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 季節はもう夏休みを明けた新学期だ。またいつものような日々が続くと思うと少し憂鬱になる。
 …そういえば席替えしないのか、このクラスは。
「キョン!!ビッグニュースよ!」
 いつも以上にハルヒの声が耳に響く。久しぶりに聞いたからなのか……それともハルヒの「ビッグニュース」という言葉に嫌な予感を感じるからなのか?
「なんだそのビッグニュースというやつは」
 俺が喋り終わる前にハルヒが続けてきた。
「また転校生が来るの!」
「転校生?それの何がビッグニュースなんだ?時期だって合ってるだろ。」
「それがね?今までアメリカに住んでた人なんだって。帰国子女ってやつね!」
 帰国子女……か。その響きだけでモテそうな感じがする言葉だ。何故かは分からんがな。
「学年は?」
「一年!」
「クラスは?」
「五組!」
「男か?女か?」
「女の子!」
 ……また悉く調べ尽くしているらしい。
「名前は?」
「えーっと……それが一番面白いのよね!」
「なんだ?言ってみろよ。」
「『長門由紀』っていうの!あ、『ユキ』って言っても理由の由に日本書紀の紀ね!」
 日本書紀の紀……?ああ、あれか。まったく、よく分からん例を出しやがって。
「…驚かないの?」
「ああ、驚いたさ。」
 ただ、いつもそれ以上に仰天してるから慣れてるんだな。俺も成長したもんだ。
「驚き度が足りないわね。キョンのくせに生意気よ。」
「で、まさかSOS団にその子を入れる気じゃないだろうな?」
 ハルヒの攻撃を軽やかに回避する俺。いやあ、成長したもんだ。
「ま、興味はあるわねー。少し変わってたら入れてあげようかと考えてるわ。」
「間違えても無理矢理入団させるんじゃないぞ?」
「分かってるわよ。」
 
 心配だ。だが、正直俺も楽しみではある。アメリカ、帰国子女、名前が「長門由紀」である(最後は少しおかしいかもしれない)事から恐らく中々の美少女だと予想される。谷口評価でBクラスには入ってくれる事だろう。
「今日転校生来るらしいよー?」
「本当!?どんな子?」
「よく分からないんだけど、帰国子女らしいんだってー!」
 と、クラスの中でも噂され始めた頃に岡部が入ってきた。
「皆も知ってると思うが、今日このクラスに転校生が入る事になった。じゃあ入ってきてくれ。」
 
 ガラッ
 
 クラスに静寂が訪れるこの瞬間。谷口の奴は目を輝かせている。それはハルヒも同様であった。
「長門由紀といいます。ア、アメリカの高校から来ました。よろしくお願いします。」
 そこに入ってきたのは紛れもなく美少女だった。「うおおおおおおー!!」と男子の歓声が入る。
 俺は勿論頬杖をついてクールに決めていたさ。……いや、実は「うおぉ……」って小さく言ってた。スマン、嘘ついた。
「席は…朝倉が居た席が空いてるな。そこに座ってくれ。」
「は、はい。」
「皆仲良くするように!それじゃあ授業始めるぞー。」
 
 
 授業が終わり、予想通り谷口が俺の所へやってきた。
「Aランクプラスだな!!」
「……何がだ。」
「何って、長門由紀の事に決まってんだろ?」
「ああ、そう。」
「なんだよキョン。あんまノリ気じゃねぇな。」
「俺には関係のない事だよ、どうせ。」
「そんな事言わねーでよ、ほら、もうあんなに女子と打ち解けてるぜ。あれは学級委員タイプだな。」
 俺は嫌な予感がしていた。またハルヒの望んだ謎の転校生だとしたら……
 もう古泉みたいなのは御免だ。もしかして異世界人とか言うんじゃないだろうな……
 
 
 昼休み。早速ハルヒが長門由紀…改め長門さんと話し込んでいる。何を吹き込んでいるのかなど知るよしもない。
 昼飯を食いながら二人の会話の様子を見続けて5分後(俺は何をやっているんだ…)ハルヒがこっちに寄って来た。
「これで大丈夫よ。」
「まさかお前、本当にSOS団に入れるつもりなのか?」
「まだ決めてないわ。とりあえず放課後に文芸部室に来てもらう事になったのよ。」
「お前なぁ…」
「仮入団ってことでいいじゃない。あたしは有希とみくるちゃんに放課後早めに来るように連絡しに行くわ!あんたは古泉君に!」
 あの二人なら別に伝えなくても早めに来ると思うが……ん?
「何故俺が古泉の所に行かにゃならん。お前がついでに行けばいいだろ。」
「あたしは色々と忙しいの!じゃ、あんたも早く行きなさいよ。ちゃんと伝えないと死刑だから!」
 教室を出て行くハルヒ。二人で古泉と話すのは気が引ける。まぁ仕方がない……死刑という罰を課せられたからには行かないわけにはいかないしな。
 
 
「転校生?」
「ああ。そいつを仮入団させるらしいから、放課後早めに来いとの団長さんからの命令だ。」
「少し臭いますね……」
「臭う?俺か?」
「ハハ、違いますよ。長門ユキの事です。」
「どっちだ。」
「失敬。転校生の方です。」
「俺も何か嫌な予感はしてたんだが…考えるだけ頭が痛くなる。」
「きっとこれも涼宮さんが望んだ事です。無難に乗り越えたいものですね…」
「兎に角、貴方も気を付けてくださいね。」
「気を付ける?長門由紀にか?」
「ええ。何か……僕も嫌な予感がす」
「おっと、俺そういえばまだ昼飯途中だった!じゃあな、古泉!」
「え?は、はい……」
 どことなく悲しそうな顔をする古泉は放って置く事にする。
 
 
 
 そして五、六時限目が終わり今は放課後。朝倉涼子の時のような事にだけはなって欲しくはない。まぁ長門も居るし何とかなるだろう。
 文芸部室の戸を開けると、そこにはいつもの面々が勢揃いしていた。だがハルヒと長門さんはまだのようだな。
「キョンくん、お茶です。」
「ありがとうございます、朝比奈さん。」
 久しぶりに見た朝比奈さんのメイド姿。俺にはいい目の保養だ。
 それに無表情で読書をしている美少女と、さっき見たムカつく顔。ハルヒが居ないと本当に静かで平和である。
 
 ガチャッ
 
 ……噂をすれば。しかし俺の予想は大きく外れ、しょんぼりとした顔のハルヒが入ってきた。それに長門さんの姿はない。
「どうした?」
「それがねー?由紀ちゃんが居ないのよ~。」
「居ない……?それは奇妙ですね。」
 ……無理矢理話に入ろうとするな古泉。
「学校中何処探してもいないのよ…約束忘れちゃったのかしら。」
「SOS団が嫌になって帰ったんじゃないか?」
「そんなはずないでしょ、失礼ね!キョンのくせに!」
 どうやらこいつの口癖は「全然」から「キョンのくせに」に変わったらしいな。
「まぁまぁ涼宮さん。今日のところはいつも通りの活動をしてはどうでしょう。」
「……仕方ないわね!明日話してみるわ。」
 とりあえず今日のところは何も無いまま済みそうだな。
 
 
 
 そして本日のSOS団の活動終了。朝比奈さんを除いた3人は次々と部室を出て行く。朝比奈さんは着替えがあるらしい。
 ん…鞄の少し空いたチャックの隙間から何かが出ている。本のしおりだ。まさかこれはまた…
 
『午後七時 わたしの家で待つ』
 
 わたしの家って……もし俺が長門だと分からなかったらどうするつもりだったんだ?まぁ長門鑑定士の資格(未公認)を持っている俺にはすぐ分かったがな。
 しかし公園から家に変わったのは驚きだ。……きっとそっちの方が手っ取り早かったのだろう。
 
 
 午後七時。マンションの前で長門が立って待っていた。俺達は長門の部屋へ向かう。
「今日は何の用なんだ?」
「……確かめたい事があったからあなたを呼んだ。」
 エレベーターを降り、長門の部屋に到着、テーブルを二人で囲み座る。
 少しの静寂の後、長門が話し始めた。
「……転校してきた長門由紀の事。」
 やっぱりお前もその話か。
「現在長門由紀が住んでいる場所、それがこのマンションの505号室。」
「505号室……?」
 ここの505号室って……ああ、思い出した。
「朝倉涼子か。」
「そう、でも長門由紀の正体が全くと言っていいほど掴めない。でも人間ではないというのは確か。」
「人間じゃない?お前と同じ情報ナントカって事か?」
「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドイン」
「ああ、それは分かった。分かったから続けてくれ。」
「……彼女がわたしと同じ能力を持っていると確信はできない。だから、彼女の正体を暴く必要がある。」
「何故正体なんか暴かなきゃならないんだ?」
「もしもの非常時の時、彼女の情報を把握していないとあなた達に危険が及ぶ可能性がある。」
 もしもの非常時ってなんだ。まぁなんとなく察する事ができるが……
「ん?それで結局、俺がここに呼ばれた理由は何なんだ?」
「一緒に居てくれた方が心強い。」
 非常に予想外な返答だ。すると何だ?俺は長門の心の支えになる為だけに呼ばれたって事か?
 いや……結構嬉しい。かなりの域に達するかもな。
「けれど失敗だったかもしれない。これから彼女の部屋に行く……あなたには危険。それに成功する確率は30%程度。」
「これから行くのか?」
 しかも30%とはかなり低い数値だな。
「帰っても大丈夫。わたしがなんとかする。」
「……いや、俺も行く。一緒に居た方が心強いんだろ?」
「………」コクリ
「俺が一緒に行ったら確率は何%になるんだ?」
「……100%」
「じゃあ行こうぜ!」
 そうして俺と長門は乗り込むのだ。長門由紀の部屋に。
 
 
 移動時間約30秒、505号室に到着した。
 長門はインターホンを押した。
 
 ピンポーン
 
「普通にインターホンは押すんだな。」
「言ったはず。まだ彼女が特別な能力を持っている存在とは断定できない。ここは普通に入るべき。」
『はい?』
「長門……あなたとは違う長門有希。」
『ああ、6組の長門さんですね。今開けます。』
 扉が開く。俺を見て少し驚いている長門由紀が出てきた。
「あなたは、確か同じクラスの。」
「どうも。」
「あ、あの、どうぞ中に上がってください。」
「………」コクリ
 中のリビングに案内される。歩きながら長門さんは話した。
「何か御用ですか?」
「……あなたは何者?」
「ブッ」
 少し吹き出した。率直すぎて少し笑えたぞ長門。すると突然長門さんは立ち止まった。
「やっぱり気付いていたんですね……。」
「わたしの目は欺けない。」
「そうですか……それなら――」
「……!」
「――死んでください。」
 
 グサッ
 
 俺は朝倉との一件が脳裏に浮かぶ。似ている……似るすぎている。
 今、長門さんは俺にナイフを突きつけてきて、長門は俺をかばってナイフに……
「長門!!」
「やっぱりかばうと思った…でももうお終いね。」
「体が……。」
「さっきの質問に答えてあげる。私はあなたのコピーデータ。あなたの能力にそっくりそのまま似せた…ね。」
「情報統合思念体はそんな事は実行していない。そんな事は有り得ない。」
「わたしは自分の意志で自分を再構築したんだもの…思念体は関係ないわ。」
「どうやって…」
 ナイフを腹に刺されながらも話し続ける長門。俺は何もできないのか?
「苦労したのよ?あなたがわたしを消す時に使った粒子の中に、分解されたわたしのプログラムをあなたの粒子に潜ませ、長い歳月かけて蘇ったの。」
 よく分からん。
「あなたはまさか……。」
「気付いた?」
「朝倉涼子?」
「ご名答。さすが長門さんね。でも、あなたに刺さってるナイフは分解粒子が入ってるの…じきに動けなくなるわよ♪」
 ああ、話はだいたい分かった。つまり、あいつは他の女の子の着ぐるみを着た朝倉涼子って事か……ややこしい。
「わたしはあなたに復讐したかった……だから、今ここで、あなたを消す!」
 くそっ……俺は長門の為に何ができる?なんとかするんじゃなかったのかよ、長門!
「早く死んで!」
 
 グサッ!!
 
「……!!」
 頭で考えるより先に体が動いていた。はっきり言って後悔している……だが、長門を守る手段なんてこれくらいしかなかった。
 俺の腹部には確かにグッサリとナイフが刺さっている。
「痛ぇ……」
 他に言葉が出せない。何度か経験した痛みだからとはいえ、慣れれる程度の痛みじゃない。それに激痛なんてものじゃない。意識を失いそうだ。思考能力が薄れていく。
「あらあら……別にあなたには恨みはなかったんだけど…残念ね。」
「なんて事を……」
「え?何か言ったかしら?」
「今あなたが刺した人は……わたしの……わたし達の大切な仲間……」
「長門さんらしくないじゃない。そんな臭いセリフ恥ずかしくないのかしら」
「あなたは許せない!」
 薄れゆく意識の中で聞こえる長門の声。俺は長門にとっての大切な仲間になる事ができたのか……それは良かった。
「かっこいいわね、長門さん。でもこの状況、どうするの?」
「情報結合解除開始……」
「無駄よ。その対策はもうできてる……私をなめない事ね。」
「あなたこそ、情報統合思念体をなめない方がいい。私は日々能力を高めて進化している。」
 朝倉モドキの足が段々と消えていくのが見えた。
「どうして!?」
「プログラム構成は完璧。けれど油断は禁物。まだまだ甘い。それではわたしを消す事なんてできない。」
「……悔しいけどここまでかぁ。さすがね、長門さん。そこの仲間さんとお幸せに……。」
 
 
 
 
 
「ん……俺は……どうなった?」
 目が覚めると俺は自分の部屋のベッドで寝ていた。腹の痛みはなく、傷口さえない。……夢だったのか?
 いつも通りの教室。平和だ……そう思いながら俺は窓の外を眺めている。たとえ夢だとしても、まさか長門から仲間の大切さなんて学ばされる事になるとはね。
「キョン!!ビッグニュースよ!」
「今度は何だ。」
「由紀ちゃんがまたアメリカに帰っちゃったんだって!!絶対これは何かの事件ね!!」
「………」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない……」
「早速これからこの謎を究明しないといけないわねー!!」
 
 夢ではなかった…とすると長門は俺を家まで運んでくれたのか…?
 後から傷の事を聞くと、長門は「あなたに危害を加えたナイフは朝倉涼子の粒子で作ったもの。朝倉涼子が消えれば痛みや傷口は消える。」と答えてくれた。
 毎回命を張って俺を助けてくれる、とても頼もしい存在『長門有希』。今度はコピーデータなんかじゃなく、部室で本物の長門を見る事が待ち遠しいよ。
 だから俺の部室に入ってからの第一声はこう言おうと思う。
 
 「ありがとな、長門。」ってね。
 
 
Fin
 

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