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Close Ties(クロース・タイズ) 第三話

 

 

 ケーキを食べ終わり、もうこの楽しい時間も終わりかと、少し残念な気分になっていた時、ハルヒは唐突に大声を出した。
「さあてプレゼントコーナーよ!」
 ハルヒは私に包みを見せてから、バリバリとそれを破いた。
「お、おいハルヒ、お前が開封してどうすんだよ!」
「いいから見てなさい!」
 包みの中から出てきたのは、オフホワイトに赤いブランド名入りの細いマークが一本ついたニットキャップだった。
「いいでしょこれ!」
 部室の飾り付けに使ったらしいはさみで値札を取り去り、私の頭にそれをかぶせ、前髪を直された。
「すごい!ぴったりです」
 皆賞賛の言葉を上げるが、鏡が無いので分からない。いや、あったとしてもあまり理解はできないが。しかし、耳がこれでカバーされるので、寒さ対策にはなるだろう。
「ふふっ、あったりまえでしょ!」
 ハルヒはいつもの威勢で大いに笑った。
「次は興ざめのキョン!」
「なんだその屈辱的な呼称は!長門、誕生日おめでとうな」
 彼が差し出したプレゼントの包みは、ハルヒと同じ模様だった。
「有希、がっかりしないでね!これがキョンの限界だからさ」
 包みの中は、黒い飾り気のない手袋だった。
 僅かに伸縮性があるらしく、片方だけはめてみると私の手にぴったりと収まった。
「良かったわね、ちゃんと似合って。有希に感謝する事ね!」
 よく分からない事を言う。感謝するのは私の方だ。
「何故送った側の人間が感謝せにゃいかんのだ!?ちゃんと似合ってんだからいいじゃねえか!」
「このかっわいくて似合う容姿で生まれてきた有希に感謝しなさいって言ってるの!まあったくこんな実用性一本でプレゼント選ぶなんてキョンらしいといえばそうだけど。まあとにかく次はみくるちゃん!」
 朝比奈さんは前に出るなり自分の持っていた包みを解き、私が座っているいすの後ろへ回った。
「前で通して…ほら!」
 朝比奈さんのプレゼントは白いマフラーのようだ。私の顔前に手鏡が差し出される。
「いいでしょう?有希ちゃん」
 正直な告白をすると、己の顔形をはっきりと確認するのも実に久しぶりの事だった。
 私には被ったままのニット帽と白いマフラーは防寒具という認識が強かったが、ファッションという観点ではこの様に身につければ良いのだろう。
 それよりも、先ほどから一言も感謝の言葉を発せないほど、ハルヒは矢継ぎ早に司会進行を続ける。
「うんうん!じゃ古泉君、畳みかけちゃいなさい!」
 ハルヒは急に私を椅子から立たせ、前へと誘った。
 私の前に包みを抱えたいつ…古泉一樹君が私の前に立つ。
 私の思考回路は急に古泉一樹を下の名前で呼ぶ事を拒否しだした。私の両眼も前に立つ彼の顔に焦点を合わせるという命令を無視する。
「実はずっと前からこれをプレゼントしたいと決めていたんです。受け取っていただければ、それだけで幸いです」
 彼の持っていた包みをゆっくり開ける。
「おーいおいおい古泉いっちゃん気合入りまくりだねぇ!」
 鶴屋さんが感嘆の声を上げる。
 包みの中は白い革製の小振りなショルダーバッグだった。
「いやあ、最近バイトが大繁盛で財布に余裕が…なんて言い訳も用意していたんですがね。仰るとおり、気合を入れさせて貰いました。数日前にこのバッグを見かけまして、長門さんがこれを携える姿を見たくて仕方がなかったんですよ。僕の個人的な夢ですがね」
 胸の辺りに針が刺さるような感触が何度も流れた。
 私は両手でバッグを抱きしめて、込み上げてくる何かに耐えるしかなかった。
「あ、あれ?ちょ、有希」
「涼宮さん!大人しくしてなさい!」
 ハルヒが朝比奈さんに一喝されるという珍しい事態も私の気持ちに何の変化ももたらす事は無かった。
「長門さん!」
 体の平衡を保てなくなった私をいつ…古泉一樹君が支えてくれた。彼が私に触れている感触が、服を通して伝わってくる。
「おね…がい…一分間だけ…この…まま」
 気付けば私は信じられない願い事をしていた。
「え、ええ、一分でも一時間でも、一日でもお支えいたしますよ」
 背中に腕が回る感触は少し怖くもあったが、すぐに襲ってきた甘美としか表現のしようが無い暖かさに気持ちが冒されていく。
 それから、私はどうやって家に戻ったかもあまり記憶に留めておけていない。
 ただ、私の黒い手袋をつけた右手を少し強く握って一緒に歩いてくれた人がいた事、それが私の心を上気させていた事だけははっきりと覚えている。
 気付けば、午後十時は過ぎていた。
 私の携帯電話はメールの着信を告げる。朝比奈さんとキョン君だ。
 それを開こうとしたところで、携帯電話が古泉一樹からの着信を告げた。
 私は、その電話を取り、人間になった事を実感した。どんな会話をしたかはあまり覚えていないが、私は皆からもらった気持ちに無上の、本当に無上の喜びを感じると共に、気持ちが満たされないという恐怖もあった。
 彼の、古泉一樹が私を見つめる顔が、ずっと消えない。まるで目の前にあるかの如く、記憶に留まっている。でも、彼が本当に目の前にいる訳ではない。目の前にいない事に憤りを覚えてしまう程、私の心は混乱していた。
 部屋の中は酷く冷え込んでいたが、全く気にならなかった。
 皆に貰った物を大切にクローゼットへ仕舞い込む。
 明日の朝、全部身につけていきたいが、一番身につけたいバッグだけは残念ながら無理だ。でも、明日は金曜日。
 土曜日には全部身につけていけるだろう。
早く、土曜日が来れば良いのに。

 

 

第四話

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