200X.08.06 am10:39
地震発生から2時間半、俺と妹は帰ってきた母親とともにすぐ近くの中学校体育館でいた。そうだ、避難場所だ。しかもここは俺の思い出の場でもある、今の高校生活以前に過ごしていた場所だ。妹は地震の恐怖からかまだ怯えている様子で、母親が気遣いながら父親に電話を何度もかけていた。
「無駄だよ、発生直後もだめだったんだから」
「分からないじゃない、もしかしたらかかるかもしれない」
まあ試すのはいいことだが……何故この期に及んで冷静にいられるのかというと、すでに俺は自分の中で思っているからだ、父は死んだ……と。
Japan sinks? 2
祈念式典中であった原爆ドーム付近では混乱が続いていて、原爆資料館もかなりの大ダメージを受けていたらしい。すでに58人もの犠牲者が出ており、行方不明者は100人を超えていた。俺の住む町でもこの頃には死者が18人確認されている。その中には中学の時の同級生もいて、俺は愕然としていた。そうして妹同様放心状態になったまま崩壊した町を歩いていると、ポケットに突っ込んだままの携帯が音を鳴らした。画面に「涼宮ハルヒ」と表示されている。
「もしもし」
『………きょ、きょんなの……?』
「ああ、大丈夫か?」
ふと気がついた。今まで父親にさえも繋がらなかった携帯が、何故ハルヒを通した?
『大丈夫じゃない……わ』
「何か変だな、今どこにいる?」
『家……突然崩れてきて……生き埋めになっちゃって』
い、生き埋め……ハルヒが? 閉鎖空間……神……進化……SOS団……ハルヒが死んだら世界が滅びる!
「おい、待ってろ! すぐに助けに行くからな!」
『切らないで!』
「大丈夫だ、すぐ、」
『お願いだから切らないでよ! ずっと何回もかけてたんだから……』
そうか、偶然ヒットしたのが俺ということか……。
「……わかった、切らないでおく、すぐに行くからな」
俺は携帯を握り締めたまま、ハルヒの家に向かって走り始めた。あちこちに電柱が倒れ、燃え広がる炎、そして粉々のガラス片。俺は死に物狂いで走っていた。
俺がハルヒを捜し求めて走っているとき、遠く離れた都市「東京」で震度5弱の地震が発生していた。広島地震との因果関係は否定できないだろう。だが、この2つの大地震が大きな地殻変動の前兆であることを後々知ることになる。
発生から3時間15分、俺は全壊したハルヒの家の前まで来ていた。すぐ近くでハルヒの母親が泣き崩れ、それに気を配っている父親がいた。
「……娘さんはこの中ですよね!」
「そうだけど、君は?」
「同級生です、電話がかかってきたんですよ」
「ハルヒから!?」
「ええ、すぐに助けてほしいと」
俺はハルヒの父親とともに瓦礫を探し始めた。
「ハルヒ、お前、おきたとき何処にいた?」
『自分の部屋……だけど』
ハルヒの部屋は2階、すぐにでも見つかるはずなんだが、なかなか見つからない。そのとき、ハルヒをすぐにでも見つけることのできる最大の方法を思いついた。
「ハルヒ、今から言うことをよく聞け、今から電話を切った後、着メロを大音量で流すんだ。そうすれば見つかりやすくなる」
『で、でも……』
「大丈夫だ、すぐに見つけてやるさ」
『……わかったわ』
そうして俺は電話を切断した。ハルヒ……早く流すんだ……。数分後、周りの解体作業や救助作業の騒音の中、メロディーが下から聞こえてきた。
「ここだ!」
俺はガラス片が腕に刺さっているのもかまわず壁や屋根を引っ張り上げた。そこにはベッドに蹲って携帯を握り締めているハルヒがいた。
「きょ……お、遅いわよ!」
「……わるかったな」
Japan sinks? 2 終
3に続く