「一緒に出ような」
そう言ってあんたと私は別れた。たった一枚の壁が、あんたとあたしの決定的な違いを生んでいた。
あんたは紺青の暖簾をくぐり、あたしは真っ赤な暖簾をくぐる。
あたしは脱衣所ではしゃぐ子供を見ながら、壁の上にぽっかりと空いてる隙間を見ていた。いや、正確には男湯の天井だけど。
制服を脱ぎ、ブラジャーを外す。露になった形の良い胸が、あんたと決定的に違うことの証。
あんたの胸は硬い一枚岩のようで、あたしの胸はやわらかい小山。
決してみくるちゃんには敵わないけど、それなりにあたしはこの胸に誇りを持っている。胸に手をかけると、ひんやりとした感触がした。
パンツを脱げば、ここでもあんたとの決定的な違いを見せ付けられる。あんたは凸であたしは凹。全ての有生殖動物の基本だ。
お互い黒を生やしていることは保険の授業で習った。きっと同じようなものが、あんたの股間にも生えている。
でも、あたしはあくまで畑。畑は種を受け入れて、種を育てる。そしてあんたはその種。まぁ、あたしがあんたの種を受けるかどうかはわからないけど。
全裸になって、浴場でお湯をかぶる。冷え切った体には痺れるほどの暖かさだった。
あたしは体を洗い始めた。丹念に、自分が女であることを確かめるかのように。
いつもはこんなこと思わないけど、壁の向こうとはいえあんたが素っ裸でいると妙に意識してしまう。
洗い終えると、シャワーで一気に泡を流す。何十本ものお湯の矢が、あたしの肌に突き刺さる。相変わらず体は冷え切ったままで、手足がお湯にあたるとピリピリと痺れる。
あたしはそんなに髪は長くないほうだけど、それでも髪を洗うことに時間はかける。髪は女の命だからね。
昔、神田川という唄があったけど、あれは何故か女が待たされていた歌だった。
後になって聞くと、当時の男はみんな髪が長かったらしい。今じゃ信じられない。多分待つのはあんた。
「ハルヒー、先にあがるぞ」
あんたの声が浴場にこだまする。少し低くて、ここではよく聞こえた。
「うん」
あたしは普段より少し声を高めに返事をする。何故か、上ずってしまった。
まだ少し冷えていたあたしの体には、お風呂は背中がぞくぞくするほど気持ちが良かった。
いつもこういう時は必ずみくるちゃんにいたずらを仕掛ける。胸を揉んだりくすぐったり。
でも今日はあんたとあたしだけ。ふざけようにもふざけようがない。口でぶくぶく泡を立てながら、あたしはあんたについて考えた。
あんたは文句を言いながらも、あたしの後をついてきてくれる。
他の三人もついてきてはくれるけど、あたしのやることに文句は言わない。だから、いつもあたしがどういう目で見られてるのかがわからない。
あんたは文句を言う。文句を言うってことは、いつもあたしを見てくれているから? 
それとも長いものに巻かれてるくせに、自分に不利益なことがあると文句を言ってるだけ? どっちなんだろう……
でも、あんたがあたしに対して悪い思いはしていないように感じる。あんたは文句を言いながらも、あたしに笑いかけてくれる。多分、本物の笑顔で。
それに、あんたとキスをしてから、あんたのあたしへの接し方がちょっと変化した気がする。
あれはあくまで夢だったけど、妙にリアリティがあった。唇には、初めて異性とキスをした感覚が今でも残っている。
もしかして同じ夢を見たから? いいや、そんなことは絶対ありえない。他人が同じ夢を見るなんて、万に一つとしてないわ。
それとも、あの夢はあたしの願望を表すもので、あたしはあんたとキスをしたかったのかしら。
心のどこかで、あたしはあんたのことが好きなんじゃないんだろうか。今は考えられないけど。
……ちょっと長く入りすぎたかしら。

「遅かったな」
暖簾から出てきたあんたの髪はもう乾いていた。
「女の子のお風呂は時間がかかるものよ」
あたしはせめてもの反抗を見せた。それにしても外は寒いわ。せっかく暖まったのに、すぐ体が冷えちゃう。
……ふと、さっきの神田川を思い出してあんたの手を握ってみると、冷たかった。
「お前は、あったかいな」
あたしの心もあったまった。

|