(この話はアンリミテッドブレイドワークス の一つです)


「…鬼」

「何とでも言いなさいよ」

今現在、いつもの駅前付近の商店街。
そのうちのゲームセンターの一角、俺は全ての
UFキャッチャーの景品を取らされていた。しかも太刀の―――と、間違った。最近、戦ってばっかりだからなぁ―――改め、性質の悪いことにこのゲーセン、結構大型のものだから全部で二十五台、しかも一台につき二つあるもんだから五十個。そして極めつけはほとんどが二百円台ということ。

「俺の財布の中身は無限じゃないんだぞ…」

「浮気の慰謝料よ?当然じゃない!!」

 

あの後、俺と長門は古泉と朝比奈さんの出て行った―――出て行かされた―――部室で仁王立ちのハルヒを正面にして床に正座し(長門はイス)色々と弁解していた。

「…んでキョン。あんたいつの間に有希に手を出したの?彼女のあたしを差し置いて」

回りから見たら中々シュールだよなぁ。この光景。

「いや、アレはだなぁ…」

「私の責任」

と、不意に長門が言った。これにはハルヒも驚いているらしく、普段から大きめの眼を更に大きく開いていた。

「私が最近抱えている悩み事を彼に相談したら、彼は親身になって聞いてくれた。私は、悩み事を話しているうちに辛くなって泣いてしまった」

長門は他人事のように淡々と続ける。

…まあ、そりゃあ嘘だもんな。他人事のようにもなるさ。

「私の悩みはそれほど深刻。だから、つい抱きついてしまった。彼はゆっくり私を支えてくれた」

ハルヒはいつの間にやらご静聴。俺もだけど。

「だから、彼は悪くない。悪いのは私」

と言って「ごめんなさい」とハルヒに謝った。

「そうだったの…なら、いいわ。ごめんなさいね。有希。疑ったりして」

「いい。悪いのは私」

「ううん。有希は悪くなんか無いわ。…ただし、次から相談事はまずあたしに相談しなさいよ?」

「……了解した」

いやあ、流石は長門。あのハルヒを納得させたよ。

まあ、ハルヒは基本的に長門の言うことは全て信じるからな。

しかしまあ、ハルヒも成長したな。他人の話を静聴…と、冗談じゃなくて文面通りの意味で、静聴するとはね。うんうん。彼氏としてはうれしい限りですね。

「それでもキョン!あんたには有罪を言い渡すわ!」

「は!?」

何でだよ!?

「当たり前じゃない!いかなる理由でも私以外の女の子を抱きしめたのは重罪に値するわ!」

そんな理不尽な…俺は単に長門を支えてやろうとしただけなのに…。

 

と、言うわけで現在、ハルヒ最高裁判所長官による有罪判決(ゲーセンで全てのクレーンの景品をハルヒに貢ぐこと。執行猶予なし)を受けているわけだ。

「あんたバイトしてんでしょ?お金なら心配ないじゃない」

まあな、と言いたいところだが俺はバイトなんかしてない。

あんな疲れる戦いやっても無給。よって財布は変動なし。

それでも、

「まあ、少しは」

とだけ言っておいた。実のところ、先日遊びに来た叔父から小遣いを頂いていたのでまだ懐は暖かい。

…今度古泉に貰うか。『機関』経由で…。

「じゃあ、次はこれね」

「へいへい…」

俺は半ば諦めつつクレーンにむかう。

この平和な普通のカップルのような時間が―――まあ、こんなに金を使うのを普通と言うかは判らないが―――俺の望んだ時間だ。

変な足音なんか聞こえない、平凡な時間。

 

ハルヒを家に送り、自宅に帰ったとき時計の短針は既に七を指していた。

飯、風呂と順番に済ませ部屋に入ったとき、二時間が過ぎて九時。

そこから長門に借りた―――背徳感を感じるのは何故だろう―――本を読んだ。

そして三十分が過ぎ、九時半になった。…当たり前だ。これで十時になったら大いに困る。俺の人生が三十分減ったことになるからな。

そこで、携帯が俺を呼び出した。

最近売れてきたグループの最新曲を鳴らす携帯を手に取り、ディスプレイで相手を確認。

『古泉一樹』

なんだ古泉か。

ピッ。

「もしもし?」

『やあ、どうも。古泉です』

「んなもんディスプレイ見りゃわかる」

『あなたが登録していない場合を考慮したんですよ』

「ほう、じゃあお前は俺に登録しておいて欲しくないわけか」

『いいえ、それは違いますよ』

「どっちだ」

『ご想像にお任せします』

「なら想像で承っておこうか。…で?何用だ。まさか戯言を言いに電話したとか?

『そうであって欲しいですか?』

「ああ。何事も無いのが一番だからな」

『嘘ですね』

「嘘じゃない」

『嘘ですね』

「嘘だがな」

『ふふっ…まあ、冗談はこれくらいにして本題と行きましょうか』

「遅い」

『すいません。楽しくてつい、ですよ』

「だから、本題言えっつーの」

『ありませんよ』

「は?」

『だから、『何事も無い』が本題です。と言いますのも、最近閉鎖空間の出現確立がめっきりと減ってましてね。そういう意味では何かあった、と言うことになるのですが、現実には何も起きていないので『何事もない』と言うことです』

「つまり…近況報告ってことか?閉鎖空間の」

『そういうことです。…ちなみに、いつ頃からだと思いますか?』

「…言いたくもないが、俺と付き合い始めた日からか?」

『ご名答です。…しかし、厄介なことも同時に起きています』

「厄介なこと?」

『ええ。実は、涼宮さんの能力の強さが徐々に増えているんです』

「………」

『あなたが涼宮さんの告白をOKしたからなのかは定かではありませんが、間違いはほぼなくその瞬間に爆発的に増加し、今も増加は続いているんです』

「…なるほど。それで最近急進派がちょくちょく来るようになったのか」

『そうなんですか?』

「ああ、ここんとこ週一ぐらいで来る」

『…ご苦労様です』

「ありがとよ。…ああ、そうだ。今度『機関』に俺に給料とか出ないか聞いといてくれないか?せめて労災ぐらい欲しいぜ」

『…わかりました。聞いておきます』

「重ねてアリガトよ。…で、用ってのはおしまいか?」

『ええ。以上です』

「そうか。了解した」

『では僕はそろそろおいとまさせていただきましょうかね』

「おう。…ああ、でもその前に一言言わせろ」

『なんですか?』

「嘘つき」

『は?』

「何事も無かったどころ大事が起きてんじゃねーかよ。ハルヒの能力増えてんだろーが」

『…(ピッ)』

「…切りやがった」

 

なんて会話があった昨晩の翌日の今日、俺はいつものように部室へと赴いていた。

トントン。

勿論、ノックは忘れない。

「あ、はぁい」

そしてこれまたいつものような舌足らずの返事。

ガチャリ。

「キョン君こんにちは~」

「やあ、どうも」

「………」

割愛。

「あれ?ハルヒは?」

俺は未だに掃除当番だったので遅れた。

「何か職員室に用があるとかで…」

「…そうですか」

朝比奈さんの報告を聞いて俺はいつもの席に着く。そこですかさずお茶がカモン。

「どうも、ありがとうございます」

「ふふっ。味わって飲んでくださいね?」

と言って俺の隣についた。…最近、ちょっと離れめ。

「ああ、古泉。昨日の件、どうだった?」

俺は将棋盤を出しかけている古泉に尋ねた。

「ああ、それでしたら」

と言って自分のバッグから茶封筒を取り出し、テーブルに置いた。…なんか、すごく厚いんだけど。

「こちらになります。…ちなみに、これは今までの分、だそうなのでこれからは一回分ずつ、とのことです」

「お、おう…サンキュ…」

恐る恐る封筒に手を伸ばし、封筒をカバンの中にしまった。…なんか、中見たくない。誰だって思うだろう。厚さ十センチはあろうかと言う封筒を見たら。

「で、今日は将棋でも…」

しませんか?と続けたかったのだろうが、それは超勢いよく開いた扉の音によって消された。

「みんなっ!!朗報よっ!!」

言うまでもないが、団長様の登場だ。

「おいハルヒ。もう少しゆっくりあけろ。ドアが壊れるだろ」

「別にいいじゃない。あんた直してくれるでしょ?」

「………」

ハルヒ節、健在。

「ところで涼宮さん、その右手に持ってらっしゃる紙はいったい?」

「良くぞ気づいたわ古泉君!流石は副団長!」

と言ってハルヒはパソコンの前のイスに座らず立って、その紙を堂々と皆に見せた。

 

SOS団が正式な部活動として認定されたわ!」

 

…えーと…。

夢?英語でドリーム?フランス語で…判らんけど。

「わぁ、すごいです!」

って喜ばないでください!朝比奈さん!

「つまりその紙はその認定証、と言うわけですか」

黙れイエスマン!

「……嬉しい」

長門まで…。

「ちょっと待て!その紙見せてみろ!」

俺はハルヒから認定証(仮)を引ったくり、内容を読み上げた。

「えーと…私、岡部はここにSOS団が学校に貢献され、なおかつ生徒の自主性が伸びることを信認し、部活動への昇格を認める…マジか!」

何やってんだ岡部!

「そう、マジもマジ。おおマジよ」

「な、何故だ岡部…ってん?何だこの認印…指紋?って血判!?」

「さー皆、お祝いに今日は町で打ち上げよ!」

「待て待て!明らかに脅迫の匂いがすんだけど!」

「気のせいよ」

「お前どうやって交渉したんだ!?」

「…人間、神経を…」

「やっぱ言うな!」

 

 

穏やかに過ぎる日々は、俺の1ページ。

戦いにまみれた日々の、1ページ。

どこまでも続かない、休息となる日々に。

俺は甘んじている。

 

 


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