桜の花が散り始め、景色がピンク色から緑色に染まりかけてきた頃の日曜日。
今日はSOS団の活動がない。
だが、俺はいつもの駅前だある人を待っていた。
現在、時刻は8時30分。待ち合わせ時間の9時まで、まだ余裕がある。
その場で踊りだしたい気持ちを抑え、ある人を待つ。
いかんな…顔がニヤケてしまう…これでは古泉になってしまうじゃないか。
 
俺が内なる自分と悶々と戦っていると、声をかけられた。
「ご、ごめんなさい。遅れちゃって。寝癖がなかなか直らなくて…。」
お分かりだろうか?
そう、俺が待っていたのは、地上に舞い降りた俺だけの天使様、
朝比奈みくるさんだ。
 
昨夜、朝比奈さんから電話があった。
「もしもし、遅くにごめんなさい。あの、その、もし明日よければ、一緒にデパートにいきませんか?今のお茶が切れちゃって、新しいお茶をかおうと思っているんですけど…」
俺は二つ返事で了承したね。毎日毎日、後ろの席にいる、黄色いカチューシャを着けた団長のせいで、疲れているんだ。その疲れきった心を癒してくれるのは、彼女しかいない。
ベッドに入っても、遠足前の小学生の様に興奮して全く寝ていないことことなんか、ミジンコ並にどうでもいいことだぜ!
 
「そんなこと全く気にしなくていいですよ。こっちは、いつも遅れていますから」
事実は少し違うがな。俺が遅いわけではない。他の4人が早すぎるんだ。
まっ、どうでもいいや。今はそんなこと。
「うふふ、そういえばそうですよねぇ。じゃ、早速行きましょうか」
あぁ、その笑顔。まさしく天使の微笑みです。俺の心が浄化されていくようだ。しかし、いまさりげなく馬鹿にしませんでしたか?
 
 
 
俺たちは、デパートまでの道をカップル(妄想)のように歩いた。
「しかし、今日は何で俺を誘ったんですか?ハルヒとか鶴屋さんとき、他に誘う人はいなかったんですか?」
「鶴屋さんは、どうしても外せない用事があるらしいです。涼宮さんは、変なコスプレショップに連れて行かれそうだし、長門さんは、会話が続かなくて気まずくなりそうだし、古泉くんは、女のわたしが誘っても来てくれませんし…」
「というと、俺が余っていたから、仕方なくということですか?」
「いえっ、あっ、違います。キョンくんと一緒にいきt……やん、その、禁則事項です…」
何か嬉しい言葉が聞こえたような。っていうか、今の、禁則事項なんですか?
 
「そんな、こっちは誘ってくれただけで大満足ですよ」
「ありがとう。最近、わたし空気だから、少しは何か行動しないといけなくて…」
「空気ってどういうことですか?」
「禁則事項です♪」
空気って何のことだ?朝比奈さんの巨大なアレのことか?まさか、あの大きさは風船みたいに空気を入れているからなのか?よし、朝比奈さんには悪いが、今度プスッとやってみよう。
 
もうすぐで、デパートに着くという頃、後ろから、
「キョン?」
という声が聞こえた。空耳ではない。確かに聞こえた。
考えなくても分かる。こんな最悪なタイミングで話しかけてくる奴なんて、世界中、いや、宇宙を探しても1人しかいない。俺の脳裏に黄色いカチューシャがちらつく。
神様、助けてくれ!
いや、神様はアイツか。ここは、あきらめるしかないようだ…渋々振り返るとそこにいたのは、我らが団長、涼宮ハルヒ。
 
ではなく、佐々木だった。
 
何だ、神様違いか。でも、面倒くさい状況になるのは、確実だ。
 
「やっぱり、キョンか。偶然だな。こんな所で何をしているんだい?おっと、失礼。デート中だったか。涼宮さんは知っているのかい?君は青春をしっかりと謳歌しているようだね。そんな君が羨ましいよ」
何か棘のある言い方だ。それより、何故ハルヒがでてくる。
「デパートに買い出しだ。それに、何でお前もここにいるんだ?」
「僕がここにいたら悪いのかい?それに君が買買い出しと言うなら、僕も買い出しだ。九曜さんの服をね」
佐々木に後ろから、黒い物体が姿を表わした。
いたのか、九曜…言われるまで全く気付かなかった。朝比奈さんも同様のようだ。
「九曜さんは、いつも光陽女子学院の制服しか着てこなくてね。というか、それしか持っていないらしいんだ。
橘さんが女の子はもっとお洒落をするべきですと言って、ここに服を買いにくることになったのことは、いいんだが、言い出した本人に急に用事ができてしまってね。そこで、代わり僕が来たというわけさ」
…どこの長門だ、それは。
「--おしゃれ--する」
そうかい。そんなことそっちで勝手にやっといてくれ。
 
「そうだ、君たちと僕たちの目的の場所は同じだ。ならば、ともに行動しないか?大勢の方が楽しいだろうし、友好を深めるといった意味でもね」
佐々木が提案した。
「わたしなら全然構わないですよ。大勢の方が楽しいと思います」
「--ぐっど--あいでぃあ」
「満場一致で決まりのようだね。そうと決まったら、早く行こう。時間は短いんだ。無駄にはできない」
おいっ、俺はまだ何も言ってないぞ。勝手に決めるな。せっかくの朝比奈さんとのデートだ。邪魔されてたまるか!朝比奈さんを抱えてトンズラするしかないようだ。
朝比奈さんの手をとり、逃げようとした瞬間、体が動かなくなった。いつぞやの朝倉の時みたいだ。
九曜が何か小声で呟いている。そうかあいつも宇宙人だったな。逃げることは不可能のようだ。仕方なく、朝比奈さんとのデートをあきらめ、共に行動することにした。
ふと、体が自由になり、九曜を睨む。それに気付いた九曜の顔は、ほんの少しだが赤くなった。
長門の表情を読み取れる俺だから、分かったのだ。
何考えてんだ、あいつ。
 
しかし、話しかけてきたのが、ハルヒじゃなかったことだけが、せめてものの救いだな。
 
がんばれ、俺。やれやれだ。
 
デパートに着いた俺たちは、最初にお茶を買いに行くことにした。お茶売り場に着くと朝比奈さんの目の色が変わった。
ミクルビームはでないようだな…
俺はお茶のことがさっぱり分からないので、売り場の外で待っている。佐々木も、お茶に興味があったようで、朝比奈さん、店員との3人で、話に花を咲かせている。九曜はというと、俺の横で、ボーッと突っ立ている。
お前忘れられていないか?お前の服を買いに来たんだろ…
ただ待っているのも、暇なので、九曜に話しかけた。
「なぁ、周防。あの2人しばらく動きそうにないから、俺たちは休憩がてらソフトクリーム食いに行かないか?
「--おごり--なら」
ちっ、ちゃっかりしてやがる。まあ、こっちが誘ったからそのつもりだったけどな。
 
お茶売り場を後にし、ソフトクリーム売り場まで歩く。
後ろをついてくる九曜は、すれ違う人々の顔を穴があくほど見ている。
人の顔見て何がおもしろいのだろうね。俺にはよくわからん。俺が興味あるのは、朝比奈さんと長門。…そして、たまにハルヒだな。
 
ソフトクリーム売り場に着き、何にする考えた。バニラにしようか、チョコにしようか。
参考までにに九曜は何にするのか訊いてみた。すると、九曜は真っ直ぐと指差した。その先には、「ワカメ味」とかかれていた。いや、それ絶対不味いって。
「--かれー--おでん--もいい。--でも--やっぱり--わかめ--がいい」
意味が分からん。っていうか、カレー味もおでん味も駄目だろ。
でもまあ、九曜本人がそれがいいって言っているので、それを買ってやることにする。
俺はバニラにしようっと。
2つのソフトクリームを買い、黄緑色のやつを九曜に渡す。受け取った九曜は、礼も言わずにそれを舐めた。
「--まずっ」
おい、不味いって何だよ。そりゃあ、不味いのはわかる。だって、ワカメ味だもんな。でも少しぐらい、奢ってやった俺の気持ちくらい考えてくれ…
俺は早々と自分のを食べ終え、九曜が食べてる姿を見ていた。そんな俺を見て、九曜がソフトクリームを突き出してきた。どうやら、俺がワカメ味を欲しくて見ていた、と勘違いしたようだ。
「--あじみ--する?」
欲しいとは思っていなかったが、興味はある。素直に九曜の好意(元は俺の金だが)を受け取り、舐めてみた。
……うん、不味い。
こんなもの誰が考えたんだ!ありえねぇだろ!カレー味もおでん味もそうだ、この店少し、いや、かなりおかしいんじゃないのか?
そんなことを考えていると、長門と朝倉と喜緑さんの3人が、ナイフを持って襲ってくる幻を見た。
何だ今のは?めちゃめちゃ恐いじゃないか…
朝倉はともかく、無表情でナイフを突き出してくる長門にはかんべんしてくれ…
そして、次に見えたのは、笑顔ながらも、禍々しいオーラをはなつ佐々木の幻。
やけにリアルだな。本物みたいだな。……あっ、本物だ…
 
「どういうことか説明してくるかな、キョン?」
「何を説明すりゃいいんだ?」
「さっきのことだよ。君は九曜さんから、ソフトクリームを貰ったね?」
「貰ったっていうか、あれは俺が買ってやったものだ。お前も欲しいのか?」
「いや、遠慮しとくよ。それよりも、君が貰ったのは、どういう状態だったかっていうことだよ」
「はあ?何のことだか、さっぱり分からん」
「まだ分からないのかい?君は九曜さんの食べかけのを貰い、それを食べた。それがどういうことか分かると思うんだが?」
「何だよ、何が言いたい?」
「もういい。君に質問した僕が馬鹿だった。簡潔に言おう。君たち2人は、1つのソフトクリームを食べあう、カップルに見えたというわけだ」
 
あっ、確かに言われてみれば、そう見えるかもしれないな。だが、こいつは、俺と九曜がそういう関係でないことを知っている。怒る理由なんてないはずだ。何で怒ってるんだ?
 
「俺らがカップルじゃないことは、お前がよく知っているだろ。何でそんなにツンツンしているんだ?」
「--わたし--たちは--ふうふ--なの」
……。
ダメだこいつ…何とかしないと…
 
「そんなぁ!キョンくんそうなんですかぁ?ひどいですぅ。何で黙ってたんですかぁ!」
そんなことあるわけないじゃないですか!っていうか朝比奈さん、いつからいたんですか?
「ここまで恋仲が進んでいたとは…。キョン、九曜さんを大事にしてやってくれよ」
おい、何か変な方向に話が進んでいるぞ。
「--しんこん--りょこう--はわい」
もう嫌だ…帰っていいかな……
 
俺たちは今、デパートの最上階にあるレストランにいる。
というのも佐々木が、
「君は、乙女の大事なものを踏みにじった。しかも3人もだ。この代償は高くつくよ」
といってきたのがここ。
償いたいのなら、昼飯ご馳走しろってどっか団長と同じようなことい言いやがる。代償はでかいって、言ってた割には、昼飯ぐらいで済むのかよ。まあ、俺の財布には大打撃だ。
 
朝比奈さんは、もともと少食だし、あまり被害は大きくない。それでも、しっかりとデザートを注文しておられるが。佐々木もどちらかというと少食のようだ。そして、問題の九曜。予想はしていたが、お前も
長門並に大食いなんだな。宇宙人はみんなそうなのか?
 
食事が一段落した頃(九曜はまだ食ってるが)、佐々木が話し出した。
「このあとはどうする?どこか行きたい所はあるかい?」
「行きたい所って、九曜の服を買いに来たんじゃなかったのか?」
「それは、またの機会にするよ。僕と九曜さん、そして橘さんがいる時にね。今は君たちがいるから無理に付き合わすわけにはいかないだろう」
「周防はそれでいいのか?」
「--ふぃい」
口の中の物を飲み込んでから言え。
「そうか、なら別に気にすることもないな。朝比奈さんはどこか行きたいところってありますか?」
「ふぇっ、あっ、特にないです」
「キョンはどこかあるのかい?」
と佐々木。
「俺も特にない。お前はどうなんだ?」
「僕かい?そうだな、ゲームセンターなんてどうだい?」
意外だ。佐々木がゲーセンに行きたいと言い出すなんて。
「僕はまだ一度もゲームセンターという所に行ったことがないんだ。勉強が忙しいということもあるが、一緒に行く友達がいないんだ。1人で行くという手もあるんだが、ああいう所に1人で行くのは少し危険がある。一応僕は女だしね」
そりゃ、美人なお前がゲーセンにいたら、ナンパされまくりだらうな。谷口なら間違いなくナンパするな。
「で、僕の案は認めてもらえるのかい?」
 
3人とも、佐々木の案に賛成し、ゲーセンに行くことになった。昼食を終え、俺は会計をするために、レジへと向かう。
……。
絶句。何だよ、これ。
なぜデパートのレストランごときで、諭吉を1人手放さなくてはいけないのだ。
分かっている、この損害の原因はあの真っ黒宇宙人だ。くそっ、覚えてろよ!
 
 


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