(これは、アンリミテッドブレイドワークス のうちの一つです)

「ここかっ!」

俺が出たのは、何の因果か長門のマンションの前だった。

俺は虚空に右手を掲げ、

 

「―――I am the born of my sword―――

 

 

詠唱。―――体内から何かが失われていく感覚。

 

「―――Steel is my body, and fire is my blood―――」

 

 

詠唱。―――消えていく何かの正体なんてのは判ってる。

 

「―――I have created over a thousand brads―――」

 

 

詠唱。―――右手を包むように左手を上げ。

 

「―――Unaware of loss―――」

 

「―――Nor aware of gain―――」

 

 

詠唱。―――倒れそうな体を叱咤して。

 

「―――Withstood pain to create weapons―――」

 

「―――waiting for one’s arrival―――」

 

「―――I have no regrets. This is only path―――」

 

 

詠唱。―――なるべく急いで。

 

「―――My whole life was “unlimited blade works〟―――」

 

 

詠唱、完了。

 

―――世界が変わる―――

 

シュアアアアアア!

 

 

「…ある程度予想はしてたんだけどな…。まさか、ここまでとは」

俺は正面にいるやつに言う。

そいつは、

「そ、意外でしょ?」

と、どこかでいつか聞いたような事言いやがった。

「意外というか想定外…。もう少し少ないと思ってたんだけどな」

『少し少ない』なんていい方はオカシイ、というのはこの際無視だ。

「駄目よキョン君、楽観的な意見は油断しか生まないものよ」

そいつは青く長い髪を揺らしていった。

「その意見には大いに賛同だが…人海戦術とは中々古めかしい作戦だな」

俺はあの日あの時あの場所でアレを使って俺を殺そうとしたそいつに対して言った。

そいつは、俺のクラスの元学級委員は、

「でも、有効よ」

と、もう見たくもない作り物の笑みをたたえながら言った。

俺はその後方50メートルあたりにいる推定二百体以上の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスを一瞥した。…有象無象としていやがるが、それでも戦闘力はたいしたものなのだろう。

そして、俺と十メートルの間を空けて俺と対峙するのは…朝倉涼子。

「それにしても物騒なところね…。こんなところであなたは何をしているの?」

わざとらしく聞いてくる朝倉。

「そのぐらいの報告、どうせ聞いてんだろ?でなきゃこんな団体客が来るとは思えん」

そこまで言ったところでイキナリ朝倉が―――いつの間にか手にナイフを持って―――襲い掛かってきた。

「!」

俺は手元に干将莫耶を呼び寄せる。

 

ギーーーーン!

と甲高い音と共に俺は朝倉の攻撃を干将でいなし、莫耶で薙ぎ払う。

「あら」

朝倉は意外、という顔をしてその攻撃を避けて、先ほど立っていて位置までバックステップで戻っていった。

「ふーん、キョン君、あの時より強くなったんだね?私驚いちゃった」

それは地味なクラスメートの長所を始めて目の当たりにしたといった感じの言い方だった。

「まあ、途方もなくお前らと連戦してきたわけじゃないしな」

「?それ、用法ちがくない?」

「実はお前が消えた後にこの使い方が一般的になったんだ」

「…下手な嘘」

「…まあ、な」

「ふふっ、変わらないね、キョン君」

そう言った朝倉の背後から、初老の男性が朝倉を跳び越すようにこちらに跳んだ来た。

「おっと」

…まあ、これだけ敵いるんだし、こんなのも予想してたけど、意外っちゃ意外だ。

男性の振り下ろした西洋風の剣を干将で受け止めたその隙に―――

「!」

―――朝倉が再び―――

「っっ!!」

莫耶で刺突を防ぐ。

…二対一ってか?

防いで気づく。

―――右から―――

「っっっっ!!」

当事者でなけりゃ一瞬の出来事にしか思えない速度で三対一。

…ヤバイな…。

朝倉と老人から、あえて剣戟をあてることで距離を置き、

「―――はっ!」

その勢いを利用し、回転する形で右の敵の袈裟切りを打ち払う。

まあ、三人来るってことは…。

―――先ほどまでの左、今の後ろ―――

「ビンゴ…!」

やっぱりきてやがる。


「―――投影、開始―――!

 


投影は、俺のイメージを具現化する魔術。想像の創造。

紅い荒野から紅い槍が、俺の背後に出現する。


「―――停止解凍、投影層写―――!」

 


ダン!

効果音つきで敵へと飛んでいく紅い槍。その速度は、常人にはどうすることも出来―――。

…避けられた。

まあ、あんまり期待してなかったけど。あいつら常人じゃないし。

「っち―――!」

俺は飛び込んできたそいつを干将でいなし、更に剣を振るう老人の剣戟をかわし、朝倉のナイフを弾いて、先ほど右から来たやつを蹴り飛ばし、再び飛び込んできたヤツを切り払う―――が、これでやっと一体倒したに過ぎない。敵はまだ沢山いるのに。

「―――投影、開始―――!!」

 

俺は俺の後方三メートル辺りに三本の剣を出現させる。

「―――工程完了。全投影、待機―――!」

 

後退しながら剣戟を交わす。

そして、剣まであと50センチのところで―――

「―――停止解凍、全投連続層写―――!!」

 

ダンダンダン!

三発、発射される。

朝倉はこれをかわし、

二体は命中した。

朝倉め…これだけの近距離をかわすとは…。

「これで倒れろよ…」

「うん、それ無理♪」

「…しつこいな、男に嫌われるぜ?」

「別にいいわよ。谷口君は振り向いてくれそうだし」

「…嫌な女」

…これがクラスでの会話だったらどれほどまでに嬉しかったか。

…とても、剣を交えている奴らのセリフには思えない。

再び刺客が来る。

中年オヤジが二体。

『投影、開始』と言いかけて止める。どうせこいつらを倒してもまた次が来る…。このままじゃ埒が明かない。

投影には精神力を要するし、そんなには使いたくない。

―――なら、アレで―――

まずは、

「―――投影、開始―――!」

 

後ろにはやはり剣が二本。

「―――停止解凍、全投影連続層写―――!」

 

朝倉以外に命中。

そして、両手にある干将莫耶を投げ捨て、

「―――投影、重装―――!」

 

 

左手には弓が握られた。

 

「―――我が骨子は捻じれ狂う―――!」

 

 

右手には螺旋を描く剣が握られた。

それを矢に見立てて弓を引き、

「―――“偽、螺旋剣”―――!」

 

 

ヒュウ、と一筋の線になって偽螺旋剣・カラドボルグは射られた。

向けた先は、朝■の後ろにいる奴ら。

 

当然、それは弾かれる―――が、

ドゴオオオオン!!!

そんな漫画みたいな騒音と一緒に爆発した。

被害はざっと…三十体か。

「えっ!?」

それに驚きを隠せない…誰だっけ?

えーと…朝、朝…思い出せない。…くそっ、ついに記憶が、精神力が死んできやがった

…でもまあ…敵には変わらんであろうな、そこの青髪は。

俺は両手に干将莫耶を再び呼び寄せ、

「っっはあ!!」

目の前にいる青髪を切りつけた。

しかし、弾かれる。

そして再び青髪が後退。

「…あなたがここにいるだけなら…まあ、まだ分かるけど、こんなに強いのは何故?」

「…それは…簡単だ」

「じゃあ、教えて」

「…惚れた女守るために、男はいくらでも強くなる」

「…素敵な理論をありがとう、キョン君。立つはずない鳥肌が立っちゃった」

何て話をしつつ考える。

まだ百五十体はいるあいつらは一体どう対処すれば良いのか…。異常に強い青髪もいるし。

仮に…えーと…長…長…そうだ、長門だ。仮に長門が来たとしても、相当つらいよなあ。

…そうなると…カラドボルグではない、アレしかないかな…。

…でも、アレを使えば俺は…。

「惚れた女って涼宮さんでしょ?元気?谷口君や国木田君も」

―――でも、ハルヒを守るにはアレしか―――。

「あと岡部先生も。お世話になったのよ~」

―――でも、逆に言えば、アレを使えばハルヒを守れる―――。

 

―――なら、答えははっきりしているか―――。

 

「……無視?」

「…ん、あ、勿論元気だ。皆宇宙とか神とか関係なく、よろしくやってる」

俺は自嘲しながら言った。…こんな時でもハルヒのことだけは覚えていることに、そして、分かりもしない人のことを話していることに。

「そう、良かった。涼宮さんが健在じゃなかったら私たちが来た意味ないもんね」

「ああ、確かにそうだな」

俺が相打ちを打つと朝倉は怪訝そうにこちらを見てきた。

俺はそんな視線を無視して、しゃがみ、

片膝立ちの格好で右手を拳にして左肩に当てた。

―――あとは、詠唱か―――。

―――最後は、干将莫耶で決めたかったんだけどな―――。

 

「―――、体は剣で出来ている―――」

 

 

青髪は相変わらず俺を見たまま。

 

「―――、血潮は鉄で、心は硝子―――」

 

 

そこで、青髪の周囲から長槍や薙刀が地面から飛び出て青髪を閉じ込めた

 

「なっ!?」

 

「―――、幾たびの戦場を越えて不敗―――」

 

 

そこから50メートル後方にいたやつらも周囲から飛び出した武器に閉じ込められる。

 

「―――、ただの一度の敗走もなく―――」

 

 

しかし、同時に俺の精神力も削ぎ落とされていく―――。

 

「―――、ただの一度の勝利もなし―――」

 

 

体が二つに分かれるような感覚、遠くで鉄のぶつかり合う音。おそらくは青髪たちが周囲の剣を破壊しようとしているのだろうが無駄だ…。

…つーかそろそろ感覚神経が麻痺してきた。聞こえてくる音が百メートル先の音に聞こえる。

 

「―――、担い手はここに独り、剣の丘で鉄を鍛つ―――」

 

 

そいつらの上空に無限の剣を出現させる。…そろそろ何が何だかさっぱり分からない…精神力が死んでいく。

 

「―――、ならば、我が生涯に意味は不要ず―――」

 

 

だが、そんな事どうでも良い。

せいぜい派手に散りやがれ…!

 

「―――、この体は、無限の剣で出来ていた―――!」

 

 

―――ダンダンダンダンダン―――!!

 

無限にも思える剣の一斉射撃。

 

―――ダダダダダダダダダダダ―――!!

 

そんな音と共に、敵を貫いた。

 

 

「っは、はぁ、っは―――」

息も絶え絶え、声も絶え絶え、精神力も絶え絶え。

もう、誰も、残って、ないよな…?

俺はしゃがんだまま前を向く。…それだけで辛い。

そして、

 

消えかけた体を引きずっている青髪を見つけた。

 

「本当の本当で本当な本当に驚いたわ…。あんなにいた味方が全滅じゃない」

そう、百五十体余りは今の一撃で消えたはずだ。

「でも、残念でした。わたしには消えない理由があるの」

「…何と、なく、分か、るが、な…」

息が続かない。

「おま、お前、は…急、進派その、もの…。つ、まり…情、報統合、思、念体、の本、体」

青髪は何もしないでこちらを見ている。

「だか、ら…他のやつら、よりも、強い。情報量、が圧倒的に…多いから…。だから、今も、まだ…ここにいられる…」

意識しないと呼吸の方法すら危うい。

「…違うか…?」

俺が尋ねると、青髪は拍手を俺に贈り、

「凄い凄い、大正解よ。勉強したんだねー、キョン君」

俺はよろよろと立ち上がった。

「でも、惜しいかな…。あなたはここで死ぬの。私に殺されて」

朝倉はナイフではなく日本刀を構成し、俺と対峙する。

「…そうは、いくかよ…!」

俺は悲鳴しか言わない体に更に悲鳴を言わせるが如く、白黒のを呼び寄せる。

何度も戦ってきた、干将莫耶、

その、最後の姿。

見せてやるぜ、青髪。

「いくのよ…こうやって!!」

青髪は俺に突っ込んでクル。

俺は干将でそれを防いで、莫耶で切り込む。

青髪は満身創痍のはずの俺の動きに驚いたが、手を抜くことはなかった。

俺は、詠唱する。

 

「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ―――!」

 

剣戟を交わしていて思い浮かんだのは、名が出てこない団の仲間たち。

 

「―――心技、泰山ニ至リ―――!」

 

もちろん、そいつらの名前だって思い出せない。

 

「―――心技、黄河ヲ渡ル―――!」

 

でも、100Wの笑顔だけはやけにはっきりと覚えていた。

―――ハルヒ―――。

 

「―――唯名 別天に納メ―――!」

 

そこで、干将莫耶が短剣ではなく、長物に変わった。

白黒の一対、鶴の翼をかたどった剣。

これに驚く青髪、その一瞬の隙に俺は青髪の腕を、切り落とした。

そして、

 

「―――両雄、共ニ命ヲ別ツ―――!」

 

両腕をクロスさせる形から、腕を元に戻すように、

青髪を、切り払った。

 

 

―――紅い荒野に人影一つ―――。

―――両手には、翼のような剣―――。

―――それを広げるように彼は立っていた―――。

―――遅れて援護に来た少女の声に反応することは、なかった―――。

―――息はあるが、声は絶え、精神力も絶え―――。


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