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素直なキモチ~第3話 パーティ~1

 昨日に引き続き、1月のとある休日
 昨日に引き続き、快晴
 そして昨日に引き続き・・・ハルヒといる。そんな今日。
 唯一引き続いてないのは今朝の俺。妹のフライングボディープレスで目覚めさせられた事だ。それもいつもより強烈で激しいときた。く、苦しい・・・。何をそんなに浮かれてるんだ妹よ。どうして起こしてくれなかったんだハルヒ。昨日は力で無理矢理起こしたくせに。これで病院行きになったらお前に治療費を請求するからな。
 なぜハルヒがいつも通りだったのか、それは次のセリフを言いたかったからだろう。


「キョンっ! 遅ーい!!  罰き・・・ん? 」


 指定時刻前に到着しつつも恒例のハルヒによる罰金宣告が中断された理由は


「おっはよ~!! ハ~ルにゃん! 」


 俺の後ろからヒョコッと出てきた妹を見たからだ。


「あらー! おはよー妹ちゃん」


 宣告時の怒り顔が瞬時ににこやかスマイルに変わった。大魔神かお前は。


「ほんじつはお招きいただき、ありがとうございます」


 ・・・これ、誰のセリフかわかるか? なんと妹だ。しかもちゃんと頭まで下げている。


「こ、これはこれは御丁寧に・・・」


 ハルヒも意表を突かれたのか、キョトンとした顔で妹に対し敬語で深々と頭を下げている。
 だがこの場で一番意表を突かれたのは俺だ。昨夜、ハルヒによる緊急感謝パーディにお呼ばれされている事を聞いた時の妹のはしゃぎっぷりときたら、さすがの俺も顔の筋肉がすべてユルユルになる位微笑ましかったんだが。
妹のやつ、いつのまにこんな技を習得したんだ? それとも俺の知らないうちにちゃんと成長していたのか?


「きのうお母さんがね、ハルにゃんにちゃんとお礼言いなさい、て練習したんだよ」


 そ、そうだったのか。まあ、練習するようなことでもないと思うんだが、それでもいいだろう。お兄ちゃんは嬉しいぞ、お前がちゃんと挨拶が出来る事に。


「ちゃんと挨拶してくれるなんて、どっかの誰かさんとは大違いね~」


 ニタニタしながらハルヒが俺の耳元で呟いた。誰だ、その”どっかの誰かさん” ていうのは。そんな名前の奴は俺は知らん。


「ま、いいわ。今回は妹ちゃんに免じて罰金は無しにしてあげる。感謝しなさい、妹ちゃんに」


 なるほど、この手があったか。これから市内探索には妹を連れてこよう。妹も喜ぶし、俺の出費も減る。一石二鳥だぜ。


「ばーか、今回だけよ。次からはきっちり徴収するからね」


 さいですか・・・。
 次にハルヒは、俺が肩から掛けてるキャリングケースを覗き込み


「シャミ、元気してたー? キョンにいじめられてない? そんときはあたしに言いなさいよー」


 シャミセンはもこもこした布団の山から顔だけを出していた。ハルヒに問い掛けられ、一度目を開けてハルヒを見つめたが、すぐ閉じて布団の山と一体化することに務め始めた。


「なんか元気無いわね」


 当たり前だ。今がどういう季節かわかってんのか? この時期に外に出せばみんなダルマになっちまうだろ。


「それもそうね。じゃ、行くわよ。キョン、これお願いね! 」


 先程から気にはなっていたもののなんだか恐ろしくて聞く気にならなかったんだが、その足元にある大きな二つのカバンはお前のか。クーラーボックスに旅行用のボストンバッグ。パーティは長門の家じゃなかったのか? いつ釣り大会に変わったんだ? 今の季節ならワカサギ釣りなんていいな。一度やってみたかったんだ。


「なにバカな考え事してんのよ。これはパーティ用に昨日少し準備してきた物よ。ほんとはあたしが全部作りたかったんだけ
ど、なぜか母さんが手伝わせろってうるさかったのよね~。あまりにしつこいから仕方なく半分位作らせたんだけど・・・」


 無念そうに頭を振っている。
 それはなハルヒ、ハルヒ母は嬉しかったんだよ。昨日聞かされた話だと、お前には今まで「友達」と呼べる存在がいなかったんだろう。当然パーティなんてもってのほかだ。そんなハルヒが、友達を招いて自らパーティを開くんだからな。


「ん~~、しょうがないわね、こっちはあたしが持って上げるわよ」


 ハルヒは俺と二つのカバンを交互に見交わした後、ボストンバッグを担ぎ、妹の手をつないで歩き始めた。俺は左肩にシャミセン入りのケースを、右肩にハルヒのクーラーボックスを担いで後を追った。いったい何が入ってるんだ? 結構ズッシリきてるんだが、こんなもん担いでハルヒは来たのか。今更ながらなんて奴だ。
 その後俺たちは、駅の反対側に最近オープンしたという大型のショッピングモール内にある24時間営業の食料品店で残りの食材を調達、長門の家へ向かった。手をつなぎ、何やら楽しげにしゃべりながら俺の前を歩くハルヒと妹は、まるで本当のなかよし姉妹に見える。


「妹ちゃん、今日はいっぱいご馳走作るから楽しみにしててね!! 」
「やったー!! でもあたしピーマン嫌いなの。だからピーマン入れないでね」
「OKOK!! じゃあそんな妹ちゃんでも食べれるピーマン入りの料理を作ってあげるわ! 」


 ナイスだハルヒ! 実は家でもお袋がなんとか妹にピーマン食べさせようと孤軍奮闘中なんだ。援護してくれ。
そして、ハルヒによる参戦表明を聞いた妹から、笑顔が消えたのは言うまでもない。
 そんな二人の姿は実に微笑ましいはずなんだが、今の俺にはそんな余裕なんかねえ。なにしろ、両肩のボックスに調達した食材入りの袋が新たに二つ追加されたんだ。袋がパンパンじゃねえか。何人分作る気だよ。おれは恨めしげに左のケースを睨む。窓から中を覗くと相変わらず布団の山と一体化している。なあシャミセンよ、この国には ”猫の手も借りたい” て言葉があるんだ。ちょっと使い道が違うがな、普段タダ寝タダ飯食らってんだから、少しはお世話になってる俺に恩返しぐらいしろよ。
 などと考えていたら、いつのまにか長門のマンション前に着いていた。俺はもうクタクタだ、早く休ませてくれ。

 



「すご~い! 有希ちゃんの家大き~い!! 」


 大いなる勘違いをしてるような妹につっこむ気力すら沸かず、俺はハルヒのクーラーボックスに腰掛けている。その間にハルヒはインターホンで長門を呼び出し、いま入口のドアが開いたところだ。


「さあ行きましょ、ってコラァーッ! キョンッ!! あんたどこに座ってんのよ!! せっかくの食材が不味くなるじゃないっ。いや、それ以前に団長の荷物に腰掛けるなんて、あんたには団長を敬うっていう団員としての基本的な心構えが無いわけ!? 」 
「ならお前は、団員を気遣うという団長としての基本的な心構えが無いのか!? 」
「なに口答えしてんのよ! あたしはちゃんと気遣ってるじゃない。ヒマにならないよう雑用係のあんたに荷物持ちというれっきとした仕事を与えてるでしょ」
「それのどこが気遣ってるって言うんだよ。朝からこんなに疲れさせやがって」


 たしかに朝から疲れてしまったせいで、気分が変に苛立っているというかなんというか、とにかく、おとなしく流すつもりが受けて立ってしまったわけだ。
 その時、タイムオーバーでドアが閉まってしまった。


「ああっ!! もう、バカキョンのせいで閉まっちゃったじゃない! ・・・・・・あ、有希? キョンのバカのせいで閉まっちゃったのよ。ごめんもう一度開けて」


 やれやれ。ふたたび開いたドアで俺達は中に入り、エレベータへ向かった。


「キョンくん、ハルにゃんに怒られた~」
「うるさい」
「あ~ん、ハルにゃん、キョンくん怒ってる~」
「ちょっと、妹ちゃんに八つ当たりすんのやめなさいよ。みっともない」

 はぁ~、もういいよ。

 



 はて、いま目の前にいる長門が妙に新鮮に見えるのはなぜだ? 私服姿の長門は、数えるほどしかないけど見ているが。
そうか、こいつの家での私服姿は初めてか? というわけで、部屋に入った俺達の目の前に突っ立っている長門は私服姿だ。
膝丈のデニムスカートに左胸にワンポイントが入っている白に近いグレーのパーカー。普通に見れば地味だが、こいつが着ると・・・やはり地味だった。さっき新鮮に見えたのは部屋の中での私服という見慣れない風景だったからか。


「わたしは、普段の制服で問題無しと判断していたのだが、彼女達が強く推奨するので仕方なく着替えた」


 一見無表情ながら、自分の判断を捻じ曲げられた事に対する不服が一つまみ分含まれたような目で言ってきた。
彼女達? すると、長門の背後からその”彼女達”が姿を現した。


「おはようございますぅ~! 」
「おはようっさー!! 」


 我が北高が誇る美少女トップ2(2年の部、監修 俺)、朝比奈さんと鶴屋さんだ。さっきまでの疲れた気分が今日の青空のように澄み切っていくような笑顔で挨拶してくれた。


「わぁ~、みくるちゃんにつるにゃん!! おっはよ~! 」
「あれーもう来たんだ。12時からって連絡したのに。まだ10時よ」
「準備をお手伝いしようと思いまして、早めに来ちゃいましたぁ~」
「あたしは長門っちの家知らないから、みくるに付いてくしかなかったんだけどねー。まっ、早く行くことに異存はなかったっさー! 」


 俺達は部屋に上がり奥の居間に入ると、一人だけ妙にくつろいでいる奴がいやがった。


「おはようございます、みなさん」

「なんだ古泉、おまえももう来てたのか」
「ほんの5分程前ですけどね」
「あ~、いっくんだ! おっはよ~! 」
「おはようございます、妹さん」
「なによ、結局もう勢揃いしちゃってるわけ? しょうがないわね。有希、キッチン借りるわよ」
「あ、わたしも手伝いますぅ~」
「いいのよみくるちゃん、今日はゲストなんだから」
「いいえ、やらせてください!! 涼宮さんのお料理、勉強したいです!! 」


 日頃のメイド魂に火がついたのか、相変わらず変なところで真面目な性格たる所以か、どっちにしろいつになく強気の朝比奈さんに押され、ハルヒも了承して二人してキッチンへ向かう。
俺は、そんな二人に占領されてたまるか、ここはわたしの部屋よ、と領有権を主張しに二人の後を追おうとする長門を呼び止め、ハルヒに聞えないように


「長門、悪いな、シャミセンまで連れて来ちゃって。ここ、ペット大丈夫か? 」
「本当はペット禁止。でも問題ない。いまわたしの部屋の周囲に遮蔽フィールドを展開してある。この部屋にいる限り、鳴き声や体臭が外に漏れる事はない」


 いつもいつも悪いな。


「・・・それに」


 長門の表情が、たぶん俺にしかわからない位の変化でやさしくなり


「わたし個人としても、また会ってみたかった」
「会ってみたかったって・・・シャミセンにか? 」


 コクッと前髪が少し揺れる程度に頷く。
この間の冬合宿で会ったばっかだが、そういやあの寸劇の後、雌シャミセンになつかれてたみたいだったな。それで目覚めちまったか。でもいい傾向じゃないか、長門がいろんなことに関心を持ち始めるのは。そういう事なら協力は惜しまんぞ。


「・・・そうか。じゃあ今日はあいつの相手頼むな」


 再び頷くと、長門はキッチンへ向かった。そんな、なんとも羨ましいあいつはというと、ようやく布団の山から抜け出し、妹の呼び掛けで周囲を警戒しつつもゆっくりとケースから出てこようとしている。


「こりゃ、あたしの居場所はないねー。悪いけど向こうで待たせてもらうっさー。お三方、楽しみにしてるにょろよ! 」


 長門が参戦したことで帰ってきた鶴屋さんは、妹とシャミセンと遊びだした。


「ちょっとよろしいですか? 」
「いぃぃっ!! 」


 笑顔でいきなり耳元で囁くな、息を吹きかけるな、顔を近づけるな古泉!


「失礼しました。実は涼宮さんのことで・・・」
「ちょっとキョン!! なにサボってんのよ! 」


 見ると居間の入口でハルヒが仁王立ちで怒鳴っていた。いつの間に着けたのか、オレンジ色の首から掛けるエプロン姿だ。こんなやつでもエプロン着けると、それなりに見えてしまうな。あくまで外見のみだが。


「サボる? 俺は別に何も言い付けられてないぞ」
「あんたねー、いつになったら自分の立場を理解出来るのよ。雑用でしょ、こっち来て手伝いなさい!! 」
「はあ? だがしかし・・・」


 俺は、先程居場所が無いと言って帰ってきた鶴屋さんを見ると、ニカッとウィンクが返ってきた。・・・はぁ、そういう事ですか。


「お話は後ほど」


 古泉の営業スマイルに見送られて、俺は戦場へ引っ張り出されていった。お前なんかに見送られたくねえ。鶴屋さんと妹もニコニコしながらこちらに手を振っている。


「キョン君ーガンバってくるにょろよ! 」
「キョンくんばいば~い」


 笑顔で不吉な挨拶をするな、妹!

 



「ふぁぁ~涼宮さんすごいですぅ~。どこで教わったんですかぁ~? 」


 と朝比奈さんがハルヒの手際に目を丸くして驚いてる。ちなみに朝比奈さんは、フリルで縁取られたピンクのハルヒによく似たエプロンだった。いやーこの人のエプロン姿は癒されるね。


「料理なんて、見ただけで誰だって出来るのよ」


 それが出来るのはお前と長門くらいだろう。みんなが出来たら、三つ星ガイドブックが広辞苑並の厚さになっちまうぜ。
ところで長門、お前の白いエプロンにプリントされてる図柄だが、そのデフォルメされて手を振っている動物って・・・


「・・・うさタン」


うさタン・・・ね。


「有希、どっちが早くできるか勝負よ! 」
「・・・負けない」


 と、ハルヒは長門にキャベツの千切り勝負を挑み、その後、物凄い包丁の音が響き始めた。あのコンピ研との対戦で見せた、長門のスーパー高速キータッチの千切り版のような感じだ。それもダブルでだ。うさタンも驚いてるぞ。


「あ、あの・・・、そんなに早くしたら、指を切っちゃうんじゃあ・・・」


 こわごわと二人の包丁裁きを見ている朝比奈さん。時々、きゃっ、わひゃっ、はわわわといった、可愛らしい嬌声を上げている。結果、勝負はハルヒが僅差でやぶれ、


「くぅぅぅ~負けたわ。いい有希、いつかかならずリベンジよ! 」
「・・・いつでも受けて立つ」


 おまえらなー、そんなことしてちゃんと食えるもん作ってくれるんだろうな? それと長門よ、ハルヒを悔しがらせてどうする? ヘタすりゃキャベツの千切りで世界が崩壊しちまうぞ。そんな事で世界が終わるのは御免だぜ。


「ちょっとキョン! いつまで皮むきしてんのよ。もっとこう、パッパッと出来ないのっ!? 」


 自分の尺度で物事を計るな。料理なんか普段やったことねえんだよ、こっちは。


「いまどき、料理の一つも出来ない男なんて相手にされないわよ。そう思うでしょ、みくるちゃん」
「そ、そうですね~。でもキョンくんの作った料理、食べてみたいですぅ」


 微笑みながら朝比奈さんにそこまで言われたら俺は、最近お袋がなにげにさり気なく見せてくる予備校のパンフを、料理学校に変えてみるか。


「・・・わたしも、食べてみたい」


 この発言によりキッチン内の時間が止まり、一気に三人から視線の集中砲火を浴びる事となった長門。えーと、長門さん?


「・・・有希、それ、本気? 」
「あ、あの~長門・・・さん? 」


 長門は無表情のまま、ハルヒと苦笑いの朝比奈さんを見つめ、最後に俺を見て首を傾げる。長門よーたのむぜ。そういう時は少しでもいいから微笑んでくれよ。まじめな顔だとよからぬ誤解をだな・・・おいハルヒ、お前までなにマジな顔してんだよ。


「んんんん有希!! さっきのリベンジよ、 もう一度勝負!! 」


 ほらみろ。ハルヒのやつ、へんな対抗心持っちまったじゃないか・・・て、なんでこいつがこうなるんだ?
長門は、ハルヒの肩越しに後ろの俺を見ている。俺はアイコンタクトを送った。


「・・・わかった、受けて立つ」


 その ”わかった” というのは、俺のアイコンタクトの意味もわかったという事とのダブルミーニングだよな、そうだよな?
結果、今度は僅差でハルヒの勝ち。


「でもこれで1対1の同点ね。有希、勝負はこれからよ! 次回を楽しみにしてなさい」


 フフン、と不敵な笑みを送るハルヒ。それを相も変らぬ表情で受けとる長門。だが俺には見える。ハルヒを見つめる長
門の瞳の奥に、メラメラと燃えたぎる熱き炎がっ!! 、てこれどんな話だったっけ?

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