素直なキモチ~第1話 過 去

さて、何から説明すればいいだろうか。
今日は1月のとある休日。今は朝の7時。
俺はベッドの上で起きている。
なぜだろぅ~?
この週末は珍しく恒例の市内探索は無し。

何でもハルヒが家の用事があるとの事だ。
だからこういう日ぐらい昼まで寝るぞ~と意気込んだんだが、意気込み過ぎたのか?とんでもなく早く目覚めてしまった。
しかも目覚めがすこぶるいいときた。
あまりにいいもんで、もう昼かと思い時計を見ると、なんとまだ7時 !
止まってるのかと思ったが、電池は一昨日替えたばかりだし、今もチッチッチッと規則正しく秒針が動いてる。
つまり時計は正常。窓から差し込む日差しはまさしく朝のそれであり、決して夜の7時ではない事を物語っている。
そう、今は紛れもなく朝の7時なのである。
もう一度言わせてくれ。
なぜだろぅ~?
俺が、普段この時間はまだ「本日の営業は終了しました」の札を出してシャッターが降りているはずが、「本日に限り朝市セール」で特別にシャッターを開けている頭を使って原因を模索していると


「キョンく~ん、朝だy・・・あれ~ ! もう起きてる~~ !!」


妹がノックをせずに部屋に入りかけ、起きてる俺を見てこう言いやがった。
なぁ妹よ、明日は休みだから昼まで寝かしてくれと、昨日言わなかったか?


「そ~だっけ? ・・・てへっ ! 」


そう言って自分の右手で頭をコツンとし、舌をだした。
確信犯だこいつ。


「でも~、キョンくんがこんな早起きしたら~、今日は槍が降るかもね? 」


きゃはははっと言って妹は下へ降りていった。
・・・あのーそれを言うなら妹よ、降るのは雨か雪と相場は決まってるんだがなー、なぜ槍なんだ?それに槍の雨は経験済みだ。あぁ思い出したくねぇ、やれやれ。
仕方ない。二度寝出来ぬ程目が覚めてしまったので、俺は朝食を取りに下へ降りていった。


「あら、今日は早いじゃない? こりゃ槍でも降るかしらね? 」


母上様の今朝一番の一言。
そんなに槍を降らせたいのですかあなた方は !!
なんなら降らせられる人を紹介しますよ?依頼料は・・・5人分の食事とレンガ並みの厚さの本数冊で手を打とう。
・・・ん?てことは今朝の妹はお袋の落とした爆弾じゃないのか?そう思って俺の正面でトーストをパクついている妹を見ると、


「てへっ ! 」


と言ってウィンクしてきやがった。
どこで覚えたんだそんな技 !
だいたい兄にそんは技は通用しません !
その技で俺に打撃をあたえられる人物は世界広しといえど、マイ スウィート エンジェ~ル朝比奈さん以外にいないのだよ !

そんなこんなで朝食を済ませ、時計を見ると、ちょうど8時をまわった所だ。
今日は特に何の予定もないはずなんだが、無性に出かけたくなった。
なぜだろぅ~?
という事で俺は支度をして玄関へ行くと


「あ~ ! キョンくんお出かけ~?あたしも行くぅ~~ ! 」


妹がまとわりついてきた。
悪い、友達と約束があるんだ。今度連れてってやるからな。


「え~~っ !  ぶ~~~~~~~っ ! 」


おもいっきりぶーたれてしまった。
友達と約束というのは真っ赤な嘘で、普段なら連れてってやってもよかったんだが、なぜか今日は一人で行きたかった(いや、行かねばならなかった?)のだ。すまんな、妹よ。
こうして俺は愛車に跨り、駅前へと向かった。


1月だというのに暖冬のお陰でここ数日は寒さも和らぎ、ましてや今日なんざ気象予報士のお告げでは3月並の暖かさになるとか。もはやこの国から四季が無くなるのも時間の問題じゃなかろうか。まぁ俺的には冬の寒さより夏の暑さの方が好きなので、個人的には大歓迎さ。そう、あくまで個人的にな。
空は雲一つない快晴。体に受ける風が意外に心地いい。
俺は走りながら、今朝起きてからの自分の行動を振り返ってみた。


休日だというのに早朝の素晴らしい目覚め。
予定もないのに早朝からの外出。


これは俺の普段の休日の過ごし方じゃない。なんだ?
SOS団になって半年が過ぎ、この間俺は普通じゃ考えられない様な事を体験してきた。宇宙人の情報ナンタラ空間で殺されかけたり、超能力者に連れられて神様?のストレス発散現場を社会見学したり(二回目はその神様とキスし・・・えぇい、それはいい ! )、未来人と過去へ跳んでヘンな落書き書かされたりetc.・・・と、たった半年でこれだけの体験するか?(いや、普通なら生涯かけてもどれ一つ体験することは無いのだが・・・)
つまりそんな俺だから、なにか異変(この場合は宇宙的、未来的、超能力的な事)があれば少しは感じ取れる様になっちまったんだ。
そこでいま感じているこの感覚をそれぞれに当てはめてみる。
宇宙的な恐怖感や不安感は無い。
未来的なめまいなども感じない。
強いて言えば超能力的・・・の二回目(キスし・・・って違~う !! )、この時の感覚に近い。異論反論受け付ける前に目覚めたら知らない内にそうなっていたという・・・・・・。
・・・まさか・・・な。


そうこうしている内にいつもの駐輪場に着き、愛車を預けて俺は歩きだした。
そして角を曲がる時、出会い頭に二人組の女性とぶつかりそうになり、慌てて謝罪した・・・んだが・・・、


「 !? キ、キョン?」


そこで出会った女性とは、俺が休日にもっとも会いたくない人物週間ランキング20週以上堂々1位、


そう、涼宮ハルヒであった。


あぁ、これで今日という素晴らしい一日は遙か遠い宇宙の彼方へ消え去ってしまった・・・。
さよなら今日・・・・・・。ふぉ~えぶぁ~♪
ハルヒは、別宇宙が入っているかのごとき大きな瞳を更に大きく見開き、驚いた表情で俺を見ている。二重銀河が見えるぜ。


「あ、あんたがこんな時間に出かけてるなんて・・・今日は槍でも降るかしら?」


お前まで槍を降らせたいのかハルヒよ?なんなら降らせられる人を紹介するぜ、って ! 紹介するまでもねぇ、お前自身その気になりゃ出来るんじゃねぇのか!? たのむ! やめてくれっ!
ん?そういえば二人組?
そう、ハルヒの隣にもう御一人いらっしゃる女性。スラッとしたスタイルで、まるでモデルの様に綺麗な人がハルヒと並んでいる。先程から不思議そうに俺達を見ていたが、ハルヒのやり取りを見て何かを思い出した様な笑顔になった。顔がどことなくハルヒに似ている感じだが・・・?


「まぁ! あなたがキョンさん!?」

えっ?俺の事を知ってる?
見た所、どう若く見積もっても20代後半~30代前半だ。
その年代の美人の知り合い・・・考えるまでもなくいない。
あの~どちら様でしょうか?


「いつもうちのハルヒがお世話になっています。ハルヒの母です」


ハルヒの母・・・って! 
この女性(と書いて「ひと」と読む)がハルヒのお母さん!!?
とても高校生の娘がいるとは思えない位若々しい!
ハルヒと並んでいると、ちょっと年の離れた姉妹にしか見えない。


「あっ! は、初めまして」
「キョンさんの事はハルヒからよく伺ってます」
「なっ! よ、余計な事言わなくていいのよ! ・・・・・・バカキョンなんだから」


母親に抗議するハルヒ。なに顔を赤らめてるんだこいつ? しかしハルヒの奴、俺の事をどう話してるんだ? ちょっと気になるな・・・。


「あっ! いや、そんな、ハハハ」


俺は緊張のあまり、わけのわからん受け答えをしてしまった。
そんな俺を見て、ハルヒ母は微笑んでいる。やさしそうなステキなお母さんだ。
なるほどハルヒのスタイルの良さは母親譲りか。・・・どうせなら性格も譲ってあげてほしかったが・・・。
そんな事を考えつつ、はたして今どんな顔してるんだか見たい様な見たくない様な俺を、ハルヒはジトーっとした目で


「・・・ふ~~ん、あんた年増が好みなんだ」
「ハルヒっ! 馬鹿な事を言うもんじゃありません、キョンさんに失礼でしょっ! 」


ふんっ! とハルヒはふてくされ顔でソッポ向く。
おっ、母親に怒られてるハルヒなんて、珍しいもん見せてもらったぞ。
だが次のハルヒ母の言葉を聞いて、あぁ、やっぱりこの二人は親子なんだなぁと納得した。


「それと、だれが年増ですって~? 」


この親にしてこの娘あり・・・。


ところで改めて見てみると、二人共黒い服装を召している。
ハルヒ母は黒のロングコート、ハルヒは同じく黒のこちらはハーフコートを羽織っている。コートの下も黒だ。こう並んでみると二人共ファッション雑誌の表紙を飾れそうな位、さまになっている。
だがこの格好は冠婚葬祭?家の用事とはこの事か。なら、余所者に足止めされてるのは良くないな。
ということで、俺は丁重に別れの挨拶をした。もちろん、ハルヒ母に対してだ。ハルヒには、じゃあな、と一言。但し「俺に構うな、俺に構うな」という念のオプション付きだ。
だがさすがに家の用事ではハルヒが俺を振り回す事はないだろう。おかえり、素晴らしきなる今日。


「あっ・・・」


ん?ハルヒが何か言いかけたようだが、聞き取れなかったのでそのまま立ち去ろうとすると、


「待って ! 」


突然ハルヒに呼び止められ、俺は振り返った。なんだ?


「・・・・・・母さんごめん、先・・・行ってて」


なぜか俯くハルヒ。


「?ハルヒ、でもあなた・・・」
「大丈夫 ! ・・・今日はちゃんと・・・行くから・・・」


どこか悲しげな・・・切ない笑顔でハルヒは答えた。


「でも・・・・・・」


ハルヒ母はちょっと困り顔でハルヒを見つめていた。


「大丈夫だから」


相変わらず切ない笑顔で答えるハルヒ。
俺は訳がわからず、ただ二人のやり取りを眺めているだけだった。
するとハルヒ母は、チラッと俺を見て少し微笑み、何だか知らんが納得した様な感じで


「・・・わかった。だけどあんた、自分で言い出したんだからちゃんと自分で責任持ちなさいよ」
「うん・・・ありがと。親父にも謝っといて」
「わかったわ」


と言ってハルヒ母は微笑んだまま俺の方に向き直り、


「ではキョンさん、うちの人を駅で待たせているので私はこれで。ハルヒの事頼みますね」
「えっ? は、はぁ・・・・・・」


ステキな笑顔を残しつつ、「じゃあね」とハルヒに声を掛けて、ハルヒ母は駅の方へと消えていった。それを見送るハルヒ。


・・・・・・・・・・・で?
俺はハルヒ母に何を頼まれたって? ハルヒを? Why? なぜ俺が? 勝手に頼まれてしまったが俺の今日の予定はどうなんだ? ・・・まぁ何もないから問題ないが、もしあったらどうすんだ? ・・・・・・やっぱり俺の予定は無視か。
結局ハルヒと会ったが最後、蟻地獄に落ちた蟻ってことか。すまん今日という日よ、やっぱふぉ~えぶぁ~だ。
それにしてもさすがハルヒ母、やる事はハルヒといっしょ、いや、ハルヒが受け継いだという事になるのか。
だがまだまだハルヒ母の方がレベルは上だ。あのやさしそうな雰囲気に惑わされて、異議を唱える頃には姿無し。そして手元に残るは押し付けられた頼み事。ハルヒはなんとか突っ込む余地がある。・・・まぁ、突っ込むだけで結局受けてしまうんだが。


「・・・なぁハルヒよ、俺は別にヒマだからいいんだが、お前は一緒に行かなくていいのか? その格好だと大事な用事だと思うんだが・・・」
「・・・・・・」


何だ、無視かよ。ハルヒはいまだ見送ったままの態勢なので俺に背を向けており、そしてなぜか俯いている。そんなに名残惜しいなら一緒に行きゃいいのに。
だが今のハルヒは何だかいつもと違う雰囲気を漂わせており、声を掛けづらい。なので俺も暫く黙っていたが、状況が変わりそうもないので意を決して再度ハルヒに問い掛けてみる。


「なぁ、ハルh・・・「今日ね・・・」


俺の問い掛けを遮るようにハルヒが口を開いた。まだ俺に背を向け俯いたまま、そして普段と違いどこか弱々しい声で。
ハルヒは一言発した後、また無言になったが、少しすると背を向けたまま何か覚悟を決めた様に頭を上げ、再び話し出した。


「今日ね・・・・・・命日なの」
「命日? 」
「そう・・・」


そして振り向いたハルヒの表情は、どこか切なく悲しげな笑顔だった。


「・・・お兄ちゃんの」
「 !! ・・・お兄さん!? 」


お兄さん!? ハルヒにお兄さんがいたのか!?
っていうか、命日って・・・
ハルヒは今の発言で少し楽になったのか、小さく「ふ~」と息を吐いたあと、


「ここじゃ何だから、どこか入りましょ」
「あ、あぁ」


そうして俺達は、いつもの喫茶店へ向かった。

店内はそこそこ人が入っていたが、奥の窓際のボックス席が空いていたので、そこに座った。俺はホットコーヒー、ハルヒはホットレモンティーを注文し、ウェイトレスがいなくなるまでお互い無言だった。
俺はどう話掛ければいいか解らず、ただテーブル上の水の入ったコップを見ていた。チラッとハルヒを見やると頬杖をついて窓の外を眺めていた。教室で俺の後ろの席でしているのと同じに。


「お兄ちゃんは、あたしより三つ上だったの」


窓の外を見ながら、抑揚のない口調でハルヒは話始めた。


「・・・そうなんだ」


俺はそれしか答えられなかった。
ハルヒは俺の方へ向き直り、話始めた。切ない笑顔のまま。


「あたしね、小さい頃あまり体が丈夫じゃなかったの。しょっちゅう学校を休んでたから友達もあまりいなかったし、外でおもいっきり遊んだ記憶も少ないの」
「えっ? 」


ハルヒが病弱だった!? 今のハルヒからは全然想像できん!
もしかしてその頃の反動で今が滅茶苦茶なのか?

そして、ハルヒは語り始める。


――お兄ちゃんはそんなあたしとは正反対で、明るくて、友達もいっぱいいて、元気に走り回ってたわ。あたしはそんなお兄ちゃんがとても羨ましかった。たまに体が元気な時も遠出は出来なかったからね。学校に通う事ぐらいが精一杯だった。
それでも学校に行けば、少ないけど友達もいたし、それはそれで楽しかったわ。でも体育の授業や学校の行事は殆どが見学か欠席。遠足にも行けなかった。
あたしもいつかは友達やお兄ちゃんといっしょに走り回りたい。そう思っても、体がいうこと効いてくれなかった。
あたしはいつも、窓から外を眺めてるだけ・・・。
そんなあたしに、お兄ちゃんはとても優しかったわ。外で見つけた物をあたしにいろいろ見せてくれたの。早く元気になって今度は一緒に取りに行こうって言ってね。
桜の花びら、かぶと虫やクワガタ、蝉の抜け殻、真っ赤な紅葉の葉、雪の日は小さな雪だるまを部屋へ持ってきて、暖かい部屋の中が水浸しになって母さんに怒られたり、さすがに蛇の抜け殻を持ってきた時は、即刻お兄ちゃんを部屋から閉め出して三日間入室禁止にさせたわ。


そこでハルヒは小さく微笑んだ。
そんなハルヒを見て、少し安堵した俺も笑顔で返した。


――あたしが小学校三年の夏休み前、具合が急変して暫く入院する事になったの、それも離れた病院へね。そこはここから電車で3時間位の所で、山に囲まれた田舎だった。その時のあたしには、きれいで新鮮な空気や環境が必要だったらしいの。だから夏休みの間は、ずっとそこの病院に入院してたわ。


その時、先ほど注文したものをウェイトレスが持ってきた。話は一時中断、お互い自分の物を一口啜る。
店内は程よく暖かいが、それでも一口飲んだコーヒーの暖かさが体の中から全身に染み渡り、気分がホッと落ち着いていくのを感じる。
ハルヒも少し落ち着いたのか、表情から切なさが消え、普通に思い出話を語るようなやさしい口調で続きを始めた。


――そこの病院は、普通の病院というより療養所の様な所で、あたしみたいに長期の静養が必要な人ばかりだったわ。家から片道3時間てことで、母さん達は通えない事もなかったんだけど、病院には付き添いの人も長期滞在出来る様に格安の宿泊施設が付属しててね、そこを一室借りる事にしたの。だから普段は母さんがそこに泊まって付き添ってくれたわ。その頃のあたしは精神的にもまいってたから、心配でしょうがなかったのね。だってその病院には、あたしの知ってる人は誰もいないし、周りはお年寄りばかり。そのうち、あたしのことを孫のようにかまってくれて親しくなった人が出来たけどね。
母さんが泊まってる間は当然、家には親父とお兄ちゃんだけだった。でも、親戚の叔母さんが時々家に来てくれてたから、その事で誰も文句も言わなかったわ。
だからその頃を思うと・・・恥しくてなかなか口に出せないけど・・・母さんや親父には感謝してるし、叔母さんには今でも頭が上がらないわ。
そして・・・もちろんお兄ちゃんにも。


最後の所で、一瞬切なさが滲み出たハルヒ。
まさかハルヒにこんな過去があったとは・・・普段のコイツからは全く想像できない様な苦労をしてきたのかと思うと、なんだか聞いてる俺の方まで胸が締め付けられる様な感じになる。
俺には想像も出来ない。お陰様で今の俺の周りには大病を患ったり、長期入院してる人がいない。妹も毎日元気に飛び回っているし(毎朝俺の腹の上でな)。
それが当たり前過ぎて、親や妹のことを時々うるさく思ったり、あまりに虫の居所が悪い時など・・・みんないなくなればいいと思った事もある。俺は世界で一番不幸なんじゃないか、と。
だが今のハルヒの話で、そんな俺がいかに幸せ者なんだと、実感した。
世の中には、俺みたいな不平不満を思う余裕すらなく、まさに生きていく事で精一杯な人たちもいるんだと、あらためて思い出させてくれた。
それがまさか身近にいる人物で、あろうことか普段俺達を振り回しているハルヒだったとは。
正直、ちょっと複雑な想いだ。


――お兄ちゃんは夏休みという事で、ちょくちょく見舞いに来てくれたわ。そんなある時、お兄ちゃんが母さんの所に一週間泊まってくれる事になったの。あたしはとても嬉しかった。これで毎日お兄ちゃんに会えるから。お兄ちゃんも嬉しそうだったわ。ここは周りを山々に囲まれてたから、いろんな物が発見出来そうだってね。お兄ちゃんそういうの好きだったし、何か見つけては本で調べてあたしにいろいろ教えてくれたわ。お兄ちゃんってね、頭も良かったの。成績も常に上の方だったし、スポーツも万能だったわ。
それに比べてあたしは・・・学校休みがちだったから勉強も遅れ気味で、正直、ついていくのがやっとって感じだった。


ここでハルヒはレモンティーを啜った。
どうやら昔のハルヒは、今とは全く正反対だった様だ。病弱という事もあるが、おとなしく、勉強もあまり出来る方でない。どちらかというと、お兄さんの方が今のハルヒに近い。では何がきっかけで今のハルヒになったのか? ハルヒには悪いが、話の続きが気になる。


「で、その一週間の最初の日、とても嬉しかった事が起きたわ。お兄ちゃんからプレゼントを貰ったの! もちろん蝉の抜け殻とかじゃないわよ、ちゃんとした物よ! なんだと思う!? 」


ハルヒは笑顔で身を乗り出して聞いてきた。人に聞いてきておきながら何だ、その早く言いたくてうずうずしているような目は。
だが今日初めてだなこんな顔。なぜか落ち着くのはどういうことだ?まぁそれはいいとしてハルヒの奴、よっぽど嬉しかったんだろう。だが・・・さっぱり見当もつかん。


「・・・あんたほんとにちゃんと考えたの? 」


ハルヒ疑惑の目。


「これよ! 」


と言ってハルヒは、嬉しそうに自分の頭を指さした。そこには、もはやトレードマークと言っていい物が・・・。
そう、それはいつもの黄色いリボン付きのカチューシャだった。


「あたしは嬉しくて、起きている間はずっと着けてたわ。まぁ、今じゃ小さくて着けられないから同じ形の少し大きいのをしてるけど、そのとき貰った物は今でも大切にしまってあるわ。・・・大切に・・・・・・お兄ちゃんの・・・・・・形見だから」


ハルヒは俯いてしまった。
暫くの沈黙・・・・・・。だが、また表情を明るくし、語り始めた。


「でね、お兄ちゃんから貰ったカチューシャは、ただのカチューシャじゃないの。不思議な力が込められてたの」
「不思議な力? 」


――そう、プレゼントしてくれた時、お兄ちゃん、こんな話をしてくれたわ。
「ハルヒ、神様って信じるか? 」
「かみさま? ん~~~よくわかんない」
「お兄ちゃんは信じてるんだ。だって、夢の中で会ったからな」
「夢の中で?? 」
「そうさ! おとといの夜、夢を見たんだ。真っ暗な中でお兄ちゃんはお祈りをしてたんだ、ハルヒの病気が早く治りますようにって」
「うんうん! 」
「そうしたら、お兄ちゃんの前に光が出てきて、少しずつ人の形になっていくんだ」
「それでそれで!!? 」
「それでその光の人が腕を伸ばして、手をお兄ちゃんの頭にのせたんだ」
「そしたらそしたら!!!? 」
「そしたらそのとき、ん~なんかもやもやしたものがお兄ちゃんの頭の中に入ってきたんだ」
「で、どーなったのどーなったの!!!!? 」
「そこで目が覚めたんだ」


なんだか妙に気になる話だな。神様? 光の人? 頭に入ってきたもやもやしたもの?
単なる夢の世界の空想話じゃないか、と言えばそれまでなんだが、俺自身今までそう思える様な話を実際に体験してきているからな~。それに、相手はハルヒの血縁者だ。もしかしてハルヒの力と何か関係があるのか?


――それでね、あたしはお兄ちゃんに聞いたの。
「じゃあじゃあ、お兄ちゃんは神様とお友達になったの? 」
「そうさ! その証拠に神様から大切なものを貰ったんだ」
「たいせつなものって? 」
「うん、神様の力を分けて貰ったんだ」
「神様のちから? 」
「ああ! さっき夢の中でもやもやしたものが頭に入ってきたって言ったろう? それが力なんだよ。・・・どうしてわかるのかわからないけど、なぜかわかるんだ」
「それって、どんなもの? 」
「不思議な力さ」
「ふしぎなちからって? 」
「ん~そーだな~~、あっ! ハルヒ、窓の外の木見えるか? 」
「うん」
「あれは桜の木だ。桜が咲くのは春だろ? そして今は夏だ。そこでお兄ちゃんがあの桜を咲かしてみせるよ」
「え~~無理だよ~~」
「まぁ見てろよ? 明日には満開だ、お花見が出来るぞ! 」
お兄ちゃんは自信満々にそう言ったの。
あたしは小さいながらに、いくらなんでもそれは無理だと思ってたわ。
でもね、翌朝起きたら窓に掛かってる白いカーテンがほんのりピンク色をしてたの。
あたしはもしかしてと思ってそーっとカーテンを開けて驚いたわ。
本当に桜が満開になってたのよ!
桜の木は他にも何本かあったけど、あたしの病室から見えるその一本だけ満開だったから病院中大騒ぎだったわ。
あたしがそんな季節外れの桜に見惚れていると、お兄ちゃんが部屋に入ってきてこう言ったの。
「どうだハルヒ、これが不思議な力さ! 」


ちょっと待て!! 待て待て待て待て!!
季節外れの桜って・・・あの時と同じじゃないか!
そう、去年俺たちがハルヒ超監督の下製作した、グダグダながらなぜか一部に受けの良かった(?) 映画『朝比奈ミクルの冒険』の時と!!
あの時も散々異常現象が多発した。われらが天使があやうく殺人マシーンになりかけたり、適当に拾った三毛猫が喋ったり、土鳩が白鳩になったり等々。
そしてその中にもあったな、秋なのに満開の桜。
たしかハルヒが「なんとなく桜の画が欲しかった」だけで、部室でのメイド服朝比奈さんよろしく愚直にも従ってしまったソメイヨシノ達。
その時と同じじゃないのか? なぜだ? 季節外れに桜を咲かす事なんて、なにかのトリックで出来るのか? 花咲爺さんでも雇ったんならぜひ連絡先を教えて欲しいね。妹の誕生日プレゼントにするから・・・ってあいつはまだ花より団子か。
やはりこれはあの時と同じという事だろう。


ハルヒの力


だがこの話ではハルヒではなくお兄さんが咲かしてみせたという。
という事はお兄さんにそういう力があったという事か、やはりあの夢の話で。
この時点ではお兄さんが今のハルヒと同じなんだ。
そしてこの頃のハルヒには力は無い。あればとっくに元気になってるはずだ。ではどうやって力がハルヒに生まれたのか?
ハルヒは続けた。


――桜の件であたしは、不思議な力をすっかり信じちゃってたわ。それに気付いたお兄ちゃんは、今度はあたしを元気付けてくれたの。
「いいかハルヒ、”病は気から” 昔の人は言いました。病気というのはその人の気持ち次第ですぐ治るものです」
「ほんと~~? 」
「本当です! こんな病気なんかに負けるもんかー!!、そう思えば病気のほうから逃げていっちゃうんです」
「・・・でも~あたしからは・・・逃げてくれないよ・・・」
「ん~ハルヒは少しおとなしいからな、まだまだ気合が足りないんだよ。そこで、そのカチューシャさ! 」
「これぇ? 」
「ああ。それにはお兄ちゃんが分けて貰った神様の力を入れておいたんだ。ハルヒの病気をやっつける為に」
「ほんと~~!? 」
「本当さ。でも力だけじゃだめなんだ。だからそれを頭に付けて ”絶対に元気になるんだ”ってもっともっと思えば早く元気になるぞ! 」
「うんっ!! あたしがんばる!! 」
それからあたしは、寝る時もずっとカチューシャを外さなくなったわ。母さんには寝る時ぐらい外しなさいって注意されたけど、
お兄ちゃんとの約束だから絶対に外さない! って言い張ってたわね。


この頃からハルヒの頑固さは変わらないんだな。


――その夜からあたしは、お兄ちゃんの言うとおり ”元気になるんだ、元気になるんだ” って、まるでおまじないの様に唱えてから寝る事にしたの。もちろんカチューシャ付きでね。
そしたらその夜、あたしは不思議な夢を見たわ。
まるでお兄ちゃんが話してくれた夢の様に、何かが頭に入ってくる感じがしたの。光の人が出てきたかどうかは覚えてないけど、でもその夢が2,3日続いたわ。その後パタリと見なくなったんだけど、それからかな、あたしの体が医者も驚く程回復していったのは。あたしは、これがカチューシャの不思議な力のおかげなんだって思ったわ。


なるほど、カチューシャに込められてた不思議な力がハルヒの見た夢の中でハルヒに移り、”元気になるんだ”という願いを叶えた。
こうしてハルヒに力が身についたという事か・・・。
ん、まてよ? てことはハルヒは自分にその不思議な力があるのを知っているのか? いや、そもそもお兄さんの力を今でも信じているのか? 古泉達はハルヒは自覚していないと言っていたが・・・


「あたしに不思議な力? そんなもんあるわけないじゃない。もしあったら、とっくに宇宙人も未来人も超能力者も見付けて遊んでるわよ」


たしかにとっくに見付けて遊んでるなー、宇宙人も未来人も超能力者も。


「世の中、そんな都合良くいかないわよ。不思議なんてのはね、なかなか見付からないから不思議なの。だからこそ、探す価値があるんじゃない」


ハルヒにしてはすごく真っ当な意見だ。その真っ当な部分をぜひとも普段の行動にも取り入れて欲しいもんだね。


「でも、お兄ちゃんの力は・・・信じるわ。だって、実際にこのあたしが体感してるもの。それに・・・・・・お兄ちゃんだから」


俺はこの時、お兄さんがとても羨ましいと思った。ハルヒから・・・いや、妹からここまで信頼されている事に。はたして俺の妹はどれだけ俺の事を信頼してるんだろうか。これからはもう少し妹に優しくしてみるかな。
さて過去のハルヒのその後だが、一週間後位には殆ど普通の人と変わらない位にまで回復し、発作のような体調不良も出なくなったそうだ、夏休み明けからは毎日普通に学校に通い続け、性格も徐々に明るくなっていき、勉強はお兄さんが教えてくれた勉強方法のおかげで成績も上がりだしたとの事。ちなみにその勉強方法は今でも実践してるらしい。ぜひ俺にも伝授して欲しいものだが・・・。


「だめよ! これはあたしとお兄ちゃんだけのものなんだから! 」


即刻拒否。残念!


・・・そしてハルヒの話は、運命の出来事へたどり着くのだが、その部分はかい摘んで説明させてほしい。
なぜって、その時のハルヒの表情が辛すぎて、正直あまり見てられなかったからだ。そして俺自身も聞いてて・・・辛かった。


ハルヒのお兄さんは、原因不明の病気でこの世を去った。
享年12才

ハルヒが元気になり、一家揃って明るく年が越せると疑わなかった12月に発病、そして年が明けて1月・・・、あまりにも突然の事だ。
ハルヒは、敢えて淡々とその時の事を話していた。
ただ、その大きな瞳を潤ませながら・・・。
御両親はかなりのショックで、暫くはろくに食事も取れなかったらしい。だがそんな両親の姿を見て、健気に元気付けてたのがハルヒだったという。あたしがお兄ちゃんの代わりになると言って・・・・・。


そして俺が聞いててもう一つ辛かったのは、お兄さんの年齢だ。12才・・・俺は年齢が近い事もあって思わず一番身近な人物を思い出してしまい、あろう事か想像してしまった。なぜこういう時によく回るんだ俺の頭よ!? そのエネルギーはテストの時まで貯蔵しておいてくれよ。進級が近いんだ、「涼宮先輩」」なんて呼びたくない。


「どうしたのキョン? 具合でも悪いの、大丈夫? 」
「えっ? 」


突然の問い掛けで顔を上げると、なぜかハルヒが心配そうに聞いてきた。どうしたんだ? 何を言ってるんだ?


「だって、ガタガタ震えてるじゃない」
「俺が? 」


どうやら俺は、自分でも気付かないうちに俯いたままガタガタ震えてたらしい。くそっ、忌々しい想像め!


「あぁ・・・すまん、大丈夫だ・・・ちょっと、やな想像しちまってな」
「やな想像って? 」
「いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
「だめよっ、教えなさい! さっきのは尋常ではなかったわ」


真剣な顔で問い詰めるハルヒ。そんなに酷かったのか俺? だがこんな事、今のハルヒに言えるわけねぇ。


「本当に大丈夫だか・・・「いいから! ・・・お願い、教えて」


急にしおらしくなりやがった。や、やめろそんな表情、まださっきので瞳が少し潤んでるじゃないか。そんな目でお願いされたら・・・しょうがない。俺は、まともにハルヒの顔を見る事が出来ず、視線を泳がせながら


「すまん、さっきの話の・・・お兄さんの年齢なんだが・・・つい妹を思い出しちまってな、それで勝手に・・・想像してしまったんだ。もし妹が、って・・・」
「・・・っ! 」


ハルヒも気付いた様だ。はっ! とした表情で口元を手で隠しながら、


「ごめんなさい・・・キョン・・・あたし、そんなつもりじゃ・・・」
「もちろんだ! お前のせいじゃない、断じてお前のせいじゃない」
「・・・・・」


俯いてしまったハルヒ。い、いかん、ただでさえ辛い思いをしているハルヒに、俺の事でさらに落としてねぇか?
何とかせねばって思えば思う程、何も浮かばねぇ。どうする俺?


「・・・ごめんね、キョン。こんな話しちゃって・・・」


俯いたまま、ハルヒは心底申し訳なさそうに謝罪する。いや、ほんとお前が悪いわけじゃないって。・・・それにしても調子狂うぜ、まったく。普段のコイツからこんな言葉を聞く事は、妹が俺に対して「キョンくん」以外の呼び名が出ない位まず無い。・・・たまにでもいいから出て欲しいんだが。


「いや構わないんだが・・・一つ聞いていいか? 」
「・・・何? 」


ハルヒは俺の問い掛けに驚いたように顔をあげた。そんなウルウルした目で見ないでくれ。俺の中の何かが崩れそうだ。やばいっ。俺は悟られない様に理性を強制フル稼動させ、


「その、お兄さんの事なんだが・・・なんで俺なんかに話してくれたんだ? 」
「・・・べ、別にキョンだからってわけじゃ・・・ないわよ。と、とにかく誰かに聞いて欲しかっただけよ。・・・けじめをつける為に」
「けじめ? 」


恐縮した様に肩をすぼめて答えるハルヒ。何だか知らんが照れてる様な表情が・・・いかんっ、稼動再開!


「あたし、どうしても信じられなかった・・・ううん、信じたくなかったの。お兄ちゃんが・・・いなくなった事を」


そりゃ、たしかに信じたくないだろう。身内の、それも兄妹だからな。俺ももし・・・、ってやめろ!!
ハルヒは、ぬるくなり掛けてきたレモンティーを元の熱さに戻そうとするかのごとく、スプーンでかき混ぜながら、


「お兄ちゃんは必ず還ってくる。だってお兄ちゃん、神様と友達なんだし、不思議な力も貰ったのよ。いまは、ちょっと遅くなったけど神様の所へ挨拶に行ってるだけ。不思議な力をくれてありがとう、・・・あたしを治してくれてありがとうって。だから、いつか必ず神様の力で還ってくるんだって、信じてた。だからあたし、お兄ちゃんのお葬式には出てないし、お墓参りも一度も行ってないの。行っちゃったら、認めざるおえないじゃない・・・事実を」


ハルヒ・・・そこまで・・・


「・・・ってね、思ってたわけよ」


さっきまで自分のティーカップを見て切なそうに語っていたハルヒが、明るい表情で俺の顔めがけて言い放ってきた。何だ!?


「たしかに小学生の頃はそう信じてたわ。でもさすがに中学になると、そんな夢みたいな事って・・・ね。だけど一度決めた事は途中で止めない。それがあたしの主義だからね」


主義だと? お前のは単なる意地じゃないのか。いったいどういう思考回路をしてるんだ。それに、たしか中学の頃はすでに不思議不思議って吠えまくってたんじゃなかったっかお前? それが ”そんな夢みたいな事” って不思議を否定する様に思うのはどういう事だ? そういえばこの熱血不思議女でもそれなりに常識は持ち合わせているって古泉が言ってたな。その頃のハルヒでも、こいつはこいつなりにお兄さんの事を受け入れていたって事か。そんなお前がどうして今回は行く事にしたんだ?


「まぁ、高校生になったら、あたしの周りがガラッと変わったからね・・・いろいろと。だから心境の変化ってやつ? ここはしっかり事実を認めなきゃってね。ただ、今一つ踏ん切りがつかなくて・・・。お兄ちゃんの話、今まで他の誰にも話してないの。大好きなお兄ちゃんとの大切な思い出だし、それにやっぱり・・・悲しい・・・辛い・・・もうそんな想いしたくない。だから、話したくなかった。でもいつまでもそんなんじゃ・・・先に進めないし・・・お兄ちゃんにも会いに行けないし、だから、誰かに聞いてもらって、それでけじめをつけようって・・・グスッ・・・あれ? おかしいな・・・なんで? ・・・ヒグッ・・・どうしてグスッ・・・あたし・・・」


表情が徐々に切なくなっていき、しまいにはすすり泣きだしてしまった。


「ハルヒ・・・もういい、わかったから」


そんなハルヒの姿が見るに耐えられず、告白を中断させた。ハルヒは溢れてくる涙を拭き続けた。
要するにハルヒは、今まで誰にも話せず胸にしまっておいたお兄さんの話を誰かに聞いてもらう事で、辛い気持ちをスッキリさせたかったと。体に溜め込むのは良くないから吐き出しちゃいなさい! ってコイツよく言ってるからな。で、その誰かっていうのが・・・俺なんかでよかったのか、ハルヒよ?


「し、知らないわよ! さっきも言ったけど誰でもよかったのよ。たまたま今朝あんたとバッタリ会ったから・・・・・・まぁ・・・何となく、会える気が・・・してたけど・・・」


いまだ涙を拭いつつ、口だけは虚勢を張っていた。
だがどういう事だ、会える気がしたって。俺はお前に会う・・・って待てよ?


「知らないわよ! ・・・ほんとに、ただそんな気がしただけよ」


ふんっ! と腕を組んで横を向くハルヒ。涙はもう止まっていたが顔が赤いぞ、どした? 具合が悪いのはお前の方じゃないのか?
だが俺は納得した。そう、今朝からの俺のイレギュラーな行動だ。早起きと早朝外出。お前か。お前がやったのか、ハルヒ。ったく、こんな事に力を使うんじゃない! 無駄遣いはいけません、てあのハルヒ母に教わらなかったのか? ・・・と言っても無理か、お前自覚してねーもんな。やれやれ~、結局離れていても、俺をどーにでも出来てしまうんだなーお前は。・・・まぁ、今回は大目に見てやろう、このコーヒーの奢りでな。


二人分の会計を済ませた俺は(って結局俺かよ! )、トイレから出てくるハルヒを外で待っていた。結構泣いてたからな。その間俺は考えた。今日のハルヒはとにかくいつもとは違う。いつもの傍若無人、天上天下唯我独尊な団長様ではない。仕方ないか、頼まれちゃったしな~あのお方に。
暫くしてハルヒがなんだか恥ずかしそうに出てきた。さっきまであった涙跡はきれいに消えていた。


「・・・今日は、悪かったわね・・・せっかくの休みに朝からつきあわせちゃって」
「・・・べつに」
「そ、それと・・・・・・ありがと・・・話・・・聞いてくれて」


ハルヒは俯いて言った。声が小さいぞ? また顔が赤いぞ? やっぱ具合悪いんじゃねぇのか? それにしてもまさかこいつから感謝の言葉を頂戴するとはね。


「・・・じゃあね」


ちょっと寂しそうな笑顔のハルヒ。


「待てよ、ハルヒ」
「えっ? 」


駅へ向かおうとするハルヒを俺は呼び止めた。今朝とは逆だな。


「・・・あー、えーとだなー・・・」


しまった! 呼び止めたはいいが、なんて言おうかまだ考えてなかった!


「なによ! ”ただ呼んだだけ~” なんて寒いギャグだったら死刑よ! 」


・・・いつの時代だよそれ?


「・・・これから行くんだろ? 」
「・・・そ、そうよ!」
「格安のボディーガード雇わねぇか? 」
「はぁ!? 」


そうだよな、はぁ!? だよな。俺も自分で何言い出してんだよって一人脳内ツッコミしちまったぜ。だがここまできたら行くしかない!


「・・・大事な団長様を一人で行かせるのは・・・心配・・・だからな」


俺は頭を掻きながら言っちまった。なんか恥ずかしいぜ、なんなんだよ、まったく!
だが、普段なら勝手に一人でどこへでも行けーって放出するんだが、いかんせん今日のこいつは一人にさせられない何かを出している。本人はいつもと変わらない強気な素振りをしてるつもりだろうが、ばればれなんだよ、無理してるのは。


「・・・な、なに子供扱いしてんのよ! あたしを誰だと思ってるの? 神聖にして高潔なSOS団団長涼宮ハルヒよ? ”初めてのおつかい” に出てくるお子ちゃまじゃないんだから! 」
「あのな、今のお前はなんか一人にさせられないんだよ。・・・なにも墓前までついていくとは言わん。手前まででいいんだ」
「キョン・・・・・・、し、仕方ないわねぇ! あ、あんたがそこまで言うんなら・・・ついてきなさい! そのかわり、しっかりあたしを守りなさいよ!!」
「了解しました、団長様」
「・・・・・・できれば・・・これからもずっと・・・」
「ん~? 何か言ったか? 」
「な、なんでもないわよバカキョン! ほら、さっさと行くわよ!!」

口では怒鳴りつつも顔はなぜかニヤけてるハルヒに引っ張られ、俺達は駅へ向かった。ハルヒ、やっぱ具合悪いんじゃねぇか? 顔が今朝ん中で一番赤いぞ?

第2話 墓参り~1へ


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