「何で俺だけなんだ!国木田は!?あいつはどうなんだよ?」

 
「ふん、あいつはもうとっくに仕上げて提出しているわよ。まだ、1文字も書いていないバカはあんたとキョンぐらいよ。」
 
「・・・な!?・・・・・・くそ、あいつ、裏切ったな・・・・・・。
 
「何か言った!?」
 
「べ、別に!分かったよ!書きゃいいんだろ、書きゃ!」
 
以上が、強制連行された谷口と、鬼編集者ハルヒの口論の様子だ。
何気に俺がバカにされているような気がするが、気にしないでおこう。
 
それにしても、国木田はもう仕上げていたのか・・・裏切り者め・・・・・・。
まあ、あいつも学習したって事か。
ちくしょう、俺もさっさと仕上げておきゃ、今頃は谷口のアホ面をニヤニヤしながら見れていたんだが・・・・・・。
 
「何言ってんの!?あんたにそんなすぐ書けるほどの文章力があったら、苦労しないわ!」
 
ははは、よくお分かりじゃないですか。そこまで分かってるんなら、どうだ、俺の作品だけ、特別付録って事で、後で配るって言うのは。
 
「うるさい!!ぶつぶつ言っている暇があったら、手を動かす!!」
 
俺のナイスアイディアを一蹴したハルヒは、まだ仕事が残っているとか何とか言って、またもや竜巻のように部屋を飛び出していった。
 
「ふう・・・まったく、お前の嫁は本当にパワフルだな。あんな奴の相手をしているお前を俺は尊敬するぜ。すごい、すごい。」
 
さて、アホはほっといて、とっとと終わらせるか。
 
俺が、谷口への悪口を1ダースほど考えつつ、パソコンのスイッチを入れようとしたときである。
 
「おや、涼宮さんは、いらっしゃらないのですか?」
 
そう言って、ミスタースマイル、古泉一樹が部室へ入ってきた。
あいつなら、今さっき部屋を出て行ったぞ。廊下ですれ違わなかったか。
 
「ああ、すいません。少し考え事をしていたので、気が付かなかったのかもしれません。なら、ちょうどいいですね。少しお突き合いできますか?お話したいことがありますので。」
 
なんだ?お突き合い?俺はそんな趣味は・・・・・・
 
「おっと、失礼。正しくは『お付き合い』ですね。」
 
俺は、若干の不安を覚えつつ、古泉に連れられて、部室を後にした。
 
 
 
 
「ここまで連れて来たってことは、何か周りに聞かれたらまずい話があるってことだな?」
 
「ご察しのとおり。少しばかり、思わしくない状況になりましてね。」
 
俺と古泉は、もはや2人の思い出の場所となりつつある、食堂の屋外テーブルに来ていた。こいつとの思い出っていうのが少し気に障るが、まあ、ここに来た時は何か重大な話を聞くことになるのは、夏の次に秋が来るくらい、当たり前のことになっているからな。
 
「単刀直入に言わせてもらいます。あなたは僕に何か隠し事をしていますね?」
 
若干鋭さを帯びた笑みで古泉はこう切り出した。
俺は、おそらく長門のことだと推測したが、
 
「さあ、何のことかな。」
 
と、とぼけてみる事にした。
 
「そうですか。なら、今から少し僕の最近の事を話させていただきます。」
 
お前の最近なんてどうでもいいぞ、と言いたい所だが、とりあえず聞いてみることにした。
 
「事の発端は今から3ヶ月前です。僕は閉鎖空間が出来たのを感覚で察知しますが、3ヶ月前のある日、今までしばらく発生していなかった閉鎖空間が、どこかに発生した感覚を覚えました。」
 
どこかで聞いたことのあるような話だ。
しかしそれがどうした。それがお前の仕事だろ。
 
「ええ、確かにそれが我々の役目です。しかし、その時はその役目を果たせなかったんですよ。何故なら、どこを探しても、閉鎖空間らしきものが見つかりませんでしたからね。普段、我々は、閉鎖空間が現出する時間と場所を探知することが出来ます。しかし、あの時に限っては、時間のみしか知ることが出来なかった。」
 
古泉はテーブルの上の紙コップに入ったコーヒーを口に含むと、さらに話を続けた。
 
「この現象は、『機関』でも審議されました。このまま、閉鎖空間の発生を見過ごしてもいいのかとね。しかし、それ以降、この閉鎖空間の拡大も観測されず、またこの現象も起こりませんでしたので、この件は、保留という形で事態は収束に向かったかと思われました。」
 
ここまで話した後、古泉の顔から笑みが消えた。
 
「しかし、今から2日前、またもや閉鎖空間が発生しました。発生する時間しか分からないものがね。更に、その閉鎖空間は、3ヶ月前のものとは、比べ物にならないほどの規模のものでした。『機関』は、恐慌をきたしました。早急に手を打たないと、このままでは大変な事態へと発展する。そこで我々『機関』は総力をあげて閉鎖空間を捜索しました。」
 
「ちょっと待て。ってことは、土曜日にはもう閉鎖空間は出来ていたって事だよな。だが、お前は日曜日もえらくのんびり過ごしていたじゃねえか。そんなことしている暇、あったのか?」
 
「その時点では、発生の原因がまだはっきりしていませんでしたからね。僕が欠席することによって、涼宮さんの機嫌を損ねることが、閉鎖空間の拡大に繋がるという可能性も否定できませんでしたし。しかし、昨日の会議で結論が出ました。おそらく、この閉鎖空間は、この世界ではない場所、つまり別の時空に発生したのではないかと。」
 
「それで、この話と俺が隠し事をしている事に何の関係があるんだ?」
 
「そうおっしゃるからには、何か心当たりがおありのようですね。」
 
動かぬ証拠を掴んだ名探偵のような笑みを古泉は浮かべた。
しまった。思わず、口が滑っちまった。
 
「ここからは、我々の推測になりますが、おそらく別の時空というものは、今から2年前、長門さんによって構築された世界ではないですか?また、その件に関して、あなたは長門さん本人から、何らかのアプローチを受けている。違いますか?」
 
これ以上の抵抗は無駄だと感じた俺はホールドアップし、
 
「お前の言うとおりだ。それはおそらく・・・・・・」
 
と、昨日、長門から聞いた話を掻い摘んで説明した。
 
 
「なるほど・・・つまり、あの閉鎖空間は、別時空の涼宮さんが発生させたものというわけですか・・・・・・。いや、何となくですが、そう感じていましたよ。長門さんの様子もどこか変でしたしね。」
 
そう言うと古泉は立ち上がり、
 
「早速、このことを『機関』に報告しないといけません。あ、それとあなたにはおそらくご協力をお願いすることになるでしょうね。」
 
という言葉を残して去っていった。
 
ご協力ね・・・・・・。
あれはもう2年前のことか?
俺は、いまだに脳に張り付いて離れない、あの記憶を呼び寄せた。
全く、何かある度に、このことを考えている気がするな。
出来れば、もうあの薄暗い空間には二度と足を踏み入れたくないんだが・・・・・・。
 
まあ、どうしても出られないんだったらな・・・・・・っておい!
 
俺は、今自分が考えていることに驚愕し、そんな自分を心の奥深くへと葬り去り、大きな深呼吸を1つしてから部室へと向かった。
 
 
 
 
 

 

「あ、キョン君。おかえりなさ・・・あれ、古泉くんは・・・・・・?」

 

「あ、あいつなら、用事があるとかなんとか言って帰りましたよ。」

 

古泉一樹と共に出て行った彼が、1人で帰ってきた。
何をしていたんだろう?
 

彼は、ばつの悪そうな顔をして、自分の席につき、ノートパソコンを起動させた。

 

私は、そんな彼の顔を見た。彼は、私には気が付かないのか、何やらぶつぶつ呟きながら、デスクトップを睨み付けている。
 
私は、昨日の彼の言葉を思い出した。
 

昨日の夜、そのことをずっと考えて、考えて、結局答えは、見つからなかった。

 

私の毎日は楽しいの?
もっと明るくやっていけばいいの?
 
分からなかった。
 
今朝、目を覚ましたら、意外にもすっきりした気分だった。
一通り考えつくしたからかもしれない。
とりあえず、今はこのことを忘れよう。
彼と一緒に過ごせるのもあと少し。
せっかく来たんだし、いい思い出をつくらないと。
 
こうして、私は普通に振舞うことにしている。
本当は、まだ心の奥で考えているのだけど・・・・・・。

 

 

「・・・・・・ゴホン、ゴホン!っつ、風邪引いたかな・・・・・・。」
などと、いいながらこちらの様子をチラチラと窺っているのは谷口・・・下の名前は何て言うんだろう?
 
さっきから、何度か彼の視線を感じる。
何だろう?
あまり、いい気分ではないんだけれども・・・・・・。
 
そんなことを考えつつ、私は目の前の画面に目を向けた。
そこには、私の書きかけの小説があった。
一応、今まで私の中で暖めておいたものがあるので、それを書こうとしているのだが、今は、少し行き詰っている。
 
この小説は、美樹というおとなしい少女が、恭平という男に恋をするという話で・・・・・・
 
 
 
 
「・・・樹・・・美樹・・・・・ちょっと、美樹!」
 
その晴美の言葉で私は、我に帰った。
 

「どうしたの?ぼーっとしちゃって。もう、HR終わったわよ。ほら、掃除当番の邪魔になるから、行こう?」

 

そういって、晴美は私の手を引っ張って教室から飛び出した。
私は、足をもつれさせながらも、ついていく。
 
私達が向かっているのは、文芸部室だ。
私と、晴美は文芸部に所属している。
といっても、晴美は、スポーツ万能、成績優秀で何でも出来るので、文芸部のほかにも、吹奏楽部と、陸上部、書道部も掛け持ちしている。私は、そんな晴美を尊敬しつつ、羨ましくも思っていた。
 
「どう、いい小説出来た?私、ちょっと行き詰っちゃってさ。美樹にも、ちょっと手伝ってもらいたいよ。」
 
晴美が話しているのは、今、文芸部で作っている、文芸部誌のことだ。
これは、毎年、年末に文芸部が作成しているものだ。
私達は高校3年生、今年で卒業する。
よって、今回が、最後の作成だ。
 
「恭平の奴、ちゃんと書いているの?あいつ、いっつもサボってるから、たまにはガツンといってやらないとね。」
 
恭平というのは、文芸部に所属する、唯一の男子生徒だ。
と、いっても、文芸部には、この3人しかいないのだけど・・・・・・。
 
恭平は昨年の冬、晴美に連れられて、突然この文芸部室へとやって来た。
彼は、2年の時の、晴美のクラスメイトである。
 

どこの部活にも入らずに、ふらふらしていたようだが、本を読むことが好きということを晴美に見つけられ、この文芸部へと引っ張り込まれた。

 

最初は、こんな部活、入りたくねぇとか言って、入部届けを出さなかったが、熱心に誘う晴美に、根負けして、結局入部した。
 
しかし、彼は、なかなか部活に参加しなかった。よくて、週に3回程度、2週間ずっと来なかったこともある。しかし、来たときは、面白い話をして、私達の部活を盛り上げてくれた。
 
やがて、私と晴美は部室に着いた。ドアを開けると、中には、珍しく恭平がいた。
恭平を見るやいなや、晴美はこう話しかけた。
 
「あら、恭平?珍しいじゃない。明日は、雪が降るんじゃないかしら。」
 
「うっせえな。たまにはいいだろ。俺にも、こうおとなしく読書に浸りたい時だってあるんだよ。」
 
「ふ~ん・・・って、あんた、原稿はどうしたのよ?締め切り近いんだから、そんなことしてる暇、ないはずでしょ?」
 
「俺は、読むのが好きなの。書くのは、お前らの仕事だろ。」
 
「何よ!あんた、それでも、文芸部の一員なの?ちょっと、美樹も何か言ってやってよ。」
 
「はん、お前が勝手に引き込んだんだろ。俺は、本が読めればそれでいいの。部長さん、俺の入部届けに、はっきりと読書希望って書いてましたよね?」
 
言い忘れていたが、私は文芸部の部長だ。
たくさんの部を掛け持ちしている晴美や、ふらふらしている恭平には、部長ができないってことで、私がすることになった。
 
「確かに書いていたけど・・・それと、これとは別の話。さっさと書きなさい。」
 
「うう、厳しいお言葉・・・・・・俺は、ただ、読書というものを楽しみたいだけなのに・・・・・。」
 
胸を押さえる仕草をしつつ大げさにこう言った恭平は、それでもしぶしぶ、自前のワープロのスイッチを入れた。
 
私は、意志表示をするのが苦手だ。
人と気軽に話す、ということが上手く出来ない。
だけど、晴美や恭平は違う。
この2人には、私は何の気兼ねなく、気軽に話すことが出来た。
 
そして、私は、そんな恭平のことが好きだった。
 
しかし、周りでは、晴美と恭平が付き合っているという噂が流れていた。
そんな現実を、私は、どうすることもできなかった。
 
 
 
 
我ながら、なかなか、恥ずかしい話だ。
やはり、小説の中とはいえ、『好き』という言葉を使うのは抵抗がある。
 
とても分かりやすいだろうが、美樹というのは私がモデルとなっている。
恭平とは、もちろん『彼』。
そして、晴美は・・・・・・。
 
「じゃ~ん!どう、これ?」
 
と、何やら分厚い本をたくさん持って、涼宮ハルヒが部室に入ってきた。
 
「図書室から持ってきたのよ。こんだけあれば、いい資料になるでしょう。」
 
彼女が持ってきたのは、たくさんの歴史書だった。
 
「おい、ただの歴史小説じゃつまらないとか言って、俺を困らしていたのはお前だぞ。今更、普通の歴史小説を書けっていうのか?」
 
「違うわよ。もちろん、普通じゃだめ。でも、あんたがあまりにも書くのが遅いから、編集長自ら、手伝ってあげることにしたのよ。ありがたく思いなさい!まずは、知識!あんたのその、スカスカの頭に、歴史の基礎知識を叩き込むのよ!やっぱり、何でも基礎が大事だからね!」
 
そう言って、涼宮ハルヒは眩しい笑顔を浮かべ、彼の前にたくさんの本をドスンと置き、彼の隣にパイプ椅子を持ち出して、腰掛けた。
彼は、苦笑いしつつ、それでも、その本をパラパラとめくりだした。
その場にいた、朝比奈みくると谷口はそんな2人を、何やら羨ましそうな目で見ている。
 
私は、何やら複雑な気分になった。
何だろう?こういう気持ちは今までに感じたことがない。
 
私は、それが恋愛の嫉妬というものだということに気が付かなかった。
何故だろう、涼宮ハルヒが羨ましくて仕方がない。
 

晴美のモデルは、涼宮ハルヒであった。

 

                          

  ~Different World's Inhabitants YUKI~ゲツヨウビ(その三)~へ続く~


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