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神様の力が収束する原因となった最後の大事件――まあこれは後々何らかの形で知ることになると思うが今は言わないでおくとする――それを契機として俺の波乱万丈の高校生活はプツリと終わりを告げた。
宇宙人、未来人、超能力者と共に過ごした日々。大学を卒業したばかりの俺にとってそれは既に酒の席での笑い話と相成っている。まあ、専ら語り合えるのは元超能力者とだけであるが。
この話はその他大勢の一般人、谷口を筆頭とする奴らに聞かせてやったことはない。
話したところで頭がおかしい人、という不名誉なレッテルを貼られてしまうから止めてある。
それに俺だって進んで他人に教えてあげようとは思わない。これは俺たちだけの秘密だからだ。
とりあえずそんなわけで俺は平和に過ごして……………おっと、言い忘れたが、元宇宙人は立派な人間となり、元未来人……いや、今も絶賛未来人であるだろう愛すべき彼女は未来へと帰ってしまった。
つまり世界をいいように改変できる人間は現在この世界に存在しない。そう、この世界には、な………

収まったかに思われた事件、しかしそれは未だに全て解決したというわけではなかった――




「……はあ、はあ」

俺は今走っている。何故かと言われれば新しい仕事場に遅刻しそうであるから、としか言いようがない。
畜生、あいつがもっと早く起こしてくれたらこんなことにはならなかったのに――



「――おい、どうして起こしてくれなかったんだ!お前だって今日は俺にとって大事な日だってわかってるだろ!!」

俺はネクタイを締めながらそう怒鳴った。
怒鳴っている相手は俺の同棲相手である――

「え?ああ、キョンがあまりにも気持ちよさそうに寝てたから起こすのが申し訳なかったのよ」

――涼宮ハルヒ。
大学在学中に俺から告白し今に至る。周りからは遅すぎるとか散々文句を言われまくったがな。
しかしまた俺が告白するまでにもいろんなことが起きた。
ハルヒの誤解、俺の誤解etc.と言い出したら切りがないほどに。

「あのなぁ、だからといって……」

ハルヒが捨て犬のような目で見つめてくる。
これはハルヒが俺と付き合いだしてから身に付けたものであり、馬鹿……うん、ハルヒ馬鹿な俺はこれをやられると何でも許してしまう。仕方ないんだ。

「はあ、もういいよ。とにかく急がなきゃならんからもう行くぞ」
「ご飯食べないの?」
「いい。食ってる暇はない」

ハルヒがまた見つめてくる。
ええい、止めてくれ。本当にやばいんだよ。

「ま、しょうがないわね」
「わかってくれたか。じゃあ行ってくる」
「あ、キョン!」
「何だ?」
「頑張ってね」
「…………ああ」




で、こんな感じで走っている。ちなみに新しい仕事場とは学校、学校の名前を言っちまえば光陽園学院である。
大学のときに何を間違ったのか教員免許などを取得してしまった俺は、そのままハルヒの説得もあり川の水が流れるようにサラサラと、気付いたときには今の状況になっていた。

「はあ、はあ……ふぅ」

やっとのことで校門の前まで辿り着く。
校舎内に入ると、全力で走り疲れているのか頭がクラクラしてきた。視界がぼやけていく――
俺はバランスを保つため思わず近くにあった柵を掴んだ。
その瞬間、世界の色が変わったような感じがした。
しばらくそのままでいると楽になってきたので、辺りを見渡す。しかし対して変わったようなところは見受けられない。気のせい、か………
そう思った俺は学校に備え付けてある時計をチラリと伺う。全力で走った効果があったのか、なんとか間に合ったようだ。
俺は息を一つ吐いて多少疲れの残る足で職員室に向かった。

………冷静に考えておけば良かった。後から思い出したが光陽園学院は女子高のはず。
そのことをすっかり失念してしまっていた俺は何の違和感も持っていなかった。周りの生徒の中に人数こそ少ないが男子がいたということを。 




俺は前任の先生と会うこととなっているため職員室へと急いだ。
前任の先生から聞いたところによると新任の先生がクラスの担任を任されるのは光陽園学院の伝統らしく、俺はめでたく二年の担任となった…………いや、この場合なってしまったが適切か。
本当に俺なんかに一クラスを任せていいのか、と思うがあの頃の言い方をすれば規定事項だから仕方がないのだろう。
自分が担任するクラスの教室に向かう最中、付き添いの先生から俺の受け持つクラスについていろいろなことを聞いた。

――問題児がいるんですよ。

問題児?

――そうです。去年の年末くらいから………以前はそんなに問題が無かった子なんです。成績もいたって優秀でしたし。
最近はまだ落ち着いてきていますが、それでも新任の先生にはきついかもしれませんね。 

俺は、はぁ、と曖昧な返事をする事しかできなかった。
いきなりハードルが高すぎるんじゃねえのか?
いや、だがしかし高校時代にハルヒに散々引っ張り回された俺だ。ただのひねくれたやつくらいならどうってことない、とは思うが……

「じゃあ先生、頑張ってください」
「はい」

教室の扉の前で大きく深呼吸をする。
まだチャイムも鳴っていないというのに教室からは話し声があまり聞こえてこない。
さすがは進学校といったところか。北高とはえらい違いだ。
そう考えると俺でいいのか、という疑問はいくら誤魔化してもやはり完全に拭いきることができなかった。
確かに俺もハルヒと同じ立派な国立大に入ることができた。
しかしあれはハルヒが一生懸命指導してくれたからであって、俺自身が他人に教えることができるほど勉学に自信を持っているわけではない。
ましてここは有名な進学校、ちょっとやそっとの知識じゃ通用しない。 

…………いかん、かなりネガティブになってしまっているな。
ええい、もうこうなったら当たって砕けろだ。

俺は勢いよく扉を開け教室に入った。クラス中の視線が俺に集中する。
うう、止めてくれ、そう珍しいものを見るような目は。

俺は教壇の前に立ち、生徒たちの顔を見渡す。
と、席が一つ空いているのに気付いた。休みか何かなのか?

「ああ、あの席の子なら偶にしか来ないんです。一年の冬辺りからかな、それまでは休みなんかなかったんだけど……」

俺の視線の先に気付いたらしい前の席の女子生徒が教えてくれた。
成る程、例の問題児か。
まったくやれやれだな。

ここで問題児の名前でも確認するとするか、と思いクラス名簿を見ていたとき、教室の扉が凄まじい勢いで開いた。
そして扉が開く音と同時に俺は名簿に有り得ない名前を発見する。 

いや、まさか………どうなってるんだ……

恐る恐る顔を上げた。教室に入ってきたばかりである噂の問題児と目が合う。

「………ジョン?」

ひとくくりに纏められた長い髪――

「ジョンなんでしょ!?」

不満を詰め込んだような顔――

「あんたどこ行ってたのよ!!…………この4ヶ月間、ずっと探してたのに………」


およそ七年前に見たときよりもほんの少しだけ成長したであろう姿――

「ちょっと、何か答えなさいよ!」

長門が生み出した改変世界、そこでは光陽園学院の生徒として存在していた――



涼宮ハルヒが、そこにいた―― 


続く 

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