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「……」
「……」
「……」
いやぁ、実に空気が重いなあ!
この組み合わせは肉体的には全然疲れないのに精神的疲労はなかなかに手強いものがあるんだよな、いつも。うん。
俺が一人で納得していると、この空気の間接的な原因である―――もちろん彼女にはこれっぽっちの非もない―――一少女がその理由を尋ねてきた。
「どうかした?」
「あぁ、いや何でもない」
「そう」
会話終了。この無駄を一切許さないといった感じのしゃべりは、言わずもがな、長門有希。
「ふあ!?……あっ」
「……大丈夫?」
「あぁっ!はいっ!えと……ごめんなさい!」
「何故謝る?」
「えと、そのぉ……な、何でもありません……」
「そう」
落ち着いて「ありがとう」と微笑みかけるだけで十分なのに何をそんなに焦っているのか、もどかしくも微笑ましいのは朝比奈みくるさん。
対長門に関してはスイッチが入ったようにおっかなびっくりな態度しかとれないでいる。
今もそう。
朝比奈さんがあわや地球にヘッドバットかと思われたところを、この世の物理法則を完全に無視した動きで長門が防いだのだ。
「右手に持っていた花が一瞬で左手に移った」と言えば位置関係その他諸々もお分かり頂けるであろう。
とかくまあこんなふうにちょくちょくボディタッチを重ねているにもかかわらず、朝比奈さんの長門への態度は見事なまでの一貫性を保ったままである。
そろそろこの関係に終止符が打たれても良さそうなものだが……っと、いい加減に何か発言しなければ三点リーダーだけで終わってしまう。
「……」
「……」
「……うーん……暇ですねぇ」
気の利いた事一つ言えない自分の才能を恨む。
「はい……暇ですね……」
ああまずい、このままでは再び三点リーダーがこの場を支配してしまう……ん?何だこの音は?それにこの匂いといったら、
「もしかして……やっぱりか」
それは簡単に見つかった。
やけに響きわたる音、香ばしい匂い、もくもくと吐き出される白い煙、その全てを携えた軽トラと言えば、そう。
「どうしたんですか?」
朝比奈さんが首をちょこんと傾げて尋ねてくる。
「長門、朝比奈さん、……焼き芋食べませんか?」
「「やきいも?」」
二人の声はぴったりと重なった。
「はい、焼き芋です。未来には無いんですか?焼き芋」
「?……あっ!焼き芋ですかぁ。焼き芋なら未来にもありま……あっ、いえ、禁則事項ですぅ……」
どうやら未来でも焼き芋は健在らしい。
焼き芋屋は何故潰れないのか、なんてタイトルで日本の経済について書きつづってみれば一発当たるかもしれん。
俺は書かないがな。
「長門はもしかして焼き芋知らなかったりするのか?」
「しない」即答。
「食べたことはあるか?」
「ない」これまた即答。
「食べてみたいか?」
長門はほんの数秒考えるそぶりを見せて、
「食べる」
と答えた。
「朝比奈さんも食べますよね?」
「あっ、はい、食べます」
「それじゃあ俺が買ってくるんでここで待ってて下さい」
「あっ、あのぉ、あたしも一緒にぃ……」
「いえ、朝比奈さんは長門と一緒にここで待っててください」
「で、でもぉ……あぁぅ……」
俺は朝比奈さんの反論を華麗にスルーして小走りで焼き芋カーへと向かった。


まあこれだけで朝比奈さんの長門に対する苦手意識が改善されるなどとはこれっぽっちも思っちゃいないが、
きっかけくらいにはなって欲しいもんだと思いつつ焼き芋を買う俺であった。


「おじさん、焼き芋三本」
「あいよ、あんた学生さんかい?一人で三本も食うのかい?」
俺は自分が北高生である旨を伝え、微妙な空気をまとう美少女二人組を示す。
焼き芋選びに夢中だったおっさんはそれを見て全てを理解したかのように頷いた。
「ほおー……」
何やら意味ありげな感嘆詞だがここはスルー。
「それじゃあサービスして500円だ」
ああどうもと俺は素っ気ない返事をし、その場を立ち去ろうとしたがここでおっさん。
「兄ちゃん、女っつーのは怖い生き物だからな。後ろから刺されない様に気い付けなよ」
何の心配をしているのやら見当違いも甚だしいと言って差し上げたいくらいの物言いだったが、
あながちおっさんの言ってることも間違っちゃいないように思えたので、
「そうですね、おじさんも気をつけてください」
苦笑するおっさんに俺はさらにこう加えた。
「特に宇宙人の女はタチガ悪いですよ」
おっさんはポカーンとしていたがとりあえずほったらかしにして、俺は二人の元へと急いだ。


「すみません、待たせちゃいましたか?」
「あっ、いえ、全然大丈夫です」
「……」
傍目から見てあの雰囲気は全然大丈夫じゃなかった気もするが……まあそれはいいだろう。
「ほら長門、これが焼き芋だぞ」
「形状は既に記憶している」
「熱いから気をつけろよ。朝比奈さんも」
焼き芋を長門と朝比奈さんに手渡す。
「あっ、はい、ありがとうございます!あのぉ……お代のほうは」
「あぁいや気にしないでください」
「でも」
朝比奈さんの言葉を遮って、
「実はまけてもらったんで大丈夫なんですよ」
「そうなんですかぁ。それじゃあ……お言葉に甘えていただいちゃいます!」
にっこりと微笑む朝比奈さんのお顔で目を潤してから久しぶりの焼き芋を味わおうとしていたその時、
早すぎる冬の到来を感じさせなくもない視線が俺を貫いている事に気がついた。
「どうしたんだ長門?」
「……食べ方が分からない」
「こんなの丸かじりでそのまま食べるだけだぞ」
「……」
長門は俺に向けていた視線を朝比奈さんに向ける。
「……朝比奈みくるの食べ方は何?」
「あー、これも間違った食べ方ではないな」
見ると朝比奈さんは親の仇でも討つかの様に焼き芋の皮をいそいそと剥いでいた。俺らの会話にも気づかないくらいに集中しているらしい。
「そう。……何故皮を剥く?」
「うーん、朝比奈さんに直接訊いてみたらどうだ?」
長門は作業に熱中する朝比奈さんの傍までより、
「……朝比奈みくる」
と、呼びかけた。もう少し声を出さなきゃ気がつかないんじゃないのか?それにそんな言い方だと……
「……朝比奈みくる」
「……」
「……朝比奈みくる」
「ふゃい!?」
朝比奈さんはすぐ横で自分の名前を連呼する長門にビクつき、せっかく半分まで皮を剥いた焼き芋を落としそうになる。
「え!?あっ!?あのぉ、そのぉ、……何でしょう?」
「……何故皮を剥く?」
「皮ですか?何の」
「焼き芋」
「あっ、すみません……えぇと、あたし皮のちょっと苦いのが苦手だからです」
「そう」
とだけ呟いてじっと朝比奈さんの焼き芋を見つめる長門。二人の間には言いしれぬ空気が漂う。
助け舟でも出してやるか。
「長門、結局どっちの食べ方で食べるんだ?」
長門は朝比奈さんの焼き芋に視線を固定して、
「……朝比奈みくるの方」
と言い、焼き芋の皮を剥き始めた。
自分が選ばれなかったことにそこはかとなくがっかりしたが、俺は焼き芋を食べるのを一時中断し長門の様子を見守ることにした。
朝比奈さんもどうやらそれにならうらしい。
俺と朝比奈さんは焼き芋の皮を剥く長門の姿を見つめていた。
かれこれ5分は経っただろうか。
長門の作業の具合のほうはと言うと、これまた驚くほど芳しくない。
四分の三くらいか?まだ皮を被っているのは。
長門は正確無比に皮と実を分離させていたが、いかんせんスローペース過ぎる。
せっかくの焼き芋が冷めてしまうではないか。
「長門、もう少し適当にやってもいいんだぞ。そんなんじゃ焼き芋が冷めちまう」
「……」
何故ここで沈黙なんだ?と思っていると、
「あ、あのぉ、長門さん」
朝比奈さんが長門に声をかけていた。
「何?」
「よ、良かったら、これ……どうぞ!」
と、初恋の人にいきなりラブレターを渡すかのような仕草でおそるおそる長門に焼き芋を捧げだす朝比奈さん。
朝比奈さんの焼き芋は持つところを残して四分の三ほどが裸になっている。ほくほくと湯気を出す黄色がまぶしいね。さっさと食いたいぜ。
「……」
長門は沈黙……かと思いきや、
「……感謝する」
と、朝比奈さんの焼き芋を受け取り、自分の焼き芋を朝比奈さんに手渡す。
朝比奈さんは聖母のような微笑みを長門にかけ、
「はい!」
と応える。
うーん、いまいち状況が把握できないのは俺だけか?
長門は焼き芋にパクつき、
「おいしい」
と素直な感想をもらす。
朝比奈さんはそれを聞いてほっとしたようだ。
優しい目つきで長門を一瞥してから二度目の皮剥きに取りかかろうとする。
このままでは機を逸してしまうこと明らかなので俺は訊いてみることにした。
「あの、朝比奈さん?」
「? 何でしょう?」
「さっきのは一体何だったんですか?」
朝比奈さんは「ふぅん?」といった感じで首を傾げる。
「長門との焼き芋のやり取りですよ」
「あっ、そのことですかぁ。えーとですね、」
朝比奈さんは長門に視線をやり、
「構わない」
と、長門が言うのを確認してから語り始めた。
「焼き芋の皮って結構剥きづらいんです。あたしも最初のころは上手に剥けませんでした。それでもしかして長門さんもそうなんじゃないかなぁと思って」
なるほどね。こりゃ驚いた。朝比奈さんが俺以上に長門を分析できるなんてな。
俺が納得したのを見て朝比奈さんは作業
に取りかかる。
黙々と皮を剥き始めた朝比奈さんに対し、
「……朝比奈みくる」
「ひゃあ!?あっ、はいっ、何でしょう?」
「おいしかった。ありがとう」
「!」
「……どうしたの?」
「あっ、いえ」
朝比奈さんはしばしの間を開けて、
「どういたしまして♪」
と、神々しいほどの微笑みで応じた。
ていうか長門、食べるの早すぎないか?


SOS団の中で唯一不安を覚える関係の二人だったが、この分なら心配には及ばないのかもしれん。
おっと、そろそろ焼き芋食わなきゃな。冷たい焼き芋なんて谷口の自慢話並に需要曲線下がりっぱなしだ。
……あのおっさん何て仕事しやがる。焼き芋なんてレベルじゃねぇぞ!美味すぎる。
おっさんに「GJ!」と言ってやりたいところだったが焼き芋カーはすでにいなくなっていた。少し残念だ。
見ず知らずのおっさんの粋な計らいと微笑ましい長門と朝比奈さんの姿に心暖まり、この冬もなんとか乗り切れそうだなと思う俺であった。


「ふぅー、やっと剥けました!……むぐ、おいひいですこのやきひも!」
「朝比奈さん、もう少し落ち着いて食べなきゃ……」
「むぐっ!?」
「あー、ほらだいj」
「大丈夫?」
「ケフケフ……ご、ごめんなさ……いえ……ありがとう!」
「そう……どういたしまして」


Fin


焼いた芋‐Haruhi.S×Yuki.N

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