素直なキモチ~第2話 墓参り~3

「キョン、あんたボディーガード失格よ」
「はぁ? 何だよ急に。どういう事だよ? 」
「だってあたし、幽霊に襲われたんだもん」


無表情で俺に戦力外通告するハルヒ。
なにぃ!? まさか本当に出やがったのか!? たしかに花屋でハルヒが言ってたが、冗談じゃなかったのかよ? ・・・いかん、あの時俺はとんでもない事を提案しちまってたな。しかも相手はハルヒを気絶させるほどの強者だ。そんな奴に俺の体を・・・嫌だっ! それならまだ古泉に俺のアナルを・・・ってそっちも嫌だっ!! どーする俺? どーするよ!?


「なにビビッてんのよ、あんたが言い出したんじゃない、ボディーガードって」
「そりゃそうだが・・・て、そう言われても俺には見えなかったぞ幽霊なんて! 見えない物からどうやって守れって言うんだよ」
「それを守るのがボディーガードじゃなくて? 」
「そ、そりゃそうだが・・・しかしだな! 」
「フフフッ、何ムキになってんのよ」


ムキになっ・・・て、えっ? 
ハルヒの奴、なんか悪戯っ子の様な不適な笑みを浮かべてきやがったと思ったら


「うっそぴょ~ん ! 」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・えっ? ・・・あ、あれ? ・・・あのさ、いまので ”やられたーっ! ” とか ”うわっ騙されたー! ” とか悔しい気分に・・・ならない? 」
「・・・・・・・・・・・・」


今までのお返しとばかりにハルヒをジト目で睨む俺。
そんな俺のリアクションを予想してなかったのか、高校生たる自分が子供じみた悪戯に失敗した為、急に恥ずかしさが間欠泉のごとき噴出し、してやったりと思っていた自分の立場が形勢逆転された事に慌てふためくハルヒ。たまにはこういう事も味わうがいい。


「・・・・・・ハルヒよ」
「・・・・・・な、何よ」
「お前・・・・・・」
「い、いいじゃない! ・・・ちょっと、言ってみたかっただけよ」
「はぁ~」
「お、襲われたっていうのは冗談よ。でも幽霊はほんと・・・かな? 」


かな? って・・・かな? って何だよ!?
説明を要請する (by長門)
ハルヒは、”考える人”女性版になって


「う~~~ん、自分でもよくわかんないのよ。あたしは夢だとは思ってないし~、だけどあんたは、あたしが倒れたって言い張ってるし~、あたしは倒れたなんて記憶無いし・・・」
「まぁそれは置いといて。で?何があったんだ? 」
「・・・お兄ちゃんに、会ったわ」
「えっ? 」
「お墓の上にお兄ちゃんが座ってて、いろいろ話したのよ」
「・・・おい」
「あ、信じてないわね。なら信じさせてあげるわ」


まさかお前も胸にほくろがあるなんて言わないよな。
あれはあの人だから良かったのであって、お前のなんか・・・まぁそれはそれで見てみたい気もなくはないが。


「・・・あんた・・・あたしの事で、お兄ちゃんに・・・なんか言ったでしょ」
「なんかって・・・・・・はっ!!」


墓前での挨拶か! 何でお前が知ってるんだ! あれは完全に俺の心の中の挨拶だったはずだぞ。


「・・・お兄ちゃんが教えてくれたわよ・・・ほんとなの? 」
「えっ! いやっ! あのー・・・だな」
「そういう事は、事前にあたしにことわってから言いなさいよ! ・・・心の準備が必要なんだから」


なんで事前にお前にことわらにゃならんのだ。それに心の準備って何だよ。


「お兄ちゃんに言われた時、恥ずかしかったんだからね! 」


今は俺が恥ずかしいんだがな。お兄さんもお兄さんだ。男心というものをわかって欲しかったぜ。
それにしてもお兄さんの幽霊か、これは信じるしかないな。いや信じるというのは幽霊じゃなくお兄さんに会ったという事だ。幽霊かどうかはわからん。なにしろハルヒもお兄さんもトンデモパワーの持ち主だ。何か特別なコミュニケーション方法があるのかもしれん。ハルヒの様に力を自覚してなくても出来る様な。
ん? お兄さんもしかしてハルヒに力がある事をばらしてませんよね、て誰に言ってるんだ俺は。まあもし自覚したなら、古泉か長門がすっ飛んでくるだろうし、さすがのハルヒも普通じゃいられないだろう。今のハルヒを見る限りその心配は無用だ。もうその辺の事はよしとしよう。俺は一つだけハルヒに確認したかった。


「それで、お前はお兄さんと話して、けじめとやらをつけれたのか? 」
「まあね。怒られたり、元気づけてくれたり、・・・悔しい恥ずかしい思いもさせられたけど・・・私なりについたつもりよ」
「そうか。まぁお前が納得したんなら、それでいいんだが 」


お茶缶を一気に飲み干したハルヒは、真っ青な空を仰ぎ見つつ


「・・・あたしね、SOS団のみんなにすごい感謝してるわ」
「何だ、何を今更って感じだが? 」
「SOS団が無かったら、みんながいなかったら、たぶん、あたしもいなかったかもしれない」
「どういう事だ? 」
「もし高校生になっても、今までと同じだったら・・・あたし・・・お兄ちゃんの所に行こうとしてたの」
「お兄さんの所って・・・まさか! 」
「そう、そのまさかよ」


まさかよって、お前・・・ほんとにそんな事考えてたのか?
ハルヒは、昔を懐かしむような遠い視線で語り始めた。


――今までのあたしは、とにかく普通な事が嫌でとことん避けてきたわ、もちろん人に対してもね。そんなあたしだったから友達が出来るわけが無く、孤独だった。それでもあたしは、不思議な事を見つけなけゃ、ていう想いで乗り切ってたわ。でもそれは上辺だけの強がり。心の奥では寂しい、誰かと話したい、て思ってた。告白をすべて断った事、あんたも誰かから聞いたみたいだけど、この人なら、て人も中にはいたわ。だけどそれをするとそれまでのあたしを否定する事になってしまう。前にも言ったけど、一度決めた事は止めないのがあたしの主義だからね。だから意地で耐えてたわ。
 でも意地で耐えてたからって、孤独や寂しさが無くなるわけがない。むしろ更に募っていったわ。あたし何やってんだろう、何でこんな寂しい事してるのっていう想いと、不思議な事を探さなきゃ、見つけなきゃっていう想いが頭の中でグルグルして、自分でもどうしたらいいかわからなくなっていったわ。それでも何とか中学の三年間は耐える事が出来た。でも・・・・・・辛かった。
 あたしの思考も何だかおかしくなっちゃってて、部屋に一人でいる時は、マイナス思考しか考えられなくなる時が多くなっていったの。ちょっとした欝状態ね。だからそのうち、もし高校に入っても今と変わらなければ、この世界はあたしを受け付けない、受け入れてくれない、そんな世界でこのまま生きていくのはいや、て。でもこのままの自分もダメ、自分も変わらなきゃいけないという気持ちもあった。だからってすぐに変えられるとも思えない。なら・・・お兄ちゃんの命日までに変わらなければ、お兄ちゃんの所へ行こう、そう考えてたの・・・・・・。
 で、入ってみたらこのとおり。
まさかこんな展開になるとは思ってなかったわ。しかも自分でSOS団まで作るなんて思いもしなかった。それに・・・こんなあたしについてきてくれるみんな・・・有希、みくるちゃん、古泉君、そして・・・・・・キョン。本当に感謝してるわ。ありがとう。


 そう言ってハルヒは、俺に笑顔をくれた。その笑顔は普段の100Wスマイルではなく、優しい、暖かみのある笑顔だった。こいつもこんな笑顔、出来るんだな。そんなハルヒに俺はつい、見惚れてしまったわけで・・・・・・


「ちょ、ちょっと! なに赤くなってんのよ! 」
「へっ? 」


どうやら俺は、知らない内に顔を赤くしてたようだ。俺はあたふたしながら適当に言い訳じみた事を返した。な、情けねぇ・・・。
そういえば古泉が言っていたな。中学時代のハルヒの精神状態はまるで砂嵐のようだったと。その原因がさっきの話の内容ってことなのか。中学という年代は微妙かつ不安定なお年頃なんてよく言われてるからな。
それにしても、事実を受け入れられない位慕っていたお兄さんからの贈り物を捨てようとする程、こいつは葛藤していたとなると・・・よく生き残れたな古泉。少しだけ尊敬してやるよ。


「・・・いま思えば馬鹿よねあたし。せっかくお兄ちゃんが・・・それを捨てようとしたんだもん。・・・・・・ねぇ、キョン? 」
「なんだ? 」
「あたし・・・変われたかな・・・? 」
「そう思ったから、今、ここにいるんじゃないか? 」
「そう・・・かな・・・」


なにしゅんとしてるんだよ。ちょっとかわいいと思っちまったじゃねえか。いつも問答無用に俺達を引っ張って我が道を暴走するお前らしくないぞ。


「・・・ずいぶんな事言ってくれるわね・・・キョンのくせに・・・」


いつものアヒル口で返してきた。それよりキョンのくせにってどういう意味だよ、俺は何かの役職か?


「お前が自分の事どう思ってるか知らんが、少なくとも俺達団員はお前についていくさ、これからもな」
「キョン・・・・・・うん 」


そうさ、たとえ最初の動機はみんな違ってても、いまはそれ抜きであの部室に集まっているんだ、長門も、朝比奈さんも、古泉も、そして俺も。こんなバラバラなピースを無理矢理だろうと何だろうと強引に組み合わせちまう我らが団長涼宮ハルヒ。たいしたもんだよ、お前は。こんなパズルはお前にしか組めない。そして組上がったパズルは何があっても崩れない。お前が強引に組み上げたものだから、いろいろ絡み合って離れられなくなっちまった。もちろん、離れる気なんかないさ。こんな奇妙なパズル、世界中探したって他にはない。そんなパズルの1ピースになれて俺はうれしいよ。


「それと・・・お前が初めて素直に感謝してくれたから俺からも言わせてもらう。ありがとな、俺を・・・巻き込んでくれて」
「えっ・・・キョン・・・」


まったく、ハルヒが柄にもなく素直に白状したもんだから、俺までそんな気分になっちまったじゃねーか。
いいか、ここでの事は他言無用だぞ。もし話したら、死刑だ。永久罰金の刑だ!


「たしかに最初の頃は、面倒事に巻き込むんじゃねぇ、と思ってたがな。最近じゃ・・・なんつーか・・・まぁ無けりゃ無いで平和が一番なんだが・・・無さ過ぎるのも退屈って思う様になっちまってだなー・・・だけどな、今後はもう少しお手を柔らかにねがい・・・」
「な、なに言ってんのよ! そういう事は思いっきりが大事なの。何事も全力疾走よ。中途半端が一番ダメなの! 」


やっぱ俺の意見はスルーですかハルヒさん・・・


「・・・まぁそういう事で、これからもよろしく頼むぜ、団長様」
「当たり前でしょ! これからもちゃんとあたしについてきなさい! 悪いようにはしないから」


それならついていかない方がいいと思うのは俺だけか?


「ただ一つ、お前に言っておきたい事がある」
「なによ、このあたしに意見するわけ? いいわ、言ってみなさい。内容によっては聞き入れてあげるわ」


腕を組んで胸を反らし、ふんっとかまえるハルヒ。俺はそんなハルヒの両肩を掴んでこちらに振り向かせた。そして俺のいきなりな行動に驚いて大きく見開いているハルヒの目を真剣に見つめながら


「今後二度と、さっきの様な考えは持つな」
「えっ? 」


~ <お願いだ・・・もう二度とそんな事、考えないでくれ> ~


「キョン・・・・・・・・・お兄ちゃん」
「お前、休む時はSOS団の誰かに必ず連絡しろと言ってたよな? それと同じだ。いいか、もし悩みがあるなら必ず団員の誰かに相談しろ。お前の望む様な解決がすぐには出来ないかもしれないが、話だけは真剣に聞いてやる」
「・・・キョン」
「今のお前は一人じゃないんだ。だから一人で抱え込むな、俺達団員を信じろ。たしかにお前はSOS団の団長だ。俺達団員を引っ張っていく責任がある。それは弱気じゃ務まらない、強気じゃないとその責任は負えないだろう。その点はお前は立派にこなしているさ。だがなハルヒ、ここまでやってみてどうだ? 俺達はもう、団長と団員という関係以上になってると思わないか? 同じ仲間、親友と言えなくはないか? そういう相手には自分の弱い一面を見せたっていいじゃないか。それで離れていくような奴は本当の仲間じゃない。でも俺は、SOS団にはそういう奴はいないと信じてる」


ハルヒの目が少し潤み始めてきた。そして俯き、


「・・・グスッ・・・・・・うん」


やばっ! またか! っておいおい、今日何回泣いてんだハルヒさん? お前にとっちゃ、今日だけで一生分泣いたんじゃねぇのか?
ハルヒは両肩を掴んでる俺の両手を振りほどき、反対側を向いて


「う、うっさいわね! ・・・だいたい下っ端の雑用のくせに団長泣かすなんて・・・1万年と2千年早いのよこのバカキョン! 」


下を向き涙を拭いながら、相変わらずの口調でほざきやがる我らが団長様。じゃぁ1万2千年後は思いっきり泣かしていいんだな? その日を楽しみにしてるぜハルヒ。


暫くして落ち着いた頃、


「ねぇキョン、あたしみんなに感謝の気持ちを形にしたいんだけど、何がいいと思う? みんなが喜んでくれる事って何だと思う? 」


いつになくマジな顔で聞いてくるハルヒ。その表情にはふざけてる要素は微塵も感じられない。本当に悩んでいるようだ。いつもなら自分で勝手に決めて突き進んじまうお前が、ここまで真剣に人に意見を求めてくるとはね。去年の文化祭ライブの様に、お前は「感謝」という事に慣れてないからな、人にされる事もする事も。だがそうだなー、ハルヒの出来る事でみんなが喜べる事・・・今までやってきた中だと、
野球、合宿・・・体使ったりどこかへ出かけるというのは俺や朝比奈さんが疲れる、却下。
ライブ・・・これは何かと準備が大変そうだし、第一ハルヒ一人では無理だろう。歌が聞きたいならカラオケで充分だ、却下。
あとは・・・クリパ・・・クリスマスパーティ?そうか!


「ハルヒ、パーティてのはどうだ? この間のクリパの鍋、かなり旨かったからお前の料理ならみんなも喜ぶぞ」
「パーティ? ・・・そうね、それなら明日でも間に合うわね」


いま何て言った? 明日だと? いきなり今日の明日かよ!?


「そうよ、”思い立ったが吉日” ”善は急げ” て言うじゃない。それに、あたしは今の、この気持ちを伝えたいの。時間が経つと形が変わっちゃって別の物になっちゃうでしょ」


・・・解るような解らないような、相変わらずのハルヒの思考パターンだ。にしても急すぎるだろ。場所はどーするんだ? みんなの予定・・・「あぁ、有希? 」

やれやれ~、俺の意見そっちのけで電話し始めたハルヒ。ちなみに明日は日曜で休みだ。


「明日、場所は有希の家で12時からね」
「長門ん家? どうして長門の所なんだよ? 」
「有希の所って広いでしょ。それに一人暮らしだから気兼ね無いしね」


おいおい、お前はみんなに感謝するんじゃないのか? そんなんで長門は迷惑じゃないのか? あいつにだって休日くらい何か予定が・・・・・・あるのか?


「有希は快くOKしてくれたわよ。それに・・・あの娘、休日でも家で一人でいるんじゃない? それならみんなで一緒に過ごした方が楽しいでしょ」


まぁ長門がいいなら構わないし、確かにそうかもな。
それからのハルヒはメンバーに電話を入れ、明日のパーティの件を取り付けた。言うまでもないが、朝比奈さんも古泉もOKだ。ちなみにメンバーは、SOS団、鶴屋さん(よくOKしてくれたな)、そしてなぜか俺の妹+シャミセン?


「何言ってんの、あの二人(?)だって映画や野球に参加したじゃない。あたしは、SOS団の活動に協力してくれた人達にも感謝したいの」
「それなら谷口や国木田はどうなんだ? あいつらだって野球、映画に出ただろう? 」
「あんたねぇ、物事はもっと全体を見渡して先の先まで考えなきゃだめよ! 今回は場所が有希の家でしょ? 神聖で高潔なSOS団女子の家に入れる男子は団員か、それ以外はあたしが認めた奴しか入っちゃいけないの。あの娘達に変な虫でも付いたらSOS団の高潔さが汚れちゃうでしょ。それでなくても有希やみくるちゃんは害虫に対する免疫力が弱そうなんだから、団長たるあたしが守ってあげなきゃ」


すっかり長門や朝比奈さんの保護者気取りだ。なんだかんだでこいつは団員の事を気遣っているからな。
それより害虫って・・・俺達男は虫かい! それで俺の意見を無視するのか・・・


「・・・なに? そこ笑うとこ? 」


いや、好きにして下さい・・・
でも今の話には賛成だな。まぁ長門は自分でなんとか出来るにしても、朝比奈さんは誰かが守ってあげないと、て感じだ。
おう! こういう時こそ俺がボディーガードに立候補しようではないか。朝比奈さんでしたら無償でかまいませんことよ。
なお、谷口や国木田には別の形で感謝の意を表すそうだ。それで勘弁してやってくれ、お前ら。
それと協力者といえば合宿の新川さん、森さん、多丸兄弟達等も入ると思うんだが・・・すみません皆さん、この時の俺とハルヒは忘れてました。今回は感謝パーティ”学生の部”という事で、次回(あるかわからんが)を期待してて下さい。
ところで長門のマンションてシャミセン大丈夫なのか? ペット禁止じゃないのか?


「そんなの・・・バレなきゃいいのよ」


はい、解決。


 一通りパーティの段取りが、ハルヒの脳内で独裁政治的に勝手に決められた所で、俺達は帰ることにした。気が付くと遠くの山の空がうっすら茜色になりかけ、それに今度は本当にひんやりしはじめてきた。いつのまにか夕方近くになっていたようだ。
俺達は最後にもう一度、お兄さんにお別れの挨拶をして、その場を後にした。

 帰りの電車内は、ハルヒの睡眠タイムになった。泣き疲れたんだろうよ。しかしこうやって眠れるという事は、ハルヒにとってもお兄さんに対する気持ちが落ち着いたんだろう。
ちなみに今俺達が乗っている車輌には・・・やはり他に誰もいない。もし、ハルヒが起きてたら ”これからの日本経済” 第2章が聞けたかもしれん。その前に俺の経済回復方法を論説してほしいぜ。ま、答えは決まってるだろうがな、「遅刻しなきゃいいのよ」って。
 帰りの車輌はボックスシートが無く、ロングシートに二人並んで座っている。しかも今度は乗り換え無しの直通で終点が俺達の駅だ。・・・出来過ぎだとは思わないでくれ。これもハルヒ様の思し召しだ。ありがたやありがたや。
 俺は向かいの車窓を流れる茜色に染まった遠くの山々をぼんやり眺めていると、右肩にこつんと感触が伝わってきた。見るとハルヒの頭が乗っていた。スースーと気持ち良さそうに寝息をたてている。こうして見るハルヒの寝顔は・・・やばい、反則なまでにかわいい。もしこの寝顔で初めてハルヒを見たなら、普段の傍若無人ぶりなど素粒子ほどにも想像出来ないだろう。まったく今のこいつのどこにあんなパワーがあるんだ? って思わずにいられないぜ。
 それよりさっきからしている俺のこのドキドキ感はなんだ? ハルヒと二人っきりでいるからか? でもそんな事今までだってあったろうよ。なんで今なんだ? 恐らく今の俺の顔は、遠くの茜空にも負けない位赤いぜ、ああ自信持って言えるぞ、熱いくらいに顔が火照ってるのが感じるからな。他に誰もいなくてよかったぜ。ハルヒに感謝だな。
 ・・・だがこの二人だけの半密室状態の車内は、俺に新たな試練を与えた。そう、理性という名の試練だ。俺の肩にもたれて眠るハルヒ。まさしくSleeping Beautyだ。しかもこのシチュエーションて結構憧れてたんだよな。もし彼女が出来たらやってみたいシーンの一つだ。だがよりによって相手がハルヒとは。あぁ神よ、なぜにあなた様は、私めにこの様な試練を御与えになったのですか? ってもしかしてこの神とは、ハルヒ、 お前なのか? 俺が気持ちをハッキリさせないから試しているのか? もしそうなら・・・いいのか? って何がいいんだよ!
 ん? まてよ、もしこれがほんとに試練だとして、俺の気持ちが決まってハルヒに・・・なら、お前はそれを受け入れる用意があるってことか? てことは、もしかしてお前も俺に・・・なわけないか。ちょっと発想が自分本意でブッ飛び過ぎてるぞ俺。今日のハルヒの雰囲気にやられたか? 今日は特別なだけだ。明日からはいつものこいつだ。団長と、不本意ながら雑用の俺との関係に戻るんだ。だが、それでいいと思ってる。今は、ただこいつの傍にいられるだけでいい。こいつを・・・ハルヒを見守っていられれば、それでいい。俺は今のそんな関係に心地よさを感じてるんだ。なぁに、時間はまだあるんだ。これからゆっくりと進んでいけばいいさ。


「コラーッバカキョン! 起きろーっ!! 」
「のわぁっ! 」
「さ、降りるわよ」
「へっ? 」
「へっ? じゃないわよ、駅着いたわよ」


どうやら俺も眠っていたようだ。
電車は既に駅に止まっており、ドアも全開だった。あのー起こしてもらった手前こんな事言うのは大変申し訳ないんだがハルヒよ、怒鳴り起こすのはやめてくれ。ここは部室でも俺の部屋でもないんだ。周りからの視線が恥ずかしいではないか。どうしてもっと早く起こしてくれなかったんだ、と問い質した所、

「うっさいわね。あたしが起きた時にはもう着いてたのよ」

との事。
てことはなにか? たしかハルヒは俺の肩にもたれて寝てたから、傍から見れば・・・ラブラブカップルと誤解しかねない格好のままドア全開されたって事か。なんてこったい!!
そんな俺の心情やら周囲からの視線など露知らずって感じで、ハルヒはスタスタと降りていってしまった。やれやれ。
そして改札を抜け駅前に出た所でハルヒは、いつもの団長モードで


「じゃぁ明日いつもの場所に8時集合よ。遅刻は罰金だからね」
「えっ?パーティは昼からじゃないのか?」
「何言ってんのよ、買出しよ買出し。あんたは雑用なんだから付き合うのは当然でしょ」
「へいへい、了解」


そう言って俺達は解散した・・・と思ったら


「キョン!」


俺はハルヒに呼び止めらた。まだ何かこの雑用めに御用ですかと思い、振り返ると


「今日は・・・ほんとにいろいろありがとう。じゃあね! 」


 片手を上げ、最後に俺が見惚れてしまったあの暖かい笑顔をくれ、走り去っていった。まったく、コロコロと表情変わって忙しいヤツだ。しゃあねーな。明日は楽しみにしてるぜ、ハルヒ。
 辺りはすでに街灯が少し明るく感じる位になっていた。しまった、ここまで付き合ったんならハルヒを家まで送るべきだった、と思ったがすでに姿は無く、追いかけようにもあいつの家を知らないのでどっち方向へ行ったかすらわからん。詰めが甘いぜまったく。そんな自分に苛立ちながら、そういえば今朝家を出たっきりだった事を思い出し、お袋に対して何か言い訳を考えようとしたが、やめた。それと昼飯も食って無かった事も思い出し、思い出した途端に空腹感が沸いてきやがった。それまで何ともなかったんだがな。そういえばあの四次元胃袋を持つハルヒは大丈夫なのか?まぁいい。そういう諸々の他愛も無い不安要素を吹飛ばせるほど、今の俺はなぜか心穏やかな気分だった。今なら古泉と抱き合う事も、朝倉と握手する事も厭わないぜ。

なぜなら、みんなより一足先にハルヒから感謝の気持ちを、しかも独占して貰った様な気がして、なぜか少し優越感に浸ってホクホクした気分だからな。
第3話 パーティ~1へ


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