今日はデパートでセールがあるらしく、ハルヒ達女性陣は休みだ。
それでも俺の足は文芸部室に進んでいた。
 
『喜緑さんみたいにSOS団に依頼に来る人がいるかもしれないわ』
 
ハルヒがそんな事を言いながら鍵を渡してきたからだ。
まぁ、喜緑さんは仕掛人だったから良かったが、
阪中の時のように本当に困っている人が来たらどうすりゃいい?
その時は、改めて後日にご足労願うか。
凡人の俺に出来る事は留守番ぐらいしか無いからな。
 
「お待ちしていました」
 
鍵を開け、ドアを開けた瞬間、古泉の声が聞こえてきた。
何故だ?鍵はどうした?
 
「窓が開いていたのでそこから入りました」
 
何で窓から入る?ここが何階なのか分かってるのか。
超能力者はいつから空き巣になったんだ?

「ははは、理由はこれから説明します」
 
声の聞こえた先に、古泉は居なかった。
その代わり、地面に赤い珠が一つ。
…幻覚と幻聴か。どうやら相当、疲れているらしい。俺はそのままドアを閉め、鍵を再び取り出s
「待ってください、本当に困っているんです!あなたの助けを待っていたんですよ!」
 
よりによって依頼人が身内だとは思わなかった。
別に放っておいても良さそうだが、ハルヒに見つかると不味い。
 
「では、順を追って説明します。昨日、閉鎖空間が発生しました。原因はガンダム製造と期待していたら、パワードスーツの開発だったからだと思われます。そして僕も神人狩りに出動しました」
 
…そういや、コンピ研が勝負を仕掛けてきた時にガンダムとか言ってたな。
古泉(赤珠Ver)の話を聞きながら、テーブルの上に置いた。
さすがに床に転がらせておくのは不憫だ。
 
「あぁ、どうも。出来れば安定出来るように摩擦のある物の上にお願いします。…そして、神人を倒して帰ってきた所で問題が起こりました」
 
コレ、思った以上に転がりやすいな。
ハンカチでなんとかならないか?
 
「助かります。あぁ、やっと安定出来た。…閉鎖空間が消滅する際、いつもならこの姿から元に戻るハズなのですが、何故か、元に戻れない状態に陥りまして」
 
どんな姿でも古泉の話は長いらしい。
しかも、今回は落ち着きが無いから面倒だ。
 
「この姿では機関に連絡も出来ませんし、あなたを待とうと昨日の夜に窓から入り、床に転がって寝ました。起きたら超能力が尽きたのか、飛べなくなっていたので参りましたよ」
 
普通、連絡が取れなかったら不審に思わないか?
機関は点呼を取らないのか?
 
「昨日は直帰でした」
 
直帰とか言うな。
お前は営業職か。
って、その姿で帰るな。
 
「いやぁ、落ち着いて考えればその通りです。その時はコンロの火を消し忘れていたので不安で不安で…。ちなみに、カップラーメンのお湯を沸かしている所でした」
 
一気に独身男性だな。
それよりも、その姿でコンロを消せたのか?
 
「だからあなたを待っていたんですよ。」
 
…どういう意味だ?
コンロの火はどうした…?
いや、それ以前に何かがおかしい。
何故、家で寝泊りせずに学校で?
 
「僕も家の玄関に着いてから気付いたのですが、…この姿では鍵を開けれません。なにより、鍵を取り出す事すら…出来ません」
 
こういう時、『俺達は…馬鹿だ』とか言えばいいのか?
 
「あなたにお願いがあります。
コンロの火を消してください」
 
古泉。
コンロは心配しなくていいんじゃないのか?
一晩も付けっ放しなんだぞ。
部屋中の酸素を使いきってるだろ。
 
「…」
 

 
「盲点でした」
 
…そうか。
とりあえず、コンロについては、
森さんとかに連絡してガス供給を止めるよう伝えればいい。
まずはお前の姿をどうにかしよう。
 
「やはり長門さんに頼むしかありませんね。情報操作でなんとかして頂けるかかと」
 
―――――5分後―――――
 
『なんとかする事は可能。ただし、推奨は出来ない。理由は、古泉一樹の視覚情報が不完全。本来の姿とは変わってしまう可能性がある』
 
朝比奈さんの携帯を使って長門に連絡を取れたが…いきなり座礁か。
携帯をハンズフリーにしているので古泉にも聞こえている。
畳んだハンカチの上に赤い珠、隣には通話中の俺の携帯…。
なんだろうね、このビジュアルは?
 
「ちなみに、不完全とはどの部分でしょうか?髪の毛の数本程度なら構わないのですが」
 
『夏の旅行の際、裸体はほぼ完全に記憶した。ただ、水着によって覆われていた部分は不明。なんらかの問題が発生すると思われる』
 
それぐらいならいいだろう。
長門、やってく「 よ く あ り ま せ ん ! 」
 
『喜緑江美里と同期し、生徒会会長のモノをコピーする事も可能』
 
…え~と、長門?
 
「そ、そう…ですね、他に方法はありませんか?」
 
今、古泉と視線が合った。
赤い珠に目は無いが、確かに俺達のアイコンタクトは成功した。
今の台詞は無かった事に、と。
 
『閉鎖空間消滅の際、なんらかのエラーが起きたと思われる。再試行する事を強く推奨する。』
 
閉鎖空間が出来るまで待てという事か。
 
『そう』
 
それまで古泉はどうするか。
食事の心配は無いのか?
 
「どうやらこの姿でも食事は必要のようです。実は朝から喉が乾いている気がして仕方ありません」
 
そうだな、お茶でも飲むか。
コンセント挿して湯沸かし…って飲めるのか?
 
『戦闘に適した形になるよう外郭は摩擦が少なく、とても強固に出来ているはず』
 
「確かにそうですね。神人に殴られても死にはしませんし…」
 
確かに、ツルツルしてるせいですっごい滑るな。
で、どうすれば水分摂取出来るんだ?
コレ、どこにも穴なんて無いぞ。
 
『ソレに通常の手段で水分を吸収させる事は難しい。私は加圧浸透を提示する。既に喜緑江美里に通達しているので、彼女の指示を受けるといい』
 
「あの…コレとかソレとか、僕の扱いが『物』になってきていませんか?」
 
気のせいだろ。なぁ、長門?
 
『…ユニーク』
 
「わざとですか?
わざとなんですね?」
 
―――コンコンッ
 
おっと、喜緑さんが来たな。
わざわざ手伝ってくれるんだ。
遊んでないで真面目にやるか。
 
「ここに来るのも久しぶりですね」
 
喜緑さんは俺達に微笑みながら会釈してきた。
あの時は演技のせいで緊迫した空気だったが、今回は穏やかだ。
 
「僕にとっては死活問題なのですが…」
 
すいません、わざわざ手伝ってもらって。
 
「いえ、穏健派もこの件については協力するよう通達がありましたし…コレですね」
 
はい、コレです。
 
「もう諦めました…。コレでもソレでも何とでも呼んでください」
 
「それでは、お水の用意をお願いします。」
 
じゃあ、古泉の湯呑みを使うか。
大きさも十分だし。
 
「あ、湯呑みよりポットを使いましょう。操作は難しくなりますが、密閉した方が安全ですし」
 
そうですか。
古泉、暗い場所や狭い場所は大丈夫だな?
 
「お構いなく、僕は何の恐怖症も持っていません」

じゃあ入れるぞ。
 
―――ボチャン
 
「熱ぅーーーーーー!!!?!!?」
 
古泉ーーーーー!!!??
そうだ、湯沸かししたんだった!
待ってろ、すぐに助ける!
 
「好都合です、このまま行ないましょう」
 
喜緑さん、無茶ですよ!?
しかも好都合って何が!?
 
「最近、会長がいい声で鳴かないので餓えていたんです。勿論、止めたりしませんよね?」
 
こ、恐い!喜緑さんが恐い!
生徒会長がいい声って何だ!?
いや、聞かないでおこう!
 
「助けでーーーーー!!」
 
スマン、古泉。
俺も我が身が可愛いんだ。
 
『…ユニーク』
 
…その後の事を少し話そう。
しばらく古泉は休学扱いになったが、ハルヒの閉鎖空間は発生しなかった。
長門によると、くじ引きの確率が上がったとからしい。
どうなる確率が上がったかは分からないが、まぁいい。
 
古泉か?
あいつは一ヵ月後に痺れを切らして、擬体になった。
アレは生徒会長とお揃いになったらしい。
直後に閉鎖空間が出来たから、バックアップしてた赤い珠に戻して出勤して頂いた。
読み通り、アレが戻ったのは喜ぶ所だが…古泉は微妙な表情をしていた。
…会長の方が大きかったんだな。
 
END
 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年11月14日 17:11