時空を超える。
それは、SF物のマンガでは日常茶飯事の出来事だ。青いネコ型ロボットが出てくる話はSF物とは言いがたいのだが、ここはあえて気にしないでおこう。
 
しかし、このような出来事は我々が暮らす世界では起こりえない話である。
そうだろう?机の引き出しの中に四次元空間が広がっています、なんてことは妄想の中での話だ。これは覆ることのない鉄壁の硬さを誇る、まさに完璧な理論である。
 
しかし俺の中では、その理論はすでに、十字架を突きつけられたドラキュラのように、どこかへ逃げ去ってしまった。今まで俺は何回、非日常的な、宇宙、未来、超能力的出来事に遭遇しただろう。少なくとも、の○太がジャイ○ンと正々堂々戦って勝利した回数よりは多いはずだ。その少ない勝利がまた感動的な物なんだけどな・・・・・・。
 
少し話が脱線してしまったが、俺が言いたいのはこういうことだ。
非日常的な人物や超常現象はこの世に存在する。

これが俺の中に住みついた新たな理論だ。現に今でも、ほらこうやって・・・・・・・。

 

襖の奥にある、もう1つの襖を開ける。そして、その向こうへと足を踏み入れる。

よっと。ほれ、こんなにあっけなく俺は異次元の世界へと進入したぞ。
まあ、今回はタイムマシンを使って未来へと向かったとかじゃなく、そうだな、どこ○もドアを使って見知らぬ場所へと旅立ったって感じか。
さあさあ、こんな状況を目の当たりにしても、まだあなたたちは、SF的要素を否定しますか?

 

 

 

俺と新川さんの2人が到着した異世界は、さっきまでいた長門の部屋とたいして、いや全くと言っていいほど違いがなかった。違いといえば、長門がいないことくらいか。
 
「うむ、なるほど。確かにここは異次元空間ですな。閉鎖空間の存在がはっきりと確認できますぞ。しかしおかしいですな、それほど大きなものではないようですが・・・・・・では、すみません。私には任務がございますので、お先に失礼させていただきます。どうかお気をつけて。」
 
部屋に入るやいなや、何やら考えるような素振りを見せた新川さんは、こう言って、玄関の方へと向かっていく。そうだな、新川さんには時間制限があったんだ。のんびりしている暇はないよな。
 
さて、俺はどうしたものかと考えていると、玄関先から新川さんの悲鳴が聞こえてきた。
 
「うわあああああああ!ち、違いますぞ!私は怪しいものではございませぬ!」
 
何事かと慌てて向かうと、そこには座り込んで腰を抜かした新川さんと、何やら鋭く尖った凶器らしきものをそんな彼に突きつける長門だった。新川さんが座るすぐ横には、すでにもう1つの鋭利物が刺さっている。玄関を開けたらいきなりこれが飛んできて、それで出てきたのがさっきの悲鳴だって訳か。おっかねえな。
 
「・・・・・・対侵入者用鋭利体、解除。」
 
しばらく無言で新川さんと俺を交互に見つめた長門は、やがてその2つの鋭利物を閉まった。いや、消滅させたと言ったほうが良いだろうか。それが刺さっていた床もいつの間にか元通りだ。
 
「いや、すまんな。ちょっとこっちの世界に用があってよ。お前の部屋にあったパラレルゲートとやらを使わせてもらったぞ。」
 
「・・・・・・そう。」
 
「新川さん、大丈夫ですか?」
 
「うむ、大丈夫です。いやぁ、驚きました。玄関を開けたらお嬢様が立っておりましたので軽く会釈をいたしましたら、いきなり刃物が飛んで来ましたからな。驚き、桃の木、山椒の木でございます。」
 
俺の中での新川さんの「紳士的な執事」というイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。驚き、桃の木、山椒の木って・・・・・・。そういう台詞は日本放送局の教育テレビの中でしか聞けないもんだと思っていたぞ。
 
「こほん!では、私は閉鎖空間へと向かいましょう。それでは。」
 
俺と長門の冷たい視線を感じたのか、新川さんは慌てて立ちあがり、そのまま玄関から出て行こうとした。しかし、長門は何故かまた刃物を作り出し、それを彼の前に突き出し行く手を塞いだ。
 
「行かないほうがいい。」
 
「な、何故でございましょうか?」
 
若干震えた声の新川さん。
おい長門、とりあえずその物騒な物をしまってからにしてくれ・・・・・・。
 
 
 
長門によって部屋の中へと連れ戻された俺達2人は、そのかなり険しい表情(俺視点)に少し圧倒されつつもその場に腰掛けようとしたが、長門の
 
「そのまま聞いて欲しい。」
 
という言葉により、立ったまま話を聞くことになった。
どうした、長門?俺はともかく新川さんには時間がないってことはお前も知っているだろう?
 
「知っている。ただ、今は閉鎖空間に向かうべきではない。」
 
「失礼ながらそれは出来ませんな。今、あの閉鎖空間には森と古泉が閉じ込められているはずです。見捨てるわけにはいきません。」
 
やや困惑気味の口調の新川さん。それはそうだ。長門は新川さんに同士を見捨てろ、と言っている様なもんだからな。まぁ、長門がこう言うからには何か理由があるのだろう。
俺はこの次に「分かっている、しかし・・・・・・」とかいった台詞が続くのだろうとばかり思っていたが、長門の見せた反応は意外なものだった。
 
「・・・・・・え?」
 
口をぽかんと開けて驚いたような表情(これまた俺視点)をする長門。
何だ?もしかして、古泉と森さんのことを知らなかったのか?
 
「認識していなかった。それはいつの話?」
 
「えっと、一昨日の夜だな。」
 
「・・・それなら無理はない。そのころ、私の力はまだ戻っていなかったから。」
 
長門は少しすねたように言う。このままほっとくと「しょうがないじゃん。私が悪いんじゃないもん。」などと言い出しそうだ。まぁ、こいつに限ってそんなことは、全世界の犬が某CMのように喋り出しても、ありえない話だろうが。
 
「一昨日の夜、涼宮ハルヒの力が急激に減少し始めた。閉鎖空間の規模も急激に縮小していった。これは予測していなかったこと。原因はおそらく・・・・・・あなた。」
 
そう言って俺に視線を注ぐ長門。
俺か?俺がハルヒの力を抑えたって言うのか?そのころの俺は・・・うん、飯食って、風呂入って、次の日のテストの予習をしていただけだぞ。何?予習なんかしているのに何でそんなに成績が悪いのかって?それは予習方法に問題があるんだろうよ。何せテストに出そうな語句を探し、ひたすら呟くだけだからな。こんな勉強方法でいい成績がとれるのなら、進○ゼミはいらないな。まぁ、それはどうでもいいとして、この行為がハルヒの力を抑えるようなことに繋がったとはとてもじゃないが思えないぞ。
 
「正確に言えば、あなたではない。涼宮ハルヒが生み出したもう1人のあなた。俗に言う『ジョン・スミス』。」
 
「もう1人の・・・俺・・・?」
 
そうか、遂にハルヒは成し遂げてしまったのだな。もう1人の俺の作成を。
つまり、この世界には2人の俺がいるわけで・・・って、ちょっと待てよ!?それじゃあ・・・・・・
 
「俺はこの世界に長くはいられないってことか!?」
 
「そう。」
 
そうって・・・・・・。
 
「こ、このままだと俺はどうなるんだ?」
 
「この世界で同一人物の存在が新たに確認されると、その存在はしばらくしてイレギュラー因子と認識される。そして、その存在はこの世界から消去される。」
 
消去?何だそれは?どんな風にだ?俺はいつ、どのように消えていくんだ?
突然の余命半年宣告を受けた患者のように慌て出す俺だったが、もう一人の消去対象であるはずの新川さんは幾分落ち着いているようだった。
 
「なるほど・・・・・・。それでは、もしかしますと古泉と森は、それが原因で消えてしまったのでしょうか?」
 
「分からない。ただ、私の認識しうる空間座標内に2人の存在は確認できない。ただ、閉鎖空間内は別。そこまで確認できるほど、私の力はまだ回復していない。」
 
「ううむ・・・困りましたな。」
 
腕を組んで渋く考え出す新川さん。
あの・・・もう少し、その、慌てたり、焦ったりした方がよろしいんじゃないんですか?
現に俺達のタイムリミットは今も刻一刻と近づいているわけで・・・・・・って、おい!!
 
「新川さん!!その手!!」
 
「手ですか?手が何か・・・・・・こ、これは!?」
 
新川さんの腕は指先が幽霊のように透けていた。そして、俺の手も。
おそらく、このまま全身が透けていくのだろう。
頭の中で『消滅』といった赤い文字がちかちかと点滅する。
まずい!このままじゃやばいぞ!
 
「時間がない。あなた達は早く向こうの世界に戻るべき。」
 
そう言って玄関のほうにとことこと歩き出す長門。
 
「長門!?どこ行くんだ!?」
 
「喫茶店のトイレ。パラレルゲートは一方通行。元の世界に戻るためにはそこに向かわなければならない。」
 
喫茶店?あの駅前の喫茶店か?そんなとこに行く時間があるのか?
 
「そう言う暇があったら、急ぐべき。」
 
長門と新川さんは既に玄関の外にいた。おい、ちょっと待てって!!
 
 
 
 
 
「はぁ、はぁ、こんなに急ぐことになるんだったら、俺達を部屋に連れて行ったりせずに、早く元の世界に戻らしとけば良かったじゃないか!」
 
「あなた達には説明しなければならないことがあった。ただ、予想以上に肉体の消滅の進行が早かった・・・・・・私のミス、うかつだった。」
 
「お、お前がそう言うんだったら、しょうがないが・・・・・・。」
 
俺達3人は今、喫茶店への長距離走を行っている。気分はまるで猫に追われる鼠だ。きつい。俺はおそらく人生で1番速く走りたいと思っていることだろう。考えに肉体がついていってないが。
 
「はぁ、はぁ、説明したいこととは何でございましょうか?」
 
息を切らしながら、新川さんが長門に問う。いくら閉鎖空間内で神人と戦っているとはいえ、年齢が年齢だ。ここまで俺達について来ていることだけでもすごい。
 
「閉鎖空間の処理のこと。私は、涼宮ハルヒの力が減少したことを利用し、そのまま閉鎖空間を消滅させようとしていた。そうすれば、涼宮ハルヒの力も消失するはずだった。しかし、その内部に古泉一樹と森園生が存在する可能性があるなら話は別。閉鎖空間を消滅させると、中の2人の安全は保障できない。となると、閉鎖空間から2人の脱出を図る必要性がある。」
 
「そ、それはどうなさりますのでござましょうか?」
 
今にも倒れそうな新川さん。言葉もおかしくなっている。
 
「あの2人が閉鎖空間内で幽閉されているとすればその原因はおそらく神人の不在。涼宮ハルヒの力は不完全なため、閉鎖空間内には神人が存在しないと思われる。そこで涼宮ハルヒに何らかの刺激を与える。そうすると、閉鎖空間内に神人が出現すると予測される。その神人を迎撃し消滅させれば閉鎖空間は消滅し、2人も脱出することが出来るはず。そこであなたには、援軍を要請したい・・・・・・?」
 
高速で走っているのにも関わらず、息1つ切らさずに、長ったらしい台詞を淡々と話し続ける長門。そして、この台詞の最後は新川さんに向けてのものだったのだが、新川さんはというと長門の30mほど後方で手を膝につき、ぜーぜーと苦しんでいた。
 
「わ、私のことは構わず、どうか、はぁ、はぁ、おあさきに・・・・・・」
 
ある状況である口調で言うと感動的な台詞なんだろうが、朝の住宅街で、息も切れ切れに言っても、感動の、か、の字も出てこない。また言葉おかしいし。
 
「・・・・・・・」
 
無言かつものすごいスピードで新川さんの所に駆け寄った長門は、新川さんの両足をそれぞれ両手で押さえると、
 
「・・・ブーストモード。」
 
と、呟いたらしい。新川さんから、後で聞いた話だ。
すると、新川さんの靴がまるでターボジェットエンジンが搭載されたかのように超高速で動き出した。
 
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
 
それこそ靴に引きずられるようにして猛スピードで突っ走る新川さん。
・・・・・・ご愁傷様です。
 
「あなたも急いで。」
 
と、長門もそれに負けないくらいのスピードで続く。だから、待てって!!
 
 
 
 
 
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・着いた・・・・・・。」
 
もう走らねぇ・・・もうしばらく走りたくねぇぞ・・・・・・。
俺の体力が底をつき欠けたころ、ようやく駅前の喫茶店へと辿り着いた。
新川さんはというと、もうお亡くなりになってるんじゃないかというくらい精根尽き果てた顔をしていらっしゃる。
・・・・・・大丈夫ですか?
 
「・・・・・・・・・・・・だいじょぶです・・・・・・。」
 
そう細々という彼からは、もはや執事の面影が感じ取れない。
何が彼をこんな姿に変えてしまったんだ?
 
「ここまで来たら大丈夫。ただ、今あなたがこの店に入るという状況は思わしくない。」
 

新川さん退化現象の犯人、長門有希容疑者がこれまた淡々とした口調で言う。疲れた様子、まるで0~。お前は、本当に・・・人間じゃなかったな、そういや。

 

それで何だ?俺がこの店に入るのが思わしくない?まあ、俺の手はもはや透けて消えかかっていたし、制服の襟を摘んで、自分の体を除いてみるとそこも透け透けだったが。で、どうすりゃいいんだ?
 
「これから、私が情報操作を行なう。その隙にあなたたちは喫茶店内に侵入し、元の世界に戻るといい。」
 
そういって、長門が何か呟きだした。
俺の脳裏に嫌な予感が駆け巡る。おいおい、まさかまたおかしな真似を・・・・・・
 
そう思ったのもつかの間、突然、喫茶店内でコーヒーを啜っていたある人物が急に大声で何かを歌いながら、踊り出した。どこかで見たことがあるような人物だったが、そんなことを気にしている余裕はない。
 
「店内の人々は彼に気を取られている。今のうち。」
 
・・・・・・長門、お前大丈夫か?
 
「今の私の情報操作能力ではこれが限界。さあ、早く。」
 
・・・・・・ご愁傷様です。
俺は、本日二度目となるこの言葉を店内で変人と化している人物に投げかけ、店の中へと入っていった。
 
 
 
「念のため、もう一度言うが、あなたには『機関』の援軍を要請する。くれぐれも忘れないで欲しい。」
 
「・・・わかりますた・・・・・・。」
 
まだ廃人と化している新川さんに長門が念を押す。
本当に大丈夫か?後で、俺がもう一回言っておこう。
 
「それじゃあ長門、頼んだぞ。」
 
「了解した。」
 
無表情で立ち尽くす長門と5秒ほど見つめ合った後、俺は右手で新川さんを引っ張りながら、左手でトイレのドアノブを開けた。
 
「じゃあな。」
 
「・・・・・・。」
 
無言で手を軽く振る長門。
ふう、何とかこれで消滅という事態は免れそうだな。
後は、長門と『機関』の方々の仕事だ。
何も力になれないのが多少もどかしいが、俺は黙って静観させてもらうとするか。

 

 

長門との別れをすまし、カラフル空間内に進入、そしてその奥のドアを開ける。
そこに広がるのは、先ほどとなんら変わらない喫茶店。あまり実感は湧かないが元の世界に戻ってきたらしい。手も元通りだ。
汗だくの高校生と背広姿の初老人という奇妙なコンビが一緒にトイレから出てきたという光景を目撃した、店内のお客さんの冷たい視線を一斉に浴びながら、俺達は店を後にした。
 
 
 
それから俺は、何とか気力を取り戻した新川さんに、もう一度援軍要請の確認をしっかりとしてから別れ、そして駅から学校へ向かうための電車に飛び乗った。もう時刻はとっくに登校時間を過ぎているが、この世界の長門が何とかしてくれていることだろう。
 
はぁ~、さっきの長距離走のせいで、体がボロボロだ。

目的の駅に着くまで、一眠りするとするか・・・・・・。

 

  ~Different World's Inhabitants YUKI~スイヨウビ(その三)~へ続く~


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