今年の秋は暑い、と思っていたのも束の間、いつの間にか寒さに震えるような気候になってしまった。
特に理由はないのだが、最近団活が終わると俺とハルヒは一緒に帰るようになっている、本当に何でだろう。
そして今日も俺達は肩を並べて長い長い下り坂を下っていた、途中の焼き芋屋で焼き芋を買わされるのはもはや規定事項となっている。
一度なぜ買わなきゃならないのか聞いてみたところ、秋だからに決まってるじゃないと言われた、そのときは妙に納得してしまったな。
そんなに食うと太るぞ、と思う奴もいるかもしれないがそんなことは全くない。
これはただの蘊蓄だが坂は登りより下りの方が肉体的にはきついらしい、俺はそうは思わんが全然太らないところを見ると実際に正しいのだろう。
結局は気持ちの持ちようってことだな。
「さっきから、なーにブツブツつぶやいてんのよ、それ引きこもりっぽいわね」
失礼な奴だ、本当に引きこもるぞこの野郎。
「あんたが引きこもっても無理矢理叩き出してやるわよ。
あんたは一生あたしの奴隷なんだからね」
一生かよ、それじゃ俺結婚する暇もないな。
「なによ、あんた結婚したい人でもいるの」
いや、特にはいないんだけどな。
お前はそういう奴いんのか?
「………い、いるわよ、文句でもあるの!?」
文句はないさ、だがこれだけは言わせてくれ、焼き芋食いながら叫ぶな、いろいろ飛んでくるだろ。
でも意外だな、お前にそんな奴がいるなんて、よっぽど変わり者なんだなそいつ。
「そうよ!そいつは本当に変わってんのよ、いつも間抜け面してるし、他の女の子ばっかり見てるし………でも時々、ほんっとーに時々だけどカッコいいときがあるのよね、意外に優しいところもあるし……」
……………なんかムカついてきた、なぜだろな。
「そうか、そいつはいいやつ見つけたじゃねえか、今度紹介してくれよ」
「………あーもうっ、いいわよ!
佐々木さんも苦労したんでしょうね……」
「?なぜ佐々木が出てくる。
あーでも佐々木か、あいつなら結婚してもつまらなくは無いだろうな」
「!!」
「ま、でもあいつとは友人のままだからあんな話ができるんだろうけどな」
「そうよ!そうに違いないわ!!」
あ、ああ??
こいつさっきからやけに情緒不安定だな。
また悩みでもかかえてなきゃいいんだが……。
「……ハルヒ、お前なんか悩みでも―――」
俺の言葉は突然の雨によって遮られた。
……夕立か……、ハルヒ!
「あ、え、ちょっとキョン――」
俺はハルヒの手を引いて走った。
どこに行ったかって?心配するな、近くの公園までさ。
そんなわけで、今俺とハルヒは公園に備え付けてある遊具の中にいる。
雨は十分しのげるし不満はないな。
「…制服が水を吸って気持ち悪いわね。
………ちょっとキョン、こっち見ないでよ」
いつしかの孤島のような展開になっているのはいうまでもあるまい。
不意にハルヒがくしゃみをするのが聞こえた、やはり寒いのかな。
「ハルヒ、これ着とけ」
ブレザーを渡す、言っとくがハルヒの方は断じて見ていないからな。
「あ、ありがと………」
お、やけに素直じゃねえか。感心、感心。
普段もそれくらいだと助かるんだけどな。
「………やっぱり、キョンはみくるちゃんや有希みたいに素直な子の方が好き?」
そりゃあ素直な方がいいが………、急にどうした?
「あ、何でもないの、忘れて……」
やっぱりこいつ変だ。
さっきは聞き損ねたが今度はちゃんと聞いといた方がいいな。
「なぁハルヒ、悩みでもあるのか?」
「な、ないわよ」
嘘だね、そんなに動揺しちゃってさ。
きっとハルヒは"うっ"、という顔をしていることだろう、こういうところはわかりやすいからな。
しばらくハルヒは黙りこくっていた、悪いが今回は聞き出すまで引き下がらないないぜ。
「お前の気になってる奴のことか?悩みがあるなら聞いてやるから、友人としてな」
自分で言っておきながら胸が痛んだ。
そして唐突に気づいた、その理由に。
そうか、俺は、ハルヒが―――
しかしそれ以上は考えないことにする。
ハルヒが幸せならそれでいいじゃないか、だからこの思いは封印するんだ。
「……真剣に聞いてくれる?」
「ああ」
「あたしね――」
夕立の雨音の中、俺の耳にハルヒのよく通った声が聞こえる。
俺はその言葉に応えるように抱きしめ、そして先程封印したはずの思いを告げる。
現実世界でのファーストキスは甘い焼き芋の味がした。
ムードは無いかもしれんが嬉しくなる、こっちの方が現実味があるからだ、俺とハルヒが両想いだってことのな。
友人から恋人へ――、その日俺達は不器用ながらも境界線を越えた。