(これは、無限の分岐の続きであり、アンリミテッドブレイドワークスの終章です)
―――っ出来ない…!
いくらハルヒがいたとしても、やっぱり俺は人の命と引き換えに生き返ることは出来ない。
「…やっぱり、生き返れない」
「…!」
俺の言葉に、後ろの女は驚いたようだった。
「…何故?涼宮ハルヒのことはいいの?」
焦るように、俺に尋ねる。
「…確かに、ハルヒのことは心残りだ。でもやっぱり…俺は人の変わりに生き返るなんてのはごめんだ」
「………」
「…ハルヒには悪いと思う。…でも、あいつは俺が惚れるくらい美人だ。きっと、俺より良い男と幸せになってくれるさ」
「…そう」
「ああ」
俺がそう言うと、後ろの女は抱きつくのをやめた。
「では…私は現実世界に戻る。…40年後、また逢えることを祈っている」
「ああ判ったよ。名も忘れちまった誰かさん」
キョンが入院してからもう十年がたった。
あたしは高校を卒業して、大学を出て、一流のIT関係の会社に就職した。
キョンはまだ目を覚ましていない。
みくるちゃんは、海外に行くと言っていた。
有希は、図書館で司書の仕事をしている。
古泉君は…わからない。あの日、病院で会ったのを最後に、消えてしまった。学校側にも何の連絡が入らなかったとか。
そして、あたしは子供を生んだ。
初めてキョンとつながった日に出来…授かった子供。
お母さんは相手がキョンなら、と賛成してくれたが、親父は猛反対した。当然だ。あの時あたしはまだ16歳。結婚は出来る年だが、高校生であるあたしに育てられるはずはない、と。
それでも、あたしとお母さんの必死の説得で何とか承諾してくれた。
生んだ子供は男の子で、最近どんどんキョンに似てきた。やたらと「やれやれ」って言うところとか。
あたしはたまにこの子と一緒にキョンのお見舞いに行く。
未だに目を覚まさないけど、それでも、何故かあたしたちを見守ってくれているように思えてしまう。
あたしの―――最愛の人。
「ねえ、母さん」
「ん?」
「父さんはいつ目を覚ますの?」
「さあ…?お父さんに聞いてみれば?」
「うーん…父さん、無口だからなぁ」
「ふふっ…なら、教えてくれるまで待ちましょうね」
子供が中学校に入学した。
子供が高校に受かった。
子供が大学に受かった。
子供が入社した。
子供が出世した。
あたしは、もう57歳。…おばさんだ。
子供も、お嫁さんを貰っている。孫も生まれた。
あたしは最近毎日お見舞いに来る。…何故だか、キョンが帰ってくる気がして。
今日はあたしの誕生日。
毎年、この日はケーキを買ってキョンの病室で食べている。
病室のドアを開ける。
…キョンが起きていた。
最後に会話した日から、随分と経って老けてしまったけど。
あの頃と同じように、足を組んで、腕を組んで、微笑みながら、言った。
「誕生日、おめでとう。…ハルヒ」
私は答える。
あの頃と同じように。
40年分の不満と期待と不幸と幸せを込めて―――
「遅い!罰金!」
Fin