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第四話 ツルヤ
 
マジッスか?まだ心の準備が…
 
「居たぁ!」
谷口がまた叫びながら登場、距離約10メートル!
キョンはにげだした。
──うまくにげきれたようだ。
森さんはにげだした。
──うまくにげきれたようだ。
ハルヒはにげだした。
──うまくにげきれたようだ。
長門はにげだした。
──しかしまわりこまれてしまった。
「有希ぃぃー!」
ハルヒの悲鳴も空しく、「…無念」長門は国木田の凶弾に倒れた。待ち伏せとは、おのれ国木田、卑怯なり!
 
 
にげきれたはいいが、残念なことにハルヒや森さんとはぐれてしまった。更に長門確保の連絡が今更になって届いた。
ああ、もう長門も捕まってしまったのか。当たり前の事実を再確認する。
…今は生き残りは俺と、ハルヒ、朝比奈さん、森さん、多丸さん、会長、喜緑さん、中河、といった所だ。
鬼はメンバーが充実している。またすぐに誰かが掴まるだろう。
 
……しかし、俺の逃走生活は唐突に終わりを向かえた。
 
「キョーン!ごめんっ!」
な、この声はハルヒか?…今、ハルヒに謝られた?
驚異的な速さでこちらに走って来るハルヒ。そしてなんとそのまま俺に体当たりを敢行。
「うのわっ!」
冷たい地面に押し倒されて…妄想が蔓延る…間もなく、ハルヒはほとんど失速せずに駆け抜ける。しかし、相変わらず凄い速さだ。
「ふっふっふっ、キョン君見ぃつけたぁ…」
俺の全身に戦慄が走った。
「な、鶴屋さん!?…それ滅茶苦茶恐いです!止めてください!」
俺が見た鶴屋さんは、井戸から出てくる某元超能力者みたいに髪を前に垂らし、口元に笑みを浮かべて俺の目の前に立っていた。
 
 
ここでルールを補足しておく。雪玉は一度に持ち運びできる数は2個まで、使える雪玉は専用の器具で大量生産したもののみ。
器具は逃走許可範囲の中央付近、鬼のスタート地点に設置。
つまり鬼は何度も補給を行う必要があると言うことだ。こんな重要なことを俺は何故今まで黙っていた?
 
 
鶴屋さんは2個の雪玉のうち1個を未だ倒れている俺の頭に落として、──俺はそれをなんとか回避した。
 
「んなっ!2個しか無いんだから避けないでよねっ!」
そう言うと鶴屋さんは俺に馬乗りになり、俺の首筋に左手をかけ、右手でベルトに着いているケースから雪玉を取りだし、今度こそ俺に止めを刺した。
上記の行動は全て流れる様な動きで且つ凄まじい威圧感があり、さながら敵将の首級を上げる戦国武将のようだった。
「ようし、キョン君確保っと」
メールを送る鶴屋さん。まさか中河や九曜のアドレスも知っているんですか?
「あー、実は新川さんが専用の機械から一斉送信してくれてるのさっ!」
新川さんが?
「うん、なんか仕事柄いつも持ち歩いているとか」
って事は機関がらみか。…ん?鶴屋さんにそんな事教えていいのか?
俺の疑問は顔に出てしまったらしい。
「あ、心配しなくても機関についてはあたしも大体は知ってるよっ!」
これには俺も流石に面食らった。ご存知だったんですか。
「まぁね…実は色々とあってさ」
なんと珍しい。あの鶴屋さんが言い淀んでいる
俺のそんな視線に気付いたのか鶴屋さんは、俺にゆっくりと話し始めてくれた。
「実はさ。あたしも超能力があったんだ」
何だって?鶴屋さんも超能力者だった?
「でもさ、あたしの力は他の皆よりも弱かった」
鶴屋さんは続ける。
「まだ機関が存在してない頃…4年前の七夕の頃に最初の能力が発現したんだ」
「最初の能力?」
「うん。最初に超能力者になった時に閉鎖空間が迎えに来たんだ」
俺は2回目の閉鎖空間を思い出していた。あんなことがあったらそりゃあショックだろう。
「その時はなんとか神人を倒せたんだけどね、不定期に出現する閉鎖空間を壊す必要性も体感した」
「それから、何度も閉鎖空間で戦ったよ。でもさ、結局はあたしは皆の足引っ張ってばかりだった」
「毎日のように閉鎖空間が生まれていたよ。でもこんな事、お父様やお母様に相談出来なかったよ。全く信じて貰えなかった」
 
それなら実際に閉鎖空間に連れて行けば良かったんじゃないですか?
「あたしはそんなに力がなかったんだ。それに閉鎖空間の壁まで連れて行くのも無理だった」
そこで俺は絶句した。一瞬、鶴屋さんがとても悲しそうな顔をしているように感じたから。
「それでさ。一度閉鎖空間で大ケガしちゃったんだ、あたし」
ケガ、ですか?
「うん。2週間位意識が戻らなかったらしいんだ」
それじゃかなり重傷じゃないですか!
「そうさ。あたしは周りからは外傷もなく道の真ん中で突然倒れたことになってた」
閉鎖空間で力尽きるとそういうことが起こるのか…
「意識が無い間にね、夢を見てたんだ」
夢?
「そう。あたしと同じ位の年の女の子があたしに泣きながら謝ってたんだ」
まさか、その女の子って、
「『もう、あなたをこんな目に逢わせたりしないから』って。あたしはその子を宥めて、友達になる約束をしたんだ」
ハルヒだ。
「また会って、それでいっぱい遊ぶ約束をして、それであたしは目覚めた。そうしたら能力が消えちゃってた」
鶴屋さんの過去にそんな事があったなんて、全く知らなかった。
「その後さ、超能力者の皆に力が無くなった事を言って、ちゃんとお父様に全部話したんだ。でも信じてくれなかった」
そうだろう。普通は信じない。
「でもね、超能力者の皆は私に味方してくれたんだ。その時に古泉君がね、」
…古泉?
「うん。古泉君もその時には仲間で友達だったんだよ。その古泉君がお父様を閉鎖空間に拉致ったんだ!」
拉致った…?鶴屋家御当主を?あの古泉一樹が?
「そうさっ!あたしもかなりビビったねっ!でもお陰でお父様がようやくわかってくれたんだっ!」
どんどんテンションが上がって行く鶴屋さん。俺はかなり安心した。
 
 
「それからお父様が機関を立ち上げるのに協力して、各方面に根回しして、後は古泉君と家の運転手だった新川さんが組んで法に触れない範囲で重要人物拉致ったりとか」
法に触れない拉致なんて無いでしょう!…っていうか新川さんが拉致ったりを?
「うん。政府や資産家に話しても信じてくれない上、閉鎖空間への任意同行すら出来ない場合も有ったし。だから、仕方ないっさ!」
…仕方ないて。古泉は俺以外にも任意同行かけていたのか。
「さって、そろそろ雪鬼に戻ろうかっ!」
そう言った鶴屋さんの笑顔は、ハルヒの100wにも匹敵する眩しさだった。
 
 
今、俺と鶴屋さんは雪玉を持っていない。だから一旦スタート地点に戻って補充する必要がある
 
その間俺も鶴屋さんもずっと話し続け、お互い笑い笑わせを繰り返した。
雪玉を2個ずつ持って戦地に赴く時に新川さんからのメールが届いた。
「ありゃー…多丸さんも古泉・新川さんコンビに捕まったってさー」
多丸さんも破れたか。それなら後は…7人?
 
そこで俺は前方に人影を発見した。
「鶴屋さんっ!あれ!」
そこにいたのは喜緑さんだった。俺たちと反対方向に一目散に走っていく。
「エミリン?逃がすかぁっ!」
鶴屋さんが叫びながら追いかける。滅茶苦茶速い。
 
それでも喜緑さんは懸命に逃げる。朝比奈さんとは別の方向で庇護欲を掻き立てられるような……いや、何でも無い。
 
今は俺の前方5メートル位に鶴屋さん。
鶴屋さんの前方10メートル位に喜緑さん。
──更に前方10メートル位に驚愕の顔を浮かべた元生徒会長。
 
「き、喜緑くん?」
「会長!申し訳ありません!」
「は?君は一体何を──げふぉっ!」
 
会長が喜緑さんのタックルを喰らった。あれ?なんかこの光景は見たことがあるような…
 
倒れた会長を後目にたちあがり走り去る喜緑さん。鶴屋さんは会長の首筋を抑え…あれ、この光景も見たことがあるような?
 
俺は止まらずに喜緑さんを追っている。
喜緑さんはさすがに疲れたのか少しスピードダウンしているようだ。……俺もだが。
 
 
と、ここで喜緑さんが急停止し方向を変えようとして、…結果派手にこけた。
「……痛い、です」
俺は追い付き声をかける。「何やってるんですか」
喜緑さんは立ち上がらずに上目遣いで言った。
「向こうには長門さんがいたから…」
 
何?長門が?全く気付かなかった。
「それで慌てて転んだんですか?」
「…はい」
 
なんとここでドジを披露して下さるとは…
 
なんとここでドジを披露して下さるとは…
その時会長確保のメールが届き、俺はふと思い出して雪玉を取り出す。喜緑さんは観念したように目を閉じた。
 
 
その時、自分でも気付く位どす黒く恐ろしい感情が湧いてきた。
 
──今の俺は、鬼だ
──今、喜緑さんの生死を支配している
──残酷なやり方で俺を陥れ、鬼に変えたハルヒを同じように支配し、服従させたい
──跪かせ、敗北を認めさせたい
……まぁ、単なる雪合戦の鬼特有の闘争本能みたいな物だ。
 
俺は、喜緑さんにトドメを差してから新たに生まれた鬼を助け起こした。
 
「全く、参りましたよ」
喜緑さんは心底残念そうに呟いた。いや、それは会長のセリフでは?
「仕方ないじゃないですか。捕まりそうだったんですから」
なんと理不尽な。今のセリフは是非会長に聞かせてやりたい。
 
「いいんですよ。会長も私の役に立てて嬉しいはずですし」
黒っ!そんな悪役なセリフ吐かないで下さいよっ!
「たまには素の自分を出すのもいいかな、と」
いつの間にそんなひねくれた性格獲得したんですか。
「ええと、去年の8月ですね」
どうやらエンドレスな夏休みが喜緑さんを黒く染め上げたらしい。
 
「喜緑さんもあの夏休みを全部体験したんですか?」
「はい。9割以上は全く同じ経験の繰り返しでしたよ」
9割以上全く同じ?それじゃ長門よりもひどいじゃないですか!
「何回かはあなた方と一緒に遊んだりもしましたよ。長門さんに招待して頂いてね」
長門が?
「はい。長門さんにはとても感謝しています」
そうなんですか?全く覚えていないのが申し訳無い。
「ほら、噂をしていれば、長門さんが来ましたよ」
長門が歩いてきた。なんと、本当に潜んでいたのか。
 
「…喜緑江美理。あなたは是非この私が仕留めたかった。」
いきなり何を言う、長門。お前まで闘争本能に取り付かれたか?
「うふふ、貴女じゃ120世紀かかっても無理ですよ。」
え、喜緑さん?何を言って…?
 
「よく言う。無様に転んだ癖に」
こらっ!長門!
 
「やーいやーい、怒られたー!」
き、喜緑さん?
 
「ううう」
長門、抑えて抑えて。
 
あの喜緑さんが長門をからかっている。しかもかなり楽しそうだ。この人はこういうのが一番似合っている気がする。
 
 
俺は喜緑さんを捕まえた事を古泉経由で新川さんに報告した。
喜緑さんは雪玉を取りに一旦帰還、長門は次なる獲物を求めて再び戦場をさ迷うらしい。
だが俺は、さ迷いはしない。俺を裏切ったハルヒを捕える為に追跡を開始した。
 
─数分後、無事にハルヒを発見する事に成功した。
くくく、ノコノコと歩いてやがる。だが相手はあの涼宮ハルヒだ。すぐに飛び出しては捕まる物も捕まらない。ここは慎重に尾行してターゲットが油断している隙を突く、よしそれで行こう。
雪玉は残り1個。失敗は決して許されない。…鬼は順調に増えている。誰かがハルヒと遭遇するはずだ。
─そして、その時が千載一遇のチャンス!
 
ハルヒが何かに気付いた。
……バレたか?いや、違う。ハルヒは前方を凝視している。
「……誰?」
今のはハルヒだ。警戒している。
この警戒が完全に前方に向いた時、俺が奇襲をかける。そのつもりだったが…
「す、涼宮さん、ですかぁ?」
そこにおられるのは我等がエンジェル朝比奈さんだった。
「みくるちゃん?無事だったのね!?」
 
危ない危ない。今飛び出していたら確実に悲鳴をあげられていただろう。
 
「はい!今までずっと一人で寂しかったんですよ!」
誰にも逢わなかったと言うのはある種の才能なんじゃないか?
 
「あたしも今まで何人も仲間を失ってきたわ。有希もキョンももう『鬼』になっちゃったし…」
 
俺が捕まったのは誰のせいだと思っているんだ。
 
「もう鶴屋さんも捕まってしまいましたし……」
「さっき追いかけられたわ。その時はキョンが身代わりになってくれて助かったけど」
 
何を言っている。俺は体当りを食らっただけだ。
 
「キョンくんが身代わりになってくれたんですか?羨ましいなぁ」
 
いや、俺は貴女の為ならいつでもこの身を捧げますよ。と言うかさっきのは無理矢理犠牲に差し出されただけです。
 
「羨ましがる事無いわよ、みくるちゃん!あいつはヘタレだし鈍いし」
 
き、貴様!なんという言い種だ!ゆるせん!
 
「でも、涼宮さん、───────────────?」
 
ん、何だって?声が小さくて聞き取れなかった。
 
「な?え?」
 
ハルヒが動揺している。朝比奈さんは一体何を言ったんだ?
 
 
「できれば正直に答えて貰いたいなぁ」
 
「な、なんでそんな……」
俺も今の朝比奈さんの態度は今一つ腑に落ちない。やけに返答を迫るような……
 
「だって、私はもうすぐ卒業しちゃうじゃないですか。その前に聞いておきたかったんです」
 
卒業。その言葉がやけに重たく感じた。
俺もはじめから解っていたはずだ。朝比奈さんが一人だけ先にSOS団を卒業する事を。
 
「だから、今の内に教えてくださいよ」
 
「……そうよ。多分その通りだと思う」
 
遂にハルヒが折れた。朝比奈さんがハルヒに勝った。
「でも、誰にも言わないでね!もし誰かに言ったら…罰として一生SOS団でお茶汲みやらせるわ!」
 
かなり気になるが、団長がそこまで言うなら俺が詮索する訳にはいかないのだろう。しかし一生お茶汲みて。
 
「ふふ、それじゃ罰になっていませんよ。だって、私お茶汲み楽しんでますし」
その直後に二人分の笑い声が響いてきた。
俺も大笑いしたかったが、立場と状況を思い出してなんとか堪えた。朝比奈さんも心底楽しんでくれていたのか。いや、良かった。
 
「いや、楽しそうですね、お二人とも」
 
古泉!今このタイミングで登場するなよ空気読め!
 
「古泉君!有希!聞いてたの!?」
 
「何の事です?」
「……聞いてた」
「長門さん!」
「はぐらかすべきではない。正直に答えるべき」
「……聞いていました」
 
ハルヒはきっと今物凄く赤面しているはずだ。
 
「……罰を、言い渡すわ」
 
ハルヒが辺りの雪より冷たい声でそう宣告した。
 
「この雪鬼が終わったら、ね」
 
古泉の余命が僅かに伸びたらしい。
 
「まずは……この戦いを終わらせてしまいましょうか!」
「くっ…望む所です!」
 

 

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