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※この作品は『脇役サミット』の直後の外伝的話となっております。『漆黒キューピッド国木田』との時系列は
特に限定していませんが、こちらを後回しにするほうが無難かもしれません。
 
【1】はじめに
 
僕の名は国木田。フルネームはまだ禁則事項らしい。国木田日記から始めたこの序文もいまやテンプレじみた口上になってしまったことだし、いつも通りこの書き出しからSSを始める。どうしてもフルネームが必要だという方は谷川流先生にお手紙を書こう!…おっと、あるいは自分で考えたカッコいい名前があったら、角川にこっそり提案してみてもいい。くれぐれも『太郎』とかはやめてくれよ。もっと斬新な奴を頼む。しかし『ハルヒ』や『みくる』みたいな名前は、正直現状ではDQNネームだ。勘弁してくれたまえ。
さて、この調子で話を続けても構わないのだが、そうするとこのSSのタイトルは『国木田の命名』なんてものになってしまう。僕のネーミング候補をあげつらい、紹介するだけのSSなんて誰が読むだろうか。
そもそもそれはSSじゃなくエッセイだな。ともかくそんなエッセイをだらだらと書いていたら僕は谷口以上のKYとして読者諸兄に認識されること請け合いだ。あってはならないことだな。
 
では再び話が脇道へ逸れてしまわないうちに話を本題に戻すことにしよう。
『脇役サミット』において、僕達日の目をみない脇役が一同に会して、今後の指針を討議したり、主役級のキャラに対する日常的な不満や要求、疑念、その他諸々の脇役ならではの感情を曝け出したことはまだ記憶に新しいのではないだろうか。僕達はサミットを通じて更に結束を強固なものとし、脇役という立場の誇りと矜持とを再確認したのである。えっ、全然読んだ内容と違うって?失礼な、もう一回読んできたまえ。
それで僕のいうように感じられなかったら君達も谷口と同様に言外の意味を汲み取ることができていないということなのだ。なんという裸の王様論法。とりあえずここは流されておきたまえ。
 
ところが、やはり色々と考えてみたところ、僕らよりも主役に近い位置づけに存するキャラクターのうちには明らかに僕達より劣るキャラクターもいるのではないのだろうか、という疑念が生じたのである。登場人物の全員がライトノベル世界、もとい谷川ワールドにいるだけで世襲制を甘受している現状は当然誰にとっても決して好ましいものではないはずだ。目標のない世界はやがて退廃し、緩やかな滅亡に至り兼ねないのだ。
小説の中は戦場だ…それをこのブラックキューピッド様が『直接』分からせてやるしかないってことか…フッ。
人の世はエンドレス・ワルツだと、誰かが言っていた。戦争と、平和と、…あとは君達への宿題にしておこう。
そんなわけで、今回は更に具体的な策をとって僕達なりの下克上を見せて差し上げよう。
 
【2】分析
 
現在知名度も人気もある主役級のキャラとしては、まずSOS団が挙げられる。まあそれは当然だろう。
美少女三人とイケメンが一人。外観で目立たないはずはない。キョンはイケメンではないのか、という質問には答えかねます。申し訳ない。極力客観評価でいこうじゃないか。うん。民主主義万歳。
次に考えるべきキャラクターなのだが、純粋に地道に積み重ねてきた人気得票数で換算するならば、鶴屋さんや朝倉さんがランクインしてくるかもしれない。しかし、『分裂』以後の得票伸び率を考慮すると、これはもう佐々木さんを挙げざるを得ない。登場してからあれだけしか経っていないのに、個別SS保管サイトまであるとは異常な人気ぶりだ。ちなみに橘さんも個別SSまとめサイトがあったりする。脇役サミットに佐々木団を呼ばなかったのはこのあたりの事情に起因するものなのだ。
 
そこで、この僕こと国木田は考えた。人気をとる秘訣とはなんなのかと。様々な状況から鑑みて、結論は一つしかない。要するに、人気のあるキャラクターは「団」に入っているのではないか。どうだろうか?
要するに「団」になっていると、個人としてのステータスだけでなく、組織のステータスも同じ視野に入れてイメージを形成するのではないかという仮説だ。スプリンターだけだとただの走る人じゃないか、と思ってしまいがちだが「タートルズの師匠のスプリンター」と聞くと途端にイメージが膨らむだろう。そんな感じだ。
自分でもあまりいい喩えだとは思わないが、他に思いつかないのだから反論は受け付けていない。
まあ佐々木団の方は九曜さんの印象が薄いし、藤原くんのイメージもそんなに芳しくないみたいだが、逆に言えば、ある程度知名度を得た僕達が新たに「団」を結成したならば、容易に佐々木団を踏み台に主役級へ、スターダムへ、栄光の架け橋が築かれるのだ。
 
涼宮さん率いるSOS団の構成要員は5名。男女比は2:3だ。その対極に位置するとされる佐々木団は構成要員4名。男女比は1:3である。ただし、佐々木さんの心情を慮れば、一人分の空席、円卓の騎士でいうところの最強の騎士ガラハッドの席には彼女の為の騎士、キョンが座るはずなのではないだろうか。
ア●シールド21でいうとムサシの立ち位置か?うーん、ちょっと違うな。とにかく、佐々木団が4名なのは、永久に入団しないであろうキョンのためのポジションがずっとあいているためである。すなわち佐々木団の構成男女比も2:3と定義して差し支えない。ここではそう規定して話を進める。
 
【3】対策
 
では脇役集団が知名度を上げる目的で団を結成するとなれば誰が必要なのか。例えば由良さんとか、佐伯さんとか、榊とか、ええい、思い出すのも面倒だが、真のモブキャラ達を出すと、これは駄目だね。
脇役であり、しかもそれなりに知名度の高い人材。かつ、他の団に所属している人を省いていこう。
加えて、SOS団及び佐々木団という先例が作り上げた男女比黄金率に則り、男子二人と女子三人を確保しておくべきだろう。なぜそれが黄金比なのかはよくわからない。戦隊モノは男子四人と女子一人が割と多いんだが。まあこの世界では3:2に勝る比率はなし。そういった前提で話を進めさせて頂く。
そのうち男子の一人は僕で決まりだ。えっ、だって僕を外したらこの話、ここで終わっちゃうよ。いや、それでもいいですが、ここまで話を引っ張ってそんなオチもないだろう。優秀な語り部としての能力、なおかつ斬新な切り口でのモノローグ。うん、僕は必要だな。
 
となれば、もう一人の男子は普通に考えればあいつになる。
もはや説明の必要はないだろう。対雌性有機生命体ナンパ用セクシャロイド・インターフェースこと谷口だ。そんなインターフェースはたぶん谷口一人しか存在しないのだが。とにかく女性に対する貪欲さ、執着など、ごくごく一部の能力だけ普通の人間のそれより特化し、それ以外を犠牲にした珍しい型だね。要するに、単なるスケベ人間と言い換えてもいい。。オランダの都市名と混同しないように。大変失礼にあたりますよ。
あいつの名前を出しただけで猛烈な不安そして絶望に襲われる。しかし、ここで生徒会長やコンピ研部長、新川さんや多丸兄弟を出すのはおかしすぎるだろう。やむをえない処置だ。
 
女子のメンバーの選定もなるべくご都合主義は用いたくない。僕達とほとんど面識がないのに団なんか結成できるはずがない。まあ、SOS団なんかは傍目から見れば偶然集まった人材に見えなくも無いが、その実リーダーの涼宮さんが適材適所とも思えるメンバーを調達しているのは驚愕に値するな。
で、女性メンバーの選出に関しては手短に済まそう。どうせ三作品を通じてこのSS作者の駄作を読み続けてきて下さった方々には既にメンバーの目星はついているだろうしね。
阪中さんと朝倉さんと鶴屋さんだ。「やっぱりか」と思った皆さん、やっぱりそうなんです。仕方ないんです。
「そいつらは割と目立ってるじゃねーか」と思った皆さん、他に候補はいるのだろうか。森園生は完全に機関の人間だから僕と接点がないし、喜緑さんも同様だ。阪中さんと朝倉さんは僕のクラスメートであるし、僕と谷口は鶴屋さんと面識がある。これだけ繋がりを抑えておけば問題あるまい。
 
電波団長、無口娘、ドジっ娘という構図を再現することはできなかったが、電波に常識を併せ持った鶴屋さんはある意味で涼宮さんと同等のテンションを佐々木さんと同じ安定感で場になじませることのできるキャラであるし、朝倉さんはルックスでは長門さんの上を行き(谷口調べ)、長門さん同様に万能選手だ。
コミュニケーションが取りやすい分、こちらが勝っているかもしれない。阪中さんは残念ながらその外観で朝比奈さんに水をあけられてしまった感はあるが(この時僕は背後に猛烈な悪寒を感じたのだが、それはまた別の、お話。)、ルソーという超絶萌使い魔を操れるし、異常性癖者、異常性嗜好者、異常能力者etc.が跳梁跋扈するこの北高というジャングルの片隅で僕が見つけた一輪の花だしな。既視感?そんなものはルソーにでも食わせてしまえ。また具合が悪くなるぞ。そしたら阪中さんの出番が増えて、一石二鳥だ。
 
男子の方でも引けをとっているとはいいがたい。まず僕とキョン。成績では圧倒的な差をつけて僕の勝利、運動神経はほぼ同じ、顔でも決して負けているとは思えないし性格も優劣をつけられない。しかし女心の機微を読み取る点で僕が若干優位なのは否めないだろう。古泉くんと谷口は…そうだな、ナンパの回数くらいかな?勝ってるのは。しかしどの戦隊にもギャグ・失敗担当のイエローは必要だ。カレーが大好きで、太っていて、大事な任務ではよく置き去りにされるイエローだ。古泉くんと谷口のどちらがイエローとしてのキャラに沿っているのかといわれたら、それはもう谷口が余裕で上回るね。だってあの怪盗笑顔紳士、ドジを踏んだとしてもなんだか爽やかに描写されそうな気がするものね。頭上から中身の入ったバケツが落ちてくる、という同じ設定でも、古泉くんの場合は水を浴びて「いやぁ、むしろ涼しいくらいですよ」とでもうそぶいてみせそうだが、谷口の場合はたぶん肥壷だ。バックトゥーザフューチャーに似たようなキャラが出てきたっけね。
 
話がまた脇道に逸れかけ、というか完全に外れていたところから一気に急転回してまた道を戻して団の話。
総合値ではどうやら僕達の団の方がSOS団よりも優れているな。圧倒的じゃないか、我が団は…そんな台詞を言っていると後ろからライフルで脳天をぶち抜かれそうだが、とにもかくにもメンバーの選出は済んだわけだ。団さえ結成してしまえば後はこちらのもの。なんせ、こちらには朝倉さん鶴屋さんという脇役女子2大勢力がついている。フッフッフ、キョン、残念ながら君の天下もそう長いものにはならなかったね。
 
【4】実行
 
そんなわけでメンバー召集である。
こんなことを言って驚かないで頂きたいが、何を隠そう、どの団員にも脇役団(仮称)の設立を宣言していない。
要するにあのメンバーはあくまで僕の脳内メンバーであり、これからアポをとる段階が控えている、という事さ。
なに、心配はいらないよ。谷口は無理矢理にでも付き合わせればどうせ付いてくるし、朝倉さんだって鶴屋さんだって出番の少なさには不満を持っているはずだ。それに阪中さん。仮に脇役団が第一勢力になれば、彼女が主人公のSSや、フィギュアすら発売されるかもしれない…!こんな好機に飛びつかない奴はいないだろう。
当たっている宝くじを捨てるか?設定6の台を捨てるか?ミュウの入ったROMデータを消すか?答えは、もう分かりきっているよね。
 
「おーい、朝倉さん」
まずは無難なところからいこうかな。殺人癖と前衛的な眉を除けば全て完璧に近い、万能委員長からだ。
「なあに、国木田くん。意外と朝早いんだね」
「実はね、僕達日の目を見ない脇役達が常日頃普段から感じている軽視されているのではないかという疑念及び屈辱感を会議や秘密作戦以上に円滑に且つ効率よく解消発散するための一手段としてこの僕国木田が考えたあくまでひとつの案なんだが涼宮ハルヒないしその一団及び佐々木ないしその一団に対抗しうる戦力魅力知力意志力体力権力オーラ力を兼ね揃えた新勢力を結成することで前述の二大勢力を牽制し動揺困惑に陥らせあわよくば内部崩壊を促しその二大勢力の衰退後に空白となった人気ピラミッドの頂点に僕達が君臨しようということなんだがいかがかな?」
「よく『、』もなしに読めるね」
「一息さ」
「嘘。『案なんだが』の後で息吸ってたよ」
くっ、バレていたか。まあプロでもアマでもSSでも、小説に誇張はつきものだ。
「で、どうかな」
委員長は手をあごにあててちょっと考えるような素振りをした。考えるまでもないだろうに。
「あたしはいいんだけどねぇ…」
なんだ、その言い方は。引っかかるじゃないか。まるで他の人が嫌がるみたいな事いいやがって!
「たぶん他の人はなんとかかんとか理屈をつけて断ると思うよ」
 
くそっ、最初からケチがついてしまったようだな。遠足の日の朝、玄関先で犬糞を踏んだような気分だ。仮に犬糞でもルソーの糞なら許すけれど。そもそもルソーは散歩時にははばかり袋所持係を同伴させているからうちの玄関先に糞なんてしないがね。あんまり糞の話ばかりすると名実共に糞SSになってしまいかねないのでこのあたりでやめておこう。まあ朝倉さんの言うことなんか当てにならないさ。しかも朝倉さん本人はノーとはいっちゃいない。残りの3人を連れてくれば文句ないだろうさ。では次のターゲット以降はさっき同様、いや、むしろさっき以上に慎重にならなければ。次なるターゲットは、北高でも涼宮ハルヒと肩を並べる高レベル電波、鶴屋さんである。彼女は魅力権力知力意志力オーラ力とかとにかくいろんな力が強い。財力も強い。必須だ。
 
「ごめ~ん、それは無理っさ!だってあたし、もうハルにゃんたちの団の名誉顧問だもんね。それに、みくるの敵対勢力に回るようなことはできないよっ!」
あぁくそ、こいつ脇役サミットでは朝比奈みくる猫被り説を発議した張本人の癖によく言うぜ。それからあんまり大声出すなってんだよ…万が一朝比奈さんとかにバレたらやべぇだろうが。自分より目立たない脇役だと思って甘くみてんじゃねぇぞ。…失礼、失望と絶望のあまり、理性が飛びかけた。些か下品な言葉遣いが出てしまったね。
「そういうわけだからっ、まあ頑張ってくれたまえ、少年!」
固有名詞をつけろよ!デコスケ野郎!とはもちろん声に出していえるはずもなく、貴重な昼休みの時間を無駄にするわけにもいかないので僕は教室に戻った。いや、戻る前にブラックコーヒーを飲んでおかないとな。ちょっと絶望と失望が胃の混沌になじめなくて困っていただけだ。うん。コーヒーで落ち着け、俺…じゃない、僕。
 
「おいおい、涼宮の真似事か?ナンパの時間がなくなっちまうから、俺はパス」
何を言い出すかと思えば谷口さん、そりゃああんまり短絡的過ぎる拒絶じゃあござんせんか。
「お前、野球大会とか映画出演とかで涼宮の熱に当てられたりしてねぇだろうな。キョンに引き続きまた友人がそっちの世界にいってしまうなんてな。俺もつくづく不幸だぜ。団なんて馬っ鹿馬鹿しいね」
不幸かどうかは知らんが幸は薄そうだな。あらゆるパラメータの低さは全て自分の運命を呪うがいい。
「僕は谷口と違って池に落ちてないしね」
何も言い返せなくなったか。その程度の能力で僕に舌戦を求めちゃいかんよ。フフフ… とりあえず谷口には失望した。もうこいつには頼まん。しかし4人中3人に芳しくない返事をされるとひどく気が滅入るものだね。
僕はこの頼りがいのない友人に酷くがっかりして、次なるターゲット、阪中さんをスカウトする放課後までをぼんやりと過ごした。
 
【5】続・実行
 
「阪中さん、ちょっと話があるんだ」
僕が声をかけると阪中さんはいつものように可憐な微笑を湛えながら振り返った。
「えっ。どうしたのね?国木田くん」
「実はね、僕達日の目を見ない脇役達が(中略)ということなんだがいかがかな?」
「ふーん、ちょっと詳しく話を聞いてみたいのね」
「つまりさ、僕と阪中さんと朝倉委員長と谷ぐt…あ、谷口は無理っていってたっけ。えーと、生徒会長と喜緑さんの5人で新しく団を結成して、一気に脇役から主役へのスターダムを駆け上がらないか?ってことさ」
「それはちょっと困ったのね」
やっぱり阪中さんも駄目か…
「私は…その…団じゃないほうがいいのね」
「そう…だよね。いきなりこんなこといっても駄目だよね。ははっ、俺、何いってんだろ」
「違うのね」
「えっ?あ、そっか。団なんてネーミング、かっこわるいもんね。どっかのサーカス団かよ、っての。タハハ…」
「…そうじゃなくて」
「…」
「……りがいいのね」
「…ごめん、もう一度言ってくれるかな?」
「…あ、あたしは、…その、…国木田くんと二人がいいのね」
「…さ、阪中さん…?それって、あの、えーっと」
「もう、言葉通りの意味なのね…」
 
放課後まではそんな妄想をして過ごした。ははは、残念だったね。僕の妄想なんです。この作者のSSに糖分なんていらないんだ。いや、妄想オチなんてかなり陳腐な手法だし、しかも割と早い段階で気づく人は気づくと思うよ。だって後半の僕の台詞微妙にキャラ違うだろ。いくらなんでも漫画的すぎる。とにかく、僕の妄想だけでこれだけのスペースを使ってしまったことは事実なのだが、まあそれも作者が恐る恐る出してみたちょっとしたサプライズだ。作者流のサプライズや。うん。だから、最初からバレバレだったとか言わない。バレバレ不愉快。そういえば『妄想でしょでしょ?』っていう同人誌があったな。買ってないぞ。僕はまだ高校生じゃないか。
 
まあそんな妄想を午後の授業中ずっと考えているのも乙なもので、上述のパターンに類似するシークエンスをおよそ10回くらい繰り返した。阪中さんの最後の台詞が「…よろしく、ね?」だったシークエンスがうち2件に該当し、とかそんな情報いらないよね。まあ別に僕のそのシークエンスは課題を終わらさずとも時間が来れば自動的に、若しくは僕自身の自由意志で終了させられるシークエンスなのだが。ちなみに、いくら心の中の声といっても、モノローグ含めた一人三役はかなり難しいんだよ。魔女の宅●便のキキとウルスラの会話における、某コナンの中の人並に忙しい台詞回しなんだ。こんな器用な芸当を心の中でしつつ、一応当てられた問題は答えられた。親が授けてくれたこの才能に心から感謝するとしよう。
 
さて。放課後である。バケツの水汲みやゴミ捨てなどの面倒な役回りをあの手この手でうまい事谷口に押し付け、叱咤激励するのに忙しい清掃時間も終わり、ようやく自分の目的を遂行することができる時間がやってきた。
まあ妄想のようにいくとは限らないが、とりあえず団に入ってくれればそれでいいのだ。いや、今回のメインの目的はそっちの方だ。一切の私情を捨てよう。よし。では声をかけるぞ。
「阪中さん、ちょっと話があるんだけど」
 
「あはははは、何それ、国木田くん、新手の冗談?」
僕が一通り例の説明をしてみせると、阪中さんは腹を抱えて、いや、阪中さんの腹部を腹などと呼称するのは憚られるので胴体を保護して、と言い直して置こう。胴体を保護して笑った。冗談ではない!気を取り直して、僕はそんなおかしいこと言っただろうか。どこをどう取れば冗談と取れる内容だったというのか。
「だってあんな長い台詞を読点なしでずーっと喋り続けるんだもん、アナウンサー志望か何かなのね?」
いや、論点そこなのかよ。内容に頓着してないなこの人。頼むから真面目に聞いてください。あなただけが頼りなのです。それからアナウンサーの台詞が読点なしだったらそれはそれで誤解を招きやすくなるよ。うん。
「ホントのこというと、よくわからなかったのね。もうちょっとわかりやすく、簡潔に説明してくれないと、ちょっとあたしには難しい話なのね。国木田くんには悪いけど、もう一回説明して欲しいのね」
いやいや、何回でもさっきの台詞、反復してみせるさ。なんならあれ以上のスピードでね。しかしこれ以上の齟齬の発生は僕と阪中さんの関係を結合解除しかねないからな。噛み砕いた表現で説明してあげよう。
 
「あー、そういうことなら、あたしはちょっと無理なのね」
何故?Why?おっと、これはキョンの驚き方だった。いかんいかん。しかし何故駄目だというのだ。頑張って3倍くらいの薄さに薄めて説明したというのに。ポケモン図鑑を貰う前にヒトカゲをリザードに進化させちゃった気分だ。うん、分かる人だけこの辛さを共に噛み締めてくれたまえ。
「だって、あたし、コーラス部に入っちゃっているし、ルソーの散歩も忙しいし。とてもじゃないけど定時活動に参加はできないのね。せっかく誘ってくれたのにごめんね。でも嬉しかったのね」
「いやいや、こっちこそ急にこんな話しちゃってごめんね。まあ今日の話は忘れてよ。いずれ休みの日にでも普通に遊んだりしたいものだね」
「そうね、じゃああたしは部活に行くのね。さよなら」
 
ふーっと溜息をついて自分の座席に座り込んだ。どうも今日のみんなはノリがよくないね。
「国木田くん」
うん、朝倉委員長か。
「僕を笑いに来た。そう言えば君の気が済むのだろう?」
「元の台詞と真逆じゃない。それより、みんな脇役団に入らなかったでしょ?」
「まあね。まるで朝倉さんは最初からお見通しだったみたいだけど…」
「うーん、まあぶっちゃけて言えば、あんまり話を長引かせると作者の力量を超えちゃうしね」
おい、作者についての言及はモノローグでやりなさい。そこは超えちゃいけない一線みたいなもんがあるだろう。
「あーあ、所詮僕達はバックアップだったかぁ」
「人の台詞勝手にとるんじゃないわよ。まあいいわ。本当は最初に国木田くんにそう教えてあげておけば、今日一日無駄な行動をすることもなかったかもしれなかったわけだしね。お詫びに帰りに何か奢らせてもらうわ」
「ありがとう。素直に奢られておくよ」
まあほとんど僕の(というか作者の)勇み足と甲斐性無しによることだから朝倉委員長に大した非はないけどね。
敗者は素直に施しを受け取るべきだ。
 
【6】 おわりに
 
まあ確かに新しい団とか作っちゃったら原作とは関係ないイベントとかもっと考えなきゃいけないかもしれないし、あんまり大風呂敷を広げるよりはましだろう。そういうことです。要するに設定だけ考えて投げ出すタイプだな。
RPGツクールで主人公とアイテムだけ考えて満足する(飽きる)タイプだ。あ、作者の話ね。
「奢るといっても缶ジュース一本くらいよ。そんなに悪いとは思ってないから」
「うん。じゃあ缶コーヒーブラックを頼むよ」
 
僕は煉獄に棲む魔獣の血が如き漆黒を湛えた黒い混沌を啜り、嚥下する。ふう。これで落ち着いた。よくよく考えてみれば脇役サミットではみんな黒すぎたしな。本当は黒い奴などごくごく一部でいいのだ。たとえば、と考えながら、僕は隣でしきりにナイフの手入れをしている眉毛女を横目で眺めた。この委員長だけで十分だ。
『殺し屋と ホモには背中を 許すまじ』国木田心の標語、座右の銘である。どうぞご自由に使ってくれたまえ。
仮にこの標語を無断でどこぞの官公庁へ応募して入賞したとしても、別に僕はその権利を主張したりはしない。
自分の関知しないところで生じた利潤は受け取らない。国木田という男はそんなストイックな男なのだ。
 

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