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1.

 

俺が北高に入学し、SOS団とかいう世にも奇妙な団体に入団してから、いや、拉致されてからと言ったほうが正しいだろうか、まあそんな感じで早々と時間は過ぎ去り、二回目の夏休みを迎えていた。その間にもいろいろと、古泉発案の第二回SOS団夏合宿やら、その古泉が真っ青になり、朝比奈さんがおろおろとし、長門が奔走しまわった事件などがあったのだが、ここでは語らないでおこう。それはまたいつか他の機会があれば話そうとおもう。

さて、俺は今、クーラーがきいた自室で朝から久々の惰眠を貪っている。

両親と妹は商店街の抽選で当たったとかいう三泊四日温泉旅行の三名様用チケットとやらを使って今朝早くから出かけてしまった。俺を置いてな。

全く酷い家族だぜ。母親いわく、あんたは涼宮さん達と合宿に行ったでしょうが。だったらあんたは行かなくてよし、なんだそうだ。

悔しいから見送りなんてしないで寝てようとしたのだが、朝早くから妹のフライングボディープレスを喰らって起こされ、結局見送りをする羽目になった。

何が悲しくて自分が行かない家族旅行の見送りなどせねばならんのだ。

はぁ。それにしても何も変わってないな、マイシスターよ。

学年が一つ上がって六年生になったんだ。そろそろ毎朝の過激な起こし方はやめてくれないか?お前だって成長して大きくなってるんだぞ、お兄ちゃんの身体がそのうち壊れちまうじゃないか。起こしてくれるのは助かるがもっと静かに起こしてくれ。少しはミヨキチでも見習ったらどうだ?

はぁ。それにしても何にも分かってないな、マイマザーよ。

合宿とは名目上のものでしかないのが何故わからんのだ。終業式当日にいきなり明日から合宿と言われ、強制連行同様に連れて行かれたんだぞ。去年もそうだったではないか。

これで俺の長い夏休みの最初の数日くらいは誰にも文句を言われず昼過ぎまで寝続ける日々を送ろうという周到な計画は二年連続で失敗に終わった。

・・・予想していたことだがな。ハルヒのことだ、どうせあいつは夏休み初日から厄介事を持ってくるのだろう。そう思って何も予定を入れてなかった自分もいたりした。万が一予定を入れてたとしても合宿に強制連行されていたと思うが。

そうそう、言い忘れていたが今日はSOS団の第二回夏合宿の次の日なのだ。

どうやらあのハルヒでさえ少しは来たらしく、

「明日と明後日はSOS団はお休みよ。だからこの合宿の疲れを完全に取り去っちゃいなさい。明々後日からは忙しいんだからねっ」

と解散前に言っていた。

「どうせキョンは寝てるだけなんでしょ?だったらあんたはこの二日間で宿題を全部終わらせときなさい。去年みたいなことになったらあんた死刑じゃ済まさないわよ?」

というありがたいお言葉まで頂戴したがな。生憎俺は宿題は最後の最後までとっておくタイプなんだ。知ってるか?宿題ってのは出すまでが宿題の期間なんだよ。だから提出前に国木田あたりにでもちょちょっと写させてもらえばいいんだ。今年の宿題はそこまで多いもんでもないからな。ん?谷口?そんなの俺の知ったこっちゃねえや。あいつのことだからどうせ宿題は学校にでも置いてあるんだろ。終業式の帰りにまるで中に何も入っていないかのように鞄を振り回してたしな。

まあそんなわけで俺は一言多い団長様からのお言葉にあやかって数日遅れののどかな生活を送っているわけだ。あのハルヒが休みをくれたんだ。これを棒に振ったらもったいない。

誰も邪魔することのない平和な朝。これこそが俺の求めていたものである。

そのなかでもやっぱりクーラー+柔らか布団は最高だな。俺はこれのために夏休みを迎えたといっても過言ではないだろう。できることならば、この平穏な時間がずっと続いてほしいものだ。

よし、午前中はずっと布団の中で過ごそう。幸い朝飯は見送りのときに食っちまったからな。シャミセンはいるが・・・そうか、お前もここで寝たいか。うんうん、お前も分かる奴だなぁ。それでは一緒に寝ようではないか、とまどろみ始めたころだった。

とんとん。何者かが俺の肩を小さく叩く。それが誰かなんて考えるまでもない。

こらシャミセン、やめなさい。俺は寝たいんだ。

とんとん。なんなんだよ、しつこいなあ。そう思って寝返りを打つと、何か暖かくて毛むくじゃらなものの中に顔を突っ込ませてしまった。

むっとして目を開けるとそこには丸くなったシャミセンが。

俺は一気に眠気がすっ飛んだ。

考えてみろ。俺とシャミセンしかいないこの家で叩かれた肩。しかしシャミセンは俺の横でぐーすか寝ているときた。

じゃあ・・・・・・

一体俺の肩を叩いているのは誰なんだ?

そう考えてるときに声が聞こえてきた。

俺はその言葉に一番驚かされたね。いや、誰だって驚くだろう。全く実に覚えがないのにこんな言葉を聞かされた日にはな。

「…ねぇ、おきてよ?おとーさん!」

イマナントイッタ?

「おきてってば、おとーさん」

恐る恐る声のする方向へ顔を向ける。

・・・誰だ、こいつ。そこには白いワンピースを着た髪の長い見知らぬ女の子が立っていた。

いや、正確言うと、どっかで見たことあるような気がするんだが・・・

駄目だ。思い出せん。

それはいいとしてだな。これはどういうことだ?一体何が起きている?この状況が分かる奴、全部説明しろ。

ねえ、君はどこから入ってきたのかな?どうしてここにいるのかな?パパとママが心配してるから早く帰りなさい。それと俺とどっかで会った事あるか?

「なにいってるの?おとーさん。ここおとーさんのおうちでしょ?」

・・・・・・へ?どうなってるんだ?

「ちゃんとしてよね、もう」

あぁ。そういうことか。きっと俺が寝てる間に誰かに襲われるか襲うかしてだな・・・

どっかで見たことあるのはその相手の面影なんだな、うん。

・・・・・・ってそんなことあるか。あれだ、あれ。どうやらハルヒの神様パワーとやらで世界が改変されちまったらしい。この歳で父親だなんてありえないからな。ネタが分かっちまえばもう何も驚くことはない。さっさと長門に連絡してどうすればいいのか聞くとしよう。やれやれ、結局俺には心休まる日というのは無いってことなのかねえ。

「おとーさん、なんかへんだよ?どうしたの?」

心配そうに聞いてくるマイドーター。どうせもとに戻ったらこいつは消えちまうんだ。少しの間だが可愛がってやるとしよう。

「ん?何でもないぞ。娘よ。」

そう言って頭をぽんぽんやさしく叩いてやると、猫を膝に抱いて背中を撫でているような笑顔で笑った。はて、なんでだろう。何故か脇腹が痛むんだが。

まあいいか、ひとまず長門に電話しよう。

携帯の電話帳から長門の自宅番号を選んで電話をかける。1コールもしないうちに長門がでた。いつも思うことなのだが、こいつはいったいどんだけ電話に出るのが早いんだ?まさか家ではいつも電話の前にいるんじゃないのか?

「もしもし、俺だが長門か?」

「…そう。あなたが危惧しているような世界改変は起こっていない」

そうか、起こってないのか・・・ってちょっと待てよ?じゃあこいつは何なんだ?まさか本当に俺の娘だとでもいうのか?とういうか長門よ。何故お前は俺がまだ聞いてもいない事の答えを言えるんだ?もしかしてこいつは人の心が読めるのではないだろうか?

「…大丈夫。そこにいるのは貴方の子供ではない」

そうか、お前がそう言うのなら確実だな。だが長門よ。人の心を勝手に読むのはよそうな。俺は娘のことはまだ一言もお前に言っていないぞ。

「…善処する」

「んで、長門よ。お前は俺にここにいるこの子は俺の子ではないといったよな?じゃあ誰なんだ?朝比奈さんみたく未来からきたのか?」

ぽんぽんとベッドに座って電話をかけている俺の横でシャミセンをいじっている女の子の腰の辺りまでありそうな長い髪の毛を撫ぜてる。するとその子はふふっと笑った。うん、癒される。俺も親になるんだったらこんな娘を持ちたいものだ。

「…そうではない。付け加えるならば古泉一樹関連の事柄でもない」

ハルヒでも朝比奈さんでも古泉でもないだと?じゃあ一体なんで俺のところにいるんだ?

「…電話では情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。だからその子を連れてわたしのマンションに来て欲しい」

分かった。すぐに行くから待ってろよ。

「…それと」

なんだ?長門でも言い忘れるようなことがあるのか?

「…なんでもない」

お前がそういうふうに言うなんてめずらしいこともあるもんなんだな。なんだか声に少し緊張した色が混じっていた気もするが、本人が言いたくないのなら仕方ない。気になるがマンションに行くまで我慢するとしよう。

「…それでは待っている」

分かった。またお前に助けられちまったな。

「…いい。今回のことはわたしも原因因子の一つだから」

どういうことだ?それは。まあマンションで聞けばいいか。

「それじゃあ切るぞ」

「…分かった」

そう言うと俺は電話を切った。今日の長門はどこかおかしい。三点リーダはあいつの十八番だが、今の会話の中にはありすぎではないだろうか?何か悩んでいるようにも見えたが・・・。声だけではちゃんとは分からん。

「ねー、おとーさん、なんのおでんわだったの?」

ん。何でもないぞ。だがちょっと用事ができちまった。

「ごようじ?おとーさんどこかおでかけしちゃうの?」

そう悲しそうな顔をするな。ちゃんとお前も連れていってやるからな。

「ほんとに?ふふっ。おでかけだ~!」

さっきの顔から一変して笑顔になった。変わり身の早い奴だ。そういえば妹もこのくらいの時はこんな感じだったな。もっとも、今もそう大差は無いように思えるが。兄として心配極まりないぞ。

「ちょっとリビングで待ってなさい。俺はまだ着替えてないし、行く準備ができてないからな」

「は~い。リビングでまってるね」

そう言うとたたたっと走っていった。こら、女の子が廊下を走っちゃいけません。

「は~い」

返事が聞こえてからは走る音が聞こえなくなった。うん。よろしい。聞き分けのいい子だ。

妹よ。お前もこれくらい聞き分けがよければいいのだが、それは無理な相談なのだろうか?

さて、着替えるとするか。

俺はパジャマを脱いで、ジーンズと半そでのシャツを装着する。準備完了。

・・・我ながら早いな。それじゃ、出かけるか。さらば、布団よ。あの子には悪いがこのままじゃいろいろとまずいからな。早くなんとかしないと。

着替えが終わった俺はリビングに向かった。部屋に入ると、我が娘はソファーで姿勢を正して静かにちょこんと座っていた。

「あ、やっときた!どう?おとーさん。わたし、ちゃんとおんなのこらしくできてた?」

俺がリビングに入るとてくてくと近づいてきた。さっき言ったことを気にしてたのか?うん。ちゃんとできてたぞ。よしよし、いい子だ。

そう言って頭をくしゃくしゃと撫でてやる。あ、ちょっと照れてる。さっきも言ったがこんな娘を俺も持ちたいもんだ。まあ仮にも今は俺の娘なんだが。

「じゃ、出かけるぞ」

「うんっ!」

元気いっぱいに答える娘。こっちまで元気になってくる。

・・・あれ?もしかして俺、親馬鹿になってる?いやいや、そんなことないって。多分。

そんなわけで家を出た俺たち。長門のマンションへは歩いていくことにした。自転車のほうが早いんだが危ないからな。もし振り落とされでもしたら大変だ。

それにしても暑い。なんせ今は夏の昼近く。道にはほとんど人影がない。それはそれで好都合なんだが。夏は暑いもんなのよ、とどっかの団長様は言っていたが、まさかこの暑さもハルヒが作り出してるんじゃないだろうな。もしそうだとしたら迷惑極まりない。さっさと止めさせなければ。

なんて考えていると、

「・・・ねぇ、おとーさん、あとどのくらい?」

という言葉で思考がこちら側に戻ってきた。みると我が娘がぐったりしてるではないか!

これはピィィィィンチッ!!!と某教育番組の黄色いタイツ男のように心の中で叫ぶと娘をそばの公園の日陰のベンチに置いて近くの自販機まで全力疾走。俺の分と娘の分の二本のスポーツドリンクを買うと疾風のようにもとの場所へ戻った。別にこのくらい普通だよな?全然親馬鹿じゃないよな?

そんな事は置いといて娘にスポドリを渡すと、ありがとー、ちょっと疲れた笑顔で言って受け取った。俺も飲むとするか。

ゴクゴクゴク。ぷっはあ!!!暑いなかでスポドリ一気飲み。家の中やスポーツ後に飲むのもいいが、これはこれで旨い。疲れてればなおさらだ。

早々と飲み終わった俺に対して娘は缶を両手で抱えてコクコクと少しずつ飲んでいる。

そういえば昔、親父とまだ小さかった妹と一緒に出かけたときに今と似たような場面があったが、確かあの時の親父がなんともいえない表情をしていたな。今ならそれも分かるような気がする。なんか癒されるというか、和むというか、まあなんとも言い難い感じだ。

だから俺もあのときの親父と同じことを言ってやろうと思う。

「さ、父ちゃんの肩に乗れ。疲れたろ?肩車してやるぞ」

と言ってしゃがみこむ。じゃないと乗れないからな。

「え?いいの?おとーさん、つかれちゃわない?」

子供が親の心配をするもんじゃありません。こうみえてもおとーさん、若いんだぞ。なんてったってまだ十七歳だからな。

「うんっ。分かった。ありがとーね、おとーさん」

よし、じゃあさっさと乗りなさい。ほれ、その缶、一旦こっちによこしな。乗るときに邪魔だろ?

「いいか?立つぞ。・・・よっこらせっと」

そう言って俺は立ち上がった。ここで一つ誤解して欲しくないところがあるのだが、俺は決して親父くさいわけではない。ただ暑いから自然と口に出ちまっただけだ。そこんところを間違えないでほしいね。・・・って俺は誰に説明してるんだか。

「それじゃ、行くとするか」

おー、という娘の声援を耳に俺は長門のマンションまでの道のりをさっきよりも少し早足で、かつ上に乗っている娘が落ちないように注意しながら歩き出した。

それからしばらく何の他愛も無い話をしながら歩みを進めたわけだが、ん?どんな話をしたかだって?そりゃあ相手が小さい子だからな。あの雲はなになにに似てる、とか、これはなんて名前か、とかまあそんなもんだ。特筆すべきことは無かったように思う。おとーさんおとーさんと連呼されていれてるのをどこかの奥さんに聞かれて白い眼で見られたのが数回あったこと以外はな。

はぁ、こんなのがハルヒに知られた日には、

「あんた、死刑だから」

の一言で殺されちまうんだろうな。もしかしたら、何やってんのよ、このロリキョン!かもしれないが。どっちにしても俺の死は免れないだろう。俺ができることはこれ以上誰かに見られないうちに長門のマンションにたどりつくことだけだ。

頼むぞ、仏様。俺を導いてくれ。普通ならばここは神に祈るところだとおもうのだが、古泉いわく、神とやらはハルヒらしいからな。神には祈れん。ばれちまったら大変だ。

とまあ娘と適当に会話をしつつ、そんな事を漠然と考えてるうちに長門のマンションまでついていた。ウィーン、と音をならして自動ドアが開くのと同時に冷たい空気が流れ込んでくる。ふう、涼しい。やっぱりクーラーはいいなぁ。

「ねぇ、おとーさん。いつまでかたぐるましてるの?もうついちゃったよ?」

ああ、すまん。すっかり忘れてた。今降ろしてやるからちょっと待ってなさい。

と言ってしゃがみ、中腰くらいになったときだった。

「とうっ」

という掛け声とともに俺の肩を蹴って後ろに飛び降りた。何ぃ!?俺を踏み台にした!?・・・じゃなくって、

「危ないだろうが。怪我でもしたらどうする。そんなことやっちゃいけません!」

振り返ってみると、一、二メートルくらい後ろにくったくのない笑顔を浮かべて立っていた。着地の瞬間は見ていないが、転んだりしてないように思う。

まあひとまず一応は軽くでも叱っておかないとな。どっかの誰かさんみたいになっちまう。

「ごめんなさい。でもざんねん。おとーさん、おどろくとおもったのにな」

十分驚いたぞ。この運動能力は目を見張るものがあるからな。その証拠に、すでに俺よりいいんじゃないか、とか、この歳でこんなに飛べるなんて人間じゃないみたいだな、とか、思っちまったし。

いかんいかん、ここに来た目的を忘れてた。俺は708号室を呼び出した。ぷつん、という相手がインターホンに出たことを示す音を確認すると、マイクに言った。

「長門か、俺だ。入れてもらっていいか?」

「…入って」

かしゃんと音がして玄関の鍵が開く。興味津々、といった感じで辺りをきょろきょろしている娘に、行くぞ、と声をかけ、ちょこちょことこっちにくるのを確認してからエレベーターに乗り込む。

「今から父ちゃん大切なお話があるから、その間ちゃんといい子にしてるんだぞ」

「うん。分かった」

「いい子にできてたらあとでアイス買ってやるからな」

そういうと目を輝かせてさっきより元気に、うんっ、と言って膝の前に手をそろえて気をつけの姿勢をし始めた。おいおい、まだ早いぞ。

チーン、と目的の階に到着したことを知らせる電子音がして、エレベーターから出た。

708708は、と。あ、ここだここ。ドアのネームプレートに長門有希と書かれているのを確認すると、ドアの横についているチャイムを鳴らす。

ピンポーン。長門、俺だ。そういうが早いか、かちゃんとドアの鍵が開き、中から小柄な宇宙人が出てきた。

「…入って」

とデジャビューかと疑いたくなる返事を聞いて、うながされるままに俺は長門の部屋へ上がりこんだ。そういえば、俺が初めて長門の家に呼ばれてからずいぶんたつが、これで通算何度目なのだろうか?数えてみると結構な数になる気がするが・・・まあいいか。

娘のほうを見ると、動きが少しぎこちないようだった。そりゃそうだ。いきなり知らない人の家に連れてこられたんだからな。男だったら気にせずに騒いでいたかもしれんが、こいつは女の子だ。ちなみに俺がガキのころは騒いでいた・・・・・ような気がする。

なんて少し懐かしいことを考えながら玄関に入り、靴を脱いで部屋に上がると、今までどおりに俺はちゃぶ台へと進んだ。長門が話しをするときは大抵このちゃぶ台だからな。

「なぁ。」

後ろにいる長門に振り向きながら話しかける。

「こいつはどうすんだ?違う部屋に連れて行ったほうがよくないか?それとも一緒に話を聞かせてもかまわんのか?」

「どちらでもかまわない。恐らく彼女の今の状態では恐らく理解することが不可能であると推測される」

あのですね、長門さん。いつも普通に理解できない俺はどうすればいいのでしょうか?

「………」

長門は少し困ったような顔をした。はい、すみませんでした。俺は、心の中で手を合わせてそっと謝りながらちゃぶ台の前に座った。

さてと、こいつはどうするかな。俺の横に正座している娘をみる。ちゃんと手をそろえて膝の上に乗せ、唇を真一文字に結んで少し下を向いている。やっぱりいっちょまえに緊張してたのか。なら少しその緊張をほぐしてやるか。俺は今一度頭をくしゃくしゃと撫でてやる。家で撫でたときにうれしそうにしてたからな。きっと頭を撫でられるのが好きなんだろう。案の定娘は俺のほうを向いてにこっと笑い、落ち着いたようだった。

本題に入ろうと思って長門のほうを向くと、長門と目が合った。

「どうした?そんな珍しい光景か?」

「……なんでもない」

どうしたんだ、こいつ。長門鑑定家を自称する俺でもその目から真意は読み取れなかった。

もしこれが妹だったら羨ましがってるんだろうが、流石に長門でそれはないだろう。うーん、俺もまだまだ修行が足りないな。おっと、話が脱線しちまった。

「んで、話ってのは何なんだ?」

「……………。」

少し話しにくそうな顔をしてお得意の三点リーダを放つ。俺は俺が娘を撫でてやっていた間に入れてくれたのであろうお茶をすすりながら返答を待った。ずずず・・・。おっ、こいつまた腕を上げたな。もう少しで朝比奈印のお茶レベルになるのではないだろうか。

「…情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でもできるだけ簡単に離すから聞いて」

長門の言葉で我に返る。おう。いいぞ。何でも聞いてやるよ。俺だって伊達に今までSOS団やってる訳じゃないんだ。多少のことでは驚かんぞ。まあ長門が俺個人に話をするときはほとんどが凄い代物なんだがな。

「…情報統合思念体全体の意思として、朝倉涼子の再構成が決定した」

脳裏に一瞬ナイフを俺の腹にねじ込んできたときの冷笑を浮かべた朝倉の顔が浮かび上がる。冗談じゃない。きっと今のは俺の聞き間違いだ。そうに違いない。

「すまんな、よく聞こえなかった。悪いがもう一度だけ言ってもらえるか?」

「情報統合思念体全体の意思として、朝倉涼子の再構成が決定した」

聞き返して得られたものは冷酷な現実だった。あの殺人鬼・朝倉が復活する。

そう考えたとたん、向こうの世界で刺された脇腹に鈍い痛みが走り、俺はうっと声をあげて顔をしかめた。ちょんちょん、と俺の腕がつつかれる感触がし、その方向を向くとそこには娘が不安そうな顔をしていた。

大丈夫だ、ありがとな、という意味をこめて微笑を浮かべると、娘もそれを理解したのか手を引っ込めて目線をもう一度自分の膝に向ける。ほんとありがとな。助かった。

「大丈夫?」

長門のその目に俺を心配しているようなオーラが宿っていた。お前もありがとな、長門。

「もう大丈夫だ。続けてくれ」

コクッと頷くと淡々と話を再開した。

「朝倉涼子は優秀なインターフェイス。情報操作能力はわたしに少し劣るものの、戦闘能力に関して言うならばほぼ互角をいっても差し障りは無い。それゆえバックアップとしての価値はかなり高いクラス。去年の冬の山荘での事件も朝倉涼子が存在していればすぐに解決できたはず。それに今のわたしにはバックアップが存在しない。天蓋領域のインターフェイスがこの時間平面上に存在する今、それはとても危険。そう考えて情報総合思念体は朝倉涼子を再構成することにした」

つまりだ、おまえの手助けのために復活する、ということか?

「その危険というのはわたしだけでなく涼宮ハルヒやあなたにも及ぶ可能性がある。もしそのような事態が起きたときにわたしが自立行動不能の場合の保険、という意味も含まれている」

でもどうして朝倉なんだ?喜緑さんや他のインターフェイスとやらじゃ駄目なのか?

「わたしを除いて一番あなたや涼宮ハルヒに近いインターフェイスは朝倉涼子。彼女が急に戻ってくれば恐らく涼宮ハルヒは強い興味を示し、観察を始めるはず。そうなればこちらも観察が楽になる、というのが情報統合思念体の考え。それに穏健派は常に一定の距離を保つことが義務付けられているので緻密な交流を良しとしない」

そうなのか・・・。んで、一つ聞かせてもらえるか?朝倉はいつ復活するんだ?

「もう再構成は済んでいる」

「なんだって!?どこだ!あいつはどこにいるんだ!?」

「おとーさん、落ち着いて。おねーちゃんがこわがってるよ?」

娘の言葉で正気に返る。どうやら俺は興奮のあまり、長門に掴みかかって大声で叫んでいたようだ。大丈夫か、長門。本当にスマン。お前に当り散らすなんてお門違いもいい所だな。

「わたしは大丈夫。あなたも気にしないで」

お、おう。そうは言っても気になるもんなんだが。

「改めて聞かせてもらうが、結局朝倉は今どこにいるんだ?以前にあんなことがあったから気が気じゃないんだが」

「彼女はここにいる」

そう言って長門は一旦口を閉じた。俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「朝倉涼子は………」

言いかけてもう一度口を閉じた長門の三点リーダの時間が何時間にも感じられる。実際は十秒あるかないかなんだろうが、今の俺にはその何十倍もの時間が過ぎているように思われた。

突如長門が腕を上げてある一点を指差す。まずその指を見て、次に指の指す方向に視線を移していく。そしてその直線はあるものにぶつかったのだ。それは俺の思考能力を奪うのには十分な衝撃を持っていた。信じたくはなかった。だが、次の長門の言葉の前に、俺はただ呆然と眺めるしかできなくなってしまったんだ。

「…………朝倉涼子はその子」

 

 

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