素直なキモチ~第3話 パーティ~3


 己の料理に対する俺の感情表現が悪いってことで、説教やらレクチャーを強要するハルヒ。そんなことしてもどうにもならんぞ。こうみえても俺は正直者なんだ。その時の感情が素直に出ちまうんだよ。さっきはな、おまえのヘッドロックで首が痛かったから、ムカついてたんだよ。まったく・・・。
 そんなデキの悪い生徒を相手にしたレクチャーを半ば諦め気味に終了させたハルヒは、テーブルを挟んだ俺達の正面でボードゲームや読書をしている他のやつらを、なにやら微笑ましい顔で眺めている。


「今日ね、お兄ちゃんを連れてきたの」


 突然ボソッと何を言い出すかと思いきや、何を言い出してるんだおまえは。


「安心しなさい、あんたがビビッた幽霊じゃないわ。これよ」


 べ、別にビビッたわけじゃねえぞ昨日のは、ってそれはいいとして、ハルヒはいつもの黄色いリボン付きのカチューシャを指差した。それがどうしたんだ?


「これ、普段着けてるものじゃないの。今日のはお兄ちゃんがプレゼントしてくれたものなの」
「お兄さんの? でもそれはたしか小さくて着けられなかったんじゃないのか? 」


 ハルヒはちょっと不思議そうな顔で


「そうなのよ。前に一度着けたら小さくて痛かったのよね。だから今日は持ってくるだけにしようと思ってたんだけど、もう一度試しに朝着けたら普通に入ったのよ。いつものと同じくらいにね」
「おまえが勘違いしてるだけじゃないのか。いつものやつじゃないのかそれ」
「違うわよ、ちゃんと証拠があるもの。・・・ほら」


 ハルヒはカチューシャを外して裏を俺に見せてくれた。そこにはかなり消えかかっているが小さく「ハルヒ」とサインペンで書かれた拙い文字が残っていた。


「失くさないように名前を書いてたのよ。お兄ちゃんから貰った大切な物だから」
「なら、あと考えられるのは一つじゃないか」
「なによ」
「おまえの頭が萎んだんだ」
「はあ? そんな事あるわけないじゃない。バカ」


 アヒル口でカチューシャを頭に装着するハルヒ。
 

「それより、なんでお兄さんのカチューシャを持ってきたんだ? 」


 するとハルヒは、また微笑みながら


「・・・お兄ちゃんにみんなを紹介したかったの。お兄ちゃん、昔のあたしのこと心配してくれてたみたいだから。でも今はもう大丈夫ってところを見せたかったし、そんなあたしに変えてくれたみんなを、お兄ちゃんにも紹介したかったから」


 ハルヒはみんなを一人づつ、まるで庭で遊んでる子供たちを見守る母親のような笑顔で紹介していった。


「この娘は有希。本が大好きで普段は読書ばっかしてるの。無口で表情もほとんど出さないけど、素直でいざという時はとても頼りになる万能選手よ。・・・ちょっと素直すぎて融通が利かない所もあるけど」
「古泉君。SOS団副団長で謎の転校生。いつも笑顔のイケメン君ね。でもとても礼儀正しくて、団長のあたしにはいつも敬語だし、いろいろとアドバイスもしてくれてまさに右腕ね。それにとても顔が広いの。SOS団の活動ではいろいろ助かってるわ」
「みくるちゃん。SOS団専属の萌えっこメイド。あたしたちの1年先輩だけど、そう思えないくらいとてもかわいいの。いつもおいしいお茶を淹れてくれて、コスプレさせたら右に出るものはいないわ。とにかく、一緒にいるだけでとても安らぐの」
「鶴屋さん。SOS団の名誉顧問。いつも一緒にいるわけじゃないけど、とても頼りになる先輩。家は大きくて ”お嬢さん” なんだけど、とてもサバサバしてて、いつも明るくて、一緒にいると元気が出てくるわ」
「妹ちゃんはメンバーじゃないけど、兄貴に似ず素直でいい子ちゃんよ」
「シャミセンは・・・まあ、見たまんまの猫ね」
「それで、こいつがキョン」


 俺の紹介・・・終わりかよ。
 それと、そんならしくない顔で俺を見るな。今のおまえの笑顔はだな、いつだったかエネルギーを視線に込めて送ったとかいう嘘っぱちなにらめっこと違って、本当に体温が上がって発刊作用が促進されるんだよ。だから俺は、赤く発熱した顔を冷却する為に右へ90度回頭した。


「お兄ちゃん、これがSOS団よ。あたしの自慢の、そして・・・」


 ハルヒはもう一度、みんなを見回して


「あたしの大切な・・・大切な宝物のみんなよ」


 そして最後にハルヒは俺を見つめ、何やらクスッと笑って嬉しそうにみんなの所へ飛んでいった。
 大切な宝物、か。だがなハルヒ、そう思ってるのはおまえだけじゃないぞ。
 さて、俺も混ぜてもらおうかな。そう思って立ち上がろうとした時、


<お兄さん>


 ん? いま何か声が聞こえたようだが、気のせいか?


<気のせいじゃないです。ここです、お兄さん>


 気のせいじゃない? 俺は声の聞こえた後ろを振り返ると、そこには見知らぬ男の子が立っていた。誰だ? どうしてここにいるんだ? どっから入ってきたんだ? もしかして長門の親戚か?
 ん? 長門の親戚だと!? 俺は咄嗟に長門を見る。だがそこには、いつも見慣れてる読書する少女の置物と化した長門がいた。まるでこっちの事を気付いてないようだ。俺はそのまま、視線をボードゲームをしているハルヒ達のほうへ向ける。だが誰一人こちらに顔を向けていない。つまり誰も気付いてないってことだ。いったいどういうことだ? ところが一つだけ、こちらに視線を向けているのがいた。
 シャミセンだ。長門の膝の上で体を丸めたまま、顔だけをこちらに向けてジッと睨んでる。しかもどうやらその視線は、俺を突き抜けて後ろの男の子に向けられてる様だ。俺はもう一度、恐る恐る男の子のほうへ振り向く。長門すら気付かない存在にシャミセンが気付く、ってことは・・・


<はじめまして、こんにちは。僕はハルヒの兄です>
  ハルヒの、お兄さん・・・の幽霊?
<はい>
  (いやそんなニッコリあっさり肯定されると・・・ハルヒてめぇ、嘘つきやがったな。だがどうして俺は落ち着いてるんだ? 今までの経験値がたまって耐性が付いちまったか。まあいい)・・・えーとですね、その、お兄さん? がなぜここに?
<ハルヒがみなさんを僕に紹介したいという思いがあまりに強くて・・・お兄さんはいろいろ知ってるみたいですから話しますけど、今日ハルヒが着けてるカチューシャに無理矢理引っ張られてきたってところです>
 (まったく、人間だけでなく幽霊にまで通用するのか、あいつの強引さは。お兄さんのカチューシャを着けれたのも、その強引さで押し通したんだろう)ところで、ハルヒ・・・さんは
<ハルヒでいいですよ>
  はぁ、すみません。その、ハルヒは今のお兄さんが見えてるんですか?
<さあ、それは本人次第です。ハルヒが見えると思えば見えるでしょう>
  では俺はどうしてお兄さんが見えて、こうして話せるんです?
<それは、僕がお兄さんと話したかったからです>
  俺に? 何の用でしょうか。
<ハルヒの事、よろしくお願いします>
  ・・・え?
<お兄さんの事は、きのうハルヒから聞きました。ハルヒはああ見えてとても心が弱いんです。だから、そばにいて支えてくれる人が必要なんです>
  それが、俺、ですか?
<・・・どうやらハルヒの言ってた通りですねお兄さんは。でも、だからこそお兄さんにお願いしたいんです>
  (俺がハルヒを支える? あの暴走我侭娘を? 俺の様な一般人で支えられるのかよ。支えるどころか振り落とされてそのまま置いてけぼりにされそうだがな。けど・・・ええい、昨日のあいつの姿が浮かんで消えねえ。ちくしょうあいつめ、いったいなに話しやがったんだよ)・・・わかりました。ハルヒがどう話したのか知りませんが、俺で役に立てるなら。
<ありがとうございます。それと、もう一つ・・・>
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・


「スーッ・・・ワァッ!!」
「うわはっ!! 」


 な、なんだ今のは!?


「いつまで寝てんのよキョン、いい加減起きろー!! 」
「へっ? 寝てた? 俺が? 」


 どうやらハルヒの言う通りらしい。テーブルに突っ伏して寝てたようだ。ぜんぜん気付かなかった。
 俺は辺りを見回す。長門はいつもの、他の連中はニコニコでこちらを見ている。そして俺の横でハルヒは腕を組み、怒り笑いの表情でこっちを見下ろしている。にしてもハルヒめ、もう少し静かな起こし方は出来んのか? 耳がキーンとしてるぜ。ん? ハルヒ・・・? そうだ!!


「ハルヒ、おまえ・・・」
「ん? なによ」
「・・・いや、いい。なんでもない」


 どうやらハルヒには見えてなかったらしい。キョトンとしていたが、俺が言い掛けてやめたので再び怒り笑いになり


「ふ~~ん、さぞやいい夢でも見てたのかしら~。悪かったわね~起こしちゃって~。で、あたしがどうかしたのかしら~? まさかあたしがあんたの夢の中に・・・」


 そこまで言いかけた所で、はっ! として俯くハルヒ。だが下から見上げてる俺には丸見えだ。なに顔を赤らめて照れてんだおまえ。


「と、とにかく、そろそろお開きにするから起きなさい! 」


 いきなり怒り出しやがった。わけわかんねーよ、まったく。
だが、あれは本当に夢だったのだろうか。その割にははっきりと憶えている。そういえば似たような事が昨日あったな、今のハルヒと立場は逆だが。
俺はボードゲームを片付けている古泉に、声を潜めて聞いた。


「なあ古泉、どれくらい寝てたんだ? 」
「かれこれ1時間くらいですね」
「そんなにか? よく寝かしてくれたな。ハルヒのやつ怒り狂ってただろ。どうして起こさなかったんだ? 」
「その涼宮さんが許してたんですよ。朝、あなたを疲れさせてしまったから、だそうです」
「ハルヒが!? 」


 まったくおまえというやつは。そんなこそばゆい気遣いには感謝するが、それが原因じゃないんだよさっきのは。
まあ、少しはあるが。


「それじゃあそろそろ時間だから、お開きにしましょ。でもその前にみんなに言いたい事があるの。最初にも話したけど我がSOS団も半年が過ぎ、この間さまざまな活動をこなしてきましたが、どれもこれも楽しく、充実した半年だったわ。それもみんながいてくれたおかげよ。キョン、古泉君、有希、みくるちゃん、鶴屋さん、妹ちゃん、シャミセン。SOS団団長として、ううん、涼宮ハルヒとしてみんなに感謝します。ありがとう」


 ハルヒは俺達の前で直立不動のまま、最後は頭を下げてきた。そこにはいつもの尊大な雰囲気は無かった。
 あのハルヒがこんな事をするとは。俺はつい自己紹介時のハルヒを思い出していた。あの頃のハルヒは誰も寄せ付けず、誰にも寄り付かなかった。そんなハルヒから今のこいつは想像できん。まるで別人だ。だがどっちが本当のハルヒかと問われれば、俺は間違いなく今のこいつだと答えるさ。理由は一つ。今のハルヒの笑顔は混じりっけなし純度100%の素の笑顔、昨日俺が見惚れてしまったあの笑顔だからだ。
 それよりこの雰囲気をどうする? ハルヒの意外な言動に意表を突かれたように静まりかけている。さすがの古泉もこれは予想出来なかったと見えていつものスマイルが消え、唖然としている。
だがここで、またまた意外な人物が、意外な発言でこの場を救ってくれた。


「・・・わたしも、あなたに感謝したい」
「え? 有希? 」


 みなの視線が、それこそ置物が急に喋りだしたことに驚いたように長門に集まる。


「あなたはわたしをさまざまな場所へ連れ出し、多種多様な体験をさせてくれた。その時に得た情報及び感覚は、それまでのわたしでは得られなかった種類のもの。わたし自身まだそれらの解析が不十分な為、内容に齟齬が発生する。だから具体的な事例を挙げる事はできない。でも、わたしにとってそれらは貴重な情報。だから、あなたに感謝する」
「有希・・・」
「そうですね、転校してきた僕がすぐにこの学校に馴染めたのも、涼宮さんのおかげだと思っていますよ」
「ちょっと古泉君・・・」
「わたしも、涼宮さんのおかげでこの時間へいめ・・・あ! えっ! いや、あの、え~と、その、い、いろいろと知らなかった事を勉強させてもらいました」
「みくるちゃん・・・」
「うーんたしかにハルにゃんといると、めがっさ楽しいよねー。おかげでキョン君たちとも知り会えたし! 」
「鶴屋さんまで・・・」
「ハルにゃん、お料理おいしかったよー。また作ってね! 」
「妹ちゃん・・・うん」


 いつのまにか、どっちの感謝パーティかわからん状況になっていた。ハルヒは、予想外のみんなからの感謝状に驚きとも戸惑いともはっきりしない複雑な表情をして俯いている。前にも言ったが、こういう事に慣れてないからな。
 それにしても長門がああいう事を言ったことに驚きだ。
普段ほとんど感情を出さない長門。時々、一緒に行動しててはたしてこいつは楽しんでるのか疑問に思う時があったが、長門なりに楽しんでいた事がわかってホッとした。
 てな事を考えていたら、なにやらハルヒ以外の視線が俺に注がれている。流れ的には俺も何か一言言わなきゃいけないようだが、昨日すでに白状してるし・・・あの事はハルヒだけに伝えるべきものだからここでは言えないし、ここで出すか。


「ハルヒ」
「えっ、なに? 」


 まさかあんたも、って顔してるが、ちょっと違うんだな。
俺は長門に預けておいた紙バッグから、それを取り出した。


「これは俺達団員から団長様への感謝の気持ちだ」
「え!?」


 恐る恐るそれを受け取るハルヒ。別に中からヘビが飛び出したりしないから安心しろ。
 ハルヒはその場に座り、リボン付きのラッピングを解いて箱から取り出した。それは、アンティーク調の宝箱のようなデザインのオルゴールだった。
 ちょっと驚きつつも今だ複雑な表情のハルヒは、ネジを巻き、蓋を開ける。するとオルゴールらしい透き通った、それでいて柔らかい音色が響きだした。蓋の裏は鏡になっていて、ちょっとした化粧直しに使える。箱の中には、青空をバックにして太陽のような星を中心に四つの星が取り囲んでいる絵が貼ってある。ただしその四つの星の部分が別パーツになっており、音色に合わせて太陽の周りをゆっくり回転するからくりになっていた。それらが適度に可愛らしく、そこそこアーティスティックにデザインされていて、イメージ的にはヨーロッパ辺りのちょっと田舎で売っている伝統工芸品みたいな感じだ。あくまで個人の主観だが。
 これは、何度目かの市内探索時に通りかかった店のウィンドウに並んでいたのを見かけ、なんとなくSOS団メンバーのイメージに似てる気がしてちょっと気に掛けていたものだった。それを昨日ハルヒと別れた後に思い出し、他の3人に電話で購入と経済援助の了承を取り付け、なんとか手に入れたシロモノだ。店員に聞くと、やはり輸入物で在庫はこれしかなく、次回入荷は未定だった。それを忘れるといけないので、昨日のうちに長門に預かってもらっていたのだ。
 ハルヒは音色に合わせて回転する星たちを不思議そうに眺めていたが、徐々に俯いてしまい、最後はオルゴールを抱きしめたまま後ろを向いてしまった。肩が小刻みに震えている。やはり本物の宝箱がよかったか? すまんな、売ってる店を知らないんだ。おまえの行きつけがあるんなら教えてくれ。
 俺達はそんなハルヒを・・・まあ、微笑ましく見守っていた。
 しばらくして振り返った我らが団長様は、まさしく太陽のように眩しい笑顔だった。


「みんな、ありがとう!! こんなステキなプレゼントは初めてよ! とってもうれしい。大事にするね」


 目元が濡れてる分、なんだか余計に眩しく見える。サングラスが必要だぜ。


「そのプレゼントに関しては、僕たち3人の事は忘れてくださって結構ですよ」


 スマイルが復活した古泉は、シャミセンを撫でながらの長門や笑顔でもらい泣きの朝比奈さんのほうに手を拡げて言った。
てめぇ古泉、なに言いやがる! さっきの俺の言葉を聞いてなかったのか? スマイルといっしょに耳まで消えていたのかこのヤロー!


「な、何言ってんのよ。 これはみんなからの、プレゼント、なんだから・・・」


 たしかに選んだのは俺だが、資金はすでに三人から徴収済みだ。それを俺一人からのプレゼントだという悪徳業者みたいな気持ちは微塵もねえよ。
 ハルヒもハルヒだ、なに顔赤らめて最後のほう口ごもってんだよ。余計に変に勘ぐられるだろ。


「え、えーと、とにかくみんなからの気持ちは有り難く頂いたわ。この調子でこれからもどんどん盛り上げていくわよ! そうねえ、明日からはSOS団ver.1.5ってことでいくわよ。あ、でも安心して。バージョンアップは無限に更新していくから。このあたしがいるかぎり、SOS団は無限に続くのよ! 未来永劫、因果地平、この世の果てまで不思議を追い求めていくから、みんなも楽しみにしてなさい!! 」


 いつもの、俺たちをどん底に叩き落す極上スマイルで、高らかにSOS団の無期限活動宣言をしやがった。なんだかこいつを焚きつけた形になってないか? なんだよバージョンアップって。無限に続くのかSOS団は。そこまで付き合えるのはせいぜい長門ぐらいなもんだぜ。普通の有機生命体は命が限られてるんだよ。おまえだっていつかは・・・まあいい。それともなにか? おまえはあの世に行ってもSOS団を続ける気か? まあ、おまえならやりかねんな。だがな、あの世で不思議な事ってなんだよ。あの世自体が不思議ワールドだろ。俺にとっちゃ、そんなおまえの頭の中のほうが不思議だよ。


「つべこべ言わないっ! ということでみんな、これからも一丸となって、がんばっていきまっしょーい!! 」


 右こぶしを高々と天に突き上げるハルヒ。やれやれ・・・


 あれだけ大量にあった料理も、終わってみればきれいさっぱり消えていた。もちろんハルヒと長門が・・・といきたい所だが、さすがに今回はホスト役ということでハルヒは少々抑え気味だった。それでも俺より食ってたと思うんだが。
 みんなで後片付けをし、帰りの準備が整った頃には、辺りはもう暗かった。朝比奈さんと鶴屋さんは古泉と、ハルヒは俺と帰ることになった。その帰り際、「・・・料理、待ってる」と長門に念を押されてしまった。すまん長門、今の今まで忘れてた。


「ところで長門、ハルヒの事だが・・・」
「了解している。あなた達の会話でおおよその状況は理解できた。明確な原因は今だ不明だが、問題無しと判断できる」
「・・・そうか。それと今日おまえの部屋の中で何か感じるものは無かったか? 」
「・・・・・・」


 長門は2ミリほど首を傾げて俺を見つめる。どうやら本当ににお兄さんの事は認識出来なかったようだ。
 長門の力すら及ばないハルヒの能力。こりゃいよいよもって神様確定かな。

 

 俺は、はしゃぎ疲れて眠ってしまった妹をおぶり、同じく寝ちまっているシャミセン入りのケースを左肩に掛けて歩いている。左隣には、空になったボストンバッグをたたんで入れたクーラーボックスを左肩に掛け、あのオルゴールの入った紙バッグを胸に抱えた笑顔のハルヒがいる。
 なんだろうねまったく、こんなに暗いのにおまえのその笑顔が眩しく見えるのは。それで夜道を照らしてくれよ。赤鼻のトナカイみたいに。


「相変わらずバカな事考えてるわね。それにトナカイはあんたじゃない」
「うるさい、今年はやらんぞ。それよりそんな両手が塞がってる格好で転ぶなよ」
「気を付けるのはあんたでしょ、妹ちゃん背負ってるんだから。あたしはそんなドジ踏まないわよ。・・・それに大切なプレゼントだもん。片手で持ったら失礼よ」
 

 それはそれは。プレゼント冥利に尽きるね。ハルヒは紙バッグを大事そうに抱きしめ直した。


「それにしても、あんたにしてはなかなか粋なことするじゃない。まさかこっちがプレゼント貰うなんて思わなかったわ」
「悪かったな、普段が普段で。それともう一度言うが、それは俺たち団員からという事を忘れるなよ」
「わかってるわよ、でも選んだのはあんたでしょ。それに、意外な事されるのって結構嬉しいもんなんだから」
「そんなもんなのか? 」
「あんたね~、もう少し勉強しなさい」


 学業すらウンザリなのに、これ以上何を学べって言うんだよ。


「・・・ほんっとバカね」


 ほっとけ。
 そんなハルヒだったが、最後まで笑顔を崩すことは無かった。
 そうだ、今ならチャンスだな。


「ハルヒ、実はもう一つ渡さなきゃならんものがあるんだ」
「え!? なになに!? 」
「ある人からのメッセージだ」
「ある人? だれ? 」
「聞けばわかるさ」
「じゃあさっさと言いなさいよ」

 
 最初は何かを期待するようなニコニコ顔が、最後は早く言えと苛立ち顔。短時間でよくそこまで変われるな。
 俺はわざと咳払いし、焦らす様に・・・そしてハッキリ伝わる様にゆっくりと話した。


「『ハルヒ、宝物とても素晴しかったよ。いつまでも大切にしてください・・・』」


 ハルヒの歩みが止まった。
 俺も立ち止まって後ろを振り返り、驚きで大きく見開いているハルヒの瞳を見つめながら、最後に付け加える様に伝えた。


「『・・・兄より』」
「それって・・・キョン、あんたまさか、お兄ちゃんに・・・」
「ああ、会ったよ。昨日のおまえみたいにその後眠らされたがな」
「それじゃあれは・・・・・・そう・・・来てくれたんだ」


 嬉しそうに微笑むハルヒ。


「なあハルヒ、おまえはお兄さんがいた事に気付いてなかったのか? 」
「姿は見えなかったわ。だけど・・・んー、何となくだけど、どこかで見ててくれたっていう気はしてたわ」
「また会いたいとは、思わなかったのか? 」
「そりゃ会えるんならまた会いたいけど、でも・・・なんていうか・・・うまく言えないけど、今はいいかなって。今のあたしにはみんながいるから。だから、遠くで見ててくれるだけでいいってね」


 ハルヒは穏やかに遠くを見るような眼差しで、夜空を眺めていた。俺もつられて見上げてみた。そこには、これでもかというくらい数多の星々が煌いている冬の澄み切った夜空が広がっていた。なんだか久しぶりというか、懐かしい気分がするな。
 だが、そんなムードは一瞬にして破れてしまった。ハルヒはいきなり表情を強張らせ、真っ赤な顔で


「他にはっ!!? 」
「えっ?」


 ハルヒは物凄い剣幕で俺に詰め寄ってきた。妹が起きちまうだろ。
両手が塞がってる為、正面からタックルするように体を少しぶつけてきたハルヒは、つばを飛ばしながら捲くし立ててきた。


「他になんか言ってなかった!!? お兄ちゃんっ」
「えっ? あ、いや・・・」
「ほんとにっ!!? 」
「ああ・・・そ、そう言えば、おまえ俺の事何か話したそうじゃないか」
「え?」


 鬼気迫る剣幕が一瞬やんだ、かと思いきやまたぶり返して


「そ、それでなんだって!!? 」
「俺のことを、おまえが言ってたとおりの人だ、と」
「それから!!? 」
「それだけだ」
「ほんとにっ!!? 」
「ああ、ほんとだ」
「そ、そう・・・はぁ~、まったくもう・・・」
「おまえ、俺のこと何て話したんだよ? 」
「あんたは知らなくていいの! 知っちゃいけないの!! 」
「何だよそれ。そこまで言われると余計知りたくなるだろ」
「うるさいっ!! いいったらいいの!! 」


 ったく、人には散々詮索しておきながら、自分は言わないのかよ、て、俺も隠してる事があるんだがな。
ハルヒの事をうんぬん・・・は、言えんな、さすがに。
 ハルヒは何やらブツクサ言いながら歩き出した。チラッと聞こえた単語は「お兄ちゃん、余計な事を、バカ兄貴」だった。なんだかなー。
 それから暫くして、ハルヒと別れる場所に来た。妹のやつはまだ眠ったままだ。一応挨拶ぐらいさせねばと思ったんだが、


「いいわよ、寝かしておいてあげなさい」


 というハルヒらしからぬ暖かいお言葉に甘えて起こさなかった。ハルヒは慈悲深い微笑で、俺の背中で寝息を立てている妹の頭を撫でながら


「今日はありがとう、妹ちゃん」


 と言葉を掛けていた。そういや俺も今日寝ちまった時、こいつが寝かしてくれてたんだっけ。てことは兄妹でハルヒに世話になったってことか。なら兄妹を代表して礼を言っとくか。


「な~に? あんたも頭を撫でてもらいたいわけ? 」


 いや結構です。そんなニタニタしながらやられたら、何されるか・・・さっきの慈悲深い微笑みはどこに置いてきたんだよ。


「それよりキョン、明日は休んじゃダメよ、遅刻もダメよ。いいわね」
「いつからお袋になったんだ、おまえは。てか、おまえもするんじゃねえぞ」
「あたしがするわけないじゃない。それよりあんたが心配なのよ。あたしのパーティが原因でだなんて言い訳、されたくないからね」
「へいへい、ちゃんと登校しますよ」


まったくもう、て顔のハルヒ。だが、最後は笑顔で


「じゃあねキョン、今日はありがとう。それと・・・」
「?」
「・・・これからもよろしくね。おやすみっ! 」


 そう言って駆け出していった。どこまで元気なんだろうね、あいつは。
そんなハルヒの後姿を見て、俺は改めてお兄さんの言葉を思い出し、そして密かに誓った。
 たとえおまえが遥か先を走ってても、最後までとことんついていくぜ、と。

 


 さて、その後の事だが・・・。
 翌日の月曜日はハルヒの感謝企画第二弾が催された。と言っても谷口&国木田の事だ。
 一昨日の墓参りの時、長門の家への入室許可が下りなかった二人に対して別の形で感謝の意を表すと言っていたが、それはハルヒ特製弁当の事だった。
 ハルヒの言いつけどおり、二人に明日は弁当を持ってくるなという事を連絡。但しハルヒの名を出すと反発するだろうから、校内屈指の美少女生徒が、どういうわけかお近づきになりたいと朝比奈さんを通じて俺に連絡があり、しかも弁当を作ってくるから、という内容でだ。さすがにこんな見え透いた嘘なんかに引っ掛からんだろうと思っていたら、あっさり釣られたこの二人。やはり朝比奈さんの名を出したのが効果覿面だった様だ。すみません朝比奈さん。
 そして月曜の昼、見るからにアホ丸出しで浮かれてる谷口と、一見落ち着いている様に見えながら内心ソワソワしてるであろう国木田たちの前に現れたハルヒと二つの弁当。
 当然即抗議しだした谷口に、あの連絡内容はまんざら嘘ではないだろうと反発する俺。見てくれがいいのはおまえも認めてただろう。国木田は早々に諦めたのか、俺の援護に回ってくれた。「あの涼宮さんの手作り弁当だよ。食べてみる価値あると思うけどな」・・・それ、あまりフォローになってないぞ国木田よ、”あの” を強調するな。見ろ、ハルヒの引きつった笑顔を。「ま、まあ今回は大目に見るわ。それよりあたしのお弁当をタダで食べれるのよ。有り難いと思ってじっくり味わいなさい! 」 おまえは感謝してるのかさせてるのか、どっちなんだよ。それと金取る気だったのか。まあ二人共、それなりに満足してくれたようだが。
 それともう一つの懸案事項である俺の手料理の件だが、まさか長門があそこまでしつこいとは思わなかったぜ。
なにしろ学校内で俺を見るたびに「・・・待ってる」「・・・楽しみ」と言ってくる。わかったわかった。
 そして次の日曜の朝、なぜかハルヒに電話で叩き起こされ、いつもの集合場所へ呼び出された。
何かと思えば俺の料理の食材調達との事。賞品料理は幼い頃よくお袋が作ってくれたオムライスにした。締まりのない妹の口から飛び出した、俺が料理しなきゃならん理由を知ったお袋の冷やかし口撃を一週間受け続け、満身創痍になりつつなんとか習得したものだ。その食材調達の為、前に行った24時間スーパーへ向かった。
 前回はシャミセンがいたから中に入れなかったが、今回はハルヒと二人で店内を歩き回った。いろいろ品定めしながら次々に俺の押すカートに食材を入れていくハルヒ。なんだか新鮮な感じだな。俺は何となくこいつの将来像を想像してしまった途端、言い知れぬ恥ずかしさが込み上げてきて一人で赤くなっちまった。いかんいかん、何を考えてるんだ。
 それよりなぜ負けたのにいるんだ? するとハルヒ曰く、「試合は賞品授与するまで終わってないのよ。それを見届けるのが主催者の務め」だそうだ。まあ予想してなかったといえば嘘になるがな。ちなみに食材はすべてハルヒ持ちだった。
 そして長門のマンション前には朝比奈さんもいらっしゃった。俺と一緒でハルヒに無理矢理召集させられたとの事だ。どうやら朝比奈さんを連れてくれば俺が無条件で余計に作ると思い、ならついでにもう一つ作らせてそれを頂こうという魂胆らしい。「ま、一つも三つも作るのは同じ事よ」とはハルヒの言。するどい。たしかにおまけがハルヒ一人だけだったら・・・まあ、作ってやらん事も無くはない、か。さっきの姿を見ちまったからな。でもそれじゃ賞品の意味ねえじゃねえか、長門が可哀想だろ。
 その長門だが、なんだか雲行きが怪しいぞ。先程からちょこんとテーブルの前に座ったまま、ジッと俺を見ている・・・というより睨んでる。ムリもないか、自分だけの賞品のはずが、みんなに振舞われようとしてるんだからな。だがその不満の受付先はハルヒだ。たのむ、暴走しないでくれ。
 そんなこんなで先ずは長門の分が完成、めでたく賞品授与とあいなった。で、その感想だが、「・・・おいしい」という長門流最高評価を頂いた。その後おかわりを要求され、ついでにハルヒと朝比奈さんの分も作った。朝比奈さんの評価は「とってもおいしいですぅ~」あなたのお口に合って光栄ですよ。長門は更におかわりをし、計三杯も食いやがってやっと満足してくれたようだ。もっと楽なもんにすりゃよかったぜ。
 そして我らが三ツ星シェフのご感想は、「ま、食べれない事はないわね」そのわりにはガツガツ食ってたじゃないか。
 ハルヒは味付けに関していろいろ言ってきたが、俺はそれを右から左へ聞き流していた。これでも幼少時の味を9割ぐらい再現出来たと自負してるんだぞ。まあ残りの1割っていうのは微妙な部分なんだがな。そこが”おふくろの味” といわれる部分なんだろうか。それにそんなに料理するわけじゃないし、ましてや人に作ってやる事なんてもう無いだろう。だからいいんだよ、自分が食べれればいいのさ。
 そんな俺が一つ言える事がある。それは、”空腹は最高の調味料” って事だ。腹が減ってりゃ何だって食えるもんなのさ。昔見たアニメのセリフの受け売りだがな。

 

 こうしてハルヒの墓参りに端を発した感謝企画もすべて終了し、またいつもの風景が戻ってきた。
 太古の昔に滅び去った文明の文字で書かれた様な本を読む長門。
 甲斐甲斐しくみんなにお茶を振舞い、今は日なたで舟を漕いでいる朝比奈さん。
 もし逆の結果が続いたら、お前が世界改変したんだと即断出来るくらいゲーム連敗記録絶賛更新中の古泉。
 そしてその相手をしている俺。
 これが今の、あたりまえの風景だ。昔、誰もが一度は夢見ただろう宇宙人、未来人、超能力者がいる世界。もちろん俺もその一人だった。
 ところがそんな夢世界も、現実という荒波に削られていき、いつの間にか見る影も無くなっていた。
 でもどうやら完全には消えてなかったようだ。あの頃一人でもいたら狂喜乱舞してた存在が、今じゃこうして三人まとめてこの部屋にいる。思い描いていたイメージとはかなり違うが、一見すると普通に見えるこの三人の正体を思い直すと自然とほくそ笑んでしまう。まさかこんな日常が来るなんて、あの頃の俺に見せたいぜ。
 だがな、今の俺はそんな特殊属性など関係ないんだ。
 宇宙人、未来人、超能力者でなく、
 長門、朝比奈さん、古泉といるのが楽しいんだ。
 もちろん、こいつも含めてな。


「遅れてごめーん!! それよりみんな聞いてちょうだい。今度・・・」


 やれやれ。今度は何をやらかす気なんだ? ハルヒ。


 素直なキモチ~おわり

 


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