where Justice...

 

 

 俺がSOS団に入ってから、いや強制的に入れられてから早くも1年が過ぎようとしていた。
とりあえず一年間ハルヒのいじめとも言える拷問に耐えた俺を褒めたい。
一周年なんだから本当にそろそろ誰か俺に祝辞の一本でも送ってくれないだろうか。

しかし、俺の元に来たのは祝辞でも労いの言葉でもなかった。


 その日も律儀に坂道を登っていると後ろから肩をたたかれた。
「よっ、キョン」
「お前か」
無論谷口であった。谷口は今月の恋愛運が最高にいいと占いに出たらしく有頂天だった。
「恐らく、俺が声をかければ地下釣りよりもホイホイと釣れるぜ?そうだな、今なら
あの朝倉さんだってGETできそうな気分だ。あーあ、何度も思うがなんで転校しちまったかね」
いてもらっては困る。アイツがいれば俺が転校とかいうレベルではなくこの世から去って
しまっているだろうからな。
 朝倉・・・ねぇ。言われるまで忘れていたのに記憶が蘇るとあのコトは鮮明に思い出せる。
長門を宇宙人と認識できた事件でもあるしな。
 そういえば他の急進派とやらはどこにいったのだ。俺がまた狙われるとかいってしばらく
音沙汰が無いが。いやあってもらっては困る。それならまだハルヒに一日中振り回されてる
ほうが数百倍ましだろう。
 そんなことを考えてる間に学校に到着した。さぁ今日も耐えてくれ俺の体よ、心よ。


 席につくなりハルヒが声をかけてきた。
「ねぇキョン、そろそろ一周年パーティについて話し合わなきゃね!」
「話し合うって何をだ」
「決まってんじゃない!神聖なるSOS団が結成1周年なのよ?わかるこの重大さがっ!」
なーに朝から熱く語ってんだこいつは・・・。
「どうせ俺が意見したところでお前が決めて古泉が準備して終わるだろう。なぜ俺に聞く」
「失礼ねあんた!そういうと思ったからせっかく聞いてあげたのに。ふん、もういいわ」
そういうとハルヒはぷりぷりしながらあっちゃ向いてしまった。
おーいハルヒさん、機嫌直せよ。
 しかし、一向にハルヒのご機嫌は晴れることなく俺の背中に冷たい目線による
針ミサイルがバシバシ撃ち込まれ、俺は逃げるように部室へ向かった。


 俺はびっくりというよりも困惑を受けた。
俺はハルヒから逃げるためにいち早くこの部室に来たのだ。なのに。
なのに何故、ハルヒが部室にいる。それどころかまだ放課後になって間もないのに既に
席は俺を除く全員埋まっていた。
「おっそいわよ、キョン!!」
ハルヒがニコニコと俺に叫ぶ。・・・待て、さっきまであいつは俺にいらいらした態度を
取っていたはずだ。いや、だがそれを除けばいつものハルヒとなんら変わりはない。
 次に朝比奈さんに目を向けた。珍しく朝比奈さんは部室なのに制服だった。
しかしその姿でお茶を入れる彼女を咎める者はここに誰一人とていなかった。
「どうぞ、キョンくん」
そういって俺にお茶を差し出してくれた。いつものメイド服じゃない分違和感を覚えるが
その違和感はお茶の味によって解消された。いつもの朝比奈さんのお茶だ。
 次に長門に目を向けた。長門はいつもの席で石像のように本を読んでいた。
やっとなんだかいつもの感じがしてきた。さすが文芸部室の一部と言ったところだろうか。
ふと、長門の読んでいる本の背表紙が見えた。・・・俺は目を疑ったね。
長門が読んでいたのは紛れも無く恋愛小説だった。しかも最近売れに売れている本だ。
別に長門がどんな本を読もうと勝手だが・・・だが、いつもSFとか医学書とかコアな
人たちしか読まなそうな本をいつも軽々読んでいる長門が恋愛小説を読んでいる姿は
これはこれで違う違和感を与えられた。
 古泉は・・・と思い目を向けたがそこに古泉はいなかった。「そこ」というのは
いつもの定位置だ。俺の真正面にいるはずの男は何故か一つずれた席に座っている。
しかし古泉は何事も無かったかのように俺にゲームの試合を薦めてくる。
俺が間違った席に座ったのだろうか?否、俺が座っている席はいつもの場所だ。
「古泉、なんでお前今日はそこに座っているんだ」
そう尋ねると古泉の顔から少し笑いが消えた。数秒たってからいつのもの笑顔で
「ああ、今日はなんだかこっちという気分でしてね。席を替えてみたまでです」
そういうとおもむろに立ち上がりいつもの席に座った。


 しばらく古泉とオセロに興じていた。そこで俺はまたもや異変に気がついた。
いつもならば5,6試合負けるとゲームを変えてくる古泉が10戦目に至っても
まだオセロを続けようとする。しかもそろそろ夕刻になってもいいはずなのに
日はまったく傾く気配を見せない。おかしい、何かがおかしい。
「そわそわしてどうかしましたか?」
古泉にそう声を書けられて思わず俺はびくっとした。
「い、いやなんでもない。悪い古泉、俺ちょっとトイレに行ってくるよ」
とりあえず外の状況を伺おう。俺だけがおかしくなってしまっているのだろうか。
そう思い俺は半ば小走りでドアに近づいた。つもりだった。

 そこにドアはなかった。変わりにあったのは無機質な色をした壁だった。
この壁には気持ち悪いくらい見覚えがあった。・・・朝倉の時と同じだ。
俺はとっさに後ろを振り向いた。ハルヒ、朝比奈さん、長門、古泉が全員立ち上がっていた。
まさか。そう、まさかの事態が起きた。そして俺の目に狂いが無ければ全員その手に
鋭利なもの持っている。
「お、お前らどういうことだ!?」
「どういうこと?ふふふ、キョンなに言ってんの?いくらバカキョンでも自分の置かれている
状態くらいわかるでしょ?」
「キョンくんごめんね?これが私の仕事だから」
「・・・さようなら」
「最期の余興のゲームはどうでした?ふふふ、それではお元気で」
おいおいおい。ふざけるな、なんだって皆俺を殺す気満々なんだ。しかも前回より分が悪い
じゃないか。狭い上に相手は4人だ。
「お前らは何者だ!」
「何者・・・まぁ急進派、といえばお分かりいただけるでしょうか?」
「・・・死んで・・・」
絶対絶命だ。前は長門が助けてくれたが今回はどうかわからない。おい、長門。来るなら
もういいぞ。今こそ正義のヒーローが登場するには打ってつけの場面だ。こい長門!!
 しかし無常にも長門の気配もせず、俺はじりじりと部室の角へと追いやられていた。
しかもなんだか体が重い・・・体に力が入らないし、妙に眠い。
「どう?そろそろお茶に仕込んだやつ、効いてきたかな?」
「じゃぁね、キョン!」
そういうが早し、ハルヒが俺の元につっこんできた。終わった。くそ、こんなところで。
俺は恐怖と仕込まれた薬で意識を失った。次に目覚めるときはあの世だろう。

 

 「キョ・・・キ・・・ン、キョンってば!起きなさいっ!!」
俺の腹に何かがねじ込まれた。やはり俺は殺されているのか・・・と思えばそれはハルヒの
鉄拳だった。これはこれで痛い。
「あんたなんでこんなところで寝てんのよ!」
気付けば俺は部室の隅っこで寝ていた。俺は助かったのか?
ハルヒの後ろには朝比奈さん、長門、古泉が心配そうに見つめていた。
「あんたってば何回呼んでも起きないんだもの。なんでこんなとこで寝てたわけ?」
「い、いやぁちょっと部屋の角で寝てみるのもいいかと思ってな」
「はぁ?何言ってんのあんた。まぁいいわ、シャキっとしなさいよ、ミーティング始めるわよ!」
朝比奈さんが着替えるため俺と古泉は外に出た。古泉を見たが古泉は『大丈夫ですか?』と
聞くだけだった。何が起きたのかはわかっていないのか。俺は古泉に話すべくか迷ったが
言わなかった。奴らは『急進派』といった。ならば一番このことを尋ねなければならないのは
長門以外にあるまい。
中に入るとそこからいつものような時間が部室に流れ出した。ハルヒは上機嫌に自分の意見を
べらべらと喋り、朝比奈さんはメイド姿でお茶をくみ、長門はSF小説を読み、
古泉は俺の前に座った。
 その後ハルヒの独断話(ミーティングらしいが)が終了し、俺は長門に目を走らせた。
珍しいことに、長門は俺を見据えていた。やはり事態を飲み込んでいるのはこいつだけか。
俺は通じるかどうかわからないがアイコンタクトを送ってみた。『お前と話がしたい』と。
 ふいに長門がゆらりと立ち上がった。そしてハルヒの前まで行き
「・・・今日は用事があるから」
「有希が用事?珍しいこともあるのね。わかったわ、今日は特別に早退を認めるわ」
「悪い、俺も早退させてくれ」
「なんでキョンも早退しなきゃならないのよ!あんたは別になんもないでしょ!」
「いや、実は今日・・・えーと、そうだ!妹と遊んでやる約束をしてたんだよ、部活を早めに
切り上げて遊んでやるって言ってたんだよ」
ハルヒが白い目で俺を見てくる。我ながら苦しすぎる言い訳だったか。
「あんた・・・嘘だったら死刑じゃすまないんだからね」
「わかってる、約束するさ」
バレた時は俺はどうなるんだろうな。死刑より上の存在が未知すぎてわからない。


 俺は長門を家に送るついで話を切り出した。
「長門、俺の言いたいことがわかるな?」
「・・・だいたい」
「単刀直入にいこう、あいつらは何者だ」
「急進派の一種。しかし私達とは根本が違う。彼らは常とする固体を持たない」
「どういうことだ」
「つまり私や朝倉涼子、喜緑江美里のように常にその容姿としての姿を持たない。彼らの素の
姿は地球レベルの概念では説明ができない。しかし認識上では「気体」という思念でいい」
「じゃぁなんだ。あいつらは人間としての形を持たないで実際は空気見たいに見えない存在
だっていうのか」
「だいたいは合っている。そして彼らの能力が・・・固体を独立化させそれに憑依すること」
ますます訳がわからん。固体を独立化?憑依?
「彼らはターゲットとする固体の複写象を作り出し自信がそれを乗っ取りコントロールする
しかしその独立化自体は完璧ではない。そのため本人と独立化させた固体本体とは所有する
情報に多少のイレギュラーが発生する」
なるほど、そのせいで俺の後に来るはずなのに既に全員そろってみたり数分前のハルヒの
感情とは違ってみたり、メイド服を着ることをしなかったりしたわけだ。
「だいたいはわかった。しかしだ、何故俺は生きている?お前が助けてくれたのか?」
「今回私の介入はほぼ含まれていない。前回朝倉涼子が失敗を犯したためかなり慎重に
プロテクトがかけられ存在に気付けなかった。慎重を重ねたために部室に入ってきた
貴方をすぐに殺そうとはしなかった。恐らく事態に気付き、恐怖やあせりを感じたときに
殺す計画だったのだと推測する。」
「では、なんで俺は助かった?」
「涼宮ハルヒ」
「ハルヒのお陰で助かっただと?あいつは成りがいにも人間だぞ。そんな宇宙人と戦える
ようなやつではないだろう」
「そういうことではない。本来ならば情報操作により削除されたドアを復活させたのは彼女。
部室の前で出合った私達に、嬉々としてパーティーのことについて話していた。
彼女のそのときの望みはその計画を私達全員で話すこと。彼女はいち早く話をしたかった。
そう望んだためにあるはずのないドアの情報が構築され彼女はドアを開けた。」
・・・むちゃくちゃな話だ。俺はパーティー話に命を救われたというのか。
「彼らは独立化した固体本体に発見されると消えてしまう。彼女は彼女自身を一瞬たりでは
あるが発見してしまった。朝比奈みくる、古泉一樹も例外ではない。そのため私が念のため
そこの部分だけ情報操作を行い記憶の改ざんをおこなった。私の介入はそれだけ」
「本来ならば初期段階で私が気付きアクションを起さなければならなかった。私の失態。
・・・ごめんなさい」
「お前が謝る必要は無いさ。最初からしっかりと気付けなかった俺もバカさ」
長門のマンションについた。話はここまでだな。


 その後俺はまたいつ襲われるか分からないと、自分自身で警戒を強め団員に異常がないか
確かめた。どうやらまた急進派とは音信不通になったらしく異常はまったくなかった。
というわけで今日はパーティーの日。『買出しに行くわよ!!』と叫ぶハルヒもいつも通り
それに無言で着いていく長門も、あたふたしながら準備をする朝比奈さんも、拒否すること
なくニコニコついていく古泉も、みんないつも通りだった。

 1周年を迎えたSOS団兼、俺に祝辞は届くことはなく届いたのは殺戮者達だったわけだ。
相変わらずの非日常具合はこれからも続く。

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最終更新:2007年11月19日 17:27