「ふふふ……くく、俺のために集まってくれた諸君!今日は本当にありがとう!」
 俺らの前で嫌に不適な笑みを浮かべつつ、本心からきてるのか分からないような感謝の言葉を並べている今日の主役は、言い終えたと思うとコップについであった炭酸ジュースをぐびぐびと飲み始めた。
「別にあんたのために集まったわけじゃないわよ。キョンが行くっていうから仕方なく……」
「わ、わたしは皆さんが行くっていうから……」
「僕も同じく、そうです。」
「そう」
「お、おい。俺は別に来いなんて頼んだ覚えはないぞ?」
 いくらハルヒたちにでも、俺はこんなつまらんパーティにまで参加させるなんて酷なことはしねぇ。
 正直、谷口の17回目の誕生日にお祝いなんてくれてやるのには少々気が引ける部分があるぜ。
 
 満足そうな笑みで顔を固定させたまま座った谷口は、はっと気付いたような素振りを見せて、中身が半分なくなったコップを持った。
「そういえばまだ乾杯がまだだったな。諸君、コップを拝借!」
 さっきのが幻覚でない限り、乾杯前にジュースを飲むのは失礼だと思うぞ。
「乾杯ってのは目出度い日にやるもんなのよ。今することではないと思うけど。」
 ハルヒはオレンジジュースをがぼがぼと一気に飲み干し、勢いよくそのコップをテーブルの上に音を立てて置いた。やめろ、行儀が悪いし、うるさい。
「おいキョン!注意する点が違うだろーが!」
 ハルヒへの注意点など小一時間考えれば軽く100個は越えるだろうが、とりあえず今考えて出てきたのはこいつの態度ぐらいであって、あとはお前から注意してやってくれ。その代わり、お前の命の保障はしないからな。
「今日は充分目出度い日だろーがよっ!」
 ……うん、そうだな。
「リアクションが薄いぜキョンっ!まるで遠い親戚の子供の誕生日に招待されたみたいな顔で俺を見るなよ!」
 おお、そいつが一番しっくりくるぜ。今日のことについての比喩的表現を考える手間が省けた。
「キョン……お前って奴ぁ……」
「まぁまぁ谷口くん、そう気を落とさずに。」
 いつもの笑みに哀れの表情を加えた顔で谷口の肩にポンと手を置いた古泉はその後、それこそ見知らぬ人の誕生日に招待されたような顔をしながら自分の定位置に戻って行った。それじゃ慰めになってないぜ。
 幸い谷口はその姿を見ていなかったようで、気を取り直しいつもの調子顔で、
「そ、そういえば諸君、俺へのプレゼントは……」
「ああ、持ってきてやったぜ、一応な。」
「おお!さすがキョン!心の友よぉっ!」
「くっつくな、鬱陶しい!」
 お前にも古泉ウィルスが移っちまったのか。……まさか、さっき古泉が触れた所為で!? こいつとはそろそろ縁を切らなきゃいけない頃合いかね。
「そんなこと言うなって!……で、何持ってきてくれたんだ?」
「ほら。『女を落とす100の方法 完全マニュアル』だ。これでもう1回彼女でも作れよ。」
「キョン……俺はこんなものが無くたって、女くらい一人や二人簡単にできらぁっ!」
「そうか。じゃあこの本は返してもらうぞ。」
「ま、待てっ!まぁ一応貰っておくぜ。」
 全く、分かりやすい奴だなこいつも。
 
「じゃあ、他には……」
 谷口は、元から期待してない様な目で肉を頬張っているハルヒに目をやり、その後すぐ目線をそらして朝比奈さんに期待の表情を見せた。
「ごめんなさい、わたし、持って来てないですぅ。」
「そうよ。今日のこと知ったのも今さっきだったし。準備できるわけないわ。」
「僕も同じく、そうです。」
「そう」
「……じゃ、じゃあお前らは何しに来たんだよっ!!」
「そうねぇ。ご夕食をもらいに来たわ。後でこの肉、タッパーに詰めてね。」
「わたしもだいたい涼宮さんと同じで…」
「僕も同じく、そうです。」
「そう」
 
 谷口の顔に焦りやら絶望やらの表情が浮かんだが、最後に国木田へ祈るように視線を当てた。
「ああ、さっき道で100円拾ったんだけどさ。これ、あげるよ。」
 親指と人差し指で100円玉を摘んだ国木田は、そのまま谷口のポケットの中にそれを納める。
「結局プレゼントは変な本と100円……なんてこった……」
「じゃあごめん谷口。僕、そろそろ帰らなきゃ。」
「なっ、もう帰っちまうのか!?」
「あんまり遅くなると親がうるさくってさ。じゃ、家まで送っていきますよ朝比奈さん。」
「ええ、お願いします。」
 ……ん? 今の会話の流れはおかしいぞ。何故国木田が朝比奈さんを家まで送るんだ?
「あっれれぇ、あぁそうか。みんなにはまだ話してなかったもんね。」
 俺の脳に嫌な予感が稲妻のように走ったが、とりあえず話を最後まで聞いてやろう。
「僕と朝比奈さんは付き合ってるんだよ。1週間前くらいからかなぁ…?」
「なっ、なんだとぉぉぉ!?国木田、何故お前がぁっ!?」
「みくるちゃん、そんなの初耳よ!そういうことは報告しなきゃダメじゃない。」
「す、すいません……恥ずかしかったから……」
「ダメよ、二人の愛の存在を恥ずかしがってたりなんかしたら!あたしとキョンの間には、もうそんなもの無いわよ、ねぇキョン!」
「ああ、そうだな。……ってんぁっ!?」
 今ハルヒは何て言ったんだ? なんかヤバい内容だったような気がする。
「じゃあ帰るね。みんなバイバイ。」
「みなさん、また明日。」
「うん、気をつけてねみくるちゃん!さ、あたしたちも帰るわよ、キョン。」
「な、なんでお前と俺が……」
「ほら、早く!」
 ハルヒに手を引っ張られて谷口宅を後にする俺。さすがに失礼じゃないか? ……いや、谷口にじゃなくて、谷口の両親に。
 
「では僕らも帰らせていただきますよ。長門さん、今日はどちらの家にしましょう?」
「……今日はわたしの家がいい」
「分かりました。じゃあ長門さんの家ですることにしましょう。では谷口くん、また。」
「早く。」
「おっと、腕を引っ張らないでくださいよ。」
「腕を組んで帰りたい。」
「は、恥ずかしいですよ……それは……」
 
「何で俺一人になっちゃうんだよぉぉぉぉ!!」
 
 それから谷口が鬱病にかかってしまったのは、また後日の話である。
 
 
ある男の『不』幸せな日 end
 
 
 
……これは、白石稔さんの誕生日に掲載させていただいたSSです。

他の誕生日作品はこちらでどうぞ。

 


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