてるんだ? 」
「詳しくは申し上げられません。機密扱いなもので。まあ、簡単に申しますと、あらゆる所に我々のエージェント、もしくは協力者が存在するということです」


 なら知ってるはずだな。だが一応確認してみるか。


「なら聞くが・・・例えばハルヒの家族構成は? 」
「御両親と涼宮さんの3人です」
「その情報の信憑性は? 」
「ここで言える範囲では、戸籍で確認済みという事です」
「その戸籍に何か変わった事とかは無いか? 」
「んーそのような事は無いですね。僕自身確認しましたから。ごく普通の、家族3人の事が記載されてるだけです」


 3人だけ? 変じゃないか。お兄さんの事が記載されてる筈だろ。


「もう一つ聞くが、お前達が持ってるハルヒの情報の中で、最も古いのはいつ頃の物だ? 」
「3年前の、涼宮さんが中学1年の頃です」
「それ以前の事は? 」


 ここで古泉の表情が変わった。こいつには珍しい、なにやら困った様な顔つきになった。


「それ以前に関しては、先程言った基本情報以外ありません。というより、それ以外は調べられないのです」
「調べられない? さっきのハルヒの監視が出来ないように何か邪魔が入るのか? 」
「それとは違います。ですが、いくら調べても3年以上前の情報が出てこないのです。まるで・・・」
「まるで? 」
「元々、最初から無かったかの様に」
「・・・何が言いたいんだ? 」
「以前、僕がこんな話をした事憶えてますか? この世界は、3年前に誕生した、と」


 ああ、お前が初めて超能力者だと自己紹介した時に、そんな話が出たな。思い出したぜ、ってまさか!


「この3年以上前の情報が出てこない件が前に議題で取り上げられた時にですね、次のような意見が出たんです。3年前にこの世界が誕生したんだからそれ以前の情報が出ないのは当たり前だ、とね」
「まさかそれを信じてるんじゃねーだろうな」
「・・・・・・」
「おいっ」
「100%でどちらかだと言い切る事は、まだ出来ません。火の無い所に煙は立たない様に、先程の意見もまったくの無から出た事ではありませんからね。例え僅かでも根拠があるなら無視する事は出来ないのです。
まあ、単に涼宮さんが何かを隠しているのではというのが我々の統一意見ですけどね、それもよっぽど人に知られたくない事を。なにしろ長門さんも知らないくらいですから。
ですが、それが3年前に涼宮さんが起こした”何か”の直接的な原因でない事は、あらゆる観点から検証済みです。それに付随して自らの個人情報も隠したというところでしょう。なので3年以上前の涼宮さんの事は、今の涼宮さんの状態や資料を基に想像するしかないのが実情です。我々には心理学や精神分析のプロがいまして、彼らにプロファイリングしてもらいますからそれなりに正確な想像が出来ると自負していますけどね」


 なるほど、そういう事か。そういえば今思い出したが、朝比奈さんも今から3年以上前には遡れないと言ってたな。この三者が調べられないって事は、もう本人が話さない限り知りようがないってことか。
 それにしても改めて思うが、ハルヒ一人の為に『機関』はものすごい事をしてるな。これも世界を守る為か。そんなものすごいハルヒや古泉達と普通につるんでる俺って、意外と物凄い大物なのか?
 なーんてな、自意識過剰だ。俺はどこにでもいるごく普通の一般人さ。それでいい。それでいさせてくれ。
 ところでさっきの戸籍の話だが、なぜお兄さんの事が記載されてないんだ? もしかしてハルヒが力で改竄したのか? そこまでして隠そうとしてたのか?


「ちなみに追加情報ですが、昨日はあなたも朝から『行方不明』状態でした。長門さんもやはりあなたを把握できなかったそうです」


 俺もだと? どうして俺もなんだ? ああ、たしかにハルヒから話を聞いたからな。でも朝からってどういうことだ? 朝なんてまだ話を聞いてなかったぞ。いや待てよ、ハルヒが言ってたな、何となく俺に会う気がしたと。おまけに昨日の朝はいつもと違って早く目覚めた。それを俺はハルヒが力で起こしたと思ってる。たぶん事実だろう。
 てことはなにか? ハルヒは最初っから俺に話をする気だったのか? なぜ俺なんだ?
 ・・・まあいい、わかったよ。そうまでして知られたくないなら隠しといてやるよ、ハルヒ。


「昨日の件、なにかご存知のようですね」


 ああ、たしかにご存知さ。だがすまんな、詳しくは話せねえ。
 昨日はハルヒのお兄さんの命日、そしてハルヒが、亡くなって以来初めてお兄さんのお墓参りに行った日だ。なぜ昨日までお墓参りに行かなかったのか、俺はそれを聞いた時、命日の日はさぞや閉鎖空間が多発しただろうと思っていた。
 ハルヒはお兄さんが亡くなってから、お兄さんの事を誰にも話してないと言っていた。それは、辛く、悲しい想いをしたくないから。だから話したくない、と。
 これは言い換えれば、お兄さんの事は思い出したくないってことになるんじゃないか? 普段なら我慢出来るだろう。だが命日ともなると、さすがのハルヒでさえ耐え切れずにお兄さんのことが出てきてしまう。頑なに現実逃避していても、所詮は表面上での処置でしかない。もはやその出来事は事実として心に深く刻み込まれてしまっており、どうあがこうとも決して消せるもんではない。
 それをさらに閉じ込めようとするあまり、知らぬうちに力が働いてハルヒの心に特別製のプロテクトがかかる。特別製であるがゆえに、外部からのあらゆる進入までをも防いでしまう。それが古泉や、あの長門の力であろうとも。さらに特別製であるが為に、ハルヒの気持ちとは裏腹に閉鎖空間の発生までも抑えてしまう。稚拙な自己解釈だが、今までの分はそれで説明がつくんじゃないか。
 ではなぜ昨日は閉鎖空間が発生したのか。それはハルヒが自分で言ってたじゃないか。
 けじめをつけたかった、と。
 辛い想いであるお兄さんの事を、このまま閉じ込めておいても何も変わらない。人として成長していくには乗り越えなければならない壁がある、なんて誰かさんが言ってたな。ならハルヒにとってのそれは、お兄さんの事だろう。お兄さんの死、という事実を真正面から受け入れる事で、新たな一歩を踏み出せる。聞けば昨日の閉鎖空間が発生した時刻というのは、ハルヒが初めてお兄さんのお墓と対面して泣き崩れた頃だ。あれでおそらくプロテクトが外れて心が開放された。それで抑えていた感情が噴出して、閉鎖空間が発生した。そんなところじゃないか。
 だがそれでもまだ、プロテクトが掛かってるというのか? まあ昨日の今日だ、まだ気持ちのコントロールが完全に出来ていないんだろう。それがいまだにプロテクトを掛けている原因だ。完全に落ち着くにはまだ時間が必要って事だな。
 

「・・・なぁ古泉、おまえ”親友”と呼べるやつはいるか? 」
「ずいぶんとあなたらしくない事を聞いてきますね。あ、気分を害されたのでしたら謝罪します。それであなたからの質問の答えですが、ええ、いますよ」
「そうか。で、おまえはその親友に対して自分の事を隅から隅まで、洗いざらい、すべて話せるか? 」
「そうですねぇ、もちろん親友ですから大抵の事は話せます。ですが、最低限のプライベートな部分、とでも言いましょうか、たとえ心を許してる親友であっても話せない事というのはあります」
「なら昨日のハルヒは、そういう事だ。悪いが俺からはそれしか言えん。だがこれだけは信じてくれ。決して悪い方向へは進んでいない。むしろこれを完全に乗り越えたら、あいつも少しは成長したってことだ。だからこの先もうしばらく続くかもしれんが、黙ってそっとしておいてやってくれ」
「・・・そうですか。わかりました。今まで異常な状態にもかかわらず発生しなかった閉鎖空間の発生といい、涼宮さんの中で何かが、いい意味で大きく変わり、そしてどうやらそこに我々が深く関わっている。それでこのようなパーティを開いたという事ですね。それにしても皮肉ですね、閉鎖空間の発生が成長の兆しとは」
「すまんな。にしてもほんと人騒がせなやつだな、ハルヒは」
「あたしがどうしたって? 」
「うわぁぁっ!!」


 いつのまにか俺の後ろにハルヒが、腕を組み不敵な笑みで立っていた。そして頭に「バカ」の二文字がつく力でもって俺にヘッドロックをかましてきやがった。ちょっ・・・マジで苦しい・・・


「さっきから男二人でなにコソコソ話してたのよ、どうしてそこにあたしが出てくんのよ。あぁっ! ・・・あんたまさか・・・くぉ~の変態スケベキョンッ!! 」


 ヘッドロックにさらに力が加わった。ちょっと待て! おまえ何かおもいっきりあさっての方向に勘違いしてるぞ!
 薄れゆく意識の中、俺は最後の力を振り絞っていつのまにか安全圏まで避難しやがった古泉にアイコンタクトを送った。誰のせいでこうなってるんだよ。だが古泉は爽やか笑顔で


「もうその辺で許してあげてください。元はといえば僕から話を振ったんです。ですが決して涼宮さんが思っている様な内容ではありませんので、ご安心ください」
「そう、ならいいわ」


 キョトンとした顔でやっと俺を開放してくれた。あやうく走馬灯で子供の頃からやり直すところだったぜ。
 それよりなんだその対応の違いは! 不公平だ不平等だ! あきらかな差別だ! 


「あたりまえでしょ。古泉君は副団長で、あんたは下っ端の雑用。格が違うのよ格が。悔しかったらあんたも何か貢献しなさい。このあたしが納得出来るくらいの」


 普段の雑用は貢献として認められないのか? もしすべて認められたら今頃俺は、団長、名誉顧問を通り越して会長クラスになってるだろう。それだけの事はしたと思ってるんだがな。ところでどうしてハルヒに聞こえたんだ? 長門の細工が切れたのか? それなら一言教えてくれよ。ハルヒのデビルイヤーは1キロ先の針が落ちる音まで聞き分けられるんだからな。
 いつのまにかハルヒ、長門を除く女性陣の中に野郎が一人加わり、古泉持参のボードゲームをやっている。長門は読書、そしてハルヒはと言うと俺の隣に座っている。なんだ、俺を監視するのか。さっき古泉がいっていた監視から逃れる方法とやらを教えてくれ。それにしても首が痛い。
 ハルヒは目の前にある料理を摘みだした。


「ん、我ながらいい味。ちょっとキョン、ちゃんと食べてる? 残したら罰金だからね」
「いつからここは食い放題の店になったんだよ。だいたい量が半端じゃねえんだよ。作りすぎだろこれ」
「そんなことないわよ、おいしければいくらでも入るでしょ。それとも・・・おいしくないの? 」


 そんな上目遣いで悲しそうに聞いてくるな、誰も不味いなんて言ってないだろ、店開けるぐらい美味いよ。


「・・・なら、もうちょっとその気持ちを外に出しなさいよ。おいしく食べてくれるのを見るのが、料理人としての喜びなんだから」


 アヒル口のコック長が説教するな。
 と言いつつも俺も摘みだす。あれだけ満腹感があったのになぜか入っていける。なんか悔しいがさっきハルヒが言ってた通りだ。


「どうなのよ」
「ああ、美味い」
「あんたねー・・・はぁ~、張り合いないヤツ」


 美味いって言ってんのになぜ落ち込む? わからん奴だ。
第3話 パーティ~3へ


|