Park Golf in Summer !!

 

春の訪れを感じたかと思えば気付けばもう夏。
セミが短い命の有効活用をしている間も俺は2回目の夏休みを向えるために
せっせとあのハイキングコースを上っていた。


終業式のあと予想はしてたものの、やはり凄まじい評定をもらった通知表を重々しい気分で
鞄に押し込み、部室へ向かった。冷房という言葉と無縁なこの学校は、夏服を着ていても
溶けそうなほど暑い。このまま通知表だけ溶けてくれないだろうか・・・。

そんな鬱々した気を引きずりながら部室にたどりつき、目の保養に朝比奈さんをたっぷり
眺め、『暑い』という感情を持っていないのだろうか、涼しそうな顔をした(いつもと
なんら変わりはないのだが)長門に目をやり、『待ってました』とばかりにチェスを広げる
古泉の真向いに座り、勝敗の見えている2人だけのチェス大会が始まった。

俺の予想では、この後ハルヒがドアをぶち破らんばかりに開け、
『今度はこれするわよ!』と叫ぶのであろう。ああ、わかってるさ。
あの年中無休で何かを求めるいかれた頭は次の楽しみを求め次々と持ち込まなくていいものを
持ってくるからな。もう7月に入ってからあいつのボルテージは上がりまくりだ。
まぁ内心、俺は次はハルヒが何を持ち込んでくれるのだろうとワクワクしていた。
俺が疲れることは解っているのに期待するなんて俺もなかなか変なやつだな。

「おーまったせっ!!ねぇ、夏休みどうせみんなヒマでしょ!?団長が楽しい娯楽を提供
して差し上げるわ!」
「今度は何をやらかすつもりだ。」
「『やらかす』とは何よ!やらかすとは!!まぁ・・・いいわ、んで今回はー・・・。」
どうか、どうか健全なものであってくれ。


「パークゴルフ大会に出るわよっ!!」

いまや老若男女に親しまれてきたパークゴルフ。とは言えど俺の経験は0だがな。
なにやらあれはコースを一周するだけでなかなかのエネルギーを消費するそうではないか。
健全といえば健全だが・・・生憎俺はダイエットの予定はないんだがなぁ。

「この前、隣町にパークゴルフ公園ができたのよ。それで設立記念だかなんだかで
大会やるらしいのよ。ちょうどいいわ、隣町にあたしたちの存在を知らしめてやりましょう!
『灯台下暗し』っていうしね!」
この場合にその言葉は使っていいのだろうか・・・。まぁそんなことはどうでもいい。
これ以上この奇怪な団の名を知らしめるつもりか。
「ちょっと待て、そいつは団体戦じゃないんだろ?どうやってSOS団を知らしめるつもり
でいるんだ。」
「チッチッチッ・・・甘いわ。そんなことだからいつまでも雑用なのよ。ほら、これ受け取り
なさい!」
俺と朝比奈さんと長門に”あの”腕章が配られる。しかし書いてある文字が違うらしく
俺には『SOS団 雑用係!』と書かれていた。帰りに密かに捨てていってやろうか。
朝比奈さんは『SOS団 萌えキャラマスコット!』と細々と書かれており、長門の腕章には
『SOS団 無口キャラ!』と書かれていた。
古泉は既にある『副団長』で臨むらしく、ハルヒの腕には既に『プロパークゴルファー』と
書いてあった。初耳だぞそんな言葉。
「これをつけて、表彰台を独占すればまぁ、成果は出るでしょう!」

そういえば聞いていなかった。
「おい、出るのはいいが大会日はいつだ?」
「うん?明日よ。」
はぁ・・・またそんな話か。しかもいつぞやの野球のときより期間が短すぎやしないか?
いや、もう明日とかなら『期間』とも呼べないぞこりゃ。
「もう少しだな、計画性っていうもんを立ててくれよ。ってか経験者はどれくらいいるんだ?」
部室を襲う沈黙。はぁ・・・どうやら全員やったことがないらしい。
言っておくがここでの‘全員’には長門は含まれていない。
「まぁ、なんとかなるでしょ!だってただ玉を飛ばして穴に落とすだけよ。簡単じゃない。
道具も向こうでレンタルできるみたいだし。じゃ他になんかなければ今日は解散!
明日駅前に9時集合ね。遅れたら死刑だから!」

はぁー・・・いったいどうなることやら。


翌日駅前に向かうと、いつものごとくもう全員集まっていた。
ハルヒの怒号をなんとかスルーし、隣町まで向かった。

「・・・・・・・・・。」

俺たちは今、公園の入り口に立ち尽くしている。
今日開放されたばかりの公園なのでやはりそれなりに人がいるが・・・。
どう見ても大会が行われてる感じがないのは、さぁーどうしてだろう?
さすがにハルヒも『訳がわからない』という顔をしていた。カ、カメラ持って来てなかった
だろうか・・・。

その後、頭に『?』をぐるんぐるん浮かべながらSOS団5人組は、『お知らせ』なる木で
できた掲示板の前に立ち尽くし、事態を理解した。
まず、わざわざ眠い目をこすって出向いたパークゴルフ場でキョトンとする羽目になったのは
ハルヒのせいだ。なぜかって?そりゃぁ、大会の開催日が今日から1週間後だったからさ。
ハルヒはこの大会の情報を終業式の朝、家を出る前に食卓においてあった新聞にまぎれていた
紙を見て決断したらしいのだが、ロクに見ずにきたらしい。
そして自分で勝手に今日が大会の日だと決め込んで再確認もしなかったらしい。
朝比奈さんならしそうな気もするが、まさかハルヒがこんなことで失敗するとは。

当のハルヒは自己嫌悪モードに突入したらしく、古泉がフォローするも
ぶつぶつと『団長失敗だわ』とか『あたしがこんなミスを犯すだなんて』と相当ショックを
受けているようだった。古泉が俺に『困りましたね』という視線を向ける。
「ハルヒ、間違ったもんはしょうがないさ。団長といえど元をたどれば人間だ。
それくらいのミスを気にしてちゃいかんぞ。せっかくみんなで来たんだ。大会に出れなくて
も、今回を予行練習とすればいいさ。」
俺の一言で、ハルヒは少し立ち直ったらしく、『ま、まぁ団長といえど人間だしね』と
いつものハルヒらしからぬ、俺の言った言葉を繰り返し、急降下していたボルテージを
沸々と沸かし上げだし数分後、道具のレンタルに向かうときにはいつもの笑顔が戻っていた。

初日といえど時間もまだ早いせいか人もまだまだらでコースを回る上では問題はないようだ。
くじで打順を決めることになった。1番がハルヒ、そこから続いて古泉、俺、朝比奈さん、
長門となった。
「ただ練習してもつまらないわ!最下位にはペナルティーね!!そうねぇ・・・一発ギャグ
でもやってもらおうかしら!」
これは奢りと勝手が違うぞ。と思いつつ、俺は数ヶ月前にやったトナカイの一発ギャグを
思い出していた。考えるだけで身の毛がよだつことは考えないのが一番だ。

1番手ハルヒは想像通り、力のあらん限りを込めボールをぶっ叩いた。
パークゴルフはゴルフと違って、普通転がして進めるべき競技なのだろうが
やはりハルヒには常識は通用しないらしく、ハルヒのぶっ放した玉は重力に逆らうが如く、
地面すれすれを矢のように飛んでいった。
1ホール目はPAR 4と設定されているがハルヒは一打で4分の3ほど行ってしまった。
「なによ、もう次でいれらるじゃない。ほら言ったとおり、簡単じゃないの。」

うまいやつの後はやりたくないと思うのが普通なのだろうが、2番手古泉は何を考えてるのか
わからないニヤけを顔に貼り付け、スマートにボールを飛ばした。
まぁ、なんというか。可もなく不可もなく、突然変化球が出るような超能力的力は発動せず
平凡な玉を打った。打ち終わった古泉は俺に向かって『なかなか難しいですね』と
言い残し、手を後ろに組んで次の俺に場所を譲った。

3番手俺。まぁ俺も古泉と似たりよったりだった。
ただ俺の玉が行き着いた場所はバンカー。はぁ幸先が悪いぜ。背後から聞こえるハルヒの
高笑いを無視し、俺は打席を譲った。

4番手朝比奈さん。
彼女はあまりスポーツが得意だった記憶はないのだがこれはどうだろう。もしかしたら
意外な隠れた能力が発動するかもしれない・・・という俺の期待をいい意味で裏切って
くださった朝比奈さんは、空振りを3回繰り返し、4回目にしてやっとクラブにボールを当てた
ボールはヘロヘロと転がり、あえなく停止した。

5番手、ラストは長門だ。俺は朝比奈さんに注目が集まっている間に長門に注意しておいた。
『ハルヒのいる前ではぶっ飛んだ超常現象は起すなよ』
長門なら打った次の瞬簡にカップの中にボールがあるなんてこともありえなくないからな。
『・・・・・・そう。』
答える前に結構間があったぞ。やはり何かやろうとでも思っていたのか、長門さんっ。
長門が打席に立つ。注意はしたもののやはり何かドキドキしてしまう。
クラブを振り上げ・・・打ちました!そしてボールはカップの中へ!
・・・なーんてことはなかったものの、長門が放ったボールは打った場所から
30cmほどだった。どうやら能力を無にしてしまうと朝比奈さん以上に問題があるようだ。
「有希、野球大会の時みたいな力はどーしたの!?もっとバーァンといきなさい!
こんなんじゃお話になんないからもう一回打っていいわ!さ、有希もう一回打ちなさい!」
長門は俺を見てきた。うぅ、やはり俺を見るか。少し迷った挙句俺は『少しだけだぞ』という
意味を目に込めて、軽くうなずいた。
俺の目力は一応届いたようで、先ほどとは比べ物にならないくらい正確な玉をまっすぐ
飛ばした。距離はハルヒより数メートル後ろ。長門なりに考慮したのだろう。

その後も似たり寄ったり状況は続いた。ハルヒは疲れを知らないのか相も変わらずぶっ放し
続け、古泉と俺は五十歩百歩。朝比奈さんは一つのコースを俺たちの2倍ほどの時間を使い、
(終止あやまる朝比奈さんに俺は心を痛めた)長門はハルヒを追い越さず、しかし離れすぎずと
ハルヒを立てるかのような位置に毎回ボールを飛ばしそれなりに楽しい展開になっていた。

9ホールを回った時点で、成績はこのように。
1位ハルヒ、2位長門、3位古泉、4位俺、5位朝比奈さんだ。
この公園は全部で18ホール。その中間9ホール目には、休憩所兼御食事所がある。
ハルヒの『お腹減ったわ!ご飯食べましょう!!』の一言で俺たちは一時休憩となった。
ハルヒと長門が狂人的な食欲を発揮している間に俺はちょっと考えた。

『このままの流れでいけば普通に最下位は朝比奈さんになるだろうな・・・。
しかし朝比奈さんを不屈な目に合わせていいものだろうか。ここは俺が譲って最下位になる
べきか!?し、しかしトナカイの二の舞は御免だ!う・・・うーむ。どうしたものか。
俺の目の前にはラ●イカードが見えるぜ、どうする俺、どうするよ!?』

なんてことを思っていたら顔に出たのだろうか、ハルヒが
「あんたなんて間抜けな顔してるの?まぁ元からだけどね」
俺が真剣に悩んでいるというのに・・・。全てのコースを回る前に答えを出さなくては。


その後ハルヒはもてる能力をここで全て開放するつもりだろうか。
PAR 3となっているコースで2連続でホールインワンを出すという神業を成し遂げた。
こいつ本当に初心者かよ・・・。なんでもありだなまったく。
しかしこの状況に一番反応したのは、長門であった。俺にしかわからないだろうが
長門の目はいつもと違う気がした。何もおこりませんように、何も起こりませんように・・・
しかし起こってしまった。正しくは長門が起したのだが。
長門の打った玉は、一直線にカップにぶっ刺してある棒切れに当ててホールインワンを
繰り出した。古泉や朝比奈さんもさほど驚いている感じはなかった。しかし、ホールインワン
を出してもう浮かれ気分だったハルヒが目を丸くしたのは解りきったことだった。

「おいおい、長門。ちょっとやりすぎじゃないか?」
こそっと声をかけてみた。
「・・・・・・・・・」
俺の目を見つめる長門の目からは、いつだったかお隣のコンピ研からオンラインゲームの
挑戦を受け、勝負をしているときと同じ目だった。あのときの質問をしてみるか。
「お前、ハルヒに勝ちたいのか?」
「・・・わからない。情報の伝達がうまくできない。」
まぁ・・・こいつが情報の伝達ができないときはなんらかの感情があるときだろうし、ハルヒが
ホールインワンを出してからいきなり牙をむいたのだ。恐らく俺の質問の答えはYESなのだろう
「ほどほどにしといてくれよ・・・?最終的には俺に回ってくるんだから。」
「・・・そう」
通じたのかは怪しいがまぁよしとしよう。

その後2人は激しいデットヒートを繰り広げていた。
知らぬ間に回りに観戦する人々が増えてきた。おいおい、コース上で立ち往生していいのか。
しかしそんな人々にはわき目もふらず、2人は人間離れ技を繰り出し続けた。
ハルヒはバカ力で人間技とは思えないほどの距離をたたき出し、長門は明らかに植え込みに
当たったはずなのに、貫通して植え込みの奥からボールができたり、トリッキーなことをして
観客を沸かせていた。
超人2人を置いて一般人3人は(パークゴルフの腕が一般人という意味だが)仲良くまごつき
ながらナァナァな成績を出していた。

17ホール目。この時点で長門はハルヒを抜いた。ハルヒは少し不機嫌そうな顔つきに
なりだした。ええい、まずいぞ。このままでは俺と古泉の仕事が増えるのはいやだぞ。
ハルヒが打っている間に長門を呼びよせ、
「おい、長門。頼むから今回はハルヒに1位を譲ってやってくれ。俺も古泉もハルヒを
なだめるのに夏休みを使いたくないぞ。」
「・・・物事には等価交換の法がある。貴方がそれを望むならば私も貴方になんらかの
願いを持ってもいいことになる。」
意外や意外。長門なら『そう』で終わってくれると思っていたが・・・ここで都合よく
『等価交換』やらを持ち込む気か!意外と侮れないぞ、長門。
「私が涼宮ハルヒに1位を譲る。その代わり・・・一緒に図書館に・・・。」
いつも自分の願望なんて絶対に表に出さない長門の頼みだ。断れるわけもないし、どうせ
俺だってヒマだろう。
「ああ、わかった。明日にでも一緒に行こう。だからハルヒに変な気を起させないでくれ。」
「・・・わかった。」

その後、ハルヒが1打差で勝てるように、長門は旨い具合にミスをし、ハルヒが一位で突破。
2位が長門となった。
日も斜めになり、夕日が俺たちの顔を照らすころSOS団パークゴルフ大会予行練習は終わった。
最下位者は次のSOS団の集まりまでにギャグの披露となった。最下位は誰かって?

俺が紳士な心を総動員させて、朝比奈さんを守りきりましたとも。
あのお方は1時間立っても始めそうにもなさそうだ。それなら俺が滑ってもいいから
さっさと終わらせてやろうじゃないか。

その後上機嫌ハルヒを先頭に本日のSOS団野外活動は終了。
『来週また同じ時間に駅前集合ね!狙うは表彰台を団員で埋め尽くすことよ!』
と言ってハルヒは嵐のように去っていった。

そして俺は朝比奈さんと古泉に別れを告げ、長門にも挨拶をしておこうと思って
長門のほうを向くと、なんだかもの言いたげに俺を見てる気がして、思い出した。
「わかってるよ。明日同じ時間にここでいいか?」
そういうとミクロ単位でこっくりした長門はその場を去っていった。


さて・・・俺は明日図書館で1週間後に控えたギャグ披露のためにネタの収集でもしようか。
哲学的言い回しを持って笑いを誘ってみてはどうだろう。最低でもハルヒを笑わせるために
それなりにネタを用意しなくてはならないだろう。あいつはいつでも大小にかかわらず
悩みを提供してくれるやつだ。ある意味感謝状を贈りたいくらいだな。

・・・大穴で長門に相談を持ちかけてみるのもいいかもしれない。・・・

 

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最終更新:2007年10月30日 01:28