あたしたちは今、桜の木の下で川の字になっている。
間にキョン、両隣にあたしと有希。
えーっと、古泉くんとみくるちゃんはどこに行ったのかしら?
全然覚えてないわ……、あー、頭痛いわねえ。何でかしら、ええっと……、
「飲みすぎだ、馬鹿」
「うっさいわねえ……。あんただって飲んでたじゃない」
うう、自分の声が頭に響くわ。
「自業自得」
有希までそんなことを言うのね。
まあ、自業自得と言えば自業自得だろうけど……、っていうかなんで有希まで寝ているのよ。あんたは酒に強かったんじゃなかったの?
いや、あんまりよく覚えてないんだけど……。
「彼と古泉一樹の要望により、アルコールに対する抵抗力を一時的に低下させている」
何言っているのかしら、よくわからないわ……。
「長門……、そういうことはハルヒに言わなくていいぞ」
何それ、二人だけの秘密だとでも言うの?
なんだか気に食わないわ……。あたしは重い身体を引きずりつつ、上半身だけを起した。
……うわ、キョンったら間抜けな顔。
まあキョンが間抜けなのはいつものことだけどさ。
「何だよ」
あたしの方を見たキョンが、顔を顰める。
「別に、何も」
そんなキョンの顔を見ると、なんだか毒気が抜けちゃう。
酔いが覚めるってわけじゃないんだけど、別に何か言わなくても良いかなって思っちゃうのよ。
何か言っても頭に響いて後悔する羽目になるだけだし……。
うう、でも、本当に頭痛いわ。
あーもう、お酒だけは駄目ねえ。
「なあ、ハルヒ」
「何よ」
「お前、断酒を誓ったんじゃなかったか?」
「忘れたわ、そんなこと」
「……馬鹿だろ、お前」
「うっさいわねえ。キョンだって似たような物じゃない」
「いや、俺はお前に巻き込まれただっ……、って、おい」
ええっと、あたし、何したんだろう?
キョンが五月蝿いなあって思って、その唇を塞ぐために……、あ、あれ、ええっと……。あー、うーん、えっと、えっと……、うん、まあ、良いわ。
酔った勢いってことにさせてちょうだい。
でなきゃ、言葉を塞ぐために唇で唇を何て……。あー、言ってて恥ずかしいわ。
「黙んなさい」
「……」
「ねえ」
「何だよ」
「みくるちゃんと古泉くんは?」
「水を買いに言った。古泉は俺達より酒に強いし、朝比奈さんは最初から飲んでないからな」
「そう……」
あたしは身体を半分起したまま、ぼんやりと桜を眺めていた。
あたし、何しているんだろうなあ……、酔った勢いで、かあ。
有希も居るのに……。あ、いや、それは……、そう言えば、有希はどう思っているのかしら?
って、有希、完全に寝ているし……、ううん、気付かれてないのかしら?
それならそれで良いんだけど……。
「なあ、ハルヒ。さっきの、」
「忘れなさい」
「……」
「団長命令よ、忘れなさい」
「……分かった」
キョンったら、反論一つしないのね。
まあ、良いけど……、でも、なんか癪ねえ。
そりゃ、覚えられていても、困るけど……、そう、困るのよ。
こんなこと……。
あーあ、あたし、何しているんだろうなあ。
あたしはキョンから視線を外し、もう一度桜を眺めた。
宵闇の中で桜が舞い散る光景は、幻想的で、凄く綺麗だった。
終わり