※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 

四日目[スイヨウビ]

 
「・・・ョンく・・・キョンくん・・・キョンくん!お~き~て!」
 
「・・・・・・ぐふぁ・・・っつ、分かった!起きたから!もう、いい加減やめろ!」
 
以上、これが俺の毎日の目覚めの瞬間だ。
1日の最初の言葉が「ぐふぁ」とはね・・・・・・。
我ながら虚しくなってくる。
出来れば「おはよう」とか「いい朝ですね」とかいった、快い言葉で1日を始めたい。
 
妹というものは大変だぞ?
こいつは全国の一般的な小学6年生と比べて、少し精神年齢が低いようだし。
まぁ、こんなこと言ったら全国の兄弟がいる子ども達から「そんなのましだぜ。うちの兄貴はよ・・・。」などといった、多数の苦情が寄せられることだろうから、あえて声を高らかに文句を挙げたりはしなかったが。
 
妹によって、たたき起こされた俺は、顔を洗ってはっきりと目覚めたころから、何やら違和感を感じていた。
魚の骨がのどの奥に刺さっていてなかなか抜けない、そんな少し刺激のあるものだ。
何か、忘れていることでもあったか?
何故だか早く思い出さないと大変なことになるような気がする。
 
 
 
その違和感が、古泉と森さんの事であると気が付いたのは、家を出て、自転車で駅まで向かう途中、信号待ちをしていた俺の前に止まった、もはやお馴染みの黒塗りタクシーが目に入った時だった。
いや、見た瞬間ではない。そのときは、「おや、またハルヒが何か仕出かしたのか?」とぼんやり考えただけである。中から、新川さんが出てきたのを見て、やっとのことで古泉と森さんの事を思い出した。
 
思い出すのが遅すぎやしないかって?
そうかもしれないな。
ただ、言い訳になるかもしれないが、俺は古泉達が向こうの世界に行っても、すぐに帰ってくるもんだと思っていた。そしてその分、2人の事もたいして心配していなかった。あの2人が、困ってオロオロしている姿なぞ想像できないからな。だから、思い出すのが遅れたのだ。記憶というものは、心配度が強いものから保存されていくものだからな。
 
俺の前まで歩いて来た新川さんは、軽く会釈をした後、
 
「ご無沙汰しておりました。登校中に申しわけ御座いません。少し、お話ししたいことがございます。ご一緒いただけますでしょうか?」
 
と、言って、俺に車に乗るよう促した。
 

自転車に乗っていた俺は、どうしたものかと考えたが、車の中から、もう1人見知らぬ男性が出てきて、自転車を駅まで運んでくれると言うので、素直にそれに従った。この男の人も、『機関』の人なのだろう。

 

こうして、車を運転する新川さんと、いまいち状況が理解出来ていない俺の2人を乗せたタクシーは出発した。
 
 
 
車が走り出した後も、新川さんは何かを話すわけでもなく、ただ黙々と運転していた。この車に乗せられた理由がいまだに分からない俺は、こう尋ねた。
 
「えっと・・・今更なんですが、俺に何のようです?俺1人でいいんですか?古泉や森さんにも関係のある話じゃないんですか。」
 
「申しわけ御座いません。きちんとした説明もしておりませんでしたな。今回はあなたに知って欲しいことがこざいまして、ここまで参上仕りました。」
 
そして、次の新川さんとの会話で、俺は自分の考えが甘すぎだったことに気づく。
 
「一昨日、異時空に存在した閉鎖空間に森と古泉が向かったのはご存知ですね?」
 
もちろん、知っていますとも。何せ、俺が連れて行きましたからね。
 
「今、あの2人はどこにいるんですか?」
 
気軽な俺の質問を聞いた新川さんは、すこし間をおいてこう言った。
 
「2人はまだ異時空から帰ってきておりません。」
 
俺の心の中で小爆発が起こったようだった。
 
・・・何だって?まだ帰ってきていない?どういうことだ?あいつは確か、余裕のにやけ面で「明日には帰ります」とか言ってたはずだぞ。その言葉が真実なら、今頃はこっちの世界に帰ってきているはずだ。
 
「ええ、我々の予定でもそのつもりだったのですが・・・・・・。」
 
と、暗いトーンで話し出した新川さんによると、あの2人は帰還したらまず、『機関』の本部に事後報告をしにくる予定だったのだが、まだ姿を現していないらしい。万が一のために持たしておいた発信機にも、反応がないようだ。
 
「発信機の電波も時空を越えることはできますまい。あの2人は何らかの理由で、こちらの時空に帰還すること出来ないでいるのでしょう。もしかしますと、最悪の事態も考えられます。私は、2人の救出を『機関』から命令されましてな。あなたのお力をお借りしたい所存でございます。」
 
おいおい、冗談じゃねぇぞ。最悪の事態だって?
俺は、古泉の言った、「異時空間での同一人物の存在は時間制限がある」ということを思い出した。まさか、その制限時間をオーバーしちまったんじゃねぇだろうな。そうしたらどうなるかは知らないが、あの2人の身に何やらよろしくないことが起こるのは、まず間違いないだろう。
 
俺が心臓の鼓動が高まっていくのを感じていると、やがて目の前に見慣れた建造物が現れた。
長門のマンションである。
 
 
 
「あのお嬢様は今、異時空同位体と入れ替わっていると古泉から聞いております。でしたら、私とも面識がございませんでしょう。異時空に向かうための道は、お嬢様の部屋にございますのでしょう?ですから、あなたをお連れしたのです。」
 
・・・・・・そうですか。
やれやれ、確か2日前にも同じような理由でここに連れてこられたっけな。
いい加減、長門もうんざりしていると思うが。
ま、なんだかんだ言ってもあの2人を助けるためだ。その為だったら、こんなことお安い御用だぜ。
 
俺は慣れた手つきで、インターホンのパネルに長門の部屋番号を表示させ、呼び出しのボタンを押す。
これで何回目だろう?ここ、最近、やけに頻度が高くなっている気がするが。
 
「・・・・・・長門です。」
 
そこからは、いつもの宇宙人とは違う返事が聞こえてきた。
 
 
 
 
 
「俺だ。いつもすまんな。少しばかり、異時空のことでお前の部屋に用があってよ。入れてくれないか。」
 
今日も学校を休もうと布団に潜り込んでいた私は、インターホンのベルの音に起こされた。
こんな朝早くになんだろうと多少うんざりしつつ応答した、私の耳に飛び込んで来たのが彼のこの台詞だ。
 
私は自分の部屋、そして今の自分の格好を確認する。
布団が敷いてある部屋、パジャマ姿の自分。
昨日、朝比奈みくるが帰った後、激しい脱力感と疲労感に襲われた私は、その後、簡単な夕食と入浴を済まし、すぐに寝た。部屋の様子はそれから変わっていない。
 
まずい。こんな状態で人を部屋に招けない。恥ずかしい。
 
「お~い、どうした長門?まだ体調が悪いのか?」
 
ずっと黙りこくっていた私に痺れをきらしたのか、彼が呼びかけてきた。
 
「・・・・・・入って・・・・・・ゆっくりと。」
 
「ゆっくり?どういうことだ、なg」
 
インターホンを無理やり切ると、私は急いで、片付けと着替えを始めた。
えっと・・・制服はどこだっけ?
 
 ぴん、ぽーんー
 
またベルが鳴る。
何なの?急いでいるっていうのに。
 
「長門、玄関の鍵を開けてくれ。このままじゃエレベータにも乗れん。」
 
忘れていた。
 
 
 
 
 
「よう、長門。体調はどうだ?今日は学校、行けそうか?」
 
といって、部屋へ入ってくる彼。今度は、高貴な感じの男性を連れてきた。
この人もまた、アシスタントなんだろう。となると、古泉一樹の・・・父だろうか?
 
私はというと、何とか人を家に入れられるくらいの格好はつけていた。まだ、髪には少し寝癖がついているが。全く、彼らにはデリカシーというものがないのだろうか。
 
「し、失礼いたします。」
 
深みがあるが、なぜか上ずった声で、男性はそう言った。
 
「ああ、この人は新川さんだ。この人も・・・アシスタントだったな。」
 
「そうでございます。新川と申します。以後、お見知りおきを。」
 
と言って、何故か名刺を差し出す男性。
私は一応受け取っておく。
 
「ちょっと、新川さん?何やってんですか?急いで行きましょうよ。」
「ああ、申しわけ御座いません。このような少女の部屋に入るのは初めてでございまして・・・・・・。」
 
何やら2人でひそひそ話し合った後、彼がこう切り出した。
 
「今から、俺達は2人で異世界に行く。だから、お前には伝言を頼んでおくぞ。俺のクラスの担任の岡部は知っているな?そいつに、そうだな・・・・・・俺は、赤ちゃんが生まれそうな妊婦さんの付き添いをしていたから、遅刻すると伝えといてくれ。」
 
「お待ちください。あなたも、一緒にこられるのですか?それに、その言い訳は少し・・・いや、それは今はよいですな。それより、あなたは閉鎖空間に入ることが出来ないんですぞ?向こうの世界に存在しておくことは不可能ではございませぬか?」
 
「大丈夫です。あの世界に『俺』という存在はいないはずです。それに、あの長門にも聞きたいことがありますし。」
 
「そうですか?しかし・・・・・・。」
 
何を話しているのだろう?
よく分からないが、今回は彼も一緒に、私の世界へと行くらしい。
 
「というわけだ。じゃあ、しっかり伝えといてくれよ。頼んだぞ。」
 
え?ちょっと待って。私は学校に行かないんだけど・・・・・・。
そう言いたかったがうまく言葉に出来ず、そんな私を尻目に彼等は襖を開き、
 
「では、新川さん。行きましょう。」
 
「かしこまりました。」
 
と2人でうなずき合った後、襖の更に奥にある、もう1つの襖の向こうへと消えていった。
 
私の脳裏に既視感が芽生えた。
似ている。あの時と。
私は、一昨年の12月、私の目の前で消えていった彼の姿を思い出す。
 
パタン。
音を立てて、襖が閉じた。
私は、部屋に1人取り残された。
 

彼が、もう二度と帰ってこないような気がした。

 

  ~Different World's Inhabitants YUKI~スイヨウビ(その二)~ へ続く~

|