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わたしの憂鬱。
三年生の三学期、卒業と共に訪れる大事な人との別れ。
ほんとは帰りたくなんてないの……でも、これは最優先の強制コードだから仕方ない。
もう、決心もついた。
だけど、最後に一つだけの心残り。
キョンくん……。

わたしは想いを口に出来ない。だって未来が変わっちゃうから。
でも、口に出さなきゃいいって屁理屈を思いついちゃった。もう、今日で最後だからこれくらいいいよね?
わたしはあらかじめ用意していた《それ》と写真を彼の机に置いて、部室を出た。
さようなら、わたしのSOS団。さようなら、わたしの仲間達。
さようなら、わたしの思い出。さようなら、わたしの初恋……。



「あれ?朝比奈さん、いないのか?」
俺は古泉と部室に来た。ハルヒと長門は鶴屋さんに祝いを言いに行っている。
誰もいない部室を見回すと、ちょっとした変化に気付いた。
俺の机の上、紙と布で造られた造花と、その見本であろう写真が乗っていた。
朝比奈さんだろうか?俺は手に取り、古泉に尋ねた。
「これとこれ。何て花かわかるか?」
それを見た古泉は、少し悲しそうな顔をした。

「そう……でしたか。あなたの右手にある花、それはコスモスですよ。花言葉は、乙女の純情……」
丁寧に花言葉まで解説するのか、ありがたい事だ。
「そして左手にある花、それは……忘れな草です。英訳の《forget-me-not》の表すように、花言葉は……」
嫌な予感がした。

「わたしを忘れないで」

俺は走りだした。朝比奈さんは何処にいる?もし、未来に帰るとするなら、あの公園が一番怪しい。
鞄も、写真も、造花も全て部室に置いたまま、俺は一目散に向かった。
公園のベンチに腰掛けた、愛らしい顔に悲しみを浮かべる朝比奈さんがそこにいた。


「キョン……くん?」
「朝比奈さん!何で……何で勝手に未来に帰ろうとしたんです!?まだ、お別れ会だって終わってないじゃないですか……」
朝比奈さんは俯いた。わかってる、未来からの強制コードとやらが来たのだろう。
それでも、俺はそう言うしか出来なかった。
俺は朝比奈さんの手を引き、立ち上がらせて抱き締めた。
「えっ?……キョン、くん?」
「勝手に帰らせたりなんかしませんよ。俺はこうやってずっと、掴まえてますから」

思わず、抱き締める腕に力が入った。
「んっ……痛い、ですよぉ……」
「あ、ごめんなさい。つい……」
俺が少し抱き締める力を弱めた瞬間、唇を奪われた。
そのまま、数秒間口付けを躱した後、朝比奈さんは耳元で呟いた。
「……ごめんなさい、キョンくん」
俺は油断していた、不意をつかれたキスにやられた。
あの衝撃と共に意識が薄れていく。
そうだ…これがあったか……。
俺は、なんて無力なんだ……


気がつくと、俺はベンチに一人寝転がっていた。
辺りを見回す。人の影一つない。
そうか、俺は止められなかったのか……。
みんなの所に帰ろう。そして、急な引越しになったとハルヒに伝えよう……。
俺は学校へと、部室へとゆっくり歩き出した。

部室の前、鶴屋さんの声が聞こえてくる。ハルヒがお別れ会に誘ったのだろう。
俺は開けるのをためらったが、深呼吸をしてドアを開けた。
「遅いわよ!キョン!みくるちゃんは?……ってあれ?あんたそのポケットはなによ、新しい流行?」
ポケット?
俺が自分のブレザーの胸ポケットを見ると、元気のよい、鮮やかな色をした忘れな草が刺さっていた。


涙が、溢れた。
部室で騒いでいた連中の目など気にする間もなく、俺は泣いた。泣き続けた。
みんなが呆気に取られる中、泣き続ける俺を、古泉が抱えて連れ出してくれた。
「どうぞ、続きをなさっててください」
そんな声にもツッコミが出来ないくらい、俺は泣き続けた。

気がつくと、そこは屋上だった。
「止められなかったん……ですね?」
「あぁ……」
そう言うと、古泉も少し涙を流し始めた。
「もう少しだけでも、一緒に居たかったですね」
「……そうだな」
俺は胸の忘れな草を手に取り、星空に翳した。
「僕達だけでも、しっかりと覚えておきましょう。朝比奈さんのことを……」
古泉の言葉が暗闇に吸い込まれて行く。星明かりと、月明かりだけの屋上。
空を見上げると、朝比奈さんの声が聞こえたような気がした。……いや、聞こえた。
俺が聞いた最後の声。一生耳に残り、頭から離れることはないだろう。

「わたしを、忘れないでくださいね?」

終わり
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