さてと、昼休みももうすぐ終盤だ。
その前に確かめておくことがある。
俺は教室に戻るために部室のドアを開け、
出て行く直前にハルヒの心理解析のプロである古泉を手招きした。
古泉は以外そうな顔をして突いてき……違うっ、着いてきた。

 

「あなたからお話があるのは珍しいですね、一体なんでしょうか」
一つ訊いておきたいことがある。
「なんなりと」
この学校内に閉鎖空間は発生しているか?
その質問に古泉は少し眉を動かしたが、すぐもとのニヤけた表情に戻り。
 
「この場所、つまり北高の敷地内は既に閉鎖空間の中だと言っても良いでしょう、
 外界と完全に遮断されてます、ですが、
 僕が良く知る閉鎖空間ではないことも明白です、ここにはアレがいない」
古泉の長い話を訊いてる暇はない、俺が確かめたいのは、
「この学校自体が閉鎖空間の中ってのは解った、
 しかし俺が訊きたいのはこの学校内にさらに閉鎖空間的なものがないか?
 ってことだ、わかるか?」
 
「……たぶんあるでしょう、おそらくそこに涼宮さんがいるはずです、
 ここからは僕の仮説ですが、おそらく、
 涼宮さんは寝不足で学校に来られたんだと思います。
 その後、自分の席で睡魔に襲われ眠りについた。
 そして眠りに入る直前にきっとこう思ったのでしょう、
 ”誰もあたしの眠りの邪魔をしないで”っと」
そんなしょーもない理由でこの状況なのか、まったく。
俺は心底あきれ返ってしまった、ふざけんなと言いたい。
 
「その結果、我々にも長門さんにも探知出来ない空間を作り上げたのでしょう、
 ですから今彼女がいる空間を探知したり、進入したりする能力は残念ながら、
 僕にはないようですね」
そうなのか、俺はてっきり把握していて、
俺に、またあいつのいる空間に入って起こしにいかねばならんのかと思ってたんだが。
 
いつもの微笑だった古泉が俺の言葉を聞いて真面目な顔になった。
「そういえばあなたはなぜそのような疑問をもったのですか?」
どうした急に、それになんのことだ?
「いえ、単純な疑問ですよ。あなたの質問にはなぜか確信的なものがありました、
 だから何か根拠があるんじゃないかと思っただけです」
いつも思うが、古泉の真面目な顔はあんまり見たくねえな。
「よければ聞かせていただけないでしょうか?」
 
俺はさっき皆に襲われた時に見た幻覚の内容のことを古泉に話した。
ま、こう言う聞き役に古泉は適任だ、と言っておこう、数少ない俺のほめ言葉だ。
「と、いうわけで俺は一年五組の教室に、
 ハルヒの居る別の空間があるんじゃないかと思うんだが……」
古泉は俺の話を聞いて何やら考え始めた、人差し指で鼻筋をなでている。
「……涼宮ハルヒが教室にいる可能性は高い」
不意に背後から声がした。びくっとなって振り向くと、
何時の間にか雪女の長門が立っていた。
 
「おそらく涼宮ハルヒを目覚めさせることが出来るのは鍵であるあなたのみ、
 あなたに賭けるしかない、早急に彼女を起こす為の行動をとるべき」
お、なんだ長門、ハルヒの居る空間に行く方法でもわかったのか?
「わたしには彼女の居場所すら探知することができない、無力」
なぜかすまなさそうに俯く長門、いつもお前は大活躍なんだからたまには休んでていいぞ、
おまえが無力だなんて言ったら俺はどう表せばいいんだ。
それに長門よ、今の状況がよく思ってないのは解るし、
俺もさっさとハルヒのいる所に行って叩き起こしてやりたいさ、
なんならジャーマンかましてやってもいいぞ。
しかしその空間に入る術がわからない状態じゃどうすることもできんがな。
 
「ジャーマンはちょっと……ご勘弁を願いたいですが、いろんな意味で」
本気にするな古泉。
「私という個体もジャーマンは推奨できない」
長門まで本気にするな、ほんのジョークだ。
「そのことについてうまく言語化出来ない。
 情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて」
長門の目は真剣だった、俺は何か地雷を踏んでしまったのだろうか。

「今回の話が始まって以来、涼宮ハルヒはほとんど登場していない」
確かにそうだが。
「それに彼女の出番が少なすぎるとあまり支持されない可能性が高い。
 空気扱いのキャラをいじってコミカルを演出しても支持は得られそうもない、
 所詮空気。そして超展開でもシリアスでもない、まして甘くもない」
言葉の意味はよく解らんが、何気にひどいこと言ってないっすか長門さん。
「しかもあまりユニークとは言えない、ギャグ情報としては稚拙。
 無視されるレベル。
 まだわたしが活躍する展開の方が支持を得られる可能性が高く思われる」
淡々としゃべる長門。
 
俺はどういうリアクションを取って良いのかわからず、何気なく古泉の方を見た。
古泉はなにやら納得しているらしく、目を細くして頷いている。
  
「このままでは物語の終焉を迎える事が出来なくなるかもしれない、
 ただし、涼宮ハルヒが登場すれば危機は回避される可能性が高くなる。だが、
 現在、涼宮ハルヒの活躍を期待出来ない、行方不明だから、
 ならば、せめてわたしを前面に出すべき、
 さらにシリアス展開に発展すれば支持も得られやすい。
 それなら、わたしが適任。甘いのも得意。スイーツ(黙)」
どうせならもっと力説してくれれば雰囲気が出るのだが、そこはあの長門だしな。
それより甘い物って、今の長門ではプリンのようなデザートじゃなくて、
シャーベットの様な冷たい物になりそうだ。

「そこへ先ほどあなたが口にした語句はとても危険なもの、
 はてしなく遠い男坂を登りはじめたり、○○○の勇気が世界を救うと信じて…!
 ご愛読ありがとうございました! で締めくくられたり、
 またはあなたの情報連結が【禁則事項】される可能性を含んでいる」
なんだ、なに言ってるんだ? 俺はまた命でも狙われるのだろうか。
などと考えていたが、ここはあえてこう言っておくのがベストかもしれん。
「待ってくれ、正直言おう。さっぱり解らん」
「信じて、主流派はSF的シリアスな展開を希望しているはず」

久々に、長門の電波話を聞いた気がするな、で、結局俺はどうすりゃいいんだ?
信じてって言われても、さっぱり解らんのは変わりないんだが……。
「僕はあなたの判断に任せます、あなたのお好きなようにしてください、
 あなたならいい結……」
ここで昼休み終了のチャイムが鳴り始めた。
すまん、続きは放課後だ。
古泉がなにやら話し始めていたが、
最後にイイケツと言ったような気がした俺は急いで教室にもどった。
 
しかし、シリアス展開ねぇ……、どうすっかなぁ。
 
俺はさっき長門の言ってたことを考えながら教室に入り、自分の席に向かう。
やはりハルヒはいない。
席に座ってから午前中よりすこし雰囲気が変わっていることに気づいた。
谷口が狼男から犬に成り下がっていたのだ、
忍者国木田が谷口を忍犬に調教していたらしい。
なにやらパピーやらポピーなどと愛称で呼んでやがる。
国木田、谷口で遊ぶのもほどほどにしとけよ、見苦しいからな。
キョンてあだなの俺が言うのもなんだが呼び名が増えてよかったな谷口、
お前はちくわと間違って鉄アレイでも食らってろ。
 
さらに教室の中央では山根が感電して気絶していた、おそらく朝倉の仕業だな、
山根がなにかセクハラ的なことでもしたのだろう、ナイフで刺されなくてよかったな。
 
ふと、後ろの席に気配を感じた、ハルヒか?
と思って振り返るとそこには阪中がいた。思わずビクッとなる。
「あのね、涼宮さん今日休みみたいだけどなにかあったのかな?」
「さ、さあな、俺にもよくわからん、でも心配しなくてもいいと思いますよ、
 た、たぶん病気とかじゃないはずですから……」
 
まあ、ハルヒが病欠するなんて有り得ない事だし、
あいつは世界中のあらゆるウイルスも無効にしちまうだろうしな。
仮に何かの病気になったとしても、この薬を飲めば必ず治る、
って言ってビタミン剤でも飲ませときゃそれで治りそうだ、
なにせ嘘が本当になるやつだからな。
 
阪中とは例のルソーの件以来ハルヒと仲良くなったみたいだ、
めったに休まないやつが休めば心配するだろう。
しかし、そんなことより俺は今の阪中の状態が気になって落ち着かない、
はっきり言おう、今の阪中はふわふわ浮いている状態だ、
そして足が無くて半透明なのである。
おまけに何やら火の玉らしき物も連れている始末。
つまり、浮遊霊というものだ。
 
頼むから背後に立たないでくれ、
それに取り憑くんならそんな姿に改変したハルヒしてくれ。
俺は無関係なんだ。

たしか長門がSF的シリアス展開を希望しているとか言っていたが、
この現状を目の当たりにしたらこのセリフしか出てこないな。
 
────だめだこりゃ。
 
 
 

     挿絵
     つづく


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