「キョンくん、話があるの。」
 突然の事である。朝比奈さんがやけに真面目な顔で話しかけてきた。俺が感じた驚きは二重のものだった。その真面目な顔と、未来の朝比奈さんの姿を垣間見ての驚愕だ。
「これから話す事は禁則事項に含まれるから…心して聞いてね。」
 
 
 少し前文の説明が足りなかったからちょっとばかし説明しておこう。いつもの登校をし、いつもの授業を受けていつもどおーり部室に行って扉を開けたら今の状況になったわけである。
 しかしまた朝比奈さんの大人(……だよな)姿を見れるとは、歓喜の極みである。……さて、さっきの続きだが。
「禁則事項を俺に話したりしていいんですか?」
「……本当は上からの了承は得てないの。でも、絶対に伝えなければいけないと思って。」
 いつも隅で本を読んでる長門が居ないところを見ると……
「席を外してもらったわ。古泉くんは探しても居なかったから…もしかしたら部室に来るかもしれない。」
「きっとバイトか何かなんですよ。じゃあ、場所を移しましょうか?」
「そうね、ここでは少しマズいかも。」
 
 俺はいつぞやの食堂の屋外テーブルに行き着いた。古泉と話した場所だったか。
 朝比奈さんをイスに座らせて、自販機に向かいコーヒーを2つ持ってくる。よし、我ながらスピーディなセッティングだ。
「それで、話とは?」
「ええ、それが……その、率直に言います。」
 急に敬語になった朝比奈さんの口調は、俺を緊迫の表情度を何十%かアップさせた。
「そうしてくれた方が助かります。」
「キョンくんは……明日から自分の部屋に引き篭もってしまいます。」
「……は、はあ?」
「信じられないでしょうが信じてください。未来から見ているんですよ。」
「それはそうですが……冗談じゃないですか?」
「わざわざこの時間平面まで来て冗談を言う理由はありません。」
「そうですね……でも、今ここで言ってしまったら…」
 そうにはならないんじゃないだろうか。もしこの話を聞かないで過ごしていた俺が明日ヒッキーになったとしても、今の俺がこの話を聞いてしまった以上、そうにはならないはずだ。
 既定事項でも知ってりゃそんなことにはさせない。
「こんな話を聞いたら…そうにはならないんじゃないかって、そう思ってるでしょ。」
「え、ええ……はい。」
 さすが朝比奈さんだ……俺の心の中もお見通しってことか。おっと、ここで紅潮するのはおかしいぞ俺。
「それにまだ続きがあるんです。」
「なんですか?」
「今日から三日後……あなたは死にます。」
 俺はこの言葉を怪しい占い師から聞いたとすれば胡散臭くも思うが少しは驚くだろう。そしてその三日後にはビクビクしているかもしれない。
 だがこの可愛らしさに大人の色っぽさが加わった超美人に告げられても緊張感というものがない。ああ、この人は未来人なんだっけ。
「でもそれもさっきと同じで……」
「簡単に考えるとそうです。でも、前に話したでしょ?時間というのはその時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものなんだって。」
「ああ…話してもらった記憶はあるんですが、残念ながら内容までは……」
「だと思いました。じゃあ今一度説明しますね。時間と時間との間には断絶があるから時間と時間には本質的に連続性がないの。」
 ふむ、今のところは理解できる範囲内だ。俺の頭はなかなかこういう話に対処できる頭に進化したようだな。
「時間は連続してないから、仮にわたしがこの時代で歴史を改変しようとしても、未来には反映されなくて、この時間平面上のことだけて終わってしまうの。パラパラマンガを例にだして説明したっけ。」
 ……なんとなく分かったぞ。
「つまりはそういうこと。」
「つまり……どういうことですか?」
「……ええっと、今回のものは少し異例になるけど、確実に明日引き篭もるという事に対処はできない、ってこと。」
「な、なるほど。」
 とりあえず相槌をうっておく。
「だからわたしは……この事だけを伝えに来たの。用は気を付けて、ってことね。」
 今の言葉と明日の件と3日後の件だけ言えば1秒とかからずに俺は全て理解できたけどな。
 しかし、何と言うか朝比奈さんは平然と話していたが泣いたりしてくれてもいいんじゃないだろうかね。
「それじゃあ時間がないから。ごめんね、じゃあ。」
「はい、わざわざありがとうございました。」
 
 
 まったく、朝比奈さんには悪いが団活の最初から奇妙な話を聞かされたもんだ。
 俺が引き篭もる? 俺はそこらへんのオタクとは違う。今考えてみれば、朝比奈さんも失礼なことを言ったもんだ……。
 
 
【キョン視点→長門視点】
 朝比奈みくるとの話が済んで彼が部室に戻って来たのを見たわたしは彼と同じく部室に入った。
「おう長門、部室に居ない間何してたんだ?」
「……読書。」
「またか……お前はいつも本を読むことしかできないのかね。」
 ……少し彼の様子がおかしい。いつもより眉毛の角度が2度急になっているのを確認。
 わたしはいつものパイプ椅子に座って読みかけだった本を読む。
「ずっと本なんか読んでて何が楽しいんだか…」
 そう言って彼は団長席にどすっと座ってパソコンを立ち上げた。
「……何の本読んでんだ、長門。まぁ聞いてもどーせ忘れるだろーがな。」
 ……わたしは喜怒哀楽中の怒の感情が表れていることを観測。彼にも、わたしにも。
 後の一言が癪に触ったわたしは、無言でその場をやりすごうとした。
「………」
「……おい、無視かよ長門。」
「………」
「……あーあ、ほんとにつまんないな。」
 そう言って彼はパソコンのディスプレイに視点を移して黙々とパソコンを弄り始めた。
 ……わたしの心の中に、喜怒哀楽中の哀の感情を観測。
 
 
【長門視点→キョン視点】
 朝比奈さんは変な事言い出すし、長門はシカトするし……もう、なんなんだ。
 すると「MIKURU」というフォルダが目に入る。ああ、朝比奈さんの画像集だったか。……いらないな、もう。
 フォルダを掴んでごみ箱へ持っていく。その後に「ごみ箱を空にする」を選択。これで削除完了だな……
「ご、ごめんなさぁ~い……ちょっと学級の仕事で遅れちゃって……。」
 部室に朝比奈さんが入ってきた。……未来の朝比奈さんを見た後だからなのかは分からないが、あの喋り方がちと癪に触った。
「あのキョンくん……メイド服に着替えるから、外へ」
「そんなの、着替えなくても大丈夫ですよ。」
「え? で、でも涼宮さんが……」
「いつまでもハルヒに縛られてどうするんです。もっと自由に生きていきたいとは思わないんですか?」
「ふぇ……お、思います……けど……」
「けど?」
「ふぇ、ふぇぇえ……」
 朝比奈さんは涙目になりながら部室を出て行った。ふん、涙もろいにも限度がある。
 
 
【キョン視点→古泉視点にチェンジ】
 いやあ、緊急の機関内での会議があったから遅れてしまいました。きっと涼宮さんたちもお怒りになられることでしょうね…
 そんな事を考えつつ、僕は部室のドアを開けました。
 その瞬間に、「ふぇ、ふぇぇえ……」と涙目になりながら部室を出て行く朝比奈さんと遭遇。話しかける事ができない程そそくさと去っていきました。
 部室の奥を見ると彼が座っていました。眉間にシワを寄せているところを見れば、もしかして朝比奈さんと喧嘩を…? そんなまさか。
「どうしたんです、朝比奈さんと何かあったんですか?」
「……別になにもねぇ」
「じゃあ、何故彼女は泣いていたのですか?」
「朝比奈さんが勝手に泣いたからだ。」
「だから、その原因は……」
「お前には関係ないだろ!」
「………」
 これは驚きました。あのいつも冷静(?)な彼が……まぁこんな日もあるのでしょう。こういうのは一人にさせておくのが一番です。
「……すいません、僕はそんなつもりで聞いたわけじゃ」
「うるせぇ!俺はもう帰る!!」
 謝るつもりが、逆に彼を怒らせてしまった様子。不覚……です。
「待ってください、ここは落ち着いて……」
「黙れって言ってるだろ……」
「……そういうわけにはいきません。」
「だからお前には関係ねぇんだよ!!」
 
 
【古泉視点→ハルヒ視点】
 はあ…くだらない岡部の話に付き合わされたわ。何よ、着替え中にトイレに行きたくなったから下着姿でトイレまで行っただけじゃない!何なの?あの長ったらしい説教は。
 まあいいわ、今日もみくるちゃんでストレス発散するから。さっさと部室に行きましょーっと。
 あたしが部室の扉を開けようとしたら、勝手に扉が開いた。え…あたしって、遂に超能力を使えるようになっちゃったの?
 でも、そうじゃなかった。扉が開く前に確かにキョンの声が聞こえたもの。
 関係ねぇ…とか言ってたのを覚えてる。どっかの芸人でも真似してるつもりかしら。
 だけどあたしは驚いたわ。今まで見たこともないほど恐ろしい顔をしたキョンが出てきたんだもの。
「……邪魔だ」
「え?あ、えっと……」
 驚きすぎて言葉が上手く出てこなかったわ。そのままキョンは生徒玄関に向かって去っていったの。
「ちょっ……ちょっとあんた!! 勝手に帰るなんて許さないわよ!?」
 あたしの声はキョンに届いてたはずだった。でも、キョンは全然振り向いてくれない。……何なのよ、これ。
「涼宮さん、こんにちは。」
「ああ、古泉君。キョンの奴、どうしたの?」
「……僕が来た時にはもうあの態度でした。」
 あたしは古泉くんからみくるちゃんの事とか、さっきまでの出来事とかを説明してもらった。
「もう、みくるちゃんを泣かすなんて、ほんっと無礼な奴ね、キョンって!!」
「まあ彼にも何かがあったのかもしれませんし……」
「有希は? 何か知ってる?」
「……彼は怒っていた。」
「そ、それは分かるわよ。原因とか分かる?」
 有希は横に首を振った。んもうっ、キョンったらほんとどうしたのかしら。
「ま、いいわ! キョンも明日になれば機嫌が戻ってるでしょ。今日は解散!」
「了解しました、団長様。」
「……了解」
 
 その日はそれで終わった。……キョン、大丈夫かな。
 
 
【ハルヒ視点→みくる視点】
 何故かキョンくんに怒られたその日、家に帰宅すると机の上に一枚の置手紙がおいてありました。何々……?
 
『わたしは、あなた【朝比奈みくる】の未来の姿です。きっと信じられないでしょう。でも、その証拠に
 あなただけしか知らない事を言い当てます。ずばり、あなたは今、抱き枕のぬいぐるみの首を絞めた状態が
 一番寝やすい体制でしょ?わたしの過去がそうだったから、分かるの。』
 
 ふぇ、ふぇぇぇ……!? な、なんで知ってるんですかぁー!?
 
『じゃあ、本題に移ります。あなたの知り合いのキョンくんは、明日自分の部屋に引き篭もってしまう
 可能性があるの。そしてそのままいけば、彼は今日から3日後に死んでしまうわ。』
 
 え、ええ!? キョンくんが…!?
 
『だからあなたに教えておくわ。これから起こり得る事、そしてこれからどうすればいいのか。』
 
 やっぱりわたしが未来人だから……未来のわたしが伝えに来てくれたんですね。ありがとうございます、わたし! ……な、なんか違和感がありますぅ……
 何だか禁則事項に引っかかってそうな内容だけど…いいのかな。とりあえず、明日はわたしが頑張らなくっちゃ!
 
 
【みくる視点→キョン視点】
 ………なんだよ、高校生活ってのはこんなにつまらないもんだったのかよ……。
 だいたい『SOS団』なんてガキみたいな事よく今までやってきたな俺…自分に尊敬しつつ軽蔑するね。
 はあ、くだらない……朝比奈みくるも長門有希も古泉一樹も涼宮ハルヒも……!! くだらない……!!
 何が未来人だ、何か宇宙人だ、インターフェースだ……何が超能力者だ、変な所でしか使えないくせに……!!!
 ……事の発端はあいつだったか、涼宮ハルヒ……とんだ自己中女だ。少し顔がいいからって調子に乗りやがって……何がキョンだよ!! 変なあだ名で呼びやがって……
「キョンくーん!ごはんだよー?」
 ……妹の声がする。そういえばあいつだったっけか、キョンというあだ名を広め始めたのは。
「キョンくーん!!」ガチャガチャ
 ドアを開けようとしても無駄だ。厳重に鍵をかけてあるからな。
「キョーンーくーん!? いないのー?」
「しつこいぞ……」
「あ、キョンくん寝てたの? ドア開けてよー」
「今日は晩飯はいらない。もう話しかけてくるな。」
「……変なキョンくーん。」
 邪魔者は追い払った……これで俺は独りになることができた。もう誰にも邪魔されない、俺だけの時間……っくくく……。
 
 
【キョン視点→ハルヒ視点】
 ……結論から言うと、今日キョンは学校に来なかった。まだ怒ってるのかしら…
「キョン、風邪でも引いたのかねー、馬鹿は風邪を引かないっていうのに。」
「谷口、それはきみが言っていい台詞じゃないと思うよ。」
「な、なんだと国木田ぁー!」
 谷口や国木田もどこか寂しそうだったわね。あいつが風邪なんか引くわけないじゃないの。
 そのまま放課後になって、欠席の一人を除いたSOS団の4人が集まったわ。
「キョンの奴、学校休んだのよ?しかも無断で。信じられる?」
「そうですか、結局彼は来ませんでしたか……」
「……やっぱり……!」
「え? みくるちゃん、やっぱりって?」
「あの、その……昨日、わたしの机の上に誰かの予言が書かれた紙があったんですぅ……」
「みくるちゃん!それ、詳しく教えなさい!」
 
 
【ハルヒ視点→みくる視点】
「え、ええ、でも……」
 未来からの手紙だなんて……涼宮さんには言えません……。
「もったいぶる必要はないでしょ! さっさと吐きなさい!」
「じ、実は、その手紙の予言にキョンくんは部屋に引き篭もってしまう、と書いてあったんです。」
「キョンが引き篭もり? その予言、謎ね……それ、今持ってる?」
 本当は鞄の中に入ってるんですが……見せたら色々とヤバそうですね。
「持ってないですぅ……」
「ふーん……とりあえず、キョンの家に行ってみるしかなさそうね……」
 
 ……という事で、それからすぐにわたしたちはキョンくんの家に向かいました。
 

 

未来からのメッセージ 中篇へ

 


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