「有希、17回目の誕生日おめでとーっ!!!」
 もうお馴染みの高級マンションの708号室、すなわち長門の部屋に集結した一同の歓喜の声援が飛び交う。良かったな、長門。
 しかしハルヒ、17回目というのは大幅に間違っているぞ。長門の歳は余裕で3桁代に突入しているぜ、あの無限ループオブ8月によってな。ん? 8月オブ無限ループの方が正しいのか? どっちでもいいや。
「……ありがとう。」
 頬にポツンと可愛らしい朱の色を浮かべて照れくさそうに話す長門は、正直ヤバかった。こんな長門を創造した情報ナントカも捨てたもんじゃないな。いや、尊敬の位に値するぜ!
 いつもは殺風景なこの部屋も、今日はハルヒよろしく数々のドがつくほど派手な装飾品で飾られている。目がチカチカするぞ。
 ああ、説明が遅れたが今日は11月18日。長門の誕生日……ってことらしい。有機アンドロイド――正直長門をアンドロイド扱いになんてしたくはないってのが本音だが――にも誕生日ってもんがあるのか?
「今日はわたしが創造された日。空が白く曇る冬の時期に、わたしは生まれた。」
 なるほどね。ハルヒは「創造されたって何よ有希、まあ有希らしいけど!」なんて笑いながら長門の頭をぐしぐしと弄っていた。ちょっと今の発言は黄色信号だぜ長門。
「長門さん。あなたの誕生日がこんな沢山の人に喜ばれることになるなんて、わたしもとっても嬉しいわ。」
「あまり君とは所縁がなかったが……誕生日おめでとう、長門くん。」
 丁寧な言葉を連ねて祝いの言葉を贈ったのは喜緑さんと生徒会長だ。「じゃあこれ、わたしたち二人からのお祝いの品だから。」と言い残して二人はすぐに帰ってしまった。さすが真面目というか何と言うか。
 長門が慎重に置かれた箱の中身を開けると、少し大きめで、高級そうな手帳が入っていた。どこまでも律儀な人たちだな……
「これで邪魔者は去ったようね。さあ、今日は目一杯楽しみましょっ!」
 おいおい、邪魔者って扱いはいささか酷くないか? せっかく長門を祝いに来てくれたんだ、礼のひとつでも言えば良かったのに。
「ふん、誰があのクソオタク会長に礼なんかしなくちゃいけないのよ。喜緑さんだっけ? あの人には……まあ言ってやってもいいけどさ。」
 会長のどこにオタク要素があるのか俺は激しく疑問だね。
「まぁまぁお二人とも。今日はお目出度い日なんですから、そこらへんにして。」
「そうですよぅ、ほらキョンくんも涼宮さんも座って座ってぇ。」
「解かりました、朝比奈さん。」
 俺は朝比奈さんにエスコートされて席――カーペットの敷かれた床の上に置かれた、大中小で表すのなら中くらいのテーブルに腰を降ろす――につく。
 古泉? ああ、あえての無視さ。
「はい長門さん、これがわたしからのプレゼントです。」
 朝比奈さんからテーブルを経由して長門に手渡された箱の中に入っていたのは、朝比奈さん印の茶葉だった。
「長門さんの家には急須があったから、いつも飲むのかなーって思って、これを選んでみたんです。」
 そういえば俺が最初に来た時もお茶を3杯くらい飲まされたっけ。まあ上手かったから別に辛くはなかったけどさ。
「ありがとう、大事に使わせてもらう。」
「はいっ、どういたしましてっ。」
 朝比奈さんはウキウキとした表情で「じゃあ台所をお借りして、お茶を煎れて来ますねっ」と言い残し、キッチンにパタパタと駆けて行った。
「飲み物ならジュースがあるのに、もうっ、みくるちゃんったら。」
「まあそうしかめっ面するな。お前も朝比奈さんのお茶の上手さは知ってるだろ。」
「で、あんたからのは何なの?」
 なんでこうも話の流れをすぐ断ち切ってくるんだろうな、うちの団長さんは。
「相当迷ったんだがな、俺はこれにした。」
 本当に迷いに迷い尽くしたんだぜ。でも長門が喜んでくれそうなやつったら、こんなものしか思い浮かばなかったんでな。
「ほら、今ベストセラーの『都市伝○』だ。結構面白いらしいぜ。」
「ええっ!?」
 素っ頓狂な声をあげたのは言うまでもなくハルヒだ。
「なんだ、どうしたハルヒ。」
「あ、あんたもそれにしたの……?」
 小刻みに震えている手で開けられたハルヒの鞄から出てきたのは、俺と同じ『都市伝○』の本。なんてこった。
「それはあたしのセリフよ! なんであんたとプレゼントがカブらなきゃいけないのよぉっ!」
「知るかっ! 仕方ないだろ、カブっちまったもんはカブっちまったんだ。」
「キョンとプレゼントの趣味が合うなんて……なんだか有希に申し訳ないわ。」
 それは遠回しに俺への悪口を言ってるのか。俺だって残念だよ。
「いい」
 平坦な声が俺とハルヒの耳に届いて俺が視線を長門に当ててみると、長門が2つの本を抱きかかえるように持っていて、
「どちらも大切。どちらも読む。」
「ゆ、有希ぃっー……!」
 ハルヒはまるで抱き枕を抱くように長門に抱き付いて頬をすりすりしている。ちょっと刺激が強い、やめろハルヒ。
「やっぱりとってもいい子だわ、有希っ! それでこそSOS団の一員ねっ!」
「あ、あれっ? どうしたんですかぁ?」
 5つの湯のみをのせたお盆を持って朝比奈さん再登場。この光景を見て何故か紅潮している。
「……少し、苦しい。」
「あ、ごめんねっ。」
 ようやく離れたハルヒは礼儀正しく正座した。残るは古泉のプレゼントだな。
「長門さんがこれを付けている光景は見たことが無かったので、きっと似合うと思ってこれにしました。」
 長門は丁寧に包まれた袋を開ける。綿か? いや、白くてひょろ長いものが出てきた。
「マフラーです。どうぞ、つけてみてください。」
「……どうやってつけるの?」
「ああ失礼、僕がつけてあげますよ。」
 古泉は長門の正面にしゃがんで――よくイケメンがしそうな格好良いしゃがみ方だ――マフラーをつける。長門はドキドキした表情で古泉を見つめているし、古泉はまるで娘を可愛がるような笑みで長門を見つめているし、もうなんだ、これは。熱々にもほどがある。
 つけ終わると長門はくしゃっとマフラーを掴んで感想をポツリ。
「……うれしい。」
「喜んでいただけたなら、これ以上光栄なことはありません。」
 これ以上ないくらい頬を真っ赤に染めた長門は、何十秒か見つめていると失神しちまいそうなくらい……うん、良かったさ。これをずっと見つめていられる古泉も凄いよな。
「もうっ、見てらんないわね二人ともっ!」
「そうですよぅ、二人っきりの世界に入っちゃって。」
「同感だな。」
「なっ……僕はそんなつもりは……」
「それより誕生会の続きよ! まだ全然祝い足りないものねっ!」
「……まだ。」
「えっ?」
「まだわたしたちの知人で、今日が誕生日の人が居る。」
「本当っ? 誰なの?」
「”朝比奈ミクルの冒険 Episode 00”に出演した『おばちゃんB』役の人間。パーソナルネームは……」
「ああ、あの主婦役の人のことっ? で、でも」
「在住地はこのマンションから近い。徒歩5分で着くはず。」
「まさか今からお邪魔しようっていうのか? それはいくらなんでも……」
「よーしっ、じゃあ行くわよみんな!」
 待てハルヒ、お前本気か?
「本気も本気、マジもクソ大マジよっ!」
 女の子がクソなんて容易に使うんじゃありません。
「きっと抗議は無駄ですよ、あなたも知ってるでしょう。涼宮さんの性格を。」
「あ、ああ……それは嫌というほど解かってるさ。しかしだな、」
「男はつべこべ言わないのっ! ほら支度してケーキ持ってっ! レッツゴーッ!」
 ハルヒはいつの間にかコートを羽織っていて、長門と朝比奈さんの手を強引に掴んで今にも出て行きそうな勢いだ。
「では、僕たちも行きましょう。」
「待て。」
「なんでしょう?」
「ケーキ、お前が持っていけ。」
 
 その5分後の展開は誰もが予想出来るかと思うが、一応報告だけしておこう。
 いきなり母親の誕生日だっていう記念日の家族団欒の中に入ってきて、「ハッピーバースデイ!」と騒いだ挙句、顔だけは100点満点のイケメンがケーキ贈呈後、ジュースを1杯、から揚げを5個頂いてそそくさと退出。
 これだけのことをわずが1分弱でこなしている我等が団長を呆然と見ている『おばちゃんB』役の人含む家族全員がポカンと口をあけて、何が起きているんだと言わんばかりの表情でただ目を見開いていた。
 今日はすいませんでした、と代表として俺と古泉が頭を下げているのにもかかわらずハルヒはずっとハイテンションだった。相当長門の誕生日が嬉しいんだろうな。このまま地球一周さえ出来そうだぞ、この女。
 
 このあとも何時間か遊んだ後、この日のイベントにも終わりが告げられ、古泉と長門は一緒に帰り道を共にして歩いていった。
 いやあ、やっぱりあのツーショットは絵になるよな。しかも長門が肌身離さずつけている、あのマフラー……本当によく似合ってるぜ。
 ひらひらと揺れる、真っ白の雪色マフラー。
 
 
雪色マフラー end

 
 
 
……これは、茅原実里さんの誕生日に掲載させていただいたSSです。

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