第六話「宿泊@九曜さんの家 一日目」
 
 
さて、今俺は九曜家の風呂に入っている。
ちなみに風呂の順番としては佐々木→橘→九曜→ミヨキチ→俺。
というわけでこの風呂には奴等の汗が含まれてるという事だ。
谷口なら鼻血垂らして羨ましがるだろうな。だが、俺としては至って平穏だ。
風呂というのはそういうのを楽しむものではない。
日本人ならその温もりを味わうものだ。そして体中を巡る癒しを堪能するのだ。
しかしこの九曜家の風呂。やや問題点がある。
いや、問題点というよりもむしろ利点なのだが、何と言うか家の風呂に入った気分じゃない家の風呂なのだ。
何と言っても広い。っつか旅館の風呂が室内に移設されたような状態だ。
九曜の情報操作の仕業だろうけど、何と言うか・・・うん、すげぇ。
これで酒があれば素晴らしいものがあるだろうね。
これだけ広ければ混浴も夢じゃないだろうが、生憎それは無理だろう。
九曜ならともかく橘は物凄くそういうの恥ずかしがりそうだしな。佐々木は・・・よく解らん。
「はぁ~・・・極楽極楽・・・。温泉っていいな~」
それにしても、これは何処から引っ張ってる温泉なのだろう。
というか、水道代は?
まぁ、そんな疑問はどうでも良いか。
とりあえず堪能しようか・・・。
ガラガラガラ。
ふと脱衣所から誰かが入ってくる音がした。
・・・え? 冷静に考えろ。誰が入ってくる? こんなところに誰が?
俺はゆっくりとそちらを向いた。
「・・・み、ミヨキチ?」
「え、えっと・・・お背中流したいと思いまして・・・」
華奢な体に丁寧に、しっかり巻かれたバスタオル。
そして赤く火照ったミヨキチの恥ずかしそうな顔。
・・・うん。なんていうかとても可愛いと思うね、本当に。
「じゃあ、お願いできるか?」
俺がそう応えると物凄い気合が入っていくのが見て取れる。
そして、物凄い力みながら、
「はい! 精一杯頑張ります」
と、大きく言った。
「そう力まなくても良いぞ?」
腰のバスタオルが取れそうじゃないか、ちゃんとしっかり巻かれてるか確認し、風呂から上がる。
そして、旅館みたいな流しに行き、これまた旅館にありそうな椅子に座る。
鏡の位置と言い、シャワーの位置と言い・・・もう、どうでも良いや。
「え、えっと・・・不束者ですが・・・」
「ミヨキチ、それは結婚の際のだろう」
あぁ、もう。本当に可愛いな。
等と微笑ましい気持ちで、というか油断していたら、
「・・・い、今から言っても良いじゃないですか」
と言われて思わず咽そうになった。
「み、ミヨキチ?」
「私・・・お兄さんと結婚したいです」
鏡越しに見るミヨキチの顔は、照れくさそうな顔をしながらも真剣そのものだった。
「そうは言っても何年後になるか・・・」
「私、心変わりしない自信があります。ずっと愛し続けるという自身があります。お兄さんは・・・私とはお遊びなんですか?」
「そんな事無い・・・俺は、本当にミヨキチが・・・吉村美代子が大好きだ」
そこで、ふと鏡越しに目があった。
「・・・なら良いじゃないですか」
ふっ、と柔らかく微笑むミヨキチに、俺も頬を緩ませた。
「・・・そうだな。じゃあ、結婚しような」
「はい!」
そう応えるミヨキチは飛びっきりスマイルだった。
他人が聞いたらドン引きだろうな。何せ、相手は小学生で俺は高校生なんだから。
まぁ、ミヨキチが笑っているなら、それで良い。ロリコンといわれても構わないさ。
俺は本当にミヨキチが大好きなんだからな。
さて、風呂から上がるとご丁寧と呼んで差し支えないぐらい綺麗に布団が敷いてあった。
リラックマやまめゴマ等の少女趣味なのが男の俺としては恥ずかしくもあったが、泊まる側なのだから仕方が無い。
文句は言えたものじゃないさ。
布団は右から左へ向かって立て向きで一列に並んでいる。
「キョンは何処が良いんだい?」
佐々木が聞いてくる。・・・っていうか案外可愛い寝巻きなんだな、お前。
九曜がピンク色の水玉パジャマなのが笑えるな。橘は、見た目相応だ。
「そうだな・・・俺は・・・真ん中かな」
「ミヨちゃんはどこが良いかな?」
「じゃあ、私はお兄さんの右隣が良いです」
ミヨキチがそう言った後。
・・・ゾクッ。
な、なんだろう・・・佐々木と九曜と橘の間に何やら不穏な空気が・・・。
「さぁ、橘さん、九曜さん・・・ジャンケンだ・・・」
「―――負けない。その一マスは私が奪う―――」
「私だって負けないです!」
な、なんだ?この布団配置ってそんなに重要なのか?
 
「何を争ってんだ・・・」
「お兄さんは鈍感ですね」
「え?」
「でも、おかげで取られる心配は大丈夫そうですね」
「何のことだ?」
「ふふっ」
なんなんだ・・・本当に。
 
結局、佐々木達のジャンケンが終わるまで三十分ぐらい時間が掛かった。
結果として、並びは橘、九曜、俺、ミヨキチ、佐々木という順番に成った。
が、それでは終わらなかった。
「あ、そうです。ならこういう配置はどうでしょうか、佐々木さん」
と、橘が勝手にその布団の配置を変えた。
「それ良いね」
と、佐々木がその話に乗り、結果的に、
 
     橘
九曜、俺、ミヨキチ
    佐々木
 
という訳の解らない布団配置になった。・・・ってか、俺囲まれてる。
何だ? こいつら、俺を囲んで何がやりたいんだ? 本当に訳が解らない。
 
「―――・・・これでは勝った意味が・・・―――」
ふと九曜が何やら呟いているのが聞こえた。
「九曜、どうした?」
「―――何でもない・・・」
・・・何でか知らないが、悲しそうな顔をしているな。
「じゃあ寝ようか」
佐々木のそんな言葉を合図にぎゅっ、とミヨキチが抱きついてくる。
「おやすみなさい、お兄さん」
俺もそっと抱き返してやった。・・・周りにはなるべく保護者に見えるようにな。
本当はぎゅって抱いてやりたいんだが・・・ロリコンに見られるのは嫌だろう?
「やれやれ、キョンは過保護だね」
よし、うまく行った。・・・しかし何だその殺気は。
「過保護で悪かったな。さて、おやすみミヨキチ。みんなもおやすみ」
「あぁ、おやすみ、キョン」
「おやすみなさい」
「―――ぐっない」
カチッ。
紐を引っ張って電気の明かりを消した。
・・・・・・九曜。何で英語?
 
そんなこんなで一日目は無事に終わった・・・んじゃないかな、多分。
 


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