※このストーリーは、 最終的に キ長 および 古ハル に持って行きますので、 苦手な方は遠慮してください。 

    なお、 この文章は 「行き成り、 こんなのは嫌!」 と言う方への 建前 ならびに 仕込み に当たりますので、 

    稚拙な文章ですが、 御付き合い頂けるとありがたいです。 

 

 

 

 

 

    夏本場のやけに暑い日差しがサンサンと降り注ぐ、 7月の下旬のある日。   あの孤島に強制連行され、 自称合宿なるものが展開された日から一週間ほど過ぎた日のこと。   ハルヒの突発的思い付きにより、 今日の午前9時より臨時パトロールが開催された。 

 

 

 「おっそい!  罰金!!」 

 

 

    ハルヒの怒鳴り声が響く駅前喫茶店の前で、 俺はチャリをすっ飛ばしてきた甲斐無くいつもの奢り宣告を受けた。  

 

 

 「集合時間には、 間に合ってるだろ。 

  いい加減、 俺の財布も軽k-」 

 

 

 「だったら、 もっと早く来ればいいじゃない」 

 

 

  ごもっともで。 

 

 

    先に来ていた長門や朝比奈さん、 古泉たちと一緒に喫茶店へと入り、 俺は自分のだけでない注文もうけたまわる。   所詮は俺の奢りなので、 こいつらが金銭面で心配する必要はない。   いつこのポジションを誰かに譲れるであろうか、 いやおそらく俺がこの団活に所属する以上ないことであろう。 

 

 

 「じゃ、 みんな引きなさい」 

 

 

    何はともあれ、 時間とは無常に過ぎゆくもので、 ハルヒが俺奢りのカフェオレを飲み終えた頃には、 俺たちは班分けに用いる五本の爪楊枝の選択を迫られた。 

  まだ誰一人として飲み終わってないんだ、 もう少し待て。 

  ってか、 そのまえにもっと味わって飲め。 

 

 

 「つべこべ言うヒマがあるなら、 なおさら引け」  

 

 

  はいはい。  

 

 

    真っ先に引かされた俺は、 五分の二の確率の爪楊枝を引き当てた。   つまりは、 印なしである。 

  ということは、 もしかしたらあいつと…  あいつと?   なんであいつが出てくるんだ  

 

 

    若干の疑念が俺の脳裏を支配しているあいだに、 残りの爪楊枝たちはみなに引かれ各々の手中に散っていた。   勿体振る必要など毛の先ほどにないので、 俺が手始めに言った。 

 

 

 「俺は印なしだ」 

 

 

    途端に名乗りをあげたのは、   

 

 

 「おや、 僕ですか」 

 

 

    俺が誰となるのかという候補にも出てこなかった、 あんちくしょうな古泉であった。   やり直そうぜ、 これ。 

 

 

 「それじゃ、行きましょう。 

  はい、あんたには伝票」 

 

 

    かるく俺の意見を受け流し、 ハルヒは無慈悲な一撃を突き付けた。 

 

 

 

--------------------------- 

 

 

 

 「じゃあ、 いったんわかれましょう。   十二時に集合ね」 

 

 

    会計を済ませた俺が出てくるのを見計らって、 ハルヒは喫茶店の外で高らかに宣言して行ってしまった。   もちろん、 同じ班の朝比奈さんや長門を連れて。 

  ちくしょう、 なんでわざわざこの炎天下の中チャリで来てこいつと…  

 

 

 「さて、 僕たちはどこへ行きましょうか」 

 

 

    そう言って非の打ち所のない無料スマイルを振りまくジャニーズ系が、 俺のすぐ近くにいる。   こんなやつがいるから、 世の中にモテるモテないという貧富の差的なものが生まれるのだ。  

  いつかこの世のモテない男どもを代表して、 こいつは俺が始末しなければならない。 

 

 

 

--------------------------- 

 

 

 

 「では、 そこへ」 

 

 

    俺がとある場所へ行くことを提案し、 古泉が頷いた。   その場所とは、 朝比奈さんに 「わたしは未来人です」 告白をされたあの河川敷のことである。   なぜその場所を提案したかと問われれば、 至極もっともな理由を述べよう。 

  男二人で映画館とか、 ふざけんな。 

 

 

    古泉がどこに行こうかと尋ねてきた矢先に、  「おや、ちょうど僕の右ポケットに映画のチケットが二枚…」 とか言い始めたので、 俺が 「ああ、そうだ。散歩でもするか」 と黙らせた。 

  そいつは、 お前の好きなやつにでも取って置け。   昼からなれる可能性もあるしな。 

 

 

 「………いったい、 なんのことを言ってるんでしょうか。 

  少しばかり、 どうかされましたか?」 

 

 

  いや、 なんでもない。 

 

 

    俺はそう言って、 さっさと河川敷へ行くように促す。   思いの外、 それほど動揺しなかった古泉をみて、 俺はこいつの化けの皮を剥いでやろうと思ったからだ。 

  被った皮は剥いでやらないといけないのさ、 でなきゃいつまで経っても進展しねぇだろ? 

 

 

 

---------------------------

 

 

  

    歩いて数十分後、 目指していた河川敷に着くと俺たちはただの散歩をした。   名目上散歩と言ったからとかそんなのではなく、 ましてや時間をつぶす為でもない。 

  この頃のあの青い奴はどうなのかだとか、 あの孤島での俺の推理はどうだったのかとか。   そして、 今まで俺たちが経験および見てきた、 SOS団に関わったすべてのことについて話し合った。 

 

 

    一通りを歩きながら話し終えた俺と古泉は、 互いに近くにあったベンチに腰掛けないかと提案し、 互いにカブってしまったことに笑いつつ腰を下ろした。   しかし、 楽しい話もここまでにするか。 

  ある程度御膳立てが整ったので、 俺はこう切り出した。 

 

 

 「お前、 ハルヒのこと好きだろ」 

 

 

    隣にはギクリと体を強張らせる古泉がいた。   さて、 これでこいつがあっさりと認めるなら今後について話し合えるのだが… 

 

 

 「さぁてね、 どうでしょうか」 

 

 

  まっ、 そうくるわな。 

 

 

 「しらばくれるのか」 

 

 

 「………………」 

 

 

    しばらく目線を前にして遠くを見つめていた古泉だったが、 突然俺に顔を向け、 不敵に笑うと  

 

 

 「何故、 そのような考えに至ったのでしょうか…  

  根拠はあるのですか」 

 

 

  お前なら、 無くて人に好きだろと言えるのか? 

 

 

 「ほぅ…、 それはおもしろいですね」 

 

 

    古泉は爽やかに前髪をピンッとはじき、 前のめりに腕を組んであごを乗せると

 

 

 「ぜひ、 聞かしていただきたいものです」 

 

 

    見るものすべてを凍てつかせるような氷の視線で、 俺を横目に見た。 

 

 

 

--------------------------- 

 

 

 

 「お前は、 第一回目のパトロールのときのことを覚えてるか」 

 

 

 「えぇ、 あなたと先ほど話しましたから」 

 

 

  そうさ、 だからさっき初めからSOS団のことを話したんだ。 

 

 

 「その帰りしなに、 お前が俺に言った言葉は覚えているか?」 

 

 

 「いいえ、 残念ながら覚えていません」 

 

 

   首を振って、 古泉が答える。   その顔には余裕の色がありありと見て取れる。 

  別に残念じゃないさ、 俺が覚えてる。 

 

 

 「その時に、 お前は俺にこう言ったんだ。 

   『なかなか楽しかったですよ。 

  期待に違わず面白い人ですね、涼宮さんは』 ってな」 

 

 

 「………それが、 何か? 

  取り立てて、 可笑しなことではありませんが…」 

 

 

    訳がわからないといった感じで、 怪訝そうに尋ねてくる古泉。 

  まぁ、 これでだけじゃそう思うのも無理はない。   なら、 外堀を埋めるまでさ。 

 

 

 「じゃあ、 質問を変えるぞ。 

  お前は、 今月中にあった部長氏がいなくなった事件。   それを覚えているか」 

 

 

 「当たり前じゃないですか、 覚えてますよ。 

  して、 それが一体なんの関係を生むのでしょう」 

 

 

 「あの時、 俺にはさっぱりだった長門の言葉。 

  そいつを、 お前は擬いなりに理解していただろ」 

 

 

 「………………。   そう言えば、 そうでしたね」 

 

 

    そのことを少し回想したのか、 ほんの数秒ほどだんまりをした後に、 古泉が愉快気にそう言った。 

  何なんだ、 こいつ?   すこし気味が悪いぞ… 

 

 

 「………話を続けるぞ。   そのときに俺は、 確信したんだ。 

  『こいつは、 しっかり言葉を理解出来るんだな』 って」 

 

 

 「だから?」 

 

 

 「だから、 可笑しいんじゃねぇか。 

  お前があの時言った、  『期待』 って言葉がな」 

 

 

 「………………」 

 

 

    大人しくなった古泉に、 俺は続ける。 

 

 

 「お前は、 ハルヒを観察する為にこの学校に派遣されたんだよな? 

  だったらお前にとって、 ハルヒは所詮ただの 『観察対象』 でしかなく、 

  言い様によっちゃ、 閉鎖空間を生み出す厄介者ってとこだろ。 

 

  その観察対象に、 お前が 『期待』 ? 

  違うよな、 お前があの時最も遣うべき適切な表現。   それは、  『予想通り』 か 『予測通り』 の筈だろ」 

 

 

  そうだよな、古泉。   唯の観察対象に 『期待』 なんて表現、 使うわけがない。 

  情が湧いてるからこそ、 出ちまったんだよな? 

 

 

 「ただ見ているだけの存在なら、  『予想通り』 でいい筈だ。 

  いや、 観察という客観的な作業に従事している以上、 主観的な 『期待』 なんて言葉は御法度もんだろう。 

  観察者なら観察者らしく、  『予想通り』 と言えばよかったんだ。 

 

  なぜなら、お前は 『とある感情』 に流されてハルヒを 『客観視』 出来ていなかったという裏付けになっちまうからだ」 

 

 

    古泉の顔が、若干歪む。 

 

 

 「………ですが、 それだけでそう判断するのは 

  極めて愚かな早計だと思いますが」 

 

 

    俺が聞いて分かる程度に怒気を混ぜて、 そう言ってくる古泉。 

  何をそんなに怒ってるのか知らないが、 まぁ待て。   お楽しみは、 これからさ。 

 

 

 「じゃあ、 もうひとつ質問だ。 

  お前は何で孤島で多丸さんに紹介するとき、 ハルヒにだけ『形容詞』を付けた?」 

 

 

 「あれは、別に-」 

 

 

 「そうは言わせんさ。   お前はあのくだらん寸劇のときですら、 

   『フェアプレイの精神』 に則った公平に準ずるような、 紳士的な奴だぞ。 

 

  そのお前が、 ある特定の女性だけに 『可憐』 だと? 

  合点が行かないな。   朝比奈さんになら 『可愛らしい』 とか、 長門になら 『もの静かな』 とか 

  そんな形容詞が付いてもいい筈だよな、 古泉」 

 

 

    俺の質問攻めに、 だんだんと古泉が苦汁を舐めるような顔付きへと変化させる。   その顔は 『窮鼠』 と表現するに相応しいほどに、 追い詰められ為す術がないような顔だった。   しかし一分と経たずして、 古泉が天啓でも舞い降りたような活き活きとした表情を見せ出した。   果たして、 この窮鼠は猫に噛み付けるのだろうか。 

 

 

 「そうですね、 しかし僕は 

  朝比奈さんにも 『愛らしい』 や 『美しい』 などと紹介しましたが…」 

 

 

    どうやら、鼠は猫に噛み付けなかったらしい。 

 

 

 「詭弁はその辺にして置いたほうが、 賢明だぞ古泉。 

  お前ともあろう者が、  『愛らしく美しい学園のアイドルな先輩』 と 

   『学園のアイドルのような、 愛らしく美しい先輩』 の違いが解からない訳ないよな?」 

 

 

 「………………」 

 

 

    完全に無言と化した古泉。 

  解からない訳は無いだろうが、 追い詰める意味で言ってやるか。 

 

 

 「解かり易いように 『かわいい』 ってのと、  『大きい』 ってのを使って例を出してみようか。 

   『大きな目をした、 かわいい顔』 と、  『かわいい目をした、 大きな顔』 。 

  これを聞きゃあ、 どの形容詞が何を形容してるか一発で解かるよな? 

 

  なら、 前者の場合、 お前の言う形容詞は 『学園のアイドル』 に掛かっている。 

  そして後者の場合なら、 その形容詞は 『先輩』 に掛かっているなんて言わずとも解かるだろ。 

 

  さて古泉、 お前に訊こうじゃないか。 

  どちらがお前にとって、 より身近な存在の名詞だ?   まさか、 アイドルなんて言う訳ないよな? 

  どちらがより強く、 その身近な存在を形容する?   兆に一つとして、  『愛らしく美しい学園のアイドルな先輩』 なんて言えねぇよな?」 

 

 

 「………もういいですよ…」 

 

 

 「なぁ、 古泉。   教えてくれよ。 

  なんで、 お前はハルヒに 『期待』 したんだ。 

  なんでお前は、 あの時朝比奈さんや長門とも行動した筈なのに 

  俺の肩叩いてまで呼び止めて言った言葉が、  『ハルヒについてだけ』 なんだ。 

  なんでこの間の孤島のとき、 お前はハルヒにだけ 『可憐』 と付けたんだ」 

 

 

 「……本当に止めてk-」 

 

 

 「このすべてを説明してくれよ、 古泉」 

 

 

 「…………………っ!」 

 

 

    下唇を噛み締め、 右手で額を覆う古泉。   しかし、 そのほんのりと開いた隙間からは、 苦悶の表情が窺える。 

  そんなに、バレたのが恥ずかしいのか?   そんなことを気にするとは、 案外こいつも普通の高校生なんだな。 

 

 

     『悩んでる人の横でそんなことを思ってる俺って、 ちょっとばかり不謹慎過ぎるか』 とか改まって考えていると、 不意に古泉が顔を上げ、 いつものスマイルに疲労感をプラスしたような顔を俺に向けて

 

 

 「残念ながら、 弁解の余地がありませんね」 

 

 

  当たり前だ、 これで言い訳しようものなら本気で答えさせたからな。 

 

 

 「おっと、 それは怖いですね」 

 

 

   などと、 少しだけだが俺たちは気の抜けた会話が出来た。 

 

 

 

--------------------------- 

 

 

 

 「よく見ていらしたんですね」 

 

 

  あぁ、 どうもあの時言ってたお前の 『期待』 って言葉が頭に引っ掛かってな。 

  しっくり来ねぇなと思いながら、 それとなく気に懸けていたんだ。 

 

 

 「素晴らしい洞察力と観察力ですね。   いやはや、 お見事ですよ。 

  ………それは、 そうと…」 

 

 

    っと、 言葉半ば辺りで古泉が意味有り気に切る。 

  なんだ?   気になるだろ。 

 

 

 「いえ、 ただ僕もあなたを見ていて気付いたことがあるんですよ。 

  今度はその僕の、 洞察眼と観察眼をあなたに披露したくてね」 

 

 

    悠々とそう語る古泉が言い終わると同時に、 俺の携帯がワンワン鳴り始める。 

  残念だったな、 古泉。   時間切れのようだ。 

 

 

  俺はうるさい携帯の通話ボタンを押して、 耳に通話口を当てた。 

 

 

 「もしも-」 

 

 

 「あと10分で集合時間だから、 遅れんじゃないわよ」 

 

 

    プツッ 

 

 

  切れた。   そういうわけだ、 古泉。 

  お前の話云々より、 ここは急いだほうが良さそうだぜ。 

 

 

    ベンチから立ち上がって、 俺が今から走っても絶対間に合わんよな、 とか考えていると 

 

 

 「別にかまいませんよ、 

  お昼からも十分時間はあるのですし」 

 

 

  ………まぁ、昼も同じだったらな…。 

 

 

    俺は一声古泉にそう言って、 朝と同じ喫茶店へと小走りで古泉と一緒に向かうのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

   ― To   be   continued ―   

 

 

 

 

 

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最終更新:2007年12月10日 00:46