日曜日。それは俺にとって、迫り来る月曜日という名の強敵と戦う前に疲れを取る為の貴重なホリデイだ。
 この日もいつもならばハルヒが企画する面倒ごと――の代表行事として、不思議探索が挙げられる――に振り回され、余計に生命のエネルギーを吸い取られるハメになってしまうのだが、今日は例外だ。
 どういう風の吹き回しか、それとも何やら企んでいるのか、ハルヒの奴今日は休みだと言い出した。理由は解からないがどうせ知ったところで俺がどうこう出来るはずもなく、出来ることは唯ひとつ、今日一日をゆっくり休むことだけだ。
 自室でずっと寝転がっていても暇だと判断してベッドの下に隠してある俺の宝物――別名、『女の楽園聖書』と呼ぶ――を取り出そうかと手を伸ばして掴むと、部屋のドアの向こうから妹の声が耳に届いた。
「キョンくーん!お客さんだよーっ!」
「ああ、解かった」
 適当に一言返事をして聖書をベッドの上に置いてから、俺は思考を巡らせる。……誰だ? くそ、お客さんだけじゃ情報が少なすぎるぜ。
 とりあえず俺はよだれて猥らな服を脱ぎ捨て、白Tにジーパンに着替えて1階へ降りる。階段下には既に妹が待ち構えていて、
「女の子だよ!」
 と意味深な笑みを浮かべていた。古泉のような笑い方はやめてくれ。お兄さん泣いちゃうぜ。
 俺は玄関の扉へ駆け寄りドアノブを捻って押すまでの動作を数秒で済まして、扉の向こうに佇んでいた馴染みある知り合いと目が合った。
「やあキョ……じゃなくて。キョン、お邪魔するわよっ」
「少しの間だけお邪魔するよ、キョン。」
 なっ……予測していた敵の数より多いだと!? それにハルヒと佐々木、なんだその喋り方は!
「くっくっ、いつも通りさキョン。それより、部屋へ上がらせてくれないか?」
 喉の鳴らせ方に口調、どうみてもいつも通りじゃないぞハルヒ。
「とりあえずキョンの部屋に行きましょ。」
 うおい佐々木! 勝手に人の家に上がるな、お前らしくない!
 
 ……えーと、なんだ。まず整理しよう。最初に俺に話しかけたのがハルヒ口調の佐々木で、その次に佐々木口調のハルヒだった。状況が上手く掴めないぞ、なんじゃこりゃ!
 俺をからかう他に目的が見当たらない。って佐々木、部屋に入るなっ!
「ちょ、ちょっとキョン!なによ、これ!」
 だから佐々木、その口調はやめ……あ゙あ゙ぁぁーーっ!? それは俺の聖書じゃねーか!! しまった、取り出した後隠し忘れていた!!
「キョン、キミがこんな俗な内容の本を……」
「サイテイね!」
 危うく変な錯覚に陥りそうになる。ハルヒに佐々木の喋り方に違和感があり過ぎる。いやいや、そんなことよりまずこの状況を回避する方法を……
「とりあえずこれは没収ね。後であたしが捨ててきてあげるから。」
 そう言って俺の聖書を鞄に入れる佐々木の顔はどこかニヤけていた。
「待ってくれ佐々木さん。それはあたしが預っておくよ。」
 どうやら俺の手元から聖書が離れていくことは規定事項と化してしまったようだ。……ん?
「ハルヒ、佐々木は女同士の場合は女言葉で話していたぞ。」
「えっ?そうなの?」
「俺と話す場合は『そうなのかい?』程度になるんじゃないか?」
「は、え、えっと……もういいわ!やめましょう、佐々木さん!」
「もういいの?随分と早かったわね。」
 なんだなんだ、今回は何を企んでいるんだ?
「で、キョン!どっちが良かった!?」
 ……は?
「クーデレなあたしと、ツンデレな佐々木さん、どっちが良かったって聞いてるのよ!」
 クーデレのハルヒって……クールなところしか見れてねぇじゃねぇか。佐々木もツンのところだけだし。
「キョン、どっちが魅力的に見えたんだい?」
 確かにどっちも今日は違って見えたが……何か違和感があったな。
「やっぱり、ハルヒと佐々木には、それぞれの性格が似合ってるんじゃないか?」
「それじゃあ勝負にならないじゃない!」
「勝負?」
「ああもう、今日こそどっちがキョンを取るか決めれると思ったのに!帰るわよ、佐々木さん!」
「ええ。またね、キョン。」
「あ、ああ……。」
 俺は、まるで早送りしたような足取りで俺の家を後にした二人を見送ることも出来なかった。
 一人ポツンと部屋に取り残された俺は、ただ何とも言えぬ虚無感に包まれるハメになった。
 
 っていうか、俺の聖書返せよ!!
 
end
 


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