＊バッドエンド注意
１．プロローグ──とある日曜日
日曜日。
俺は、天にも上るような浮かれ具合で、デパートを闊歩していた。
なんといっても朝比奈さんと二人きりなのだ。これで浮かれない方がどうかしている。
朝比奈さんの様子を見る限りでは、ハカセくんを助けたいつぞやのときとは違って、何かの任務というわけでもなさそうだし、これはもしかしたらデートと称すべきものではないだろうか。いや、これはどこからどう見てもデートなのだ。
朝比奈さんの茶葉選びに付き合い、昼食はレストランでとり（もちろん、俺の奢りだ）、洋服屋なんかをウィンドウショッピングしたりした。
その後は、外に出て、あの川沿いの桜並木を散歩しつつ、たわいのない話をしてすごした。
そうこうしているうちに、時はあっという間に過ぎ、太陽が沈もうとしていた。
いやはや、楽しいときが過ぎるのはあっという間だ。
「キョンくん。今日は付き合ってもらってありがとう。とっても楽しかったです」
朝比奈さんは、うれしそうな笑顔でそう言った。
そんな顔を見せられると、俺までうれしくなってきますよ。
「いえいえ、こちらこそ楽しかったですよ」
幸せ気分一杯な一日は、こうして終わりを告げた。
それが明日に起きる事件の前兆だったとは、このときは気づくべくもなかった。
２．「機関」時空工作部最高評議会
「まず、最初に宣言しておきたい。本件については、私は評決を棄権する。ここにいる方々には、私が彼女と親しい関係にあるのは周知のことと思う。これは、公正な判断を下すために必要な措置。御異議はないか？」
沈黙。
「異議なしと認める。ただし、議論には加わらせてもらいたい。御異議はないか？」
沈黙。
「異議なしと認める。これより審議に公正を期すため、議長役を副代表に譲りたい。御異議はないか？」
沈黙。
「異議なしと認める。それでは、議長役を代表の私より副代表に委譲する」
「承りました。まずは、問題を整理しましょう。彼女の時空介入点は、２４５箇所。目的は、まあ、ありがちなことですね。典型事例といってもいいでしょう」
評議員たちの表情に変化はなかった。
本当によくある事例にすぎなかったからだ。
「彼女の時空介入は非常に巧妙なもので、補正をかけたとしても、すぐさま再介入されてしまう可能性が高いとみられます。つまり、彼女の行動そのものを停止させない限り、補正行為は無意味ということです」
「さすがに彼女は有能だ。まあ、どんな有能さも、悪用されてしまえば、害悪にしかならないが」
「彼女の時空介入による時間軸上書き効果の五次元速度は、異常な速さです。我々の物理的個人絶対経過時間に換算して、あと３日ほどでこの時空間は消されるでしょう」
自分たちが消されるかもしれないという事実を前にしても、評議員たちは冷静そのもの。
時空工作部の最高意思決定をつかさどる者たちは、鋼の精神の持ち主だった。
「彼女への禁則は無効化されたと見てよいでしょうか？」
「そうですね。もともと上級工作員に対する禁則事項はそれほど多くありません。それに禁則の暗示は、強固な意思があれば、案外あっさり解けてしまいます。強力すぎる暗示は精神を破壊してしまいますから、これは致し方ないことですが」
副代表の言葉は、この場の全員に周知の事実だった。ただ再確認したにすぎない。
「TPDDの停止措置は？」
「停止指令の五次元震動波が妨害されました。強制停止装置は、至近距離からでないと通じません」
以上で、前提条件は整理された。
議論は、これから始まる。
３．始まり
月曜日。
俺が登校して教室に入ると、いきなり谷口が大声で話しかけてきた。
「キョン。おまえ、やるなぁ」
「俺が何をやらかしたというんだ？」
「おまえが北高ナンバー１女生徒の朝比奈さんとデートしてたって学校中の噂だぜ」
待て。
昨日のあれを北高生に見られたのか？
しかも、噂となって学校中に広まっているとすれば……。
これって、非常にまずいような……。
「キョン！」
俺は、後ろから腕をつかまれて、強引に回転させられた。
目の前、至近距離に、ハルヒの怒り顔があった。
「いったいどういうことよ！ 洗いざらい吐きなさい！」
つばがかかってるぞ、ハルヒ。
などととぼけたことをいえる雰囲気でもなく、どうしようかと思ったところで、担任の岡部が教室に入ってきた。
ふぅ。とりあえず、問題を先送りできたぜ。
とはいっても、解決策が思い浮かぶこともなく、俺は背後からどす黒いオーラを感じながら、一時間目をすごした。
二時間目は、移動教室。俺は逃げるように、教室をあとにした。
俺は、落ち着かない気分で二時間目を過ごした。いっそのことこのまま時が止まればいいとさえ思ったが、そんな願いがかなうわけもなく、無情にも授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
俺は重い足取りで、教室に向かった。
その途中で──
「あの、キョンくん……」
うつむいた表情で俺の目の前にたたずんでいるのは、朝比奈さんだった。
「ちょっといいですか？ すぐに終わりますから」
朝比奈さんにそういわれて、俺は階段の踊り場までつれていかれた。
「何の用ですか？ どうせ、ハルヒがらみでしょうけれども」
そして──
「ごめんなさい……」
朝比奈さんが小さな声で謝った瞬間に、あれが来た。
強烈な立ちくらみ。
視界の回転。
目の前が暗くなり。
上下も分からなくなる平衡感覚の混乱。
上昇しながら落下しているような妙な感覚。
学校の喧騒がどこか遠くの出来事にように聞こえて……。
朝比奈さん。
この俺を「いつ」に連れて行こうというのですか……？
４．混乱
古泉一樹は、三時間目が終わったとたんに、部室に駆け込んだ。
予想通り、そこには長門有希がいた。
「５０分２３秒前に、TPDDの作動を検知した。彼と朝比奈みくるは、この時間平面からは消失している」
「行き先は？」
「分からない。私は同期機能を封じているから」
「まずいですよ。タイミングとしては最悪です。このままでは、閉鎖空間が頻発することになりかねません。未来人は何を考えているのでしょうか？」
「未来人あるいは朝比奈みくるの意図は不明。とりあえず、二人は早退したことにする」
その程度の情報操作は、彼女にとっては造作もないことだった。
校舎の玄関。
忽然と現れた姿は、朝比奈みくるであった。ただし、北高生としてここに在籍している彼女よりも大人な姿の。
彼女は、下駄箱に封書を差し入れると、再び姿を消した。
そこに、涼宮ハルヒが現れた。
キョンの突然の早退にますます機嫌を損ねた彼女は、自分も早退することに決めたのだった。
下駄箱を開けると、そこには封書が入っていた。
中には、便箋がひとつ。
涼宮さんへ
キョンくんと旅に出ます。
探さないでください。
朝比奈みくる
古泉一樹の携帯電話が鳴り響いた。
「はい。ええ、分かりました。至急向かいます」
彼は電話を切ると、
「すみません、長門さん。閉鎖空間が出ましたので、対応しなければなりません。では」
彼は足早に部屋を出て行った。
出て行った古泉一樹と入れ替わるように、喜緑江美里がやってきた。
「長門さんは、現状をどうみます？」
「涼宮ハルヒによる時空改変の危険性は低いと思われる。彼女もいつまでも幼稚な子供でいるわけではない」
「私も同意見ですね」
「ただし、閉鎖空間の頻発により『機関』の動きは拘束されることになる。朝比奈みくるがそこまで予測して動いていた可能性も否定できない」
「そうですね」
「朝比奈みくるの動きが、我々の基本的な任務にとって障害となる可能性もある。彼女たちの意図・目的を把握してすみやかに対処すべきと判断する」
「そのことなのですが、長門さんの異時間同位体から伝言を預かっています」
長門有希は顔を上げ、喜緑江美里をじっと見た。
「未来人の問題は未来人同士で解決する。現『時』人の干渉は無用──とのことです」
５．逃避行
俺が意識を取り戻したのは、どっかのベンチの上であった。
「あっ。起きましたか？ 大丈夫ですか？」
「いったい、ここはどこですか？」
「ええと、その、あれから二日後の東京の公園です」
えらく大雑把な答えだな。
「いったい、何なんですか？ いきなりこんなところに連れてきたりして」
「ごめんなさい。指令だったんです。こうしないとキョンくんの命が危険だからって……」
「そうですか」
命を守ってもらうのはありがたいですが、もう少し事情を話してくれてもいいような気がするんですがね、朝比奈さん（大）。
「そのう……ここにもあまり長く止まってはいられません。３０分おきに時間移動をするように指令されてます」
やれやれ。３０分おきにあれを味わうはめになるのか。酔い止め薬を持ってくるべきだったな。
「それから……」
朝比奈さんが、言いづらそうに切り出した。
「昨日付き合っていただいたのも、指令だったんです」
俺は、訝しげに朝比奈さんを見た。
「で、でも、私が楽しかったのは本当です！ それだけは本当ですから！ だから……！」
「いいですよ。怒ってなんかいませんから」
俺は、いきなり必死で言い訳し始めた朝比奈さんを何とかなだめる。
俺も楽しかったのは事実だしな。
そうこうしているうちに、３０分が経過したようだ。
再び、時間移動だ。
６．評決
議論は３時間ほどで収束に向かっていた。
「では、ここで評決をとることに、御異議はありませんか？」
沈黙。
「異議なしと認めます。第一議案、上級工作員朝比奈みくるに原状復帰命令を出すことに賛成の方は挙手を」
挙手８名。
残り一人は予め棄権を宣言している。
「賛成８、棄権１で、第一議案は決しました。続いて、第二議案、原状復帰命令に従わない場合に、上級工作員朝比奈みくるを死刑に処すことに賛成の方は挙手を」
挙手８名。
「賛成８、棄権１で、第二議案は決しました。続いて、第三議案、朝比奈みくるによる時空介入を補正する計画を修正案のとおり実行することに賛成の方は挙手を」
挙手８名。
「賛成８、棄権１で、第三議案は決しました。実行には朝比奈みくるを除く上級工作員の総員を動員することでよろしいですか？」
沈黙。
「異議なしと認めます」
すべての議案はスムーズに評決されたが、問題がひとつだけ残っていた。
「問題は、死刑執行人を誰にするかですね」
それが一番の問題点だった。
相手は凄腕の上級工作員なのだ。並の人間では、返り討ちにあいかねない。ましてや、原状復帰命令に従うように説得するのは難しいだろう。
しばし、沈黙が会議室を支配する。
「私に任せてもらえるだろうか」
発言したのは、さきほどの評決をすべて棄権した当人であった。
「私はいささか彼女を甘やかしすぎた面もある。よって、今回の件については、私にも責任がある。その責任をとりたい」
再び、沈黙が支配した。
しばらくして、議長役が口を開く。
「ただいまの長門評議員の提案に御異議はありませんか？」
沈黙。
「異議なしと認めます。長門評議員には、最高評議会の名において、上級工作員朝比奈みくるへの原状復帰命令の伝達及びそれに従わない場合の死刑執行の任を命じます」
「命令受領した」
「以上で本日の評議を終了します」
長門有希は、会議室を出て、自室に戻った。
情報統合思念体に、これからの行動方針を報告する。
情報統合思念体からの返答はただ一言。
──了承する。
７．朝比奈みくる（小）
９回目の時間移動が終わりました。
公園のベンチ。
私の隣には、キョンが寝ています。
適性のない人には、連続での時間移動は非常に辛いはずです。
申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
これは、指令に基づく行動。
それは分かっているのですが。
こうしてキョンを見ていると、このまま二人で逃げてしまいたい。
そんな風に思うのも、事実なんです。
そんなことが許されるわけもないことは分かっているんですけれども……。
でも……でも……！
８．朝比奈みくる（大）
「この組織に残ることは、相当な覚悟を要することである」
時間常駐任務から帰還した私に、長門さんはこう告げました。
「この組織は、正義でも善でもない。自縄自縛に陥った愚かな存在にすぎない」
長門さんは淡々と話を続けます。
「最高評議会の評議員たちは、その愚かさを自覚した上でなお、いかなる事態においても冷静な判断を行なうことができるという、ある意味では尊敬に値する人々である」
それが、長門さんのようなヒトにとっては、最高級の賛辞であることは、私にも理解できました。
「非人間である私が尊敬に値すると評価せざるをえないような人間たちの決定に従わなければならない。この組織に残るということは、そういうことである。あなたにはその覚悟があるか？」
そこで目が覚めました。
時計を確認。１０分ほど眠っていたようです。
もう少し体を休めたいところですが、この時間平面にもあまり長くはいられません。
時空工作部からの追跡をかわす必要がありますから。
それにしても、随分と懐かしい夢を見てしまいましたね。
結局のところ、私には長門さんのいう覚悟が足りなかったということなのでしょう。
まあ、それももうどうでもいいことです。次で最後ですから。
次の時空介入で時間軸の上書き効果をさらに加速して、補正を行なう時間すら与えずに、時空工作部が存在する時空間そのものを消し去ってみせます。
それで、私も消えることになりますが、小さな私はうまく残れるはず。そして、そのままキョンくんと……。
９．終わり
何回、時間移動を繰り返しただろうか。俺は、もう数える気にもなれなかった。
胸が気持ち悪い。
朝比奈さんが、心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか？」
「ええ。なんとか」
「ごめんなさい」
「いや、朝比奈さんが謝るようなことじゃないですよ」
謝らせるべきは、朝比奈さん（大）の方だろう。
「この次は、どこに行くんですか？」
「ええと、指令ではここで待機となってます。たぶん、新たな指令が来ると思うんですけど……」
「ここはどこですか？」
「あれから二ヶ月後の札幌です」
札幌のどっかの公園らしい。夜のせいか、人通りはない。
こんな状況でなければ、朝比奈さんと二人でベンチに座っているというのは悪くないのだが。
「寒いですね」
朝比奈さんはそういうと身を寄せてきた。
ええと、そのう……朝比奈さん？
俺がおおいに戸惑いまくっていると、俺たちに突然影がさした。
顔をあげるとそこには……、
「お久しぶりね。キョンくん」
暗い中でも見間違えようのない朝比奈さん（大）の姿だった。
「あ、あなたは……？」
朝比奈さん（小）が目を大きく見開いて、自分の未来存在の姿を見つめていた。
「いい雰囲気のところ邪魔して悪いけど、あまり時間がないの。あなたには、最終指令を伝達します」
朝比奈さん（大）が（小）の手を握った。
それだけで何かが伝わったらしく、
「えっ！？ でも、それじゃ、あなたは……」
朝比奈さん（小）の言葉を、（大）がさえぎった。
「いいの。私は、あなたが幸せであれば、それでいいから」
朝比奈さん（大）は、（小）をやさしく見つめている。
「……分かりました」
朝比奈さん（小）が、俺の方を向いた。
「キョンく……」
朝比奈さん（小）が意を決したように何かを言いかけた瞬間に、俺と彼女との間に、光線が駆け抜けた。
朝比奈さん（大）の髪の毛が何本かはらりと落ちる。
「あなたがたのTPDDは強制停止した。これ以上、どこにも逃げることはできない」
そこには、銃のようなものを握った一人の小柄な老婆がいた。
この暗がりでも、彼女が長老といってもいいほどの年齢であることはすぐに分かった。
「よりによって、あなたが来ましたか、長門さん」
朝比奈さん（大）の言葉に、俺と朝比奈さん（小）は唖然とした。
「他の者では、有能な工作員であるあなたに対抗すべくもない。組織としては当然の結論」
「……」
「上級工作員朝比奈みくるに命じる。直ちに、規定事項破壊行為を中止し、原状に復帰せよ。これは最高評議会決定である。従わない場合は、死刑を執行する」
長門（大）の言葉は、俺をさらに唖然とさせるに充分なものだった。
長門が、あの長門が、朝比奈さん（大）を殺すだと！？
「それは組織の決定ですよね。あなたの意思としてはどうなのですか？」
「情報統合思念体としても、このような規定事項からの逸脱を容認することはできない」
「私は、長門さん個人の気持ちを知りたいんです！ 長門さんだって、こうしたいって思ったことはあるでしょう！？」
朝比奈さん（大）は訴えかけるようにそう叫んだ。
「…………あなたの気持ちは理解はできる。しかし、受け入れることはできない。あなたは私の大切な思い出を故意に破壊しようとしている。私個人としては、それを許すことは絶対にできない」
朝比奈さん（大）の体がこわばったのが、俺にも分かった。
長門（大）は、冷たく告げた。
「これ以上抵抗するならば、あなたには死んでもらう。私が自ら手を下すのは、恩情と思え」
俺が何か言おうと口を開きかけたとき──
朝比奈さん（大）が動いた。
彼女は銃のようなものを右手にとり、それを長門（大）に向けようとする。
しかし、長門（大）の方が反応が早かった。
光線が朝比奈さん（大）の右手を貫通する。
続いて、心臓、頭、腹……。
ありとあらゆる急所がミリ単位の精密さで次々と撃ち抜かれていく。
穴だらけとなった朝比奈さん（大）の体が、ゆっくりと崩れ落ちていった。
長門（大）は、しばらく、その死体をじっと眺めていた。
そして、死体に近づくとゆっくりとそれを担ぎ上げた。
「組織の総員を動員して、時空間の補正を行なっている。朝比奈みくるの時空介入によって作られたこの時間軸は、補正による上書きによって消滅する。猶予時間は、あなたの物理的個人絶対経過時間に換算してあと１時間ほど。それまでの間は好きに過ごせばよい」
長門（大）は、それだけ言い残すと、俺が何かを言う間も与えず、消え去った。
横を見れば、そこには、放心状態のままの朝比奈さんがいた。
あと１時間……。
俺と朝比奈さんは、何もできずに、その時間をただ待つことしかできない。
１０．守られたもの
私は、墓の前で手を合わせた。
墓石には、朝比奈みくると記されている。
私は、身寄りのない朝比奈みくるを火葬に付して墓を建てた。
彼女に犠牲の上に、この時間平面は守られた。
いや、ごまかすのはやめよう。
守ったのは私の過去の思い出。彼女の命と引き換えにするには、あまりにも安いものといえるのかもしれない。
でも、それは私にとってはとても大切なもの。
私は、既に「機関」時空工作部最高評議会評議員の地位を辞していた。
もともと朝比奈みくるの監視のために就いた地位。彼女がいくなった以上、その地位に止まっている必要性はない。
時空工作部の監視は、他のインターフェースに任せておけばいい。
私は、任務の終結を報告し、有機情報連結の解除を申請した。
情報統合思念体からの返答は、ただ一言。
──申請を許可。
１１．エピローグ──とある日曜日
日曜日。
昨日に引き続いての不思議探索の召集。日曜日ぐらい休ませてくれという俺の願いなど、ハルヒに届くわけもない。
もちろん、俺はビリだったわけで、いつものごとく奢らされた。
この日は、くじ引きで班分けをすることもなく、五人で行動した。
デパートでハルヒと朝比奈さんがウィンドウショッピングをするのに三人が付き従い、二人が買い込んだ荷物はなぜか俺と古泉が持つことになった。
ハルヒよ、朝比奈さんの分はともかく、おまえの分はおまえが持て。
などと、心の中で思っても口に出すことはしない。
昼飯は、長門推奨のカレーショップでとった。店員たちが、長門とハルヒの食いっぷりに青ざめてたがな。
午後は外に出て、あの川沿いの桜並木を歩いたり、駅前公園の植木を掻き分けたり。
ハルヒははしゃぎまわり、朝比奈さんはいじられまくり、長門は淡々と歩き、古泉はどうでもいい薀蓄をたれてたりしていた。俺は、ずっとハルヒに突っ込みまくりだ。
なんだかんだいっても（俺の財布と体力の消耗さえなければ）楽しい一日は、こうして過ぎていった。
こりゃぁ、月曜日の授業は全部睡眠時間だな。
まあいいさ。
ハルヒがいて、朝比奈さんがいて、長門がいて、ついでに古泉もいる。
こんな日常がずっと続いてほしいと、俺は思っている。
