「……で、話とはなんだ、古泉」
「……はい」
…。
夕暮れの文芸部室、今この空間に居るのは俺といつに無く真剣な表情の古泉。
…。
状況が分からない?
大丈夫だ、俺も理解していない。
いつもの時間が終わり帰宅しようとした俺を古泉が呼び止めたのだ。
…。
「大事なお話があります」
…。
……と。
とりあえず分かるのは古泉が何か重大な話をしようとしている事ぐらいだ……やれやれ、また厄介事か?
…。
「またハルヒが何かやらかしたのか?」
「いえ、涼宮さんの事ではありません」
…。
ハルヒの事では無い?
…。
「ならお前、あるいは長門や朝比奈さんの事か?」
「いえ、今回は超能力的、宇宙人的、未来人的な事とは一切関係ありません」
…。
じゃあなんだ?
…。
「……あなたの妹さんの事です」
…。
…………は?
…。
「ちょっと待て、なぜ俺の妹がここで出てくる?……まさか、俺の妹が異世界人だった……なんてオチ…」
「ご安心下さい、あなたの妹さんは正真正銘普通の人間です……話と言うのは…」
「話と言うのは?」
「…………あなたの妹さん、可愛いですよね…」
…。
…………は?
……コイツ何言ってんだ?
…。
「……ああ、可愛いな。歳が離れているから尚更な」
…。
とりあえず無難な返事をしてみるが…。
…。
「いえ!そう言う意味では無く!……その、一人の女性として……と言うか……何と言うか…」
…。
頬を赤らめてつぶやく古泉……実は気づいていた……気づきたくなかった…。
…。
「古泉……お前……まさか……」
「…………はい」
…。
…。
古泉一樹はロリコンだった
…。
…。
……神……神よ……いや待て!落ち着け俺!
俺はこんな事態には常人よりも耐性がある!そうだろ?……そうだ、まずは深呼吸だ……………よし、落ち着いた。
まずはコイツが本物かどうか確かめなくては。
…。
「古泉!!」
…。
俺はハルヒが野球部からパクってきたボール(本人は迷子になっていたのを保護したと言い張っている)に妹と書き、古泉に突き付けた。
…。
「え……?」
…。
次に筆箱から取り出した消しゴムに上○彩と書き、同じように突き付けた。
…。
「あの……これは一体……」
…。
突然の俺の行動に困惑する古泉。
俺は静かに告げた。
…。
「古泉、この○戸彩をお前の好きにしても良いぞ」
「好きにしても良いとは?」
「撫で回そうが、乳を揉もうが、口に含もうがお前の好きにしろ」
「な?!そ、そんな事許されるのですか?事務所とか問題ないのですか?!」
「事務所など気にする事は無い……ただし!上戸○を選ぶか我が妹を選ぶかはっきりとしてもらおうか!!」
…。
俺ははっきりと古泉に告げた。
明らかな狼狽を見せる古泉……さあ、どう出る?
…。
「……決まっているではないですか、○戸彩を出せば僕の心が揺らぐとでも思いましたか?……まぁ……実際少し揺らぎましたが……僕の答えは……ふもっふ!!」
…。
なっ!?
…。
古泉は掛け声と共に消しゴムを投げ捨てた……ああ……彩ちゃん……。
…。
「……本物か」
…。
困った事にどうやらコイツは本物らしい。
只でさえ超能力者と言う属性を所持しているのにその上ロリコンの属性までも求めなくても……。
…。
「そんな訳でこれからあなたの家に行き、お義父さんとお義母さんにご挨拶をして晩御飯でもご馳走になろうかと思‥」
「断る!!」
「……即答ですか」
「当然だ!これで了承する奴がこの世界のどこに居る?」
「いえ、ここに居れば良いなと……いや、駄目ですか……参りましたね……」
…。
突然表情を落とす古泉……様子が変だ。
…。
「どうした?」
「はい、実は……」
…。
…。
古泉が語った事、銀行の手違いで仕送りが遅れ明日にならないとお金が入らない、そして数日前から何も食べて無い……との事。
道理で顔色が悪い訳だ。
…。
「そうだったのか」
「はい……恥ずかしながら」
…。
ここで無視するほど俺は冷たい人間では無い。
しかし、俺もハルヒが課す罰金で手持ち金は無いし……かと言って家に連れていけば妹が危ないし…。
…。
「……あ!?」
「どうされましたか?」
…。
そうだ、あれがあるじゃないか!
まさに今こそ使う時だろ?
…。
「古泉」
「なんでしょうか?」
「ハルヒに飯を奢らせるぞ」
「…………すいませんもう一度お願いします」
…。
聞き返す古泉、幻聴とでも思ったか?
…。
「聞こえなかったか?ならもう一度言おう。
ハルヒに飯を奢らせるぞ! 」
…。
俺の言葉に目を見開いて驚愕する古泉……まぁ、当然か。
…。
「……正気ですか?」
「ああ、至って正気だ」
「涼宮さんですよ?」
「ああ、あの涼宮ハルヒだ」
「天上天下唯我独尊、目の無い巨大台風、世界の中心で我が侭を叫ぶ第六天魔王……等、様々な異名を持つあの涼宮ハルヒにですか?!」
「……お前本人居ないと思って言いたい放題だな……そうだ、その第六天魔王にだ」
…。
しばらく沈黙が流れたた。
その間古泉は俺を理解出来ない物を見るかのような目で見続けた……いやいや、超能力者でロリコンなお前が一番理解出来ねぇよ。
古泉が沈黙を破る。
…。
「……しかし、あなたのその自信、何か手でも?」
…。
その言葉に俺は無言で例のモノを取り出しスイッチを入れた。
…。
…。
「こ…これは……いつの間に……」
「ああ、一昨日にな。まさかこんなに早く役に立つ時が来るとは」
「これがあなたの武器……たしかにこれならば…」
「ああ、勝てる!あの第六天魔王にな」
…。
俺の用意した武器、これがあればあのハルヒと言えども俺たちに飯を奢らざるを得ないだろう……しかし…。
…。
「ただし、一つ問題がある。これは古泉、お前に深く関係する事だ」
…。
古泉の顔に緊張が走り……そして口を開いた。
…。
「……閉鎖空間ですね」
…。
閉鎖空間……知っての通りハルヒの精神が不安定になると発生するトンデモ空間。
これの発生を食い止めるのが古泉……機関の使命。
俺たちが今から実行しようとしている事は機関にとって敵対を意味する事になる。
なぜならこれを実行したら過去最大級の閉鎖空間が発生する事が確実な訳だから。
…。
「どうする?」
「…………」
…。
古泉は無言で俺に背を向け窓へと向かった。
…。
「まぁ、無理だよな、さすがに……この件は無かった事に…」
「雪山の件……覚えていますか?」
…。
俺に背を向け窓の外を見ていた古泉が俺の言葉を遮るように語りかけた……雪山?
…。
「あの時約束しましたよね?
一度だけ機関を裏切りあなた方に味方する
……と」
「……それが?」
「あの約束を果たす時が来たようです」
…。
……おい。
…。
「おそらくこの件を実行中に凄まじい勢いで電話が掛かってくるでしょう……ですが僕は!それを完全に無視します!……ええ、とても辛いですが僕は約束を守ります!あなたとの約束を!!」
…。
いつの間にか振り返り拳を握りしめ熱く語る古泉……ってか何だその約束の無駄使い。
…。
「……いや、そこまで重大な事でも」
「いえ、約束は約束です!」
「いや、いいって…」
「そこをなんとか……わかりました!では約束は一度では無く二度……いや、三度で。ですからその内の一回を今回に…」
「……ずいぶん安いな、お前の約束」
…。
要するにお前は大義名分が欲しいんだな?
お前がそのつもりならそれで良い。
…。
「分かった、お前の覚悟は受け取った……ではこれより我らは修羅に入る!」
「鬼に会っては鬼を切り、仏に会っては仏を切る……ですね?」
「さすが古泉、良く知っているな。まぁ、それくらいの覚悟が居るって事だ。
なんせ相手は…」
「第六天魔王もとい涼宮ハルヒ……神ですからね」
…。
こうして二匹の修羅と化した俺たちはハルヒの元へと向かった。
…。
…。
…。
…。
~涼宮ハルヒ~
…。
…。
…。
「結構遅くなったわね」
…。
今日は部活が終わった後、有希とみくるちゃん誘ってと最近開店したお寿司屋さん行ってみた……もちろん回るお寿司屋さんだけどね。
ん?なんでキョンと古泉君を誘わなかったかって?開店サービスで
女性のみ二千円で食べ放題!飲み放題!
…ってルールがあったからよ。
まぁ、アタシと有希が食べ過ぎたせいか
女性のみ二千円で食べ放題!飲み放題!(涼宮ハルヒ、長門有希除く)
ってなっちゃったけど……まぁ、それはまた別のお話。
それにたまには女の子同士だけで食事ってのも良いじゃない?
その後ケーキ屋さんに行ったりなんかしてこんな時間になっちゃった……別に帰りが遅くなったからって怒る親も居ないし。
ん?ああ、親が居ないってのは二人共仕事帰りがいつも遅くなるってだけだから勘違いしないで。
……それにしても一人娘を放って置くなんてグレたらどうすんのよ、幸いにもアタシは真っ直ぐ素直に育ったけど……なんて事考えている内に家に到着!
…。
ガチャガチャ
…。
「ただいま~……って誰も居ないんだけどね……ん?」
…。
リビングに灯りが点いている?お母さん?
…。
ガチャ
…。
「どうしたのお母さん、こんなに早…」
「お帰りハルヒ。遅かったな」
「お帰りなさい涼宮さん」
「……」
…。
ガチャ
…。
アタシはドア閉めた…………え?……キョンと古泉君……?
……幻覚と幻聴?……無理もないわ、団長としていつも気苦労が絶えないし……うん、幻覚幻覚。
アタシはもう一度ドアを開ける。
…。
ガチャ
…。
「なにやってるんだハルヒ?入らないのか?」
「涼宮さん、お茶を用意していますよ。座って下さい」
…。
…………幻覚じゃ……無い?!
…。
「ちょ…ちょっと!なんであんた達ここに居るのよ!?」
「……声を抑えろハルヒ、夜だぞ。近所迷惑を考えろ」
「何処から入ったの?!」
…。
アタシの問いにキョンはポケットから何かを……って?!
…。
「人の家の合鍵を勝手に作るな!」
…。
アタシはそれをひったくり怒鳴る……なに……この状況?何でキョンと古泉君が家に?
……駄目、頭グルグル……落ち着け涼宮ハルヒ!落ち着くの!落ち着いて今の状況を整理するの!
…。
「はい涼宮さん、お茶ですよ」
「ああ、ありがとう古泉君……ごくごく……ふぅ~……じゃなくて!なんで古泉君まで居るのよ!」
「まぁ、まずは落ち着け、深呼吸だ。それにしてもお前は突然の事態に対する耐性が無いな。それでも団長か?そんなザマで何が世界の不思議を見つけるだ!!ええ?!」
…。
くっ……言い返せない……ってか……何でアタシ怒られてるんだろう…?
とにかくキョンの言う通り深呼吸……………………よし、もう大丈夫!
…。
「落ち着いたか?じゃあ話を聞け」
…。
…。
…。
…。
「なるほどね」
…。
キョンの話……まさか古泉君にそんか事情があっただなんて。
…。
「そんな訳だ、だから団長として俺と古泉に飯を奢ってくれ」
…。
なんでキョンが入っているのか理解出来ないけど……って言うか。
…。
「それは別にキョンが古泉君に奢ってあげたら良いんじゃない?」
「あいにく俺はお前が課す罰金で貧乏だ」
「ん……でも家に招待して晩御飯をご馳走するぐらい良いでしょ?」
「ある切実な事情があって古泉に家の敷居を跨がせる訳にはいかないんだ」
「……何よそれ」
「それは禁則事項だ」
…。
何よ禁則事項って……そう言えばみくるちゃんもたまに使うわね。
こんど意味聞いてみよう。
…。
「でも残念だけど家は何も無いわよ、アタシも外で済ませて来たし」
「ああ、それは確認済だ。見事に何も無いな」
「勝手に家捜しするな!!」
「声大きい、近所迷惑を考えろ」
「あんたはアタシの迷惑を考えなさい! ……まさかアタシの部屋とか入ってないでしょうね?」
…。
もしも写真立てとか……それどころか日記でも見られていたら。
…。
「見損なうな、そんなモラルに反する事を俺たちがすると思っているのか?お前は俺達をそんな目で見ていたのか?……だとしたらかなりのショックだな…」
…。
表情を落としうつ向くキョン……別にそんなつもりじゃ…。
…。
「ご、ごめんなさい。言い過ぎたわ」
「……すまん、俺も言い過ぎた」
…。
アタシの悪い癖……不用意な発言で人を傷つける……反省。
…。
「……不法侵入の時点で人としてアウトなんですけどね」
…。
古泉君の呟きが聞こえたような気がしたけど話が進まないからとりあえず聞かなかった事にする……ってかさっきから古泉君の携帯鳴りっぱなしなんだけどなんで出ないんだろ?
…。
「と、とにかく何も無いのは確認済なんでしょ?無駄足だったわね」
「それは問題ない、今から外でお前に奢ってもらうつもりだからな」
「な!?嫌よ!アタシは奢ってもらうのは好きだけど人に奢るのは大っ嫌いなの!」
「……そんな発言を堂々と胸を張って言える所がお前の良い所であり羨ましい所なんだが……ハルヒ?」
…。
キョンの表情が変わる……何よその猛禽類を思わせる鋭い目は?
…。
「な、なによ」
「一昨日の放課後を覚えているか?」
…。
一昨日の放課後?
え~と……たしかキョンは掃除当番、たしか古泉君も。みくるちゃんは鶴屋さんと用事があって、有希はコンピ研に……そう、アタシが一番に部室に行ってしばらく誰も………あ!?
…。
「思い出したか?」
…。
邪悪……そうとしか表現出来ない顔でニヤリと笑うキョン。
…。
「キョンあんた……まさか……」
「古泉」
「はい」
…。
古泉君が取り出したのはカセットレコーダー……って事は……やっぱり…。
…。
「人と言うのは悲しいな……暇になると即興で歌を作り歌ってしまう。しかもそれは大抵が恥ずかしい代物だ」
…。
足がガクガクと震える……道理であんなに強気だった訳だ二人共…。
…。
「ハルヒ、お前に選択肢は無い」
…。
……くっ
…。
「分かったわよ!奢れば良いんでしょ?奢れば!ライスでもライス大盛でも好きにどうぞ!」
「……やれやれ、お前はまだ自分の立場が理解出来ていないみたいだな……古泉」
「はい」
…。
カチッ
…。
うきやあああああああああああ!!!
…。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい申し訳ありませんでした!!何でも好きな物をお腹一杯お食べくださいませ!二人は成長期だから美味しい物を一杯食べないといけないのおおお!!」
「古泉」
「はい」
…。
カチッ
…。
「……うっ……うっ……」
「涼宮さん、ご馳走になります」
「ハルヒ、素直なお前が一番可愛いぞ」
「この鬼いいいいいい!!!」
…。
悪魔二人に晩御飯をご馳走する羽目になってしまった……アタシともあろう者が……うっ…うっ…。
…。
…。
…。
そんかこんなで今、夜道をアタシ、キョン、古泉君の三人で歩いている。
静かな夜道に二人の話し声と古泉君の携帯音だけが響き渡っていた。
…。
「ここの高級レストランに入るわよ」
「高級レストランって……ただのファミレスじゃないですか」
「まぁ、もう歩くのも疲れた。次回はもっとマシな所に連れていけよ」
…。
じ…次回って…。
…。
…。
…。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
…。
席に着くと……見るからに頭の軽そうな女が営業スマイルを浮かべて注文を聞きに来た。
……いけないいけない、アタシ心が荒んできてるわ…ダメよこんなんじゃ。
…。
「……コーヒー」
…。
お寿司食べたからお腹空いてないし……。
…。
「俺は高い順番に上から10品、それとデザートも上から5品」
…。
遠慮全く無しですか……そうですか…。
でも古泉君なら…。
…。
「おや、それは良いですね。では僕も彼と同じ物を」
…。
……もう好きにして。
…。
大量の料理がテーブルの上に並べられるやいなや、二人はまさに成長期とでも言うような食欲でそれらを胃袋へと入れ始めた。
……アタシはコーヒーを飲みながら眺める。
…。
「ねぇ、古泉君」
「はい?」
「さっきから携帯鳴りっぱなしだけど出なくて良いの?」
「あ、うるさかったですか?申し訳ありませんでした」
…。
そういって古泉君は電源を切った……良いの?
…。
……それにしても……これ全部でいくらになるのかな…。
アタシはポケットの財布を確認す…………え?……。
……そんな訳無いわ…そう!別のポケットに!
………無い……嘘…。
……落ち着け、落ち着くのよ涼宮ハルヒ、キョンも言ってたでしょ?
まずは深呼吸…………よし、落ち着いた。
財布は……あ!…そうだ…。
思い出した、リビングのテーブルに置いた財布の存在を……どうしよう…。
…。
「どうしたハルヒ?」
「どうかされましたか涼宮さん?」
「へっ?!な、なに?」
…。
突然二人が声を掛けてきた。
…。
「いや、顔色が悪いぞ」
「ええ、真っ青ですよ」
…。
……まずい。
…。
「べ、別に何も無いわよ!至って普通の状態よ!」
「そうか……なら良いんだが」
…。
二人は再び食事へと戻った……まだ……まだ駄目。せめて二人がお腹一杯になってから。
…。
…。
…。
…。
「いやあ、食った食った」
「ええ、こんなに美味しい食事は本当に久しぶりでしたよ」
…。
二人は食事を終え食後のコーヒーを飲んでいる……もう良いかな?大丈夫かな?……かな?
…。
「ねぇ、キョン、古泉君」
「なんだ、ハルヒ」
「なんでしょうか?」
…。
あ、笑顔だ……お腹一杯になったから凄く機嫌が良いんだよね?
うん、大丈夫。
…。
「あの……凄く言いにくい事なんだけど……」
「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ」
「ええ、何でも言って下さい」
…。
アタシは自分で出来る一番可愛い顔で言った。
…。
「財布……忘れて来ちゃった……テへッ(はーと)」
「「…………」」
…。
しばしの沈黙の後二人の顔がみるみると……。
…。
「「あ゛あ゛(怒)!!」」
「ひいっ(泣)」
「古泉!例のテープを今すぐ流せ!大音量でだ!」
「はい!ただいま!!」
…。
ちょおおおおおお!!!
…。
「ええ、お集まりの紳士淑女の皆様、北高SOS団団長涼宮ハルヒが心を込めて歌いました、聴いて下さい」
「いぃやめぇてえええええええワザとじゃ無いのおおおお本当にいいいいい!!! 」
…。
…。
その後アタシの必死の努力によりとりあえず大惨事はまぬがれた……ワザとじゃないの……本当なの…。
…。
…。
…。
…。
「……一杯食べてしまったな」
「……食べてしまいましたね」
「……食べたわね」
…。
アタシ達三人は今途方に暮れていた。
…。
「お金がありません。ごめんなさい」
…。
そんな言葉で許して貰えるような金額では無い事はアタシ達誰もが理解していた。
二人を見てみる……困っているわね。
方法はない、お金が無いのは事実。
……素直に謝るしかない……ここは団長であるアタシが仕切らないと!
…。
…。
「ねぇ、ここは素直にあやま…」
「やはりこの手しかありませんね」
「「え?!」」
…。
アタシの言葉を遮るように古泉君が発言した……何か手があるの?
…。
「聞かせてくれ、その手とやらを」
「はい、まずあちらをごらんください」
…。
古泉君が指す方向……レジの所に男の店員さんがいるわね…。
…。
「幸いにも今フロアに店員は一人しか居ません。まずあの店員の前に僕かあなた、あるいは涼宮さんが立ちます」
「「それで?」」
「次にその店員にボディブロウを入れるのです……その隙に逃亡……どうですか?」
「「なっ?!」」
…。
アタシとキョンは同時に驚きの声を上げる……ちょっと古泉君、それって食い逃げ!……いや、この場合は強盗よ!
…。
「古泉君!ちょっとそれは…」
「……その手があったか」
…。
……へっ?
…。
「この手しか思い浮かびませんでした」
「いや、さすが古泉だ。店員の前には俺が立とう」
「……漢ですね。ではお任せします」
…。
……なに?……この二人?……大体おかしいでしょキョン?
あんたの役目はアタシの暴走を止める事でしょ?まるで逆じゃない…。
…。
…。
アタシは知らなかった、この二人が修羅に入っていると言う事を。
鬼や仏をも斬る覚悟の二人にとって何の罪もない店員さんにボディブロウを喰らわせる事くらいほんの朝飯前だと言う事を……。
…。
…。
「ボディブロウは……そうですね、気絶させるのが一番の理想ですがそれは難しいと思いますので、とりあえず最低でも10秒は悶絶させたい所ですね」
「10秒か……じゃあこの角度で……」
「はい……えぐり込むように……」
…。
修羅二匹が作戦会議をしている……あの会議が終わったその時……何の罪も無い店員さんの前に立ちキョンは
…。
一切の手加減を止め、強力なボディブロウを喰らわせる
…。
そう
…。
微塵ほども容赦無く!!
…。
…。
「あは……あはははははは…」
…。
アタシは壊れかけていた……何故かって?
だってアタシ涼宮ハルヒよ?ちゃんと理解しているのよ自分が変人だって!それを受け入れているわ!
…。
でも……いま……いま…。
…。
「なぁ古泉、もしもあの店員が大怪我とかしたら……」
「その時はその時です。そんな事を考えていたらこのミッションは達成できません。僕なら殺すつもりで打ちます」
「……お前の言う通りだ。すまん、覚悟がたりなかった……殺す気でだな」
「祈りましょう。彼の幸運を……」
…。
…。
この三人の中で一番の常識人がアタシであると気づいてしまったから……。
…。
駄目!壊れるのはまだ早い!!アタシは誰だ?そう、涼宮ハルヒ!!頑張れアタシ!!
みんな見ていて、アタシ涼宮ハルヒの頑張り物語りを!!
…。
…。
…。
「待ちなさい!」
…。
アタシは今にも向かいそうだった二人に声をあげた。
…。
「なんだハルヒ?もうミッションをスタートさせねばならんのだが」
「涼宮さんも逃げる準備を早く」
「却下!!」
「……え?!」
「逃げる準備?ミッション?何ふざけた事言ってんの?大体団長たるアタシを無視して何勝手に話進めてんのよ!」
…。
二人の顔に狼狽が見える。
…。
「いえ……しかしこうなった以上はこれしか…」
「ハルヒ!じゃあお前には何か他に手があるっていうのか?」
…。
他の手?……それは……。
…。
「……無いわ」
「なら引っ込んでいろ!俺達のプランでなら確実にこの窮地から脱出出来るんだ」
…。
……ほう。
…。
「……なんの罪も無い人を傷付けてね」
「「……ん」」
…。
アタシの言葉に二人はうつ向く……効いたみたいね。
…。
「じゃあ……一体どうしろと…」
「涼宮ハルヒ」
「……は?」
「アタシの名前よ。思い出した?アタシが待てと言っているの!うだうだ言って無いで大人しく待ちなさい!」
…。
…。
…。
「……分かった」
「分かりました」
「うん、よろしい!」
…。
涼宮ハルヒ完全復活!
…。
…。
…。
…。
あれからしばらく時間が流れた。
さっきああは言ったけどこの窮地を脱する手段は未だに思いついていなかった。
…。
…。
『電話して誰かにお金持って来て貰えば良いんじゃね?』
…。
…。
神の声ありがとう。たしかにその手が一番よ。
でもアタシがその手を思いつくのは全て終わった後。
……人間ってテンパっているとそんな基本的な手段も思いつかないもんなのよ。
…。
「……やはりあの手しか」
「ダメよキョン!惨劇を起こして乗り越えてもその幸せは長くは続かないの。待ちましょう……追い風が吹くのを」
「追い風か……いつ吹くってんだ」
…。
今は待つしかない……そう……追い風を。
…。
「……よろしいですか?」
「古泉?」
「古泉君?」
…。
あれから一言も発しなかった古泉君が突然声をあげた。
…。
「どうした、古泉?」
「まずはあちらをご覧ください……おっと!何気なく、気付かれないように」
…。
古泉君の示す方向を見ると…………何?あいつ?
一人の人相の悪い男がアタシ達をジッと見ていた。
…。
「もうかれこれ一時間近くになります……あの不快な視線……もう我慢できません」
「……なるほどお前の言いたい事は分かった」
「これはあちらから喧嘩を売っているも同然……売られた喧嘩は買うべきです。ついでにここの支払い分巻き上げましょう」
「さすが古泉だな……上等だ、その役目、俺が引き受けよう」
「大丈夫ですか?結構強そうですよ」
「心配するな、伊達にこの一年過ごして来たわけじゃ無い。体力だけは無駄に付いた」
「……そうですか、ではご武運を」
…。
キョンは席を立ち向かおうとした。
…。
「待ちなさい」
…。
アタシはキョンを呼び止める。
…。
「なんだハルヒ、まさか止めろとか言うつもりじゃないだろうな?」
「いいえ!あの手の奴はここでキッチリと締めておくのが良いわ。
払わないとでもぬかしたら腕の一本でも折ってやりなさい」
「あ……ああ」
…。
今度こそキョンは向かった……ん?さっきと言っている事が違う?
なんで?売られた喧嘩は買うべきでしょ?
…。
「やりますね、いきなり胸ぐらを掴みましたよ」
「頑張れキョン!」
…。
…。
…。
「マズイですね……素直に謝りそうな気配です」
「なにやってんのよ!許したらダメよ!」
…。
…。
…。
「……どうやら打ち解けてしまった様ですね」
「……バカキョン」
…。
程なくしてキョンが笑顔で戻ってきた。
…。
「……あなたには失望しました」
「このチキン野郎……もう一回行って来なさいよ」
「違う違う、俺じゃなくて古泉が行けば良いんだよ」
「僕が?」
「古泉君が?」
…。
キョンは古泉君に行けと言っている……なんで古泉君?
…。
「……えっと……じゃあちょっと行ってきます」
「頼んだぞ」
…。
古泉君は首をかしげながら向かって言った。
…。
「キョン、説明して?」
「ああ、あの男、実はホモなんだ」
…。
……へっ?
…。
「どうやら古泉に一目惚れしたみたいでな、あの視線は奴から古泉へのラブ光線だったって訳だ」
「……そ、そうなんだ……んで支払いはどうするの?」
「ああ、紹介してくれたら報酬をコトがすんだ後、古泉に渡すそうだ」
「コトって……まさか?!」
…。
古泉君を見てみると……トイレに連れて行かれそうになっている?!
…。
「助けて下さい!この男……何かを狙っています!」
…。
古泉君の声が響き渡る……狙ってるって、あなたの肉体なのよ!
…。
「あなたは何電話掛ける振りをしているんですか?それどう見ても電話じゃなくてあなたが履いていた靴でしょ?!」
「ああ……次の商談の件だが…」
…。
キョンは上手くやっているわね……アタシは…。
…。
「涼宮さん!」
…。
アタシはテーブルの下に潜り耳を塞いで
…。
「プーさんでしゅプーさんでしゅ、ハチミツ食べたいでしゅ」
「テーブルに潜って一体なになっているんですか?!」
…。
古泉君はどんどんとトイレに近づいて……ううん、アタシは何も見ていない!聞いていない!
…。
「アッ――――!!!」
「プーさんでしゅプーさんでしゅ……」
…。
…。
…。
…。
「コーヒーお代わりお願いします」
「ああ、俺も」
…。
アタシとキョンは古泉君の帰還を待っていた……コーヒーを飲みながら。
古泉君がいつの間にか居なくなってそろそろ30分になろうとしている。
…。
「古泉一体何処に行ったんだろうな」
…。
キョンが棒読みでそう呟く。
…。
「そうね、いつの間に居なくなっちゃうんだものね」
…。
アタシも棒読みで返しておいた。
さらに15分ぐらい経った時だ。
…。
「古泉!」
「古泉君!」
…。
古泉君が帰って来た!
…。
…。
「一体何処に行っていたんだ?心配したぞ」
「本当よ、でも責めるつもりは無いわ。だってちゃんと帰ってきたのだもの」
「僕……僕……」
「どうした、古泉?」
「古泉君?」
…。
…。
「……汚れてしまいました」
…。
……古泉君。
…。
「お尻の穴が……痛いんです……」
…。
ああああああ!!!
…。
「痛みに耐えて良く頑張った!感動した!」
「あなたはSOS団の誇りよ!あなたに終身名誉副団長の称号を与えるわ!」
…。
古泉君あなたは本当に立派よ!……所で…。
…。
「古泉、あの男から何かもらわなかったか?」
「え?……ええ、これを…」
…。
古泉君が差し出した物……それは。
…。
「……テレホンカードだと?」
「……しかも50度数な上に使いかけ……こんな物の為に古泉君は…」
「待って下さい」
「「えっ?」」
「本当に大切な物はお金ではありませんよ、本当に大切な物とは……」
「「大切な物とは?」」
…。
…。
「固くて太い物です」
…。
…。
…。
「うわああああああ!!!」
「いやああああああ!!!」
…。
ファミレスにアタシとキョンの絶叫が響いた。
…。
「駄目だ古泉!!そっちは駄目だ!!」
「古泉君!!そっちにいったら駄目えええ!!」
…。
なんて事?!まさか古泉君が!
…。
「違うだろ古泉!お前はロリコンだ!!そうだろ?」
…。
……え?
…。
「キョン?ロリコンって……」
「ああ、古泉はホモなんかじゃない!俺の妹(11)が好きなロリコンなんだ!!まかせろ、俺が必ず何処に出しても恥ずかしくない立派なロリコンに戻してやる!!」
…。
古泉君……ロリコンだったんだ。
……ちょっと引いちゃった。
…。


594 名前:涼宮ハルヒの幕張 ◆0qzco1.0p6 [sage] 投稿日:2007/11/23(金) 01:13:49.31 ID:eK7mf4EFO
「古泉、今から俺が言う質問に答えろ!良いな?」
「は…はい…」
「女子児童、OL……さぁどちらに心が惹かれる?」
「女子……児童です」
「良し!なら次だ、ブルマとパンスト……どっちが欲しい?」
「…ブルマです」
…。
だんだんと古泉君の目に光が戻っていってるみたい……。
…。
「最後だ、上戸彩と俺の妹……どっちを愛している?」
「あなたの…妹さんです!」
…。
古泉君はしっかりとした声で言った……古泉…君。
…。
「古泉!」
「僕は……僕は……」
「何も……何も言うな……くう、涙がとまらねぇ」
「……ひっく……ひっく……古泉君……お帰りなさい」
…。
それからアタシ達は三人で抱き合って泣いた……事情を知らない他の人達ももらい泣きしているみたいね。
……本当にゴメンナサイ、ゴメンナサイ。
その涙無駄使いです。
本当にゴメンナサイ。
…。
「古泉、もう一度お前の愛する者の名前を聞かせてくれ」
「あなたの妹さん……」
「声が小さい!もう一度だ」
「あなたの妹さん…………の」
…。
……の?
…。
「お兄ちゃんです」
…。
…。
…。
……えっと……キョンの妹のお兄ちゃん……って……。
…。
「うわああああああああああ!!!」
…。
キョンの絶叫が響いた……古泉君……戻ってこれなかったのね…。
…。
「……キョンたん」
「やめろ……俺をキョンたんと呼ぶな……俺を恋する乙女の目でみるな……」
…。
キョンがどんどん追い詰められて行く……このままだとキョンが…。
でもアタシにこの状況で何が…………ん?!キョン?
キョンがアタシを見て……そう、分かったわあんたのアイコンタクト……伝わったわ。
まかせて!
…。
「古泉君!向こうでフンドシ締めた美少年の集団が悩ましげに腰を振りながら練り歩いているわよ!」
「なんですって?!」
…。
古泉君がアタシの言葉に騙された……今よ、キョン!
キョンは一瞬アタシに親指を立てた後素早く古泉君の後ろに回り込み……これは……これは…。
…。
「うぉおおおおお!!」
…。
ジャーマンスープレックスホールドだあああああ!!!
…。
グゥエシ!
…。
キョンの放った大技により古泉君は完全に沈黙した。
…。
「許せ古泉、こうするしか……こうするしかなかったんだ……しかしまさかロリコンからホモになるとは……」
「ええ、超サイヤ人3もビックリな変身ね……目が覚めた時元の古泉君に戻っていたら良いけど」
「ああ、心から……心からそう願うよ」
…。
…。
…。
それからのアタシ達、店長らしき人が現れて。
「お願いですから出ていって下さい。お代?ええ、結構ですから二度と来ないでください」
…。
と言われ追い出された。
…。
「結局払わないでよかった訳だ」
「結果オーライってやつね」
…。
アタシとキョンは固く手を握りあった。
…。
「ところでコレどうしようか? 」
「そうだな……そこの茂みにでも放りこんでおこう」
「でもここら辺野犬が出るって話よ」
「それは大丈夫だ。たってコレは古泉だぞ」
「そうね、古泉君だもんね」
…。
そしてコレを茂みに放り込んだ後、キョンとアタシは肩を並べ歩いていた。
…。
「ところでキョン!当然送ってくれるんでしょうね?」
…。
アタシの言葉にキョンはハニカミながら言った。
…。
「やれやれ、お姫様がお望みならばな」
…。
…。
…。
…。
「……ってところで目が覚めたのよ」
…。
…。
なんだ……それは…。
ん?状況が分からない?OK説明しよう。
…。
いつもの放課後、いつもの部室。
突然ハルヒが昨日面白い夢を見たと俺たちに語り始めたのだ。
…。
ってかずいぶんと危険な言葉が出てこなかったか?閉鎖空間とか…。
…。
「んなら感想は?みくるちゃん!」
「ふ、ふえ?!え~とえ~と……そ、そうだ!古泉君はどうでしたか?」
「……この話で僕に振りますか……そうですか……」
「ふぇえええ…」
…。
古泉のコメカミがヒクヒクしている。
朝比奈さんこれはさすがにあなたが悪いです。
…。
「長門、お前はどうだ?」
「……パクリ」
…。
さて、何の事だかさっぱり分からないな。

「……でもユニーク」
…。
…。
……おしまい。


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