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ああ、起こしちまったか。悪い、妙な夢を見たもんでな。ロビンソン・クルーソーもびっくりな冒険活劇で、変にリアルな、たわいもない夢語だよ。

どんなのか聞かせろ?夢の話なんだし、即興での喋りじゃ面白さは保障出来かねるがそれでもいいのか。
……そうかい。じゃ、安眠妨害した分、お前が満足するまで好きなだけ、たっぷり話してやるさ。なにしろ要点を纏めずに進めたら一週間は完徹で語り明かせそうな大長編だからな。どこか適当な出版社に送りつけたら、印税生活が送れるかもしれん。冗談だ、殴るな。

そうだな、何処から話そうかね。やっぱり俺が高校新入式を終えた後のホームルームで、珍妙な自己紹介を聞いたところから始めようか。――ああそうさ、夢にはお前もいたよ。俺をいつも振り回して渡る、この夢の主人公はお前だった。それから宇宙人に未来人に超能力者、三つの勢力が次々に登場してくる。そいつらは各々思惑があって、神様だとか自立進化の可能性だとか言われているお前に近づくんだ。お前は全然そんなことには気付きもしないまま、そいつらを一纏めに自分が作った部活に引きずりこんじまうのさ。勿論俺もだ、雑用係で散々こき使われたぜ。

初めはぎくしゃくしてたが、波瀾万丈な高校生活に溺れて必死に泳いでるうちに、何時の間にか打ち解けて、仲間になって。敵襲に遭って危機一髪で難を逃れたり、異空間でバトルを繰り広げたりもした。俺は、善良な一般人をやってたから観戦だけで、歯痒い思いもしたが、まあこいつは瑣末な注釈だな。宇宙人は読者好きでやけに無口で、それでもいざって時には一番頼りになる女の子で、超能力者は大抵のことはこなしちまう解説好きなニヤケハンサムで。未来人は思わず抱き締めたくなるような健気で可憐な先輩で、お前は台風の目みたいに事態を引っかき回していく無邪気なトリック・スターだった。

……モデル?まさか。お前以外にそんな濃い奴らと面識があったら、嫌でも覚えてるだろうよ。降って沸いたような夢だから、出所は分からんが、昔読んでた本にこんなストーリーがあったのかもな。
え?
なんだ、どうした、いきなり泣き出して。なに、なんでか分からないけど悲しい?
おい、ハルヒ、泣くなよ。気に障るような事でも言っちまったのか俺は?悪かったよ、悪かった。ティッシュ箱は何処だったかな。ほら、鼻水噛めよ。おいおい何言ってんだ、泣いてるのはお前で――

……ああ、
ああ、そうなのか。

気付かなかったよ。くそ、そうだな、なんでこんなにも悲しいんだろうな。実は俺も話しながら色々、訳の分からない感情ばかり湧き上がってくる。絶対に忘れちゃいけない大事なことでも忘れちまったみたいだ。 
気に揉むなんて可笑しいよな、そう、夢だ。ただの夢なんだから。


そろそろ、落ち着いたか?もう日付も変わってるし、寝ようぜ。俺が起こしちまったのが悪かったんだよな。明日も仕事早いんだ、な、だから寝よう。俺の夢の話は忘れてくれ。奇想天外な非日常に憧れて走ってた学生時代はとっくに終わったんだしな。
ん、物語の結末はどうなったか、か。どうなったのかね。ラストシーンを見る前に眼が覚めちまったから、覚えてないんだ。最後が知りたいんなら、また同じ夢の続きを俺が見られるように祈っててくれ。 




……そうだな。そうだといいよな。


電気、消すぞ。
おやすみ、ハルヒ。 











――悲しいのに幸せだった、失くしちまった夢の話。分かっていたんだ、心の片隅で。
きっと俺はもう、この夢を見ることも思い出すこともない。
楽しかった「いつか」と楽しい日々に生きていたあいつらに、俺たちは別れを告げたんだ。

『夢を見ているのは、お前たちの方じゃないのか』

ああ、誰に言った言葉だったかね、こいつは。
――あんたは理由を知ってるのか?俺たちを見ていた誰か。まだ涙が止まらないんだ。 

悲しいのに幸せだった、失くしちまった夢の話を、あんたは俺に教えてくれるかい。 





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